ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
19/09/01(日)23:04:18 No.619566424
遥か奥深き心象の果てで、僕は目を覚ます。 辺りを見渡せば暗闇。何も見えず、何も聞こえない、息苦しい場所が僕の居場所。 わかっている。これが僕の居場所だ。これで良いんだ。 だけれど、僕が目覚めたのはどういう事だろうか。 もう彼に託した筈だ。僕の全てを、願いを。 ここで僕に取れる行動は無く、暗闇を見上げる。 何も無いが、誰かが居た。 『…助けて欲しい』 彼の声が暗闇から届く。 助けて欲しいとは、どういう意味なんだ? 『きっと俺の言葉よりも、届く筈だ』 説明をしてほしい。これじゃあ何もわからない。 彼に聞いてみると口ごもるような、声にならない声が闇に響く。 『………さくらを、説得して欲しいんだ』
1 19/09/01(日)23:04:32 No.619566488
彼女を?何故。 『思い出したんだよ、これまでを』 思い出した?生前を? 『あぁ。それが原因で諦めてしまっている。…よりにもよってこのタイミングでアレを思い出してしまうとは』 …彼女の生前の記憶が辛い物なのは確かだけれど、全てを悪と断じて欲しくは無いな。 『………すまん。そうだな。お前にとっては、あの頃の記憶こそが』 僕こそごめん、話の腰を折ってしまったね。それで、僕に説得を? 『頼みたい』 僕よりも優秀で頼れる彼の申し訳無さそうな声は、嫌に頭に残る。 けど、何故僕が? 『さくらはあの頃に戻っている。あの頃を過ごしていたのはお前だ』 『お前だけにしか届かせられない言葉があると、思った』 彼は間違いない事のように僕に語る。 …怯えて、怖くて、それでも彼女を諦め切れなくて。 彼に全てを託して逃げた、僕に。
2 19/09/01(日)23:04:58 No.619566664
僕には、出来ないよ。 『………』 きっと酷い結果になってしまう。彼女に更に辛い思いをさせてしまう。 君が説得する方が、良い結果になるよ。間違いない。 初めからそうだろう?頼ってくれたのに申し訳無いけれど、君が全てを成した方が良い。全てうまく行く。 畳み掛けるように彼に告げ、闇の中で目を閉じる。 再度眠ろう。きっと彼なら大丈夫。そう、彼なら。 『…本当に』 閉じきる寸前に、彼の声が届いた。 『本当にそう思っているのなら、何故目を開けた』 ………目を開けて、見上げる。 『初めから全て俺に任せても良いと思ったのなら、何故俺に応えた』 …それは。 『なんてことは無い。シンプルな答えだ』 『お前もさくらが心配なんだ』
3 19/09/01(日)23:05:28 No.619566868
心臓を握り締めるかのような、無情な言葉。 …いいや、わかっている。これは彼なりの、激励。 『もう一度だけ頼む』 『さくらを、説得してくれ』 ………僕に出来るだろうか。 逡巡。恐怖。躊躇い。怯え。 全てが僕を掻き乱し、後少し踏み出す勇気を奪って行く。 『知らん。だが、さっきの言葉を返してやる』 『お前が説得する方が、良い結果になる。間違いない』 結果を示し、僕に出来なかった事を成し続けてきた彼の言葉は。掻き乱す物を吹き飛ばした。 …やっぱり、君はすごいな。 暗闇の中で。上下も左右もわからない場所で。ただ只管に空と思う場所へ手を伸ばす。 『そりゃあ、すごいさ』 何も無い闇を切り続けた僕の手を、誰かが掴む。 『誰でもない、お前なんだからな、俺は』
4 19/09/01(日)23:05:53 No.619567027
肌寒い風を身に浴びて、僕は目を覚ます。 夜空。眼下には、人の営みが織り成す美しき町並み。 だけどそれよりも、目の前の人に僕は目を離せない。 あの日見た姿とは、肌の色と、綺麗な顔に入った傷跡以外何も変わらない彼女の姿。 僕を睨みつける彼女。眉を上げ、怒りを隠そうともしない彼女。 ここまでの会話は、全て彼から聞いていた。 後は僕に全て任せる。好きにやれ。とも。 「しつこい!私の事、なんも知らん癖に!」 彼女が感情を吐き出す。 あの頃は、塞ぎこんでいただけだった筈の彼女が。あの頃は、輝く笑顔を浮かべていた彼女が。 あぁ。どうか許して欲しい。君のそんな姿も、僕を揺さぶる。 だから僕も、感情を吐き出せる。 だけど、彼女にバレてしまわぬように。彼のように吐き出そう。 「死んだ事も無い癖に」 「俺が持っとるんじゃーい!!!」
5 19/09/01(日)23:06:31 No.619567241
ずっと君は、自分を持ってないと言っていたから。 だから僕は、反論するように叫ぶんだ。 「いくらお前が持ってなかろうが、俺が持ってりゃええんじゃい!」 受け取り方次第では、彼女一人を贔屓してしまう言い方だ。彼は怒るだろうか。 それにここまで叫んで思い出した。僕はアドリブというヤツが得意じゃないんだ。 でも…止まれない…よね。 「なんかこうでっかい…すっごい…なんか…」 「でっかくてすごいのを!俺が持っとるんじゃい!!」 ちょっと…恥ずかしいな… 困惑したような…いや、多分本当に困惑している彼女を前に叫ぶ。 どうやら今なお全身に触れる冬の空気は、僕の頭を冷ますには足りないらしい。 ………そうだ、冷めなくていいんだ。 冷めてしまった君に、僕の熱を届けるには、足りなくていい。冷めなくていい。 「いいかさくら!だから!俺は!」 どうか、君に熱が灯るように。十年前から抱き続けていた僕の思いを、君に紡ぐよ。
6 19/09/01(日)23:07:01 No.619567454
成功したかはわからない。だけど、出来る事はしたよ。 再度暗闇に沈みながら、彼に語りかける。 『いや、助かった。ありがとう』 お礼を言うのは僕の方だ。また彼女を見る事が出来た。笑顔は見れなかったけれど、それだけで十分。 『…そうか』 少し悲しみを帯びた声。僕が逃げているだけで、彼が悲しむ必要など無いというのに。 『必ず繋いでみせる。約束する』 それに関しては…彼女が立ち直れるかどうかについては正直、心配していないんだ。 思った事をそのまま口にしてみる。根拠は無いけれど、確信はある。 『…それは、何故?』 彼女は一人じゃないんだろう? この一言で彼も納得したようだ。それ以上は、何も聞いてこなかった。 そして闇に沈み込むのも終わりを迎える。この奥底が僕の眠る場所。 十年ぶりに見た彼女は、怒っていたけれど。またきっと、笑顔を浮かべて欲しい。 どれ程の時が経とうとも色褪せぬ思い出を抱いて。遥か奥深き心象の果てで、僕は目を閉じた。
7 19/09/01(日)23:20:54 No.619572152
巽の叫びでもあり乾の叫びでもあったんだな…
8 19/09/01(日)23:24:19 No.619573271
我は汝 汝は我
9 19/09/01(日)23:26:57 No.619574147
乾はん!目覚めなんし!
10 19/09/01(日)23:28:50 No.619574776
よか…
11 19/09/01(日)23:32:00 No.619575745
乾くんやーらしか
12 19/09/01(日)23:33:52 No.619576337
どっちも熱い漢ばい…
13 19/09/01(日)23:34:00 No.619576379
目覚めよ乾
14 19/09/01(日)23:40:00 No.619578271
目覚めRETURNER!
15 19/09/01(日)23:43:25 No.619579327
巽と乾よ、一つになれ!