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19/09/06(金)00:00:52 No.620562469
「珍しいじゃねぇか」 「何がです？」 「お前がこうして何も無くここに飲みに来る事がだよ」 洗い終わったグラスを磨きながら、目の前に居る珍客に語りかける。 「前に来た時は妙にやさぐれてやがったじゃねぇか…確か…阿比留？だったか？」 「アルピノです」 「あぁそれだよそれ。そん時はグチグチメソメソしてやがっただろ？」 「そんなに酷くはなってませんでしたよ…」 俺の言葉には苦笑いで返す。この若造が良くする手法だ。 軽く紅潮した頬で気怠げにグラスを傾け、ほうっと熱を帯びた息を漏らす。 男とは思えぬ色気が漂う仕草。顔の一部分を覆う物さえ無ければ多くの人間を魅了するだろう。 「そんな様で何人誑かしてきたんだよ？白状してみろ」 「してません。ありえません」 「あの素朴そうな譲ちゃんは落とされてただろ？なんだっけか…ガタリンピックで見たよな？あの譲ちゃん」 「ガタリンピック知ってるんですか…あと落としてません。なんでもない付き合いですよ付き合い」
1 19/09/06(金)00:01:03 No.620562524
はー…こりゃまた…あの譲ちゃんが聞いたらなんて思うかね… 「でだ。結局何があったんだよ」 「…忘れませんでしたか」 「どうでも良い事はキッチリ覚える脳味噌しててな」 頭をトントンと叩きながら言ってやれば、露骨に顔を顰めやがる。 「………えーっとですね」 「待て」 口を開いた若造の言葉を遮るように開いた手を伸ばす。 「当ててやる…言うんじゃねぇぞ？」 興が乗った。或いはおちょくってやりたくなった。 目を閉じ、髭を弄りながらカウンターを指で何度も突く。 …思いついた。先ほどの会話の流れとも合っている。蒸し返しのような答え。 「わかったぞ？お前に何があったか」 我ながら嫌らしい笑みが浮かぶ。髭も相まり、さながら悪役の首魁といったところだろうか。 「女だろ？」
2 19/09/06(金)00:01:23 No.620562609
「え？」 「お前みてぇな奴には人生変えるくらいのどぎつい女が要るだろうなぁ」 ポカンとする若造を置き去りに好き放題語ってやる。騙ってやる。 「お前もいい歳だろ？そろそろ見つけられねぇとマズイんじゃねぇかとは思ってたんだけどよ」 「いやぁ…お前もついに女を知ったかぁ…ククッ…」 グラスを磨く作業を再開し、若造の姿をニヤついた笑顔で見やる。 「………」 「…あァ？どうしたよ」 俺に好きに言われても何も返して来ないとは珍しい。 頭を掻いて、あー…だの、えーと…だの。妙に歯切れの悪い言葉が続く。 「………お前、まさか」 「……………そんな、とこです」 ようやく返って来た答えは、肯定。 思わずグラスを落としかけた。
3 19/09/06(金)00:01:41 No.620562713
「マジか？」 「…マジです」 想定外の展開に今度は俺がポカンとさせられる。 危うく砕け散りかけた物をしっかりと安定した場所に置き、会話に意識を割く。 「まさかお前を落とす女が居るとはな…」 「自分でも驚きですよ。こんな男によくもまぁ…と」 「全くだ」 「全くですね」 二人で笑う。ついさっき磨いたグラスを二つ取り、酒を注ぎながら。 「良いんですか？」 「こんなんでも縁は縁だ。祝杯でもくれてやるよ」 手渡し、掲げる。 「「乾杯」」 甲高い音が鳴り、グラスを呷れば。 暫しの間だけではあるが。先ほどまで騒がしかった部屋から音が消えた。
4 19/09/06(金)00:02:13 No.620562877
「で、どっちからだったんだよ」 「何がですか」 「告白ってヤツだよ」 既に二本程空けている。俺はまだしも、若造は響いているだろう。 そこで恥ずかしいエピソードを聞き出すという寸法だ。頭が良いだろう？ 「初めは、彼女から」 「初めは？」 疑問を素直に口に出してやれば、若造は嬉しそうに笑う。 「断ったんです。俺にはやる事がある、と」 「それで？」 「その時は、彼女は悲しげに去りました。そんな姿が忘れられなかった」 「忘れられなかった…か。お前にそこまで思わせるとはな」 「ははっ…そして気づけば、俺から想いを告げてましたよ。貴女と共に成し遂げたい、貴女の側に居たい、と」 「ほォ～？浪漫溢れる告白じゃねぇか。本当のお前らしいっちゃらしいのか？」 「茶化さないでくださいよ」
5 19/09/06(金)00:02:43 No.620563014
俺が笑ってやれば恥ずかしそうな笑いが返る。無限に笑えそうなもんだ。 「だが…いやはや感慨深いモンがあるな…」 「はい？」 未だに度数の高い酒が残るグラスを呷り、ゆっくりと置く。 「十年お前を見てきたんだ、そりゃ他人に抱くモンとは程遠い何かがあるだろうよ」 「どんな言葉が近いのかね………息子の成長を見届ける父親！ってとこか？」 「…なんだか、照れくさいですね」 「言うなよ。俺もそう感じちまうだろうが」 何時の間にか俺も酒が回っていたようだ。こんなセリフ、普段なら絶対に吐かない。 なんだか面と向かって話すのが妙に気恥ずかしい。手に持つグラスに視線を落とす。 「まぁ、これで俺が父親みてぇに心配だのなんだのするのは、ゆうぎりだけになったってワケだ」 この羞恥を掻き消すように、いつも通りのゆうぎり贔屓を口に出す。 「……………」 「さっさと独り立ちしろよバカ息子。後勿論だが、ゆうぎりには手出すなよ？」 「……………」
6 19/09/06(金)00:03:06 No.620563113
何やら静かだ。先ほどまで互いに饒舌だった故に、なおさら。 「ん？どうしたよ」 グラスから前に顔を向ける。 椅子。椅子の上に椅子。その上に椅子。 椅子の山。 そのバリケードみたいな山からひょっこりと、若造がサングラス含む顔の上半分だけを出している。 「…何やってんだ？お前」 「…お義父さん」 目の前の若造がまたふざけた事を抜かしやがる。 「だから俺が父親みてぇになるのはゆうぎりだけだって………」 ………待て。待て。 この男はついさっき言われた事を忘れるようなヤツでも無ければ、無意味に変な事をするヤツでもない。 酩酊の中で、この男が何を言わんとしているのかを探る。 「……………お前………まさか」 「お義父さん」
7 19/09/06(金)00:03:50 No.620563318
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8 19/09/06(金)00:04:34 No.620563516
まだ頬にひりつく痛みが走る。 あの野郎本気で殴りやがったな？俺も本気で殴ったが。 だが仕込みは済ませた。あの取っ組み合いで俺が髪を仕込んだとは夢にも思うまい。 初歩中の初歩の呪い。俺にかかれば呆気も無く起動できる。 だが容易く破れると思うな。呪い返しも出来ると思うな。 こっちの道は俺がどれだけ先を行っているか思い知らせてやる。 どんな罪を犯したか。思い知らせてやる。 邪悪な笑いが、俺から溢れた。 翌日、俺は止まらぬ笑いで目が覚めた。 どうやら俺と同じ考えで、同じ行動を取ったらしい。 今日の予定は笑い合う狂人同士のルール無用デスマッチだ。それ以外無い。
9 19/09/06(金)00:14:06 No.620565801
お前さん…
10 19/09/06(金)00:14:30 No.620565893
お義父さん！
11 19/09/06(金)00:17:14 No.620566461
この師匠あっての弟子だな
12 19/09/06(金)00:20:08 No.620567114
無意識に師匠に似てくる弟子よか… 服装もマスターの真似っこだとよか…
13 19/09/06(金)00:23:40 No.620567900
わっちは…罪な女！
14 19/09/06(金)00:25:40 No.620568315
ビンタで解決でありんす！（ﾊﾞｼｨ
15 19/09/06(金)00:31:52 [はっぴぃえんどでありんす。ちゃんちゃん。でありんす。] No.620569596
「うひゃひゃひゃ！オラァ！」 「ゴフッ！はははははっ！ハァッ！」 「ゲハァ！………こ、このうひひひ、やるじゃねぇかひゃひゃ…」 「ふへへへっ…あ、貴方こそ…ぶっふふふふ！」 殴り合う。椅子で殴る。グラスで殴る。 怪我なんぞ知った事か。目の前のこの男を始末する事が何よりも優先される。 「手ぇ出すなってぶははは！言っただろうがオラ！」 「仕方無いじゃないですかっひゃははは！惚れられて！くっふふふ、惚れたんですか…らァ！」 全く同時に互いの拳が互いの頬を打ち抜けば、流石の俺もフラつく。だが当然若造もフラつく。 椅子にもたれ掛かり少しして、再度目線が合う。俺と同じように、次で決めるという意思が見える。 互いに駆け出し、拳を振り翳した瞬間。店の扉が勢い良く開いた。 「お二方！わっちのために争うのはやめておくんなんし！！」 「「ゆ、ゆうぎり！あっはははは！」」 「何が可笑しいでありんすか！！！！！！」 「「ぶーーーーっ！！！！！」」
16 19/09/06(金)00:32:36 No.620569754
笑い茸的な呪い？
17 19/09/06(金)00:35:26 No.620570345
>「「ゆ、ゆうぎり！あっはははは！」」 >「何が可笑しいでありんすか！！！！！！」 >「「ぶーーーーっ！！！！！」」 正しいビンタ過ぎる…
18 19/09/06(金)00:38:10 No.620570928
わっちの取り合いはやめなんし！
19 19/09/06(金)00:39:49 No.620571301
こうなったら3Pするしかないでありんす…
20 19/09/06(金)00:43:35 No.620572136
こういう師弟関係好き！
21 19/09/06(金)00:48:27 No.620573220
でも姐さんにパパって呼ばれるのもいいかもしれない
22 19/09/06(金)01:00:01 No.620575735
マスター怪文書もありでありんすな…