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19/09/02(月)23:45:19 No.619815290

「今日は何の日だか、ご存知ですか?」 薄く笑う純子。当然、俺も想定済みだ。 「お前の誕生日じゃろがい」 「正解です」 先ほどより砕けた笑顔。細い指が宙を切り、花丸を描く。 「巽さん?」 悪戯っぽい笑顔が、俺に向かう。 「誕生日プレゼント。くーださーいな?」 「おう、なんでも言いんしゃい」 迷い無く返せば、くりっとした目をきょとんと丸くする。 …全て、想定済みだ。 なんだかんだ言って我等がフランシュシュの中で一位二位を争う問題児。紺野純子。 そんな彼女が何を望むのか。既に幾つものパターンを組んである。 アクセサリー。食事。スポーツ。旅行。映画。etc… 昨日寝る前に必死こいて挙げられるだけ挙げた。恐れる物など、無い無い無い。

1 19/09/02(月)23:45:35 No.619815367

「ふふっ。準備万端なんですね」 その余裕に満ちた笑顔も最早恐るるに足りず。 …いや、普通に喜んでくれているのか?まぁいいや。 「ふんっ!この俺を誰だと心得とるんじゃい!」 「私のネクロマンサーさんですね」 顔の隣で両手を合わせ、にっこり笑顔。 …純子だけのじゃないんだけど… ま、まぁいい!誕生日だもんな!今日は純子のネクロマンサーだ! 「それでは、私だけのネクロマンサーさん。プレゼントをお願いします」 「お、おう!どんとこんかーい!」 本題だ。まぁ、何が来ても怖くは無い。 「趣味でも物でも何でもたの」 「幸せが、欲しいです」 完璧な計画が脆く儚く崩れる音が、俺の頭に響いていった。

2 19/09/02(月)23:45:48 No.619815431

純子の願い。"幸せ"。 あまりにも抽象的すぎるその願い。どうか、教えて欲しいと言えば。 『ダメですよ?お付き合いしますから、巽さんが思いついた物を私にください』 …これが、俺と純子の幸せ探求巡りの始まりだった。 「うーん…嬉しいですけど、違いますね」 こ、これも…違うの…? ダメ出しを受けて、頭を垂れずにはいられなかった。 訪れた場所は五箇所。俺が頭を垂れるのも五回。 「…このカフェがダメなら、必然的にあのお店も…すると、他にありそうな場所は…」 なんて事だ。昨日必死こいて考えたルートが…計画が… 「巽さん?もしかして…もう終わりなんですか?」 「………んなわけあるかーい!!!次じゃい次!」 煽られれば、進むしかない。 引っ手繰るように純子の手を取って、止めてある車に足を進める。次は自信あるぞ俺。 「………………ふふっ」

3 19/09/02(月)23:46:03 No.619815504

「違います」 「これじゃありませんね…」 「ダメです。ダメダメですよ?巽さん?」 しにそう。 ヨガもダメ。釣りもダメ。ピアノのある場所もダメ。 食べ物もダメ。和食で有名なお店もダメ。 豆腐屋ワンチャンあるか?そう思って行けば最後の言われようである。 ど、どうすりゃええんじゃ…こんな時他の面々が居れば…女性の視点があれば… 「…本当にわかりませんか?」 頭を抱えていれば、かかる声。 …悲しげな顔。悲しげな声。 悩んでいる場合じゃないな。 「まだまだこれからじゃい!」 空元気を出して叫ぶ。空元気を出して笑う。 …それと同時に自らの腹から、何も無くて空でも元気出せねぇよバカ。というお叱り代わりの音が鳴った。

4 19/09/02(月)23:46:15 No.619815549

「………」 「………くすっ」 あっ。しにたい。きのこになりたい。 小さく笑う純子を前に俺の自尊心はズタボロにされ、最早ボロ雑巾以下である。 そんな雑巾が逃げるように視線を逸らせば、見えたのはピンクの車。 …あれとか、幸せだったりするか? 「巽さん?」 「ちょっと待ってろ」 車を飛び出して、見えたピンクの車へ。 好きな具はわからんが、多分なんか甘い系なら何でも良いんじゃないか?女の子だし。 適当なのを二つ頼んで受け取り、再度純子が待つ車内へ。 困惑している純子へ片方を手渡し、座席に座り直す。

5 19/09/02(月)23:47:03 No.619815770

「…クレープ…ですか?」 「そうじゃい。あ、具は適当ですいただきまーす」 説明を早々に切り上げ齧りつけば口に広がる甘味。空腹を満たすには味の方向性が違うが、美味しい。 「巽さんったら…いただきます」 純子も小さく一口。中身に辿り着けず、再度小さな口を大きく開けて一口。 暫し静かになる車内で、二人でクレープを食べる。 …まぁ当然だが。空腹のうえに大口開いて食べていた俺が先に食べ終わった。 ゴミを握り潰して捨てれば、なんという事だろう。やる事が完全に無くなってしまう。 手持ち無沙汰をどうしようかと悩み隣を見れば、笑ってクレープを食べる純子の姿。 「………?…っ!?」 頬杖を突き眺める俺の視線に気づかれた。二度見してからシュボッと顔が真っ赤に変わる。 「な、なななんでしゅか!?」 いや、なんでも。そう返そうとして気づく。真っ赤になった顔を見て、気づく。 純子の顔。魅力的な唇。視線が釘付けにされる。 俺の意思を問う事無く腕が、手が、指が。伸びる。

6 19/09/02(月)23:47:13 No.619815822

「巽さん…!?」 「動くな」 狙いが外れる。動くな。 俺の言葉に従って動きを止める純子の唇に、指が届く。 …そして、唇の少し横まで伸びたクリームを拭き取った。 「………へ?」 「付いとったぞ」 ポカンと口を開けている純子にクリームが移った指を見せてやる。 「……………巽さんのばか」 「えぇ!?」 「純子ポイントマイナス50点ですっ!」 なんという事だ…俺はバカだった…純子ポイントを減らしてしまうとは………いやなんだよ純子ポイントって。 だが今なおプリプリと怒りながらクレープを頬張る純子を見れば、きっと俺は良くない事をしたのだろう。 溜め息一つ吐いて、指に残ったクリームを口に含んだ。 ジトっと横目にこちらを見ていた純子が目を見開いたのは。再度顔を赤で染め上げたのは。全く同時だった。

7 19/09/02(月)23:47:48 No.619816002

「さっきので…ちょっと近づいたかもしれませんね」 「マジで!?」 クレープを食べ終えて次の目的地に向かう途中。純子がそう爆弾を投げた。 あのクレープはファインプレーだったか…!やるじゃないか巽幸太郎!次もこの調子だ! 次の目的地は社交ダンスサークル。俺自身はダンスなんてお茶の子さいさいだが、純子はどうだろうか。 黒いタキシードに着替え、純子を待つ。 …ちょっと緊張するな。ネクタイは大丈夫だろうか。服は乱れていないだろうか。襟は捲れていないだろうか。 鏡で何度も確認していると現れたのは、大人びた黒のドレスを身に纏う純子。 髪と肌とのコントラストが。大きく開かれた胸元が。嫌でも俺の目を誘う。 「…どう、でしょうか?」 …ここを間違えるなよ巽幸太郎。俺を不安げに見る純子の願いを忘れるな。純子の望む答え方を探し出せ。 「綺麗だ、純子」 結局口から出たのはシンプルな感想。アホか?アホなのか俺は? 反応を見るのが怖い。サングラスで目を逸らしているのがバレなくて助かった。 …そんな俺の杞憂は。手に指を絡めてきた純子によって呆気なく晴らされた。

8 19/09/02(月)23:48:04 No.619816096

「純子?」 「………」 純子は俯いて何も答えない。しかし、俺の手に指は力強く絡んだまま。 「…巽さん…私、しあ」 純子の言葉を遮るように、曲が始まる。 曲に合わせて周りは踊りだす。まるで周囲から切り離されたかのように、俺と純子は止まっている。 「大丈夫か?純子」 「…踊りましょう、巽さん」 顔を上げた純子は、笑顔だった。 言葉を返す事はせずに、ステップを踏む。 合わせてステップを返す純子と二人、踊る。 純子の目に雫があった事を忘れるように。二人、踊る。 何を言おうとしたのか、俺には聞こえなかったしわからない。 だから。純子が幸せになれるように。強く手を握って踊るんだ。 「……………巽…さん」

9 19/09/02(月)23:48:19 No.619816172

「………かなり近い、です」 「マジで!?」 踊り終え、次の目的地に向かう途中。純子がそう爆弾を投げた。 良いぞ良いぞ巽幸太郎!お前がナンバーワン!この調子で 「…お屋敷に戻って、いただけますか?」 浮かんだ笑顔が凍りついた。 「………時間切れ…か」 ダメダメな奴だよ巽幸太郎。見損なった。お前そんなでこれから彼女達をプロデュースできると思っ 「違います。私の幸せは、お屋敷にあるんです」 「マジで!?」 まだ結果はわからないぞ巽幸太郎!答えに近いヒントだぞ!ここでリカバリーするんだ! 「………あれ?じゃあ外で近かったのってどういう」 「全部、わかる筈です」 俺を見つめる純子は、何かを決意したような。そんな目をしていて。 そんな決意に応えようと、そう思った。

10 19/09/02(月)23:48:42 No.619816291

純子に手を引かれて屋敷を歩く。 そうして、一つの部屋の前で立ち止まる。 「…衣裳部屋?」 様々な衣装を保管している部屋。ここに幸せが? 俺の疑問に答える事無く、純子は扉を開け俺を引き入れる。 多くの衣装が立ち並ぶ。あの日見た服から、お披露目を今か今かと待っている服。 …その中で二着。それらと離れるように並ぶ二着。これこそが答えだと言わんばかりに、二着。 俺を引いて歩く純子の足は、その二着の前で止まる。 ………白のタキシードと、白のウェディングドレス。 「…これが答えか」 またしても純子は何も答えない。 「………ふぅ」 「少し待ってろ」 微塵も確信が持てなければ、正しい事なのかもわからないが。 タキシードを手に取る俺を見て。純子が息を呑んだ事だけは、確かにわかった。

11 19/09/02(月)23:49:18 No.619816501

俺の部屋で。白い服の男と白い服の女が二人。 窓辺から射し込む月明かりで女の姿が露になる。 赤い瞳。青い肌。継ぎ接ぎの顔、体。 異形とも言えるこの姿を見ている者は二人。月明かりを送り込む月と、誰でもない自分。 その両者共に、悲鳴などというモノを上げる事は無い。 「…これが、夢だったんです」 悲しげに笑う純子が、ポツリと零す。 「好きな人と幸せいっぱいに笑って。好きな人のためにドレスを着て」 「好きな人と二人で、誓いを結ぶんです」 何時の間にか流れだした雫が。純子の頬を濡らし、床を濡らしていく。 「…ごめんなさい。巽さん」 「…こんな卑怯な事…ごめんなさい…!」 「誕生日なんて言って…一日中振り回してっ…ごめんなさい…!」

12 19/09/02(月)23:49:38 No.619816615

両手で顔を覆う。まるで見せたくないモノがあるかのように。或いは見られている事を見たくないかのように。 「純子」 その覆い隠すモノを、優しく剥がす。 「…巽…さん…!」 「必ず、叶えてやる」 俺の口から溢れる思いは。この運命を純子に課した者への宣戦布告であり、俺自身への誓約だ。 「だからどうか笑って欲しい」 「こんな時には。他じゃダメでも二人で居る時くらいは。弱さを見せていいんだ」 「だから全て吐き出して、笑って欲しい」 これが、俺の誓約だ。誠実さで、ただ向き合う。 「………巽さん…巽さん!」 胸に飛び込んで来る花嫁を、しかと抱きしめる。 「ワガママ言ってばかりでごめんなさい!巽さんと二人で楽しかったです!」 「私、幸せです!最高の誕生日でした!」 花嫁の言葉を聞き遂げる者。笑顔を見届ける者は二人。一人はただ月明かりの祝福を送り。もう一人は。ただ。

13 19/09/02(月)23:56:52 No.619818939

結婚した!!!

14 19/09/02(月)23:58:12 No.619819365

>次の目的地は社交ダンスサークル。俺自身はダンスなんてお茶の子さいさいだが、純子はどうだろうか。 巽凄いな…

15 19/09/03(火)00:01:56 No.619820589

ずるかー!

16 19/09/03(火)00:02:14 No.619820684

エモかー!

17 19/09/03(火)00:03:47 No.619821137

幸せ太郎はん!つまり純子はんの欲しいものって…

18 19/09/03(火)00:04:29 No.619821338

よか‥

19 19/09/03(火)00:04:49 No.619821422

1日デートだこれ

20 19/09/03(火)00:05:06 No.619821493

>「誕生日プレゼント。くーださーいな?」 もうこのお茶目さ好き!

21 19/09/03(火)00:07:45 No.619822316

抱きなんし!

22 19/09/03(火)00:08:08 No.619822456

純子ウェディング衣装も回収とはやりおる

23 19/09/03(火)00:09:38 No.619822919

豆腐屋とか巽はさあ

24 19/09/03(火)00:12:14 No.619823688

>豆腐屋とか巽はさあ アツクナレ!

25 19/09/03(火)00:13:21 No.619824006

>「ワガママ言ってばかりでごめんなさい!巽さんと二人で楽しかったです!」 >「私、幸せです!最高の誕生日でした!」 >花嫁の言葉を聞き遂げる者。笑顔を見届ける者は二人。一人はただ月明かりの祝福を送り。もう一人は。ただ。 ただ!?

26 19/09/03(火)00:14:28 No.619824342

よか…

27 19/09/03(火)00:14:37 No.619824394

尊か…

28 19/09/03(火)00:16:00 [sage] No.619824823

「巽さん!今日は一日、本当にありがとうございました!」 引っ張りまわした彼に笑顔を。感謝を告げる。 「気にするな」 「そうは言われても気にしちゃいます!」 散々彼の前で泣いてしまったし、思いの丈をぶつけてしまいました。 …思い返すと…恥ずかしい… 「私の夢とかどうとか!忘れていいですからね!」 「それは出来ない」 突然の低い声に心がドキッとしてしまいます。もう死んでいるのに。 「巽さん?」 「今ここで誓おう」 私の前で膝を突く彼。伸ばした手が私の手を優しく掴む。 「全てが終わった暁には。もう一度こうすると」 「これで、誓う」 …そして彼は。私の手に顔を近づけ…

29 19/09/03(火)00:16:20 [おわり] No.619824931

「純子ちゃん最近がばい頑張っとるね!」 「そうですか?」 「ほんとよね!何か良い事でもあった?」 「ふふふ。あったかも知れませんね!」 笑って皆さんと話しながら、手を顔の前へ。 「そういえば純子。最近いつもそれやってるわね」 「あー!そういえば良くやってるっちゃね!それなんと?」 「ヒ・ミ・ツ。です!」 教えて教えてと口々にする皆さんには申し訳無いですけれど、これだけは秘密。何が何でも秘密です。 …最近良く頑張っている…そうですね。佐賀を救うために、最近は一層励んでいます。 きっと右手なら、こうはならなかったでしょう。 きっと適当な指なら、こうはならなかったでしょう。 …だけれど、彼が。巽さんが誓ってくれた、この指が。私を頑張らせてしまうんです。 自分の左手。薬指を眺めて、皆さんとレッスンに戻るのでした。 佐賀を救う…全てが終わる日を、夢見て。

30 19/09/03(火)00:17:04 No.619825155

エモかー!

31 19/09/03(火)00:17:14 No.619825199

やっやった!

32 19/09/03(火)00:20:46 No.619826341

祝福しなんしー!!!

33 19/09/03(火)00:20:51 No.619826369

プロポーズでありんす!

34 19/09/03(火)00:30:01 No.619828993

やーらしか…

35 19/09/03(火)00:33:26 No.619829892

>俺の部屋で。白い服の男と白い服の女が二人。 >窓辺から射し込む月明かりで女の姿が露になる。 >赤い瞳。青い肌。継ぎ接ぎの顔、体。 >異形とも言えるこの姿を見ている者は二人。月明かりを送り込む月と、誰でもない自分。 最高過ぎる…

36 19/09/03(火)00:34:40 No.619830180

生者と死者の結婚式

37 19/09/03(火)00:36:06 No.619830560

死者にウェディングとか結婚とか相手が生者だとかその冒涜感たまらんね

38 19/09/03(火)00:38:04 No.619831063

いい…

39 19/09/03(火)00:42:11 No.619832141

誓いは神ではなく貴方自身に…

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