19/09/03(火)23:37:41 「はよ... のスレッド詳細
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19/09/03(火)23:37:41 No.620056076
「はよ起きんかー!飯出来とるけんなー!」 聞き慣れた騒がしい声で目が覚めた。 体を起こして、首を鳴らし、体をほぐす。 ………今日も憂鬱な一日が幕を開ける。 リビングに出てみれば、出ている朝食は普段と何も変わらない。 炊きたてのご飯に味噌汁にお新香に焼き魚に…ポテトサラダに。 俺の悩みなんて何も無いかのように用意されている朝食を平らげ、玄関に向かう。 「弁当持った?ハンカチは?」 持ってるに決まってるだろ。何年同じ事を聞いてるんだ。 「持った持った行ってきまーす」 「行ってらっしゃい!車に気をつけっとよー!」 あまりにも過保護な母ちゃんの声。俺の様子なんて全く気づいていないような元気な声。 「…いつまでガキだと思ってるんだ」 母ちゃんの声を聞き遂げるのと、苛立ちから強く押し開いた扉が閉じたのは同時だった。
1 19/09/03(火)23:38:11 No.620056210
「はぁ…」 学校へ向かう途中、何度目かを数える事すらやめた溜め息をまた繰り返す。 父ちゃんは俺の事を、親譲りの持っている男。と良く言っているが、それ以上にある確信が胸を突く。 …今日一日。きっとロクな目に合わない気がする。 「おい!幸多!」 ほら、校門をくぐろうとすればこれだ。 目を向ければ挨拶がてらに生徒をチェックしている体育の先生。身長が高い俺と同じ高さで向かい合う。 「なんですか?先生」 「お前なぁ!何回言わせれば気が済むとや!?」 ………あぁ、いつものか。 「この金髪は地毛だって、先生も何回言わせれば気が済むんですか」 「んなわけ無かやろ!」 もう何度目かを数える事すらやめたやり取りを、今日もまた繰り返す。 俺は今、違う事が気がかりでそれどころじゃないというのに。
2 19/09/03(火)23:38:44 No.620056377
適当に流して先生の隣を抜ける。これ以上は時間の無駄だ。 「とにかく!黒にでも染めて来んね!そやんか品の無か髪はな!」 足が止まる。 「…今、なんて言いました?」 冷静を保て。コイツは今なんて言ったかだけを確かめろ。深追いはするな。 「金髪なんて品が無か髪はやめんかって言っとるんだ!」 ブチッ………そんな音が、煮え立つ頭の中で響いた。 「あァ!?テメェ!!母ちゃんの髪をバカにしよっつか!!!」 「うおっ!?」 先生に詰め寄る足を、体を、最早理性は止められない。 「ざっけんじゃねぇぞ!ぶっこ」 「はいはいそこまでそこまでお騒がせしましたー!ほら行くぞ!」 同じ高さの胸倉に掴みかかる瞬間、横から伸びる手が俺の腕を掴む。 手を辿れば友人達の顔。先生を睨みつけながら引っ張られ、校舎に辿り着いた。
3 19/09/03(火)23:39:04 No.620056480
椅子に座り、今日も今日とて授業を受ける。 …形だけだ。話なんて、何も聞いちゃいない。 今向き合うべきは黒板でもノートでもなければ、公式でもない。 俺のこれまでの人生で最も巨大な悩みだ。 「…ではここをぉ~…巽!お前に解いて貰おうか!」 「xが6分の√2の時に最小値-1」 「………正解だ」 人の思考を邪魔するな数学のハゲネズミ。 「…今のって…まだ習って無いよな…」 「流石巽だな…」 周りが喧しい。いっそバックれてしまおうか…その思考に到達した瞬間、肩に軽い物が当たって机に落ちた。 綺麗に筆箱の中に落ちた何かを取り出してみると、握り潰されたノートの切れ端。広げてみる。 『昼休み。屋上。飯持参』 顔を上げれば、こっちへ笑みを投げて黒板に向かい直す友人の姿。 …今朝も助けてくれた頼れる友人達の力を、借りてみようか。
4 19/09/03(火)23:39:53 No.620056729
「今日お前随分と集中できてないじゃねぇか」 爛々と日差しが射す屋上で。3人の友人達と座って昼食を摂る。 「仕方無いだろ、悩みがあるんだ」 ポテトサラダを摘まみながら話す俺の言葉を聞いて、ザワつく。 「お、お前に悩み!?」 「…俺を何だと思ってるんだ」 「自称持っとる男」 「化け物」 「生徒会からも一目置かれる頭脳明晰文武両道の完璧超人」 「普通だ普通!普通の男子だよ俺は!」 数少ない友人達。親友とも言える3人に心無き言葉を浴びせかけられれば、俺も流石に声が荒くなる。 「普通の男子があのハゲネズミの嫌がらせ問題解けないって」 「ハゲネズミの顔見たかぁ?スッとしたねありゃ」
5 19/09/03(火)23:40:05 No.620056801
2人が興奮するのを端目に、1人が改めて俺に向き直る。 「それで、巽の悩みってなんなんだ?」 「…聞いてしまうか、それを」 「いやお前が始めに言ったんだろそれ」 「黙って聞け」 重箱の隅を突く奴を黙らせ、深く深呼吸。 …よし、語るとしよう。俺の人生を大きく揺るがすであろう、この問題を。 「俺には初恋の人が居るんだけどさ」 「え!?初恋!?」 「張り倒すぞ黙って聞け」 何かあればすぐに話の腰を折るところは本当にどうにかした方が良いぞ。本当にな。 「…んん!それでな。その初恋の人が今でも好きなんだ」 …ここからが本題だ。間を置けば、息を呑む音が3人から届く。 「…俺のおじさんが好きな人なんだけどさ、最近おじさんが実は男なんじゃないかって思い始めて来たんだ」 「「「は??????」」」
6 19/09/03(火)23:40:27 No.620056898
「「「ちょっと待て待て待て」」」 だから話の腰を折るなと言っておろうに。だが表情を見たところ何か理由がありそうだ。 「どうした?」 「悩みの1から9までわかったけど残りの1がわからない」 「お前にそんな堂々と言われると自分がおかしいのかと錯覚する」 「おじさん…なんだよな?」 3人から口々に飛んでくる言葉の雨。受け流しつつ、大事な物には答えるとしよう。 「そうだな、おじさんだ。本当に可愛いんだよおじさん」 「………???????」 一瞬、ポカンとした顔を浮かべる1人の背景に宇宙が映った気がする。気のせいだ。 「と、とりあえず細かい事はいいや…そのおじさん?が何故男?だと思ったんだ?俺は何を言っているんだ?」 「そう、始まりは…俺が小学生の頃だったか」 「おい何か語りだしたぞ」 「巽の事だ、何かあるに違いない。今は聴こう」
7 19/09/03(火)23:40:59 No.620057065
桜舞い散る春の日…花見に行くといつもギャン泣きする父ちゃんを母ちゃんが甘やかしていた時だ。 『あれ?キミ、一人なの?』 親から離れてボケッと桜を眺めていた俺に、心に響く声が届いたんだ。 振り返れば、星が浮かぶ水色の髪を靡かせる子。 『も~。タツミもサキちゃんもアツアツなのは良いけどしっかりしなきゃダメだよ~!』 『…えっと』 『キミも、そう思うよね!』 一目惚れだった。桜の花びらが散る中で笑うその子が。俺の心を撃ち抜いた。 『………君の、名前は』 『リリィの名前?あっ。言っちゃった』 見た目通りの愛らしさが詰まった名前。更に惹かれる俺の心。 『キミのお父さん、タツミの知り合いで…なんていうのが近いのかな…』 頬に人差し指を当てて首を傾げるリリィ。なんて…チャーミングなんだ… うーんうーんと考えて、リリィはパァっと笑顔を咲かせた。 『リリィはね、キミのおじさん!それが一番近いかも!』
8 19/09/03(火)23:41:10 No.620057116
「そうして俺は、おじさんへの恋を抱えて生きてきたんだ」 「「「………」」」 語り終えて3人の様子を伺う。 「…ん?どうした?」 「「「全然状況が掴めない」」」 …役に立たないなこいつ等。 「その可憐な女の子がおじさんだと?」 「そうだ」 「だけどそのおじさんが男かも知れないと?」 「そうそう。なんせおじさんだからな。おかしい事じゃないかと最近気づいたんだ」 「意味わからん」 ………ひ、人がこやんかところまで恥ずかしか話ばしたとに…こ、こいつ等… 俺の怒りが滲み出たのだろう。慌てだす友人達。 そして、この集まり唯一の成果である言葉が飛び出した。 「実際良くわからないけどさ。とりあえず聞いてみたら?」
9 19/09/03(火)23:41:27 No.620057201
「やっほ☆待たせちゃった?」 「い、いや!全然!?」 突然の呼び出しに応えてくれたリリィちゃん。フリフリの服を着て、まるでお姫様のような格好だ。 あぁ…がばやーらしか……だ、ダメだ!ダメだぞ俺!今日こそ聞くんだ! 「今日のデートはどこ行くの?」 「デ!?デ、デデデ!?デート!?」 「あー!真っ赤ー!かっわい~!」 初めて会った時からずっとこれだ…敵わないな… 「…あ、あのさ。リリィちゃん」 「なぁに?幸多?」 聞いていいのか?この質問でリリィちゃんが泣いたらどうする?これまでの関係が全て壊れてしまったら? あぁ怖くなってきた…何も言わなかった事にして遊ぼうかな… 「…幸多、その顔ね。幸多のパピィにそっくり」 「…父ちゃんに?」 「うん。悩みがあるけど隠そうとしてる時のタツミの顔にそっくり」
10 19/09/03(火)23:41:42 No.620057293
…やっぱり敵わないな。リリィちゃんには。 「…リリィちゃん」 「リリィちゃんは、男、なの?」 きょとんとした顔を浮かべるリリィちゃん…そりゃそうだ!こんなおかしな質問! 「ご、ごめんね!こんな変な質問!」 頭を掻いて笑って誤魔化す。 「…幸多?」 「何?リリィちゃん」 「こっち来て?」 手を引かれ、何処かへ歩きだす。 見えてきたのは、トイレ? 「リ、リリィちゃん?トイレに行きたかったの?」 歩く足は止まらずに、青い記号の方へ進む。 …え? 「幸多には、見せてあげないとわからないよね?」
11 19/09/03(火)23:42:10 No.620057434
光源を一つも用意せず、暗い部屋で俺は布団の中に篭る。 「幸多!早く降りてこんね!飯もう出来とるって言っとろうが!」 「どうしたどうした?」 「あっ!こーたろー!幸多の奴が部屋から出てこんね!」 外と部屋を隔てる扉が、何度も鳴る。だが、冷め切った俺の心は揺るがない。 「父ちゃんも母ちゃんも、知っとったんやろ」 「何のことだ!?」 「リリィちゃんが男だって!知っとったんやろ!」 布団の中で、喉が慟哭をかき鳴らす。こんな惨い…酷い…あんまりな現実… 「あーそれな…怒んないで聞いて欲しかよ?幸多。あのな?」 「俺も母ちゃんも幸多が何時気づくかと笑いながら居ったぞ」 「あー!こーたろー!バッカおめー!今言う事じゃなかやろが!」 「う"わ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!グレ"でや"る"ぅ"う"う"う"う"う"う"う"う"!!!!!」 この世の無情さと悲しみと悪辣と涙の味を知ってまた一歩。俺は大人に近づいた。
12 19/09/03(火)23:45:39 No.620058422
正雄おじさんは魔性な女ばい…
13 19/09/03(火)23:50:18 No.620059795
男でも良いと思うようになるかもしれん
14 19/09/03(火)23:50:44 No.620059926
いいじゃねえか 付いてようが付いてなかろうが
15 19/09/03(火)23:54:16 No.620060943
幸多久々に見た…
16 19/09/03(火)23:54:42 No.620061099
幸多がサキちゃんと巽のいいとこ取り過ぎる成長を遂げている…
17 19/09/03(火)23:55:12 No.620061252
禁断の恋かー? 禁断の恋始まっちゃうかー?
18 19/09/03(火)23:56:06 No.620061521
厠に連れ込んだらそのまま抱きなんし!
19 19/09/03(火)23:58:32 No.620062221
幸多きたな
20 19/09/03(火)23:58:45 No.620062279
この場合どちらがネコでありんす?
21 19/09/04(水)00:02:13 No.620063220
一向に老けない母ちゃんとおじさん
22 19/09/04(水)00:04:18 No.620063795
トイレでリリィはんのリリィはんを見せられたらホモになってもおかしくない
23 19/09/04(水)00:06:36 No.620064460
幸多は相変わらずマザコンだな!
24 19/09/04(水)00:10:26 No.620065510
兜合わせから始めなんし!
25 19/09/04(水)00:13:12 No.620066291
友達良い奴ら過ぎる
26 19/09/04(水)00:17:05 No.620067349
風が優しく頬を撫でて、ゆっくりと瞼を開ける。 泣き疲れて寝てたのか…俺。 身体を起こして目を擦る。…ちょっと痛い。痛くて、また涙が出てくる。 そんな俺を変わらず風は撫でてくれる。 ………そういえば。俺は窓を開けていたっけ? 「こんばんは。幸多くん」 浮かんだ疑問に身体が反射で動くと同時に、俺にかかる声。 開いた窓から入る風が、カーテンを揺らす。 そして窓の外には。白い女性。 満月を背に、優しく微笑む白い女性。 まるで絵画のような美しさに思考が止まる。呼吸すら、止まる。 「大丈夫ですか?」 不安げに声をかけられ、ようやく俺の身体と思考が時を刻む事を始めた。 「は、はい…」 「…フフッ。元気そうなら良かったです」
27 19/09/04(水)00:17:20 No.620067421
気の抜けた声を返せばクスリと笑う。 思わず顔が赤くなる。こんなドキドキ、リリィちゃんくらいしか無かった。 彼女をもう一度良く見てみよう。 セーラー服に、リボンで纏めた白い髪。慈愛を感じさせる目。弓なりに曲がる妖艶な唇。 …なんて、綺麗なんだ。 「あの、お名前を聞いても?」 知りたい。彼女の事をもっと。知りたい。 「知って、どうするつもりですか?」 「え?」 想定外の返しに、再度情けない声が出る。 「知って、私とどうなりたいんですか?」 「そ、それは、その」 「…冗談です。意地悪ですよ、ごめんなさい」 片手でコツンと自身の頭を小突いて、舌をチロっと出す彼女。 そんな茶目っ気に。胸が高鳴る。顔が熱くなる。
28 19/09/04(水)00:17:48 No.620067560
「あー!!!お前等そこで何やっとんじゃーい!!!」 勇気を必死に振り絞り、再度彼女の名を聞こうと口を開けば、聞き覚えしかない声が遮った。 「ゲッ!アイツに気づかれたわよ!?」 「どやんしよっか!?まだ私アピールできとらんよぉ!」 「あいぃ…仕方ありんせん、ここは一時撤退でありんす」 彼女の下から、様々な声が聞こえてくる。 「…時間みたいですね、また会いましょう」 変わらぬ姿勢のまま離れていく彼女。追い縋るように窓辺に駆け寄る。 「待って!どうか名前を!」 「…純子。と呼んでください」 「あー!純子ちゃんずるかー!?」 「ちょっとさくら!肩車崩れる崩れる!」 「あの!?しっかり支えてください!あ!落ちちゃう!落ちちゃいます!あぁー!!!」 突如として見えなくなる彼女。ぐえっ!とか、ヴェッ!とかそんな声が聞こえる。 彼女は、純子さん。俺はきっと、暫く純子さんを思って胸の高鳴りを止められないだろう。
29 19/09/04(水)00:20:33 No.620068350
何俺の子に色仕掛けしとるんじゃーい!
30 19/09/04(水)00:23:14 No.620069106
ゾンビィの愉快な仲間達きたな…
31 19/09/04(水)00:26:55 No.620070206
やーらしか!
32 19/09/04(水)00:33:00 No.620071864
肩車してるところ想像したらダメだった