19/08/12(月)00:34:11 俺とア... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1565537651266.jpg 19/08/12(月)00:34:11 No.613887196
俺とアナスタシアは、アルトリアが切り開いてくれた道を走り続ける。獣の姿は殆ど消えたが、また新たに出てきているものもある。それらは凍らせ、剣で弾き、前に進むために必要な最低限の対処だけを行う。 「ヒィィィィィィハァァァァァッッッ!!!」 近くから雄叫びが聞こえる。ちら、と視線を向けると其処には鎧武者の姿が。長大な十字槍を手足のように振るい、獣たちの首らしき部位をはね続けていた。 空から羽撃きの音が聞こえる。そちらにも視線を向けると雄々しく空を飛ぶ邪竜の姿が。吐き出される灼熱の吐息に焼かれた獣たちは、影だけを残してこの世から消え去る。 サーヴァントたちが皆、力を貸してくれている。 空から降り注ぐ戦乙女たちの槍が、馬を駆る軍神の刀槍が、渇愛のアルターエゴの一挙手一投足が、砲撃手の放つ地にかかる虹が、邪竜を滅ぼす黄昏が――。この特異点に現界していたサーヴァントたちの宝具が、獣が湧き出した端からすべて殺し尽くしていく。一切の遠慮も出し惜しみもない総力戦。その熱量の中を、俺とアナスタシアはただただ走り続けた。
1 19/08/12(月)00:34:49 No.613887357
しかし、俺たちの前に、何十、何百という獣が現れる。それらは輪郭を失いドロドロに形が崩れ、融けあい、そして小さなビル程はあろうかというくらいの巨大な人に近しい姿へ変成する。恐らく、数ばかり多くても無意味だと考えたのだろう。これでは先に進めない。仕方なく、俺もアナスタシアも足を止め、応戦の構えを取る。 「いえ、いいえ。貴方たちは前に進んでください。ここは、私に任せてください」 そんな透き通るような声が聞こえると同時に、巨大な獣は後ろに大きく弾かれる。そして声の主が俺たちの前に舞い降りる。それは、記憶を失ったメルトリリスだった。 「ここは私のステージ。私の晴れ舞台です。どうか立香さん達は前に進んでください」 メルトが力強く言ってくる。しかし、少し躊躇ってしまった。だって、このメルトとは、恐らくこれで――――。 ふ、と影がさす。巨大な獣が拳を振りかぶっている。瞬間、メルトは飛び、一直線にその拳へと向かっていく。放たれた剛拳は、しかし羽根のように舞うメルトを捉えることはできず、逆に返す刀で踵の魔剣に弾かれた。
2 19/08/12(月)00:35:10 No.613887450
「――早く!」 悲痛さを孕んだ、メルトらしからぬ大きな声が俺を一喝する。そうだ。俺は前に進むと決めた。決めてしまったんだ。だから、行かなくちゃ。 悔しさと悲しみを振り切り、俺は駆け出す。ありがとう、さようなら、メルトリリス。きっと、君のことは忘れない。 最後に一度だけ、その姿を振り返る。白鳥は命を燃やすように羽撃き、その姿は天に輝くアルビレオよりもデネブよりも、尊い輝きを放っていた。 「行きましたか……」 私は立香さんとアナスタシアさんの背中を見送り、改めて目の前の怪物と向き合う。 本当はもっと一緒に居たかった。ずっとずっと隣に立っていたかった。でも、それはできない。 立香さんには明日があり、私はこの特異点の崩壊と共に消えゆく身。目の前には避けられない別れが待っている。それならせめて、立香さんには前を向いて進んで欲しかった。 彼の未練として記憶に残りたくない。優雅で、美しく、誇り高いプリマ。メルトリリスというサーヴァントは、そんな人物だったという記憶と共に前に進んで欲しかった。
3 19/08/12(月)00:35:27 No.613887521
「さあ踊りましょう、名もなき獣。怪物は怪物らしく、目の前のことだけに命を燃やしましょう」 宣言と同時に強襲を仕掛ける。大きさに伴う鈍重な動きを、俊敏さで翻弄する。踏み下ろされた前脚を難なく躱し、軸となっている前脚を蹴りつける。しかし大してダメージはないようだった。それならば、と私はその太い脚を駆け登る。踵の魔剣で突き刺し、引き裂き、振り払おうともがくその脚を切り刻みながら、上へ上へ。ある程度駆け登った所で、私は大きく跳躍し、獣の横っ面に全力の蹴撃を放つ。 狙い過たず叩き込まれた一撃は、獣の頭を削り取った。しかし、頭部を欠損させながらも獣は反撃してくる。私は慌てず落ち着いて、振るわれた脚を蹴りつけ、身を躱し、事なきを得る。 着地する迄の間、敵を観察していると、全身が流動し大きく抉れた傷を埋めていく。不定形の塊だから、あのような芸当が可能なのだろう。しかし、全体の体積は少し減っているように見える。無限に再生する訳では無いらしい。
4 19/08/12(月)00:35:48 No.613887613
そうと決まれば、攻撃あるのみだ。再度吶喊する。獣の身体が沸き立ち、触手のようなものを形成する。波状的に迫り来る攻撃を、いなし、払い、躱し、切り落とす。身を捻り、ステップを踏み、跳び、まさに踊るかのように。再び獣に最接近する。今まで以上の速度で叩きつけられる拳。ひらりと躱したそれは地面にぶつかり、その拳を弾けさせた。反撃のチャンス。私は脳天に踵落としを叩き込むため跳躍しようとし、――不意に、脚を掴まれる。 足元を見ると、獣が私の脚を取り込むように固めている。一体いつの間に、と思った所で気づいた。今の拳は、過剰なパワーの反動で砕けたのではない。ただ分裂させただけだ。元は群体。一つになれるのなら、その逆ができても不思議ではない。 私はすぐに拘束から脱出する。しかし、三手。不意に動きを止められ、足元を確認し、拘束から脱出。戦闘の最中で、致命的すぎる隙が生じた。振りかぶられたもう一つの拳が、今正に振り抜かれ――――。 その時。戦場には場違いなほど美しい竪琴の音色が聞こえてきた。それと同時に、振りかぶられた拳が切り刻まれる。
5 19/08/12(月)00:36:07 No.613887688
「おお、私は悲しい。マスターの窮地を見かけ、格好良く助けるタイミングを伺っていれば、別のサーヴァントがマスターを助け、最早私の活躍は見てくれない……」 現れたのは、眼を閉じた長髪の騎士。携えた弓のようなものの弦を爪弾くと、それだけで敵が千々に引き裂かれていく。 「何よりも、貴女の美しいワルツの伴奏が戦場に響く剣戟と爆音だけというのが悲しい。せめて私に、相応しい伴奏をさせて頂きたい」 「そう?じゃあ、お願いしてもいいですか、頼りになる騎士様」 「ええ、喜んで。少女の願いに応えることも、騎士の本懐ですので」 再び、舞台が再開される。爆炎と閃光が埋め尽くす戦場において、唯一ここだけは、場違いなほど美しい芸術を織り成していた。 メルトに助けられた俺たちは、その後も、様々なサーヴァントの助力を得て進み続けた。ちゅんちゅん亭の主人と女将。新撰組や、ノッブと本物がフュージョンして現れた魔王信長。インドマートスタッフの面々。みんなのお陰で、大した消耗もなく目的地である山の向こう側へとたどり着いた。
6 19/08/12(月)00:36:45 No.613887860
眼下に広がるのは、クレーターのように抉れた地面と、その中央に鎮座する闇色の球体。それから獣が溢れ続けていることからも、その球体こそが、特異点の核だと理解できた。 恐らく、これが最後の障害。これを乗り越えて、聖杯を手に入れれば、この特異点は消える。しかし、相手も最終防衛線だからこそ、その層は分厚い。今まで見てきたどこよりも、獣の数が多い。 だが、それがなんだ。前に進むと決めたんだ。これくらいの壁なんて、乗り越えてやる。 空から嘶き声が聞こえた。見上げると、巨大な蛟が空を飛んでいる。その背中から二つの影が飛び降りて、俺たちの目の前に着地する。 誰か、なんて疑問にも思わない。俺は二人に声を掛けた。 「待ってたよ。マシュ、リリィ」 そう、特異点Fからずっと一緒に旅をしてきた仲間。仲間たちの中でも、最も安心して背中を任せられる存在。 「はい、マシュ・キリエライト。遅くなりましたが、特異点攻略のため現着しました」 「セイバーリリィ。貴方の剣として、あらゆる障害を切り開きましょう」
7 19/08/12(月)00:37:04 No.613887931
「行きましょう、リツカ。私たちなら、この最強のパーティなら、越えられない障害なんてないもの」 「ああ、その通りだ。俺たちはいつもこの四人で戦ってきた。人理焼却も、汎人類史漂白も。そしていつだって勝ってきたんだ。今回も、絶対勝てるさ」 四人で視線を交わし、頷きあう。さあ、戦おう。明日を勝ち取るために。 獣が此方に飛びかかってくる。マシュを中心に、迎撃を行う。俺も、みんなが取りこぼして自分に襲いかかってくる獣の攻撃から身を守りつつ、パスに意識を集中する。 「令呪をもってロマノフの皇女に奉る。アナスタシア、道を作ってくれ!」 「ええ、分かったわ」 惜しまずに令呪を一画切る。俺の考えを理解したアナスタシアは、その宝具を起動する。 「魔眼起動。ヴィイ、全てを見抜き、射抜き、そして疾走せよ!『疾走・精霊眼球』!」 アナスタシアの宝具、『疾走・精霊眼球』。広範囲で相手を凍りつかせる事ができる。令呪の後押しを受けて放たれたそれは、ここからクレーターの中心までを全て凍らせる。凍てついた獣たちは粉々に砕け散り、一掃される。すぐにまた湧き出してくるが、本命はそこではない。
8 19/08/12(月)00:37:30 No.613888044
『疾走・精霊眼球』の本質は全てを見通すこと。その全力解放は、因果律すらも捻じ曲げて――、 「リツカ!あの球体の弱点が見えたわ!」 そう言ってアナスタシアが指差す。目を凝らすと、球体の表面がひび割れているのが分かる。 そう、アナスタシアの宝具は相手に弱点を創出する。例え完全無欠だろうと、狙うべき箇所が生まれることになる。 それに、狙ったのはそれだけじゃない。全てを凍りつかせたことで、斜面すらも氷に覆われた。それも、狙いのひとつ。 「マシュ!」 「はい!オルテナウス拡張装備、オレルス・ボード、展開完了!いつでも行けます、先輩!」 そう、ジェットスキーによる機動力の確保。北欧以来、俺たちに加わった急襲戦術。その為の道作りが、先ほどの宝具の二つ目の狙いだった。 俺はアナスタシアを抱き寄せて、魔術で形成された氷のボードの上に立ち、オルテナウスから射出された牽引用ワイヤーを掴む。リリィはマシュの鎧に掴まる。 「ゴー!」 「はい!オレルス・ボード、全力稼働開始します!」 マシュの声と同時に体全体にGがかかる。アナスタシアがあらかじめ掛けてくれた強化がなければ、即座に失神していただろう急加速。
9 19/08/12(月)00:37:57 No.613888151
一気に球体との距離が縮まる。しかしそれを看過する相手でもない。獣が一斉に飛びかかってくる。 相対速度はかなりの物。このまま衝突すれば、マシュたちはともかく後ろの俺たちは投げ出されるだろう。あくまで、このままであればの話だが。 「令呪をもって我が盾に託す。このまま突っ切れ、マシュ!」 これは、アキレウスに教わった戦術。速度と防御力を両立しているからこそできる戦い方。 「例え力が足りなくても、先輩たちを守りたいという思いは変わりません――!『いまは脆き夢想の城』――!」 防御力と質量による吶喊攻撃。獣たちとの接触は、こちらの一方的な蹂躙となった。そして、獣たちを貫き、巻き込み、球体に接近する。 「やあぁぁぁぁぁあ!」 ここに来て更に加速する。運動エネルギーを存分に乗せた盾の一撃が、ひび割れに叩き込まれる。更に亀裂が広がる。しかし、完全には砕けない。ならば、最後の一押しだ。 「セイバーーーーーーッ!!!」 「はいッ!」 返事とともに、リリィが飛び出す。黄金の剣には十分に魔力が蓄えられていた。
10 19/08/12(月)00:38:22 No.613888256
「令呪をもって我が剣に願う!闇を斬り払え!」 そこに、駄目押しの令呪。更に膨れ上がった魔力が、ひび割れた闇に叩きつけられる。 「『勝利すべき――黄金の剣』!」 その真名解放は、正に闇を照らす光を放ち、その外殻を完全に砕いた。 あとはもう、決着を着けるだけ。それは、この特異点を生み出した俺がやらなくちゃいけないこと。 「アナスタシア、マシュ、リリィ!後は任せた!」 俺は双剣を手に闇色の球体へと飛び込んだ。そして、振り返ってもう一言。 「また明日!」 そう、俺たちがまた進み始めることを願って。 闇の中を歩いていく。上下も左右も前後も変わらない、感覚が狂いそうな空間だったが、進むべき道は何となく理解できる。それは、これが俺の生み出したものだからか。 具体的な時間は分からないが、暫く歩くと急に全てが白に染まる。その中に、ポツリと一人、『俺』が立っていた。 『やっぱり来たか』 「ああ、来た」 『俺』は、俺がここに来ることを分かっていたようだ。それはそうだ。自分のことなのだから。
11 19/08/12(月)00:38:48 No.613888366
俺たちは、問答を始める。これこそ、まさに自問自答だろう。 『……。なあ、本当に良いのか?前に進むってことは、また誰かを殺すってことなんだ。分かってるだろ?』 「分かってる、でも止まらない。俺は明日に行く」 『それはどうして?他にやれる人間が居ないから?それとも生きるためか?もしくは……奪った命へのせめてもの償いか?』 「全部だ。全部抱えて、俺は前に進む」 『その結果傷ついて、心が折れそうになってもか?』 「傷つこうが、折れかけようが、旅を続ける」 それらは全て、もう考え終わったことだった。もう、十分休んだ。夏休みは、これで終いだ。 『そうか。じゃあ、殺してでも引き留める』 『俺』は、その腕をドロドロに溶けさせ、剣のように成形し直す。とても、鋭利な刃だった。 俺は、黒と白の双剣を、だらりと構える。力を込めず、脱力した構え。 お互いに見つめ合う。時間が流れ、どれくらい経っただろう。合図もなく、お互い動き始める。『俺』は、その刃を俺に突き刺すように。俺も前に出る。両手に力は込めないまま。
12 19/08/12(月)00:39:40 No.613888572
二人の距離が縮まり、ゼロになり。そして、二人の足元に血溜まりができる。 血を流しているのは――俺の方。腹部を貫かれ、止め処なく血が溢れ出ている。それはそうだろう。だって俺は、双剣を放り捨てていたのだから。 『何で――どうして!?』 『俺』も予想外だったのか、声を荒げている。どうしてかだって?そんなのは決まっている。 「全部、抱えて行くから」 そう。ただそれだけ。俺は、責務も、希望も、罪も、そして弱さも抱えて前に進む。だから、自分の弱い心を受け入れただけ。 「アナスタシアが、言ってくれた。俺は、人間、だって。英霊でも、機械でもないって」 腹部の激痛に耐えながら、どうにか言葉を紡いでいく。 「だから、弱い心を、棄てて。痛みを感じないなんて、それは、人間、じゃない」 そう。俺は人間なんだ。だから、心を棄てるなんてできない。してはいけない。罪を感じないなんて、痛みを感じないなんて、それはもう死んでいる。 『全部抱えるって……!抱えきれるわけないだろう!あれも、これもだなんて。どれだけ欲張れば気がすむんだ!?』 「だって、人間だから」 『――――――――』
13 19/08/12(月)00:39:56 No.613888636
『俺』から、体の力が抜ける。もう、俺を殺そうとはしない。そうだろう、俺は『俺』を受け入れた。 「きっと、また傷つく。投げ出したく、なると思う。でも、アナスタシアが、みんなが、居るから。その時は少し休んで、みんなの肩を借りて、また歩き出す」 『――――そうか』 『俺』は納得したのか、一度だけ、でも確かに頷く。そしてその体は光の粒子になって、俺の体に溶けていく。 残されたのは、ひとつの聖杯。純粋な魔力を放つ、歪みのないそれだった。 回収しなくては。血を流しすぎたせいでふらつく体に鞭を打ち、宙に浮かぶそれを、ぼやける視界で捉え、震える手で取り回収する。安堵からか、そこで俺の全身の力が抜けて。 意識が落ちる前に視界に捉えたのは、聖杯から光が溢れるところだった。
14 19/08/12(月)00:42:33 No.613889268
長くなりすぎました 許して
15 19/08/12(月)00:50:12 No.613891003
よくやった
16 19/08/12(月)00:52:15 No.613891445
戦闘描写とかしたことなかったからめっちゃ不安なんだけど
17 19/08/12(月)01:00:32 No.613893640
8月32日が終わる・・・・・・
18 19/08/12(月)01:02:17 No.613894054
まあラスベガス始まっちゃうしね…
19 19/08/12(月)01:08:19 No.613895410
新イベの前に完結させたかったのと筆が乗ったので書き進めました 多分次回が最終回かな?