19/10/23(水)22:43:35 ガルパ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1571838215769.jpg 19/10/23(水)22:43:35 No.633045285
ガルパンSS みぽりんスイッチオフ
1 19/10/23(水)22:43:52 No.633045356
「みぽりん、お誕生日おめでとう!!」 おめでとう!! と、みんなの声がこだまする中で、西住みほはあわあわしながらプレゼントの包みを受け取った。 「開けていい?」 「もちろん!!」 満面の笑みを浮かべる沙織の目の前で、妙に軽い包みを開ける──と、中からは紙の切符入れに入ったチケットが出てきた。 「これ……なに……宿泊券?」 「温泉旅館の宿泊券と、往復の切符だよ!」 「1枚ずつしか、ないみたいだけど」 「うん!」 ニコニコし続ける沙織や他のあんこうの面々を、困ったような顔できょろきょろと見渡す。 「一人で、行くのかな……?」 沙織、華、優花里、麻子のニコニコは、そのまま変わることがなかった。
2 19/10/23(水)22:44:13 No.633045466
◇◆◇ 「はぁ……」 みほはひとりディーゼルカーの車内でためいきをつく。 「本当に一人で、きちゃった……」 旅行カバンを膝に抱え、ボックスシートにちょこんと座っている。 沿線の景色を、まだ戸惑いの残る顔でぼんやりと眺めていた。 「あの、良かったらどうぞ」 「はぁ……あ、ありがとうございます!」 みほの目の前に、みかんが1個差し出される。 通路の反対側の席の、ご婦人たち4人組からだった。 「どこまで行くの?」 「あの、この先の温泉までです」 「あら、私たちは終点まで行くのよ。そこまではご一緒ね。……どこからいらしたの?」 「えっと、大洗からです」
3 19/10/23(水)22:44:31 No.633045548
「大洗?──あら? あなたもしかして西住みほさん?」 「えっと、はい……そうです」 「あらあら、全国大会と大学選抜の試合すごかったわよ、私も思わず昔を思い出しちゃった」 「え? もしかして、皆さんも戦車道を?」 「ええ、私たちも戦車に乗ってたのよ、みんなで同じ戦車にね!」 「えっ! そうなんですか!?」 袖振り合うも多生の縁。思わぬところで偶然の出会いがある。 西住みほはしばらくの間、妙齢のご婦人たちと戦車や、それ以外の四方山話で盛り上がった。
4 19/10/23(水)22:44:53 No.633045661
◇◆◇ 山間の温泉宿に着く。 仲居さんの案内で部屋に通されたみほは、まずお風呂に向かうことにした。 旅行に出る前の、『なぜみんなはわたしを一人で旅行に行かせたんだろう』という疑問は、行きがけの老婦人たちとの会話を弾ませるうちに消え去っていた。 とりあえずは、せっかくプレゼントしてもらったものだから、ありがたく頂戴しよう。 そういった心の余裕が、生まれてきた。 まずは浴衣に着替えて、お風呂に入ろう。 まだ陽の沈む前だったからか、風呂には他の客はおらず、みほ一人で貸し切りの状態だった。 静かな温泉宿でひとりで入るお風呂はどこか寂しいけれど、紅葉の始まった外の木々を眺めつつ、ぼんやりとお風呂に入っていると、いろいろなことが思い浮かんでは、消えていく。
5 19/10/23(水)22:45:10 No.633045738
もうかなり昔の事のように思えてしまう、あの全国大会と大学選抜戦の苦闘の数々。 そして冬に開催されることになった無限軌道杯のこと。 そして、姉、西住まほから突然告げられたドイツ留学……。 それら浮かんでは消えていくものごと、ひとつひとつを捕まえて、温かな温泉に浸かりながら、絡み合った糸をほぐすかのように、じっくり、ゆっくりと考えていく。 「…………」 ふと、みほを送り出すみんなの顔が浮かび上がる。 「そうか、みんなからのプレゼントは──この時間だったんだ」 みほは、心の底から納得した。
6 19/10/23(水)22:45:29 No.633045822
◇◆◇ 普段よりずっと長いお風呂の後で、部屋に戻ってきた浴衣に丹前姿のみほは、持ってきたノートを見ながら一心不乱にざらざらとメモを書き連ねていた。 ノートの空白のページに、図や記号、短いコメントがびっしりと書き加えられていく。 「大切な時間をごめんね。でもこういう、一人で考えられる時間がたっぷりあるのは、すごく嬉しいんだ!」 そうひとりごちながら、今までノートに取ってきた各校の戦力データと、大洗のデータを突き合わせて、課題点の洗い出しを行う。 「」 あとちょっと──というところで、トントン、と引き戸をノックする音が鳴った。 「はーい」 「お食事でございます」
7 19/10/23(水)22:45:48 No.633045910
山の幸、海の幸……肉、魚、アワビ、煮物、蒸し物、焼き物、鍋──。 沙織が腕を振るう料理ともひと味違った、普段はなかなか食べない料理がずらりと目の前に並べられていく。 実家での親戚一同の集まりか、はたまた全国大会の優勝祝賀会か……ひさびさに食べる珍しい料理の数々。 座卓の下の座布団に置かれた書きかけのノートを横目に、ちょっと頬をほころばせた。 「あはは……やっぱり休め、って事かな……?」
8 19/10/23(水)22:46:07 No.633045999
◇◆◇ 食事をたっぷり時間をかけてとった後、もう一度風呂に入る。 じっくりと羽根を伸ばしてから部屋に戻り、広縁の椅子にもたれ掛け、夜の闇に包まれた窓際の景色を眺める。 月夜に山々が静かに照らされて、虫の鳴き声がりんりんと響き渡る中、瓶ジュースの栓をポン、と抜いた。 コップに注がれたジュースの泡が消える頃、みほは外側と内側から暖められた心地良い火照りに身を任せ、うつらうつらしていた。 そのまま微睡みの中に沈んでいく……一歩手前で、ぱちりと目を開けると、ゆっくりと身を起こし、ふーっと息をゆっくり長く吐くと、ノートに手短にメモを残し、パタンと閉じた。 「課題点はいろいろある。けれど、今日はもう考えるのを止めよう。それは戻ってから……みんなで考えよう!」
9 19/10/23(水)22:46:22 No.633046089
そのまま、電気を消して布団に倒れ込む。糊の利いたシーツが心地良い。 布団に潜り込み、「おやすみなさい」とつぶやき、月明かりと虫の音を子守歌に目を閉じる。 穏やかな眠りが、みほを静かに包んでいった。
10 19/10/23(水)22:46:39 No.633046163
◇◆◇◆◇ 「みほさん、ちゃんと休めていますでしょうか」 「大丈夫だよきっと」 「西住さんはオンとオフの切り替えが出来るはずだ、ボコミュージアムの時のように」 「そうですねぇ」 生徒会室に集まって休日仕事をしている三人+一人が、書類片手に遠くの夜空を見上げていた。 「生徒会が忙しくて、またみぽりんに戦車道の仕事とか集中してたから……」 「いや~、こうでもしないと西住ちゃんは休まないとおもうんだよね~」 「「角谷先輩!?」」 「これ差し入れの干し芋~」 干し芋を咥えながらニッと笑う杏の手に、お徳用干し芋の袋が握られている。 「西住ちゃん、オンとオフの切り替えは出来る子だけど、なかなか切り替わらないと思うんだよね。だからこうして」
11 19/10/23(水)22:46:53 No.633046245
「ちょっと無理矢理だけど」 「スイッチを切って、疲れを癒やしてもらう、と考えた。そうだなみんな」 「「はい!」」 仕事の加勢に現れた旧生徒会の三人と一緒に、あんこうチームの四人が頷いた。
12 19/10/23(水)22:47:34 No.633046443
◇◆◇ チチチ、チチチチチ。 「あ……。そうか、家じゃないんだ」 翌朝、目を覚ますと外は快晴の空。 カーテンを開いて窓を開け放つと、快い秋の山中の冷気に包まれた。 「ふふふふ~ん、朝風呂♪ 朝風呂♪」 ご機嫌な鼻歌で、浴衣の裾を直して部屋を出る。 ゆったりと風呂に入り、ゆっくりと朝食を食べる。まだチェックアウトまで少し時間がある。 「あの、すいません」 「はい、何でしょう?」 「この辺りでお勧めのスポットとかって、ありますか?」 「ああ、それでしたら──」 仲居さんに貰ったパンフレットを眺めながら、ふんふんと頷く。
13 19/10/23(水)22:47:54 No.633046537
「えっと、ここと、ここと……ここですね、ありがとうございます!」 「行ってらっしゃい、お気を付けて」 みほのはじけるような笑顔が輝く。 「よし!きょうは1日遊ぶね!ありがとうみんな!」 快晴の空のように明るい表情のみほが、足どり軽く温泉宿を後にした。
14 19/10/23(水)22:49:51 No.633047220
テキストはこちら su3388066.txt みぽりんお誕生日おめでとう! あと昨晩のメモ住スレで協力してくれた「」ありがとう!
15 19/10/23(水)23:25:04 No.633059631
本編にもいたけど昔戦車に乗ってたおばちゃんいいよね…
16 19/10/23(水)23:25:19 No.633059722
水郡線?
17 19/10/23(水)23:29:23 No.633061103
>水郡線? イメージとしてはそうだったけど作品に落とし込む時間が足りなくて… 早期復旧をお祈りしてます
18 19/10/23(水)23:37:58 No.633064310
書き込みをした人によって削除されました
19 19/10/23(水)23:41:00 No.633065466
>本編にもいたけど昔戦車に乗ってたおばちゃんいいよね… おばちゃんたちの物語いいよね アラサー&パンツァーを思い出す