ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
20/01/10(金)00:16:06 No.653532563
泥の月 https://seesaawiki.jp/kagemiya/
1 20/01/10(金)00:19:49 No.653533798
泥を投げるぜ su3558271.txt
2 20/01/10(金)00:20:36 No.653534049
有名な人だ!
3 20/01/10(金)00:21:19 No.653534331
あっスキル解説ミスってた Wikiる時に直しとかなきゃ…
4 20/01/10(金)00:28:13 No.653536639
>「誤謬によって自分の真実すらわからなくなっているというのならば、それを正しく観じられるようにすることも、臣下の勤めと言えるのではないかね?」 やだ…男前…
5 20/01/10(金)00:35:19 No.653538962
https://www.youtube.com/watch?v=9YFZ_7yPId4 因みにこの人のイメソンはこちら
6 20/01/10(金)00:59:52 No.653546125
愛花・松風=クラシルニコワは困惑していた。 大きな姿見の前に座ったまま、所在なさげに膝を揃えてもじもじとしている。 ややうつむき加減のその頬を細く長い指が滑るように撫でた。何度かそれが繰り返された。 肌と肌が擦れるにしては抵抗が小さかったのは、その指先にクリームが乗っていたからだ。 細くはあるが、ペンより重いものを持ったことがない………というような華奢な指ではない。 繊細に見えるのは相応に手入れが施されているからだ。間近で見て触れてみれば、所々にたこが出来ている。力仕事をする人間の指と分かる。 押しも押されぬ大貴族の令嬢だというのにそんな手をしている女は、その掌を使って愛花の鼻周りや首にクリームを丁寧に馴染ませた。 「ひとまず化粧下地はこんなところかしら。日頃からしっかり運動して食べるもの食べている人間は肌の質も良くて手間がないわね」 「あ、あのう……拙者、まだ動いてはならぬでござろうか……?」 「まだ下地を整えただけよ。ここからファンデーションを乗せて、アイメイクを施して、軽くチークを乗せて、グロスを塗るわ」
7 20/01/10(金)01:00:11 No.653546205
「そ、そうでござるか………」 「言っておくけれどこれでも最低限中の最低限よ。工程を最小限にした結果なのですから、甘んじなさい」 ぴしりとこのルクレツィアという女に言い放たれると愛花は何も言えないのだった。 敬意こそ抱くが、この人のことはどちらかといえば苦手だ………と、愛花は思う。 人間としても、魔術師としても、様々な意味で強さをかき集めてきたような人だ。溌剌としていて、自信に満ちていて、それでいて嫌味がない。 彼我を比べて一喜一憂するような軟弱さは持っていない。多少揺らいだ程度で失われるような気高さは持っていない。 常人なら心折れるような失敗をしても、人目も憚らずにわんわんと泣いて、直後にするりと立ち直れてしまう。 愛花がどうひっくり返っても手に出来ないような輝かしいものをたくさん手に持った人だ。それが愛花には眩しかった。 翻って、自分はどうだ。 松風家口伝の魔術の継承は中途半端。三女という微妙な立ち位置。跡目争いからも命を賭けて望む理由を見いだせず、尻尾を巻いて逃げてきた。
8 20/01/10(金)01:00:38 No.653546319
『&ruby(GOLF){如何にしてルクレツィアが空を飛ぶかをみんなで観察する会}』には不思議と強烈な才能たちが集う。その輪の中でも愛花はいつも少しだけ疎外感を覚えていた。 才無き魔術師に価値はない。自分のような落伍者はここにいるべきではないのではないだろうか。彼らと言葉を交わすに足り得ぬのではないだろうか。 冗談が飛び交い笑い声の弾むあの集会の一席にいながら、ふとそんな薄ら寂しい気持ちをよく懐く。 ………だから、急に先日ルクレツィアが酒の席でまじまじと顔を覗き込んできたのにはびっくりした。 何かまずいことを言ってしまっただろうか。何か態度に不手際があっただろうか。そう考える愛花を他所に――― 『&ruby(Fiore){愛花}。………あなた、もしかして化粧してないでしょう?それも普段から、全く』 『は……はあ……。そういうことには拙者、とんと疎く………』 やや拙くしゃちほこ張った英語でそう答えたのが一貫の終わりだった。 あれよあれよという間に次の休日の予定を押さえられ、アヴァローロ家のロンドン郊外にある別邸に連れ込まれてしまったのである。
9 20/01/10(金)01:00:50 No.653546367
別邸、と呼ぶにはあまりにも力尽くな豪邸ぶりに目を白黒させたのはついさっきのことだった。 「女魔術師として化粧を怠ることは感心できませんわ。&ruby(ミスティール){全体基礎科}でも講義することは無いでしょうけれど……。 化粧とは即ち魔術です。今ある“一”から異なる“一”に変わる術………。それこそ神代の魔術の時代からそれは変わらない関係性よ。 あなたが被れている日本の文化においてもその風潮は変わらぬものだったという学に触れたこともあるわね。 &ruby(Samurai){武士}にとっての化粧は死地に赴くための一種の魔術礼装であり、敗北し首を断たれた際にもその勇壮なる死を飾り立てるためのものだったとか。 まさにオリエンタルの戦士の美学ですが、死すら美しくあろうとする精神は実に貴族的で嫌いではありませんね。好みです」 まるで時計塔の講師のように講義をしながら、ルクレツィアはなんとも高級そうなブラシを使って愛花の顔にファンデーションを薄く塗っていく。 その感触が少しだけくすぐったくて………愛花は気持ちを誤魔化すように視線を軽く上げ、手ずから愛花の化粧を行うルクレツィアの顔を見た。
10 20/01/10(金)01:01:00 No.653546417
西洋人らしい顔立ちはバランス良く整い、くせっ毛をそのままに遊ばせた長い髪は息を呑むほどに煌めく灰色だ。 はしばみ色の瞳はまるで緊張感を感じさせない軽快さを帯びながら、決して慎重さを損なっていない。 美しい女性だ。天は二物を与えず、などとんでもない。この女魔術師は二物も三物も得ているのに、尚高みを目指そうと己を炉に焚べ魔導に捧げている。 敵わない―――。 「ルクレツィア殿は………その、何故拙者にこのようなことを?」 「したいからよ。お節介焼きは私の悪癖なの。魔術師たるもの、他人に入れ込むのもほどほどにするのが適切なのでしょうけれども。 人格矯正して得られるメリットと手間暇のロスを天秤にかけたらだいぶ後者に傾いたからいくらか割り切っているわ。 クラシルニコワのお家事情は知識としては知っていても興味ないけれど、あなた自身は今の所明確に私を構成する世界の一部だから干渉したいのよ」 「そういうものなのでござろうか………」 「そういうものよ。私にとってはね」
11 20/01/10(金)01:01:18 No.653546492
ルクレツィアはあっけらかんとそう言いながらブラシで眉や睫毛を撫で、唇にグロスを塗っていく。 他人の手で顔に化粧を施されるなど初めての経験だったものでいちいちくすぐったい。 「お節介ついでに言っておくと、&ruby(Fiore){愛花}はもう少し自己の定義をしっかり定めなさい。 自分に頓着しなさい、ということ。行き着く先とまでは言わないけれど、何を良しとし何を厭うのか。そのくらいの方向性はね。 魔導を修めるにしても、あんまり曖昧なままだといずれ痛い目を見るわよ。 ………この化粧だってそう。はい、出来上がり。素材がいいと最低限でもかなり印象変わるわね」 ぱちん、とグロスの蓋を閉じながらルクレツィアは大鏡を勧めた。促されるままに視線を移した愛花は映った鏡像を見てぎくりとしてしまう。 そこに映っていたのは確かに自分の顔なのに、自分ではないものだった。 微かに頬に差した桜色や薄紅色に彩られた唇、ほんの少し輪郭のはっきりした瞳。ひとつひとつはそこまでの変化でなくとも、全体における印象はかなり違う。
12 20/01/10(金)01:01:31 No.653546545
愛花の姉たちに勝るとも劣らない美人がきょとんとした顔で鏡の中に座っていた。 「これは……また……なんとも……」 「今回は手本ということで私がやったけれども、次からは自分で練習なさい。少しずつね。 魔術師でなくとも女にとって化粧は鎧よ。扱えるに越したことはないわ。 そう―――あなたはもっと自分のことを知りなさいな」 鏡写しの愛花の後ろでルクレツィアが悪戯っ子のように快活に笑っている。愛花はその笑顔を見て初めて彼女に名乗った時のことを思い出していた。 『愛花・松風=クラシルニコワ?そう!美しい名前ね、&ruby(Fiore){愛花}!』 そう言って、今と同じ顔で笑ったのだ。
13 20/01/10(金)01:02:27 No.653546791
キテルね…
14 20/01/10(金)01:06:01 No.653547721
なんか私ちゃん以外読みたいって言われてたので書きました おわり
15 20/01/10(金)01:12:47 No.653549429
ありがとう…