19/08/21(水)01:04:50 お囃子... のスレッド詳細
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19/08/21(水)01:04:50 No.616400221
お囃子が聞こえてくる、夏祭りはもう始まっているようだ。今日は夏祭りの2日目、スルーズとは神社の鳥居の下で待ち合わせをしている。夕暮れの中、ヒグラシが合唱している。夏の終わりが近いようだ。 「お待たせしました」 上の方から声がかけられる。見上げればこの前買った浴衣を着たスルーズが立っていた。夕暮れの日差しに照らされた彼女は輝いて見えた。燃えるような赤い瞳は太陽があってもよく見え、紅を刺した唇は吸い付きたくなるような艶やかさがあった。
1 19/08/21(水)01:05:15 No.616400310
「・・マスター?」 声をかけられてハッと正気に戻る。見とれてしまっていたことを素直に伝えると彼女は恥ずかしそうにしながらも、ありがとうございます。と小声でつぶやいた。 広い土地を持つ大出院で行われる夏祭りは屋台の数が多く、とても賑やかだ。射的やくじ引きはもちろん、金魚すくいにスーパーボールすくい、綿菓子やかき氷はもちろん焼きそばやイカメシといった定番から、ジビエを使った焼肉といった地元でしか味わえないようなものまであった。
2 19/08/21(水)01:05:54 No.616400427
「【ちょこばなな】ですか?食べたことはないですね」 そういうスルーズのために2本購入して1本を手渡す。サーバントだけでなく、特異点の一般人も屋台を開いているようで、チョコバナナは一般の方が開いていた。 チョコバナナを受け取ったスルーズはチョコのかかったバナナが見慣れていないからか、物珍し気に眺めながら一口ほおばった。 「・・甘いですね」 「甘いね」 こういう風に黒くて長くて太いものをほおばる少女というのは得も知れぬ劣情を抱いてしまいそうになるが、ここは神社の境内。それにまだ付き合ってすらいない男女がそんなことをしてはいけないだろう。とはいっても男というものはどうしても好きな少女の仕草にドキドキしてしまうものだ。
3 19/08/21(水)01:06:47 No.616400617
「あ、あっちにいこうか」 「はい。お供します」 スルーズが食べ終わるのを待って、マスターが次に目指したのは『型抜き』だ。細い針を使って板状のお菓子をくりぬき、うまくできればその景品がもらえるらしい。 やったことがなかったので、5枚ほど欠けてしまったが、段々慣れてきたからか、なんとか交換できる程度のものができた。 「難しいですね・・」 隣ではスルーズが難易度の高い型抜きをしていた。細いパーツが多く、どうしても欠けてしまうようだ。
4 19/08/21(水)01:08:06 No.616400909
「スルーズのは難しそうだね。俺じゃできそうにないな」 「これくらい問題ありません」 霊衣を展開しかけるほど気合の入った彼女が一心に高難易度の型抜きを進める。さすがはサーバント・・いやスルーズというべきか、凝り性の彼女にはこういった細かい作業が得意なのだろう。 「できました」 会心のでき、と胸を張る彼女に俺も店主もその出来栄えに唸る。彼女が掘っていたのはクマの型抜きだ。簡単そうに見えるが、耳や足といったパーツが欠けやすく、力加減が難しい。
5 19/08/21(水)01:08:26 No.616400963
「いいもの見せてもらった。ほれ!もってけ。そこのあんちゃんもな!」 店主がスルーズにクマのぬいぐるみを、マスターにはチューリップを景品に渡した。初めての型抜きとしては上々の結果だろう。 そうして賑やかな時間は過ぎ、夜の帳が落ちても地上はまだ明るかった。 一休みをしようと神社の裏手、スルーズ曰くあまり人がこない場所に2人して腰掛ける。
6 19/08/21(水)01:09:25 No.616401146
「スルーズはどう?楽しんでる?」 「はい。とても楽しんでいます。私のような存在にこういう感情があるとは思ってもいませんでした」 その言葉にマスターの心がざわつく。戦乙女『ワルキューレ』、北欧神話に出てくる彼女達の役目はラグナロクを戦い抜くこと、そのために地上の戦争で散った魂を神の居城『ヴァルハラ』に連れて行き、昼は戦い、夜は宴を毎日続け、ラグナロクに備えているという。 「・・マスターはどうですか?私のように感情が乏しい者といて窮屈ではないですか?」 「全然そんなことないよ。それに感情が乏しいなんてとんでもない、よく見てれば普通の女の子だと一緒で感情はすごく出てるよ」 「そんな無理におっしゃらなくても・・」 「本当だって――」 そう言ってマスターはスルーズを抱き寄せる。暖かく柔らかい女の子の体だ。チャームポイントの頭に生えている小さな羽は緊張か、驚きかピーンと立ってしまっている。
7 19/08/21(水)01:09:45 No.616401216
「ま、マスター!?」 「こうするとスルーズの音が聞こえてくるんだ。暖かくて優しい感じが。それに恥ずかしがってよく隠れちゃうところも可愛いし。スルーズは俺と変わらない、普通だよ」 「・・その・・この感情は・・『うれしい』だと思うのですが・・すごく・・恥ずかしいです・・」 消え入りそうな声でスルーズがマスターの肩に顔をうずめる。よく見えないが、耳まで真っ赤になっていることだろう。 「・・ねぇスルーズ、聞いてくれるかな」 「・・なんでしょうマスター」 少し気を持ち直したスルーズが少しマスターの方へ顔を向けて尋ねる。愛する少女を抱き寄せた少年は悲しそうな表情ながらもまっすぐに告白した。
8 19/08/21(水)01:10:19 No.616401335
「俺はこれからたくさんの人を殺さなきゃならなくなる。それは避けられないことだし、覚悟は決まったとは言えない。けど・・けどね、俺はそのことを後悔しても、なかったことにしちゃいけないと思ってるんだ。これは俺の罪だから。俺が背負っていかなくちゃならないものなんだ。でも、どこかで折れそうになったり、きっと逃げ出したくなる時が来る。そんな時、君がそばにいてくれたら、俺は前に進めるんだ。俺は止まらない、止まっちゃいけないんだ。そんな生き様を最後まで見ていてほしい。 俺は――君が好きだ。たとえ志半ばで倒れても、すべてを終わらせて平穏を取り戻しても、俺が死んでからも、一緒にいて欲しい」 痛いほどに強く抱きしめるマスター、覚悟が出来ていない彼は覚悟を決めるために、大切なものを守るためにその業を背負う覚悟を決めた。 そんな彼の覚悟を聞いたスルーズは先ほどとは違う感情と高揚感に心臓が破裂しそうなほど気が高ぶっていた。だが、今の彼女にとってマスターの気持ちにこたえるのが大切なことだった。 「――はい。立花・・あなたの魂がヴァルハラにあっても平穏であるように、私はこの身を賭して付き添います」
9 19/08/21(水)01:10:33 No.616401399
そこには〈マスター〉と〈サーバント〉という垣根は存在しなかった。ただお互いを恋焦がれた男女が1組あるだけだった。 少し遠くで祭囃子が聞こえる中、2人は悠久/刹那のような口付けを交わした。
10 19/08/21(水)01:10:45 No.616401442
なるほど、これが恋心というものなのですね。お姉さまはこの感情をいつもシグルドに抱いていた・・ああ、恋というのこんなにも燃えるように熱く、そして甘美なものなのでしょうか。
11 19/08/21(水)01:12:50 No.616401848
次回は2人が恋人になって初めてのデートとなります もっとぐだとスルーズのイチャイチャ増えてほしい
12 19/08/21(水)01:14:47 No.616402225
相変わらずお似合いだな…
13 19/08/21(水)01:33:18 No.616405706
スルーズはヴァルハラ連れてく気無いのに死後どうするやら…