虹裏img歴史資料館

1 19/08/20(火)01:00:37 No.616156365

私は怪訝さを混ぜ込んだ苦笑いを浮かべたまま、また固まってしまいました。 「どうしたさくら。そんなゾンビィが鉛鉄砲食らったような顔して」 「あ、それは気絶しちゃうのでちょっと違いますね…じゃなくて、何て言うかこう…すっごく唐突なテーマだなーって思いまして」 素直な疑問を口にすると、何やら考え込むような顔つきになる幸太郎さんでした。 「俺はアルピノ後のお前達の活動方針についてずっと考えていた。 生半なやり方では佐賀を救うどころか、アイドルとしての成功すら危ぶまれるやもしれん。 …そこでようやく思い至ったのがこれだ。この言葉にこそフランシュシュの未来を大きく開く鍵がある」 幸太郎さんはもう一度黒板をバシィしようとして、当たる直前で思い直して優しくトンと打ちました。やっぱり痛かったとですね。 「…よく分からないですけどそうなんですね。私はてっきり、今日はあの件がテーマかなって思ってて」 「何のことだ」 「あっ、その…先だってのゾンビィ宅巡回連絡事件とか…です」 皆気まずそうに目を背けました。藪蛇だったかな…

2 19/08/20(火)01:00:55 No.616156429

ちなみに『ゾンビィ宅巡回連絡事件』とは…ゾンビィである私達の行動が数々の事案として報告された結果、 このお屋敷が変質者の出没する地点としてマークされてしまい、警察の方が巡回連絡の形で様子を伺いに来ちゃった…というものです。 「夜の公園くらい今までもふつーに行ってたよなぁ？」「ヴェ」 「庭でロメロと追っかけっこしてたくらいなのにー」 「窓辺で昼間からぼんやり佇んでいたこともありんした…」 「傘忘れた日の夕立で慌てて駆け込んだこともありましたね…」「まあね…」 「自分の領分をはき違えるんじゃないわいこのアンポンタンゾンビィ共め。 とはいえすでにあの件は『アイドル達がゾンビィに扮したエキサイティングなイベントの練習』という形に落ち着いているはずだ。 むしろこの時点で弁明が出来たのはラッキーだったな」 「はぁ…本当にごめんなさい…」 この人は来訪した警察の方にその場ででっち上げたホラーイベントを説明して丸め込んだ上、 その日のうちに各所に連絡して実際のイベントに仕立て上げるという離れ業をやってのけたとです。

3 19/08/20(火)01:01:16 No.616156499

お陰様で私達はゾンビィ屋敷で皆さんをおもてなしする羽目になったとですが…まあ楽しそうだしいっか。 「気の緩んだゾンビィはただの腐った死体だ。脳みそ滴り落ちんよう常に気を張っておくんじゃい」 軽く注意を行った幸太郎さんは改めて黒板を指差しました。 「それでは今日はこの『リベンジ』について徹底的に考えて貰う」 「…いつも大体意味分かんないけど、それ私達のアイドル活動に意味あるの？」 「勿論だとも愛。これからの聴収内容いかんでフランシュシュの行く末が大きく変わると言っていい。もう死ぬほど腐るほど重要事項なんじゃい」 「もう死んで腐ってますけどね」 「今日も絶好調だな純子。では早速だが、お前達がこの言葉から思いつくことを聞かせてくれ」 私達はお互いに顔を見合わせました。そやんかこと急に言われても…という感じです。 「何でもいいぞ。夭折したゾンビィ共に未練や仕返ししたいことなど山ほどあっておかしくない」 「つってもなぁ…基本的に喧嘩には負けたことねーし、気に入らん奴はすぐぶん殴っとったしなー。 チキンレースはこないだリベンジしたし…アタシ別にねーわ」

4 19/08/20(火)01:01:34 No.616156561

「私もサガロックのアレでちょっとは溜飲が下がったし…まあ、まだまだ足りないって感じだけどね」 「私は…事故のことは恨んでも仕方ないと思っています。他の方も大勢いらっしゃって最善を尽くした結果でしたし… それでも復讐というのなら自分の不幸とか運命に、という話になるんでしょうか」 「そうね。まあでも、それだったら今やってるとこだよね」「そうですね」 私もうんうんと頷きました。アイドルとしての成功、それが私達の理不尽な死に対する何よりのリベンジになるはずです。 幸太郎さんも頷きながら何やらメモを取っています。 「お前はどうなんだ、リリィ」 「ヒゲゆるせなーい。世界中からヒゲ滅ぼしたーい」 リリィちゃんは率直に自分の死因に対する恨みの念を表明しました。 気持ちは分かるけど、特定の宗教の人とか困っちゃうかもね… 「たつみにはヒゲないよねー」 「ふふん、俺が無精ヒゲの一本でも残してお前達の前に現れたことがあったか？」 「生えるってだけで罪だよねー」 「ほとんどの成人男性が断罪されるわい！…じゃあお前の親父さんはどうなんだ」

5 19/08/20(火)01:01:53 No.616156612

「うーん…パピィみたいに頭に毛のない人は仕方ないかも。昔からなんだって」 「…どうやったらコイツみたいに都合のいい遺伝ができるんじゃい…？」 次に幸太郎さんは、じっと遠くを見る目をしていた夕霧さんに声を掛けました。 「夕霧。お前はどう思う。意味は先ほどリリィが話していた通りだ」 私は思わず息を呑みました。 花魁って過酷な境遇だったと聞きますし、それこそ沢山の恨みつらみもあるとではなかでしょうか… 夕霧さんはゆっくりと幸太郎さんに向き直りました。 「…『りべんじ』という言葉が、挑戦に対する前向きな考えという解釈によれば…の話でありんすが」 「それで構わん。言ってくれ」 「…言わずもがな、わっちは目覚めてより皆と一緒に活動してきんした。 それはとても楽しく有意義で…自分なりに精一杯やってきたと思っていんす」 そこで目を伏せたかと思うとぐっと拳を握り締めました。 「されど皆の歌に懸けし魂の叫びに見合うような思いを、果たして乗せることができたであろうかと。 どこか一歩引いて見るような、擦れた気持ちが無かったかと。思い返せばそこに悔いを感じずにはいられぬ…」

6 19/08/20(火)01:02:10 No.616156667

心底悔しそうにする夕霧さん…こんな姿を見たのは初めてです。私達はただ唖然として見守るしかありませんでした。 …しばらくするとふっと表情を緩めて続けました。 「これまで以上に情念を込めた歌と踊りを披露すること…それが足りぬ芸に甘んじた己に対する『りべんじ』でありんしょう。 …そしていつかわっちも、己が真なる心を皆の前で唄ってみたいと思いんす」 先ほどとは別の意味で息を呑みました。 これまでずっと問題なく演じきっていたように見えて、全然満足しとらんかったなんて…やっぱりこの人は凄かです。 「なるほど…ならば夕霧が主体となる新曲を、ということだな。考えておこう」 「い、いきなりでありんすね…有難いんすが、受け入れられるものでありんしょうや…」 「俺は勝算の無いことはせん。心配は無用だ」 大変な事を気安く請け負ってしまう幸太郎さんも凄かです。ちょっとカッコよかかも… 「良かったね、ゆぎりん」 「ふふっ、言ってみるものでありんすね」 夕霧さんメインの歌ってどんなのだろう？楽しみ！…浪曲とかじゃないよね？

7 19/08/20(火)01:02:26 No.616156727

幸太郎さんはいよいよ私をターゲットにして顔をぐっと寄せてきました。近かですって。 「ではさくら、お前の忌憚のない胸の内を聞かせて欲しい」 「えっ…えっと、どやんす…うぅ…やっぱりそやんかこと急に言われても困るとです…」 「何を迷っている。ゾンビィがリベンジ対象に事欠くことなどそうそうあるまい」 「さくらのリベンジ相手ってなぁ…軽トラとかかよ？」 「うっ…さすがにそれは…そりゃあ思う所も悔しか所もありますけど…今となってはどうにもならんことですし」 「隠すことはないぞ。お前は生前のみならずゾンビィになってからも奴に蹂躙され、とてつもない苦痛を与えられている。 まあどっちも主に俺がめっちゃ苦労した訳だがな…とにかく負の感情を抱くことに何の疑問もない」 「さくらちゃん、軽トラックなら任せて！リリィ特徴さえ分かれば特定しちゃうから！」 「リリィちゃん重機だけじゃなくてそっちもイケると…？いやそういうことじゃなくて！」 私は決然と立ち上がって幸太郎さんを見据えました。

8 19/08/20(火)01:02:44 No.616156774

「私はそやんかとに復讐しようなんて露ほども考えとらんです。アイドル活動を頑張ることが一番のリベンジだし… それにもし恨みなんかぶつけてしまったら、今の皆と過ごした時間も否定することになってしまうとです」 サキちゃんがビッと親指を立ててウインクしてくれました。 他の皆も優しか顔で私を見ています。何か恥ずかしかかも… 「ふっ…お前ならきっとそう言うと思っていたぞ」 「幸太郎さん…」 そんなお前に見せたいものがある、と言うやゴソゴソと古いノートPCを取り出してスイッチオン。 「はい軽トラック破壊ボーナスゲームーーーー！！！」 ディスプレイに表示されたのはどこかで見覚えのある古かゲームでした。何だっけ…？ 「おお、スト２やん！懐かしかー！」 「すとつーって何ですか？」 「お前スト２知らんってさすがにぶっころ…って純子ならしょんなかな。わりぃ」 言われてみれば、これは確かに昔懐かしの格闘ゲームの一場面のようですが…

9 19/08/20(火)01:03:02 No.616156837

「ふむ…白い車の隣にいるお方は…もしや、さくらはんでありんしょうか？」 「おおマジだ…すげぇぞさくら、お前スト２の世界におるやん！」 「えぇぇ…」 「じゃあ後ろで偉そうに腕組んでるのってもしかして…」 背景は唐津湾、中央に置かれているのは軽トラック、そして操作キャラは私。後方には幸太郎さんらしき姿まで。 こ、これは…どう見てもスト２のパロディゲーム…！ 「操作方法は説明するまでもあるまい！」 「アタシ！アタシにやらせて！」 PCに繋がったコントローラーに飛びついたサキちゃんはゲラゲラ笑いながら私を操作。 「おい見ろ！さくらがピョンピョン跳ねて軽トラ破壊しよるぞ！すげー！強P！しゃがみ弱K！てか小足なのに足太てーな！うひゃひゃひゃ！」 「むー！そやん足太くなかもん！」 「写真資料からこのドット絵が出てきたが、本物より若干控えめになっているようだ」 「太くなかとー！」 そうこうしているうちに、画面内ではすっかり軽トラックを破壊しつくした私がドヤ顔をしていたとでした。 知らん間に何てものを作らせとるとこの人…

10 19/08/20(火)01:03:21 No.616156890

「ほらお前もやってみろって！」 「…えぇ…」 渋々やってみると、意外と悪くなか操作感に驚き。適当にボタンを押すだけでガンガン軽トラックが壊れていきます。 操作キャラが私ということもあって、変な没入感が次第に生まれ…そして全て破壊し尽くした後、軽か放心状態に陥ったとでした。 こ、これはまさか…快感…？ 「どうだーさくらー？自分の軽トラに対する複雑な感情に気付いたかー？んー？」 「くっ…！こ、こやんかことで考えを変えたりせんとですっ！」 慌ててリリィちゃん達にコントローラーを譲ります。 他の皆も爆笑したり必死に笑いを堪えたりと素敵な反応を見せてくれました。もうホント恥ずかしか… 「これ対戦できんと？アタシらおらんとや？」 「できん。あくまでさくらが軽トラを破壊するだけのゲームだ」 「ちぇー。つまんねーの」 「一体何のためのゲームなんですかっ！」 「あ、思い出した。アタシまめっちに育ててみたかったとさ。リベンジったらそれかなー… なあ、アタシらもゲームにならん？たまごっちみたいなヤツ！」

11 19/08/20(火)01:03:39 No.616156945

「自分達みたいな連中育てて楽しいか？大体ゾンビィは飯も排泄も成長も病気も死すらもないぞ？」 「…飼育対象としてのゾンビィってマジつまんねーな…」 さて残ったのはたえちゃんです。 「たえ、お前の考えるリベンジについてだが…」 「ヴァ…？」「いや、意味分かってねーだろ」 「あのねたえちゃん。リベンジっていうのはね…例えば食べたかものが食べられなくて、悔しか思いをすることってあるよね？ それを次は絶対食べてやるんだって張り切るみたいな…これで分かる？」 「ヴァー…？」 「ダメそうね…」「多分次には忘れていますね…」 「難しいかもしれんが、是非お前の意見も聞いておきたい。頑張ってくれ」 幸太郎さんに詰め寄られ、皆の視線も感じて、たえちゃんはオロオロしています。 いたたまれなくなった私はたえちゃんを庇い、幸太郎さんの前に立ち塞がりました。 「もうよかでしょう？たえちゃんみたいな純粋か子がリベンジなんて考えるはずがなかと！」 「ヴァゥヴァー…」

12 19/08/20(火)01:04:02 No.616157017

「純粋…なぁ…？」「自然のままの心なのは確かだよ？」「野性的というべきでありんしょうか」 「止めるなさくら！たえ、分からんのなら俺が詳しく説明してやろう！これをよく見ろ！」 黒板に『フランシュシュR』と書き込む幸太郎さん。 「これがリベンジのマークこと『R』だ！」 「何の説明にもなっとりません！」 ところがそれを見たたえちゃんは、突然奇妙な反応を示し始めたのです。 「…ヴァ…ム…ヴェ」 「た、たえちゃん…？」 放心して白目を剥き、動いとらんはずなのにドクン…ドクン…と鼓動が聞こえてきます。 「…ムー…ン…リ…ヴァ…」 あるまじきレア発音が飛び出したと思った矢先、たえちゃんは急にバッタリとその場に倒れ込んでしまいました。 「たえちゃーん！？しっかりして！」 「うーむ、よく分からんが異界から何かが引き出されかけたようだな。さすがは伝説ということか」 「本当に何の伝説なんですか…」

13 19/08/20(火)01:04:18 No.616157060

一通り聴収を終えた幸太郎さんは満足気な様子でした。 「なかなか興味深い話が聞けた。では予定通りホラーハウスイベントの準備を進めるように。何、全員が自然体でいれば楽勝だ」 今までの話を聞いて一体何の参考になるとでしょうか…相変わらずこの人の考えることはよく分からんです。 幸太郎さんが出て行った後、私達は顔を見合わせて大きな溜息を吐いたとでした。 ### ところであの変なゲームのことですが…他の皆はすぐに飽きてしまったとですけど、 私だけはその後もこっそりとプレイを続けています。 多少はやり込めるゲームだったようで、何度もプレイするうちに軽トラックの台数が増えたり、 隠し必殺技を使うとアイドル衣装に着替えて不思議アイドルパワーで攻撃できたりと、地味な変化を見せてくれます。 あと複数回クリアすると背景の幸太郎さんが突然脱ぎ出して上半身を露わにしたり…この要素、いると…？ ゲーム内で軽トラックを素手で破壊する度に私は得も言われぬ感覚に打ち震えるとですが、 それは決して…決してやましいものではないはず…と自分に言い聞かせているとです。

14 19/08/20(火)01:05:45 [sage] No.616157298

ゾンビランドのゲームって難しそうねと思いながらリベンジさせてみました あと意外とゾンビィ＋たまごっちってアリかもと思ってこんなのも作ってみました su3257398.gif

15 19/08/20(火)01:12:30 No.616158429

なんか凄いおまけが付いてる！

16 19/08/20(火)01:18:04 No.616159346

眠くて船漕いでるから本文は明日読ませてもらうとしてドット絵のクオリティ高かね… 5年ぐらい前のたまごっち公式がフットワーク軽かった時期なら本当にコラボしてたかもしれない

17 19/08/20(火)01:20:35 No.616159744

>su3257398.gif ！？

18 19/08/20(火)01:23:39 No.616160246

多分軽トラに一番憎しみを抱いてるのは巽だな… その執念からこんな面白そうなゲームを作り出すとは…

19 19/08/20(火)01:25:00 No.616160444

>su3257398.gif ぞんびっちやーらしか！

20 19/08/20(火)01:25:50 No.616160587

さがごっち…

21 19/08/20(火)01:27:09 No.616160795

拾い物じゃなくて自作ドットか 凄いな

22 19/08/20(火)01:27:44 No.616160887

大きなシノギの匂いがするでありんすなぁ…

23 19/08/20(火)01:28:27 No.616160975

>あと複数回クリアすると背景の幸太郎さんが突然脱ぎ出して上半身を露わにしたり…この要素、いると…？ サービスシーンも必要じゃろがい！

24 19/08/20(火)01:29:25 No.616161120

12.6話きたな…

25 19/08/20(火)01:30:33 No.616161284

さくらがやべー方向に向かってる…

26 19/08/20(火)01:32:10 No.616161529

多才すぎる…

27 19/08/20(火)01:34:09 No.616161841

凄い…

28 19/08/20(火)01:36:37 No.616162230

>su3257398.gif やーらしか過ぎて即保存した

29 19/08/20(火)01:37:19 No.616162337

持っとる男だしゲーム制作くらいいけるだろうの精神

30 19/08/20(火)01:39:03 No.616162592

スレ「」は巽並みに何でも出来るな…

31 19/08/20(火)01:45:11 No.616163422

クリエイター過ぎる…

32 19/08/20(火)01:50:07 No.616164084

さくらは確実にゲームやり込むタイプだな

33 19/08/20(火)01:52:09 No.616164353

どっちのゲームも欲しい…

34 19/08/20(火)01:55:45 No.616164804

>…浪曲とかじゃないよね？ それはそれで聴いてみたい

35 19/08/20(火)01:57:09 No.616164971

ゾンビは…たまごっち！

36 19/08/20(火)02:01:41 No.616165469

愛ちゃんたまごっちになってもお肉食べとる…

37 19/08/20(火)02:06:05 No.616165999

凄かー！

38 19/08/20(火)02:09:35 No.616166360

>su3257398.gif 姐さんが髪飾りの団子っぽくなってたりリリィが星になってたり細かくていいね

39 19/08/20(火)02:12:57 No.616166738

ナイスよかったい！

40 19/08/20(火)02:16:31 No.616167101

今後さくらがトラックに轢かれないようにゲームで鍛えるんじゃい！