虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    19/08/15(木)23:23:26 No.614983660

    ピンボール・ゲームが好きだった。 両脇のフリッパーで銀の球を弾き、得点の的に正確に狙い当てる瞬間が好きだった。 傾斜に従いゆっくりと落ちてくる球を、ベストな位置、ベストなタイミングではじき返す。 フリッパーを上げっぱなしにして一度球を落ち着かせる者もいるが、そのやり方は好きじゃない。 自由落下で落ちてくるボールをはじき返し、狙い打つ。成功した時の気持ちよさは考えられないほどで、 だから彼女は派手なビデオゲームには目もくれず、ずっとピンボールばかり遊んでいた。 時は流れ、高校戦車道全国大会第一回戦。 ナオミがExtend(一機増え)のホールに飛び込む感触で放った一射は、正しくⅣ号戦車を撃ち抜いた。 だが、勝利者を告げるアナウンスは彼女の高校の名を呼ばない。 砲塔から白煙をたなびかせる四号戦車は、既にHiscore(最高得点)を叩きだしていた。

    1 19/08/15(木)23:23:53 No.614983801

    車長席に座る女子生徒のたわわな胸枕に、どっと倒れ込む。 ナオミは隊長の集合指示を遠くに聞きながら、ふにゃりと顔を歪めて笑う。 隊長の集合指示を遠くに聞きながら、彼女はちょっとした予感を感じゆっくりと身を起こした。 「アンタが四号の砲手?」 試合後、勝利の歓喜に沸く大洗女子の面々。 ナオミはその中に立ち入ると、黒髪のいかにも大和撫子然とした少女に声をかけた。 少女、五十鈴華はきょとんとした風に振り向く。 見知らぬ顔に声をかけられた驚きと、少しの警戒を含んだ怪訝な顔。 ナオミはばつが悪そうに頭の後ろを掻くと、慣れない様子で言葉を続けた。

    2 19/08/15(木)23:24:09 No.614983890

    「あー……アタシ、あれ。ファイアフライのさ……」 「まあ! あの長砲身の?」 品のいい喋り方に面食らいつつ、ぎこちない笑みを浮かべて手を差し出す。 華はその手をむしろ人好きのする笑顔で取り、親愛の意をこめてぎゅっと握る。 「貴方の砲撃、とてもドキドキしました。大胆に見えて針の穴を通すように繊細。  まるで花器に調和する芍薬の花のようです」 「あはは……サンキュー」 聞き慣れない褒め言葉に少し戸惑う。 芍薬は嫌いではないが、ナオミはどちらかというと忽忘草のような小さな花の方が好みではあった。 こほん、と咳払いをしナオミは仕切り直す。花の話をしにきたわけではない。 「アンタみたいな砲手がいるなんて知らなかったよ。いつから戦車やってるの?」

    3 19/08/15(木)23:24:32 No.614984009

    軽い気持ちから出た質問だった。 戦車道の世界は、そこまで広くない。 丘陵からフラッグ車を打ち抜くほどの見事な腕前であれば、少なからず耳には入ってくるはず。 だが華がほんわかした笑顔で返した答えは、ナオミの予想を大きく外れていた。 「実は、今年からなんです」 「え?」 「私達の学校、今年戦車道が復活したばかりで……」 少しだけ、言葉を失う。 あのうすら寒くなるほど精密な砲撃技術が、たかだか数ヶ月。 嫉妬の混じった驚きの感情がわき上がるものの、だが、考えてみれば自分も――。 ナオミは不思議と可笑しくなり、くすくすと忍び笑いを漏らした。 怪訝な眼差しが、ナオミに向けられる。

    4 19/08/15(木)23:25:38 No.614984349

    「あのう……何か?」 「いや、ごめん。なんでもないんだ。……ひょっとして、戦車の前に何かやってたりする?」 「はい。わたくしは華道……生け花を少々。ええと、貴方は……」 名前を呼びかねる華に、ナオミは自身の名を短く答える。 「ナオミさんは、ずっと戦車道を?」 「いや、私もアンタと同じだよ。高校でケイに誘われるまでは、街中でダラダラ遊んでた」 思い起こされる昔の記憶。サンダース学園艦の隅の方に建つ、古めかしいゲームセンター。 その更に端にちょこんと置かれたピンボール台が、中学生時代のナオミの居場所だった。 二つのフリッパーを上下させ、激しく跳ねまわるボールを最良の位置に叩きこむ。 集中力と根気のいるこのゲームは何故だかナオミの感性にかっちりと合致し、 一時期はスコアランキングの常連となるほどやりこんでいた。

    5 19/08/15(木)23:26:05 No.614984473

    そういえば、とナオミは思い返す。 ケイに誘われ、高校からは戦車に乗るようになった。まだ自分がニュービーの四軍だったころの、初めてのチーム内練習試合。 促されるままに砲手席に座り、構え、引き金を引き、相手のシャーマンの急所を貫いた、初撃破の瞬間。 あの時の衝撃は、ハイスコアを叩きだした瞬間によく似ていたな、と。 「……選ばれるべくして、選ばれる、か」 「はい?」 何気なしに呟いた独り言を拾われ、ナオミは苦笑しながら続ける。 「砲手って、あんまり人気のないポジションなんだ」 「そうなんですか?」 「高い集中力が必要だし、なにより勝敗に直接繋がることが多いから。  責任が重いって、続けられないやつが多いんだよ」 「……そうでしょうか。戦車砲を撃つ一瞬は、何物にも代えがたいほどに昂揚すると思うのですが」

    6 19/08/15(木)23:26:32 No.614984605

    首をかしげる華に、ナオミはこくりと頷きをひとつ。 「たまにいるんだよ。狙いすましてぶっ放つ一瞬が、どうしようもなくクセになっちまうやつがさ」 「まあ……分かります!   花器に最後の一輪を生ける時のような、じんじんした感覚……わたくし、それが大好きで!」 華は興奮したように両手をぽんと打つ。ナオミも、華と同じものを感じていた。 彼女は生け花、自分はピンボール。会心の一打でハイスコア一位を塗り替えた瞬間のような高揚感。 その快感は何にもまして忘れ難く、 だから副隊長となった今でさえ、ナオミは砲手の席を離れられずにいる。 選ばれるべくして選ばれたがゆえの呪縛であった。 「ここのところ、そういう砲手が新しく見つからなくってさ。ちょっと退屈してたんだけど……」

    7 19/08/15(木)23:26:51 No.614984685

    ふっと笑って、ナオミは足を一歩前に進める。 華が戸惑うよりも早く両腕を広げ、新たに見つけた仲間を迎え入れるように抱擁した。 「アンタのおかげで、また楽しくなりそうだ。  次は、私があんたのスコアを塗り替えさせてもらうよ」 胸のすくような砲撃を見せてくれたことへの感謝と、これからへの期待を込めて。 新たなライバルが現れたことを強く感じながら、華の背をとん、とんと二度叩く。 華はナオミの抱擁を受け入れつつ、しかし意志の宿った眼差しでナオミを見返した。 「いいえ。次もわたくし達が、大輪の花を咲かせてみせます」

    8 19/08/15(木)23:27:07 No.614984769

    それは成功経験とライバルを得て芽生え始めた、小さなプライド。 ナオミはその強い言葉に少しだけ驚いた風に目を丸くしたが、 すぐに喜びの混じった顔をすると、華の前に拳を突きつけた。 「期待してる」 慣れておらず戸惑うように差し出された華の拳に、ナオミは拳を重ねる。 今日は、久しぶりにあのゲーセンにでも行くか。 店の端に置かれた馴染みのピンボール台を思い出しながら、 ナオミの心に、静かに燃える青い炎が再びゆらめき始めていた。

    9 19/08/15(木)23:27:51 No.614984967

    以上!学園を超えた砲手組とか操縦手組の話が見たい!

    10 19/08/15(木)23:31:01 No.614985932

    うむ!

    11 19/08/15(木)23:36:53 No.614987596

    いい…

    12 19/08/15(木)23:37:18 No.614987741

    きたのか!?

    13 19/08/15(木)23:43:24 No.614989690

    ノンナとナオミどっちが優れた砲手なのかは高校戦車道随一のテーマ

    14 19/08/15(木)23:51:20 No.614992258

    華さんをハグするところがサンダース生っぽくていいよね

    15 19/08/16(金)00:02:05 No.614995676

    >ノンナとナオミどっちが優れた砲手なのかは高校戦車道随一のテーマ そこに華さんも加えると…そこはかとなく立ち込めるタチの香り

    16 19/08/16(金)00:06:02 No.614996846

    >ノンナとナオミどっちが優れた砲手なのかは高校戦車道随一のテーマ 華さんが突如現れて話題は更に混迷を極めるのか

    17 19/08/16(金)00:06:59 No.614997126

    三人で一晩中砲手談議に花を咲かせてほしい

    18 19/08/16(金)00:16:50 No.614999905

    いいものが読めた…

    19 19/08/16(金)00:19:38 No.615000629

    ナオミのアクティブさに華さんはすごく惹かれるよね…