虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。新しいログはこちらにあります

20/01/13(月)07:14:27 潮騒と... のスレッド詳細

削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。

20/01/13(月)07:14:27 No.654451230

潮騒とキャモメの声で目を覚ます。 眩しい。濡れた服が肌に張り付いて気持ちが悪い。 だるい。喉が渇いた。水飲みたい…… (((……い……おい……))) なんだよ……私は眠いんだ……起こさ、ないで…… 「おい!起きやがれ、このアマ」 「う……ぁ……」 「何やってんだオマエ。海水浴か?バカなのか?」 「ぅ……」 あれ?私、何してるんだろ。客船……船内バー……お仕事……あれ? 「言葉判るか?声出ねえのか?エネココアしかねえけど、飲むか?……おら、口開けろ」 「ぁ……えっほ!ぐぇっ、げほっ、げほっ……」 無理矢理抱き起こされて、口に液体を流し込まれる。喉に絡んで、とても飲み込めない。 「おし生きてんな。おい野郎ども!車回せ。屋敷に運ぶぞ」 ひどく咳き込んだら、急に体が重くなって……私の意識は、そこで途切れた。

1 20/01/13(月)07:15:45 No.654451303

店のバックヤードで仮眠を取っているときのような、埃っぽい匂いがする。 「ぅ……」 口から声が漏れる。寒い。身体中が痛い。素肌に毛布がちくちく刺さるようで、寝心地が悪い。 ぼんやりする目を瞬いていると、ぎし、と音を立てて、寝台に大柄な男が上がってきた。 手には水と、紙に載った粉のようなものを持っている。 何か盛られる。そうだ、こいつはさっきのココア野郎だ。 濡れた腕が私の顎を掴んで、無理矢…… 「……苦ぁ……」 口内に広がる凄まじい苦味で一気に目が覚めた。男から水をひったくって、喉に流し込む。 「んだよ、元気じゃねえか。医者は要らねえな」 「…………」 「なんだぁ?んな睨むこたねえだろ。効いたろ?ばんのうごな」 なんなんだこの男。女に無理やり何か飲ませるのが趣味なのかな? でも、この舌にいつまでも残りそうな苦みのおかげで、頭が少しずつ回ってきた。 私はきっと、客船から投げ出されたんだ。それで運よく島か何かに流れ着いて…… このひどく人相の悪い男によって、このひどくボロボロの建物に連れ込まれたんだ。

2 20/01/13(月)07:16:52 No.654451361

「…………」 まずい状況だ。いちおうガラル語圏らしいことを除いて、いいニュースがひとつもない。 ここがどこなのか。この男が何者なのか。どうして私を助けたのか。判らないことだらけだ。 しばらくはぐったりしたフリでもして、状況を見極めて…… 「あー面倒くせえな!おい女!オレさまはグズマだ!わかるだろ? ……アローラにオレさまのことを知らねえ奴はいねえからな」 いや知らないけど。アローラってあの、観光地のアローラ? 「この辺りはオレさまのシマだ。……面倒だからよ、何があったかは聞かねえ。 クソつまんねえ所だが、しばらくゆっくりしてけや……壊れちまったら楽しみもねえぜ」 このグズマって男は、どうも私が海に浸かってた理由を勘違いしてる気がする。 「おい、なんか言えや。いや礼とかじゃなくてよ、欲しいモンとかあんだろ」 ……でも、思ったほど悪い人じゃなさそうだ。なんだか、とても真っ当に介抱されているし。 だからって。 「……着るものが欲しい」 だからって、全部脱がすことないじゃないか。

3 20/01/13(月)07:18:22 No.654451442

センスの合わないシャツとハーフパンツはともかく、生乾きの下着が気持ち悪い。 ヘアゴムや女物の下着をサッと用意できる男じゃないことには、若干の信用を置いてもいいかな。 枕が3つもある悪趣味な寝台に腰掛けて、なんとか着替えを済ませた……済ませたけど。 たいせつなものが、ないことに気づいた。どうしよう。どうしよう。どうしよう……! 「ねえ……ねえっ!」 外に出していたグズマに怒鳴る。……声は掠れて、怒鳴れていたかどうか怪しいけど。 「あんだよ?着替え済んだか?」 「腰に、ボール付いてなかったかな。見てないかな。私のなんだ。ピンク色の」 要領を得ずまくし立てる私を見ても動じないグズマが、その手をゆっくりとポケットに突っ込む。 そしてこともなげにニッと笑って、掌中に収めた私のボールを見せつけてきた。 「ちっと預からせてもらったぜ」 瞬間、頭に血が上った。 「か……返せっ!私のマホイップ……!」 摑みかかってボールを取り返すつもりが、脚が言うことを聞かず、勢いよく倒れこむ。 鼻が床に叩きつけられる寸前で、グズマに抱きとめられた。

4 20/01/13(月)07:19:12 No.654451480

「オイ!落ち着け!盗ってねえ!盗りゃしねえっ!」 力任せに暴れる私の両肩が掴まれて、力ずくで正面を向かされる。 「他人のポケモンに手ぇ出すほどオレさまは落ちぶれちゃいねえ!よく見ろ!」 ボールをもぎ取りに行く私を制しながら、グズマがボールを見せてくる。 傷だらけのボールの中央の開閉スイッチがひしゃげて、妙な形でへこんでいた。 「オレさまこんな壊し方したことねえからよ、どうすりゃいいかポケセンで聞いてきた。 開閉スイッチがブッ壊れたボールは開かねえが、中のポケモンは無事だとよ。 いいか、ポケモンはボール自体を完全にブッ壊せば外に出られる。 だからそのあと別のボールで捕まえりゃ……聞いてるか?」 「あ……えと……」 「……返すぜ。勝手に取って悪かったな」 グズマは私の手を取って、あっけなくボールを返してくれた。 「あり……がとう」 「フン。代わりのボール、ハイパーかネストで良けりゃ今あるぜ」 どっちも可愛くないから嫌だなぁと思っていると、グズマはもう一度鼻で笑って、部屋を出て行った。

5 20/01/13(月)07:20:26 No.654451536

今は外に出してあげられないけど、確かにそこにいるマホイップをボール越しに撫でる。 代わりのボールかぁ。貴重なボールなんだけど、壊れてしまったのなら替えるしかない。 「出来ればピンクの可愛いのがいいよね、マホイップ?」 声をかけると、ボールが手の中でわずかに身動いだ。ふふ、やっぱりそうだよねー? しばらくそうして話しかけていると、グズマが盆を手に戻ってきた。 「さっきは悪かったな。ちったぁ落ち着いたかよ」 湯気の立つカップを受け取り、一口啜る。 ……やっぱり好きになれない味だ。様々な点において合格ラインを下回っている。 「……マジで悪かった。相棒を勝手に持ち出すなんて、いったい何をやって」 「そのことじゃない。なんだい?この、形容しがたい味は」 「まずいか?エネココアだからな。エネココア知らねえとか、ほんとにアローラ人かオマエ」 「……ここ、台所とかある?」 この男、やっぱり許してはおけない。 エネココアとやらいうココアの名誉のために、私は立ち上がることを決意した。

6 20/01/13(月)07:21:08 No.654451573

移動中、幾度かふらつき、そのたびグズマにシャツを掴まれて、乱暴に引き起こされる。 この男、女の扱いがまるでなっちゃいないとしか言いようがない。 「オイ、寝てた方がいいと思うぜ。エネココアならオレさまが作ってやっから」 「君がやったんじゃダメだ。ココアに……エネココアに、申し訳が立たない」 やっとの思いでたどり着いた台所に愕然とする。冷蔵庫も冷蔵庫も空っぽ……いや違う。 冷気が出てこないから、そもそも電源が入ってないのか。 「この町には電気通ってないぜ。要らねえ連中の住む街に寄越す電気はねえのさ」 作り付けの戸棚を開けると、鍋や錆び付いた包丁、黒ずんだまな板や麺棒が詰まっていた。 引き出しにはガムシロップとコーヒーフレッシュとスティックシュガーの山。よし、いける。 「水は出るの?」 「フィルター通した雨水で良けりゃあな」 「充分だ。今から君に、ちょっとだけうまいエネココアを作ってあげるよ」 怪訝そうに細められていたグズマの瞼が、少しだけ上がった。 「おほん。さてグズマくん、君を助手に任命する。少しだけ手伝ってくれたまえ」 わずかに持ち上がった瞼は、すぐに元に戻ってしまった。

7 20/01/13(月)07:21:41 No.654451597

「なぁ、まだか?」 「まだだよ。5分は練らなきゃ」 「めんどくせえ……」 「私もそう思うよ。だから君に任せたんだ」 「このアマ……」 「さ、頑張ってくれたまえ助手くん。おいしいエネココアのためだよ」 スティックシュガーを混ぜたココアパウダーに、コーヒーフレッシュを少しずつ注いで、練ってもらう。 練ってくれたものを鍋に入れて火にかけ、焦がさないように混ぜながら、黒いペーストが出来るまで加熱。 別鍋で温めていた10数個分のコーヒーフレッシュを鍋に加えて混ぜ、沸騰直前に火から下ろし、カップに注ぐ。 ミルクを使ってないことを除けば、うちでいつも出しているココアに近いものは出来た。 「お待たせしました。『ちょっとだけうまいエネココア』」 ベストとギャルソンがなくてカッコつかないけど、背筋だけはしっかり伸ばして提供する。 「…………」 グズマは神妙な顔でコーヒーカップを持ち上げ、ひと口飲んで……大きく目を見開いた。 ふふふ。その顔だけで、私は満足だよ。

8 20/01/13(月)07:22:23 No.654451635

「オマエ、何もんだ?こんなエネココアを出す店は、アローラにはねえ」 そうかな?これくらいのことが出来る人なんか、どんな店にだって…… 「…………ああ」 「何だよ」 このお客さんは、アローラしか知らなくて、そして外の世界を知りたいと思っている。 「ね、グズマくん」 「……何だよ」 「助けてくれた君に、お礼をしたいんだ。でも、今の私には、この身体ひとつしかない」 「お……おう」 「だからね?今君が欲しくて、私にあげられるものは、全部あげるよ」 「…………おう」 「私はここから遠く遠く離れたガラル地方にある、喫茶店兼バーの店主なんだ」 グズマの瞳が、私のエネココアを飲んだ時と同じくらい見開かれた。 「……は?ガラル、だと?」 「そ。マスターって呼んでね、グズマくん」

9 <a href="mailto:s">20/01/13(月)07:23:14</a> [s] No.654451686

マスター漂流記 第1話 「ちょっとだけうまいエネココア」

10 20/01/13(月)07:24:02 No.654451723

とうとう本格的なグズマスが来たか...いいよね...

11 20/01/13(月)07:24:20 No.654451744

何タスカル団やってるんだグズマァ!

12 <a href="mailto:s">20/01/13(月)07:26:28</a> [s] No.654451855

先日何となく書いたら反響がデカかったので書いたぞ俺 マスグズいいよね…

13 20/01/13(月)07:26:58 No.654451883

作 接 皆 じゃないっスカ!

14 20/01/13(月)07:27:50 No.654451918

一生マズいエネココアを飲むしかなかったはずだった人生に少し甘みが加わるのいいよね…

15 20/01/13(月)07:29:54 No.654452035

マツリカさんといい「グズマくん」呼びはやっぱり破壊力が高いな…

16 20/01/13(月)07:32:25 No.654452162

>作 >接 >皆 >じゃないっスカ! んなこと言うたらおっちゃんかてグズマはんと仲良うさせてもらっとるし気にしたらあかんでしたっぱとしくん!

17 20/01/13(月)07:33:44 No.654452246

島の因習に縛られマズいエネココアを飲む男と島の外から来た美味いエネココアを作る女 かなり強めの接点できた!

18 20/01/13(月)07:33:52 No.654452253

ガラルからアローラってだいぶ遠いよぉ…?

19 20/01/13(月)07:34:57 No.654452312

グズマさん悪の組織のボスやってたはずなのに何故かマスターには手は出せないというか出さないという安心感がある

20 20/01/13(月)07:36:37 No.654452411

(空を切るゴルフクラブの音)

21 20/01/13(月)07:38:20 No.654452535

最初のマスグズ怪文書が保存されてなくて読む手段がなくなってたからありがたい…

22 20/01/13(月)07:40:18 No.654452668

>一生マズいエネココアを飲むしかなかったはずだった人生に少し甘みが加わるのいいよね… その甘み最後には…

23 20/01/13(月)07:44:24 No.654452936

>その甘み最後には… いいよね...

24 20/01/13(月)07:46:59 No.654453113

壊れたボールはドリームボールかなラブラブボールかな

25 <a href="mailto:s">20/01/13(月)07:49:45</a> [s] No.654453311

個人的にはドリームボールを想定している だがアローラではドリームボールはどうやっても手に入らないので マホイップとマスターの会話をドア越しで聞いていたグズマが アローラの地で用意できるピンク色のボールはひとつ…!

26 20/01/13(月)07:50:17 No.654453349

朝からずいぶん気合の入った怪文書だな…

27 20/01/13(月)07:50:53 No.654453389

>「助けてくれた君に、お礼をしたいんだ。でも、今の私には、この身体ひとつしかない」 エッチな展開期待していいんスカ?

28 20/01/13(月)07:51:45 No.654453463

喫茶店ってそうやってココア作ってるのねと普通に勉強になって困る困らない

29 20/01/13(月)07:52:53 No.654453548

>エッチな展開期待していいんスカ? グズマさんは期待したというかエロいこと言ってることは理解してるよねこれ でもオレさまそういうのは好きあった2人がすることだと思うからよ…

30 20/01/13(月)07:54:42 No.654453707

>「だからね?今君が欲しくて、私にあげられるものは、全部あげるよ」 なのでグズマさんが体が欲しいと言ってマスターがあげると言えば濡れ場になる グズマさんはそんなこと言わない

31 20/01/13(月)07:55:00 No.654453729

島の外にあったおいしいエネココアなんてもう二度と飲めないと思ってたのに…

32 20/01/13(月)07:55:47 No.654453809

>開閉スイッチがブッ壊れたボールは開かねえが、中のポケモンは無事だとよ。 >いいか、ポケモンはボール自体を完全にブッ壊せば外に出られる。 >だからそのあと別のボールで捕まえりゃ… このへんポケスペ設定拾ってて好き

33 20/01/13(月)07:58:49 No.654454061

マスターの方が年上でもグズマさんの方が年上でもどっちでもおいしい

34 20/01/13(月)07:59:46 No.654454142

医療行為とはいえ全裸見ちまった… もう責任とって結婚するしかねえ…

35 20/01/13(月)08:05:38 No.654454602

グズマさんが色んな意味で勝てない女性がまた一人…

36 20/01/13(月)08:09:12 No.654454891

2週間からひと月くらいで会社負担の帰りの便がやってくるので それに乗って帰るまでのわずかな期間の交流でしかないんだよね その間にグズマがどう変わるか

37 20/01/13(月)08:11:25 No.654455104

背がやたら高くて根はお人好しなのに悪ぶってる助手くんいいよね…

38 20/01/13(月)08:13:34 No.654455313

グズマさんには結局最後まで美味いエネココアを作れずにいてほしい マスターにラブラブボールをプレゼントしてガラルに送り返した晩に自分でエネココア淹れて マスターのこと考えてたらほんの少し鍋底焦がしちゃって 一口飲んで「苦っげ…」って言って欲しい

39 20/01/13(月)08:18:47 No.654455766

アローラチャンプとエンカウントしたらどうなってしまうのか…

40 <a href="mailto:s">20/01/13(月)08:19:18</a> [s] No.654455825

時にトーテ・タンテというココアベースのカクテルがあるのですが これは日本語だと「死んだおばさん」というどうしようもない名前で するとガラル語圏ではデッド・アントになってしまうため アントの音がおばさんにも蟻にも通じてしまうことをマスターが慮って 虫使いのグズマさんには名前の意味を正しく教えない心遣いをするシーンが中終盤にあるでしょうね

41 20/01/13(月)08:20:51 No.654455975

ちょっと他人ごとみたいな口聞いてんじゃねえ!

42 20/01/13(月)08:31:14 No.654457013

むしポケモンは寿命が短いからな…

43 20/01/13(月)08:31:42 No.654457058

甘さの最後に苦味が残るからこそ浸り続けず前に歩けるようになるのいいガア…

44 20/01/13(月)08:41:03 No.654457978

>アローラチャンプとエンカウントしたらどうなってしまうのか… マスターからは島民は一括りに不思議な出会いをしたアローラの友人でグズマさんもかろうじて臨時助手くらいの認識がいいなあ

45 20/01/13(月)08:48:21 No.654458692

おっちゃん時空といいガラル民はグズマさんに対してあったかいな…

46 20/01/13(月)08:54:03 No.654459270

なんというかグズマさんはつくづくキッカケが足りないなって...

47 20/01/13(月)08:59:41 No.654459841

主人公補正のない主人公みたいなものだからなグズマさんは だからマスターとの別れもなんかビターエンドが似合う

48 20/01/13(月)09:10:28 No.654461020

初代チャンピオンのミヅキ以外にもいたアローラのふつうをブッ壊していきやがった女…

↑Top