19/07/26(金)01:27:57 太陽が... のスレッド詳細
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19/07/26(金)01:27:57 No.609570372
太陽が山の向こうへと飲まれていき次第に月がゆっくりとその姿を現していた。 さらさらと小涼しい音を立てて流れていく川の広い土手には道を挟むようにして出店が並びその間を大勢の人間が流れるように行き交っている。 そんな人の波の中に揉みくちゃにされながら一組の少年少女が歩いていた。 少年のほうは黒髪に青空を絞ったような目をしており、少女の方は少年とは正反対に沈みかけの夕陽のように髪と目が赤く、背も幼女と見間違えんほどである。 少年はこの賑わいを楽しんでいるようであるが、少女はどうにも不満げな顔を浮かべながら少年が来ている着物の帯を掴んで後ろをちょこちょこと歩いている。 それが少女には不満であった。余りにも子ども扱いなのだ。 少女は見かけは幼女であるが閻魔亭という旅館の立派な女将であり、誰からも頼りにされる存在なのだ。 と、いうのに前を歩く少年からは先導され、かき氷を買われ、せっかく新調した彼岸花模様の浴衣を見て「綺麗」よりも幼き子を褒めるような口調で「かわいい」と口に出した。
1 19/07/26(金)01:28:20 No.609570434
「もう少しでつくからね」 と少年は相も変わらず気遣うような口調で少女に言った。 「……そうでちね」 と少女は相も変わらず機嫌の悪そうな口調で少年に返す。 それを聞いた少年は苦笑いをしながら小さな女将の手を引っ張って歩いていくとやっと人の洪水を抜けて人々が座りながら川の先を見つめる見晴らしの良い坂についた。 「ここからならよく見えるね」 「……そうでちね」 それでも機嫌を直さない赤髪の少女に少年は頭をかきながらすっかり暗くなった空を見上げた。 そうして観念したのか、彼女の手を少しだけ強めに握ると 「綺麗だよ」 と呟くように言った。 喧噪の中二人の間に静寂が訪れた。
2 19/07/26(金)01:28:33 No.609570476
「もうそろそろだね」 少年が頬の熱さを周りに熱気としてごまかす様に少女に言った。 「拭いてくだちゃい」 が、その言葉に帰ってきたのは女将が自らの頬に付いたかき氷のシロップを少年に向けながら言ったそんなぶっきらぼうな言葉であった。 宿屋を預かる女将からすればはしたない姿だったがこれも自分にだけに見せる姿のであろうと少年はかがむとハンカチを当てようとと少女の頬に顔を近づける。 その時だった、不意打ち気味に少女のかかとが持ち上がると同時に空に打ち上げられた花火が勢いよく夜空に広がった。 「玉屋ーーー!」「鍵屋ーーー!」 周りの歓声とともに空に咲いた花の光が少年と少女とが重なった影を作る。 その場の全てが空を見上げる中、少女と少年だけがお互いの目を見つめあっていた。 その空を横切るように雀たちが喜びの声を上げる。 めでたい、めでたい。地獄にも花は咲く。
3 19/07/26(金)01:42:31 No.609572859
外見だけ見ると事案なのは仕方ないか…