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19/06/17(月)21:19:19  ミミ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1560773959468.jpg 19/06/17(月)21:19:19 No.599839783

 ミミはトトリから渡された一組のピアスを、窓から差す光に当てた。シンプルな金のスタッドピアスにあしらえられた小さな宝石は、水晶よりも無色に澄み、陽を受けて透明な輝きを放っている。あまりピアスに馴染みの無いミミから見ても、それは美しく感じられた。 「へえ、綺麗じゃない」 「でしょ?我ながらうまくできたと思うよ。結構大変だったんだ」 「誰に渡すのかしら。ギルドの依頼?」 「あ、違うよ。これ、わたしが付けるの。」  ミミが差し出したピアスを受け取らず、トトリはその手の上に針を一本置いた。 「発注にミスがあってね、一組余っちゃったんだ。せっかくいい出来だから、一度試してみようかな、って」 「ふうん…あんたがピアスねえ。それで、この針は?」 「わたし、ピアスなんて開けたことないから、ちょっと不安で。どうせならミミちゃんに開けてもらいたいんだ」 「は?」

1 19/06/17(月)21:19:40 No.599839889

 トトリはただただ自分の中の決定事項を告げ、それをミミが理解するまで数秒の間があった。 「そんなの、私だってやったことないわ。イヤよ。自分でやればいいじゃない」 「んー、そうなんだけどね」  なんでもないことのように語るトトリに対して、ミミにはいくらか抵抗があった。針1本だけであっても、トトリの体に自分が穴を開けるのは気が引けた。 「それでも、わたしはミミちゃんにやって欲しいな。わたし、ミミちゃん以上に信頼できる人なんていないから」 「うっ……」 「あーあ、不安だなあ。ミミちゃんなら助けてくれるって思ってたのになあ」  演技っぽく悲しむような表情をしながら、トトリは相棒の弱い言葉を並べていく。  自分がトトリに甘いことを自覚しながら、それを正すことができないでいる。ミミは勝手なトトリと、それを許す自分にうんざりしていた。

2 19/06/17(月)21:19:57 No.599839978

 僅かな反抗の意味を込めて、トトリの頭に手を乗せる。 「あんた、何を頼んでも私なら受け入れると思ってない?」 「んふふ、そうかも」  ふわふわと笑うトトリ。 「ミミちゃん優しいから、つい甘えちゃうんだ」  ミミはトトリの髪を撫で、梳くように指を流した。耳を長い指でなぞると、トトリはくすぐったそうに目を細める。そうして小さな耳をじっくりと眺め、美しいピアスが飾られるさまを想像した。 「分かったわよ。私がやるわ」

3 19/06/17(月)21:20:28 No.599840132

 トトリの右耳にかかる髪を払い、人差し指と親指で薄い耳朶をそっとつまむ。ふるふる柔らかい感触に、悦びよりも緊張がミミの身体を走る。本来ならば命を懸けても守らなければならないトトリに、自分の手で傷を刻む背徳と恐れに、指が震えそうになる。  ミミは一度深く呼吸すると、意識を切り替え、針先に神経を集中させて恐れを黙らせる。ミミの眼から淀みが消え、耳朶の一点を視線が刺す。  普段ミミがトトリを見る暖かな眼とはまるで違う。トトリは、初めて向けられる槍のような鋭く冷たい視線に痺れていた。脳の芯を痺れさせる快感に、普段からこの眼で貫かれている魔物への嫉妬さえ湧いた。  ミミの指が滑らかに動き、針先が耳朶に触れる。 「いくわよ」 「うん」  針が耳朶を刺し、貫くのは一瞬だった。トトリが期待していたよりもはるかに弱い痛みに浸る間もなく、痛みとほぼ同時に、針は速やかに抜かれていた。 「あれ、もう終わり?」 「い、痛くなかった?一気にやった方がいいと思ったんだけど」 「うん、拍子抜けしたくらい。そっか、もっと痛いと思ってたのになあ」

4 19/06/17(月)21:20:47 No.599840224

 不満そうな声を漏らしながら、トトリはミミに開けられた穴を撫でる。小さいが、確かに穴が確認できた。 「ほんとだ。開いてるね、えへへ」  ちっぽけな穴であったが、ミミに開けられたという事実に、トトリの落胆はあっさりと幸福で埋められた。  満足げなトトリに、ミミはほっと息を吐く。 「痛くないのならよかったわ。それで、左も開けるのよね」 「あ~…それなんだけどね。ミミちゃんも、その。開けてみない?左耳に」 「え?」  トトリはピアスを手に取り、ミミの左耳と、自分の右耳に当てる。 「わたしとミミちゃんで片方づつ、おそろいのピアスを付けるの。素敵じゃない?」  ミミはトトリのまっすぐな瞳の輝きに、少したじろいだ。おそろい、という言葉の響きを咀嚼して飲み込むことを羞恥心が妨げる。

5 19/06/17(月)21:20:57 No.599840265

「す、素敵じゃない、とは言わないけど、そんなの付けてたら、街中歩けないわよ。変な噂が立つに決まってるわ」 「変な噂?」 「だから、その…あんたと私が…」  ごにょごにょと口ごもるミミを、トトリはにこやかに眺めている。 「ミミちゃんに似合うと思ってたんだけど。嫌なら仕方ないよね。残念だけど諦めるよ」  トトリはそう言うと、鞄にピアスをしまい込んでしまった。 「え、ちょっと。あんたが付ければいいじゃない。穴まで開けたのに」 「うん、今度でいいや。ごめんね、ミミちゃん。せっかく付き合わせたのに」  ミミはトトリの態度から、彼女が今後、そのピアスを付けることはないであろう、その予感を感じた。おそろいのピアスを付けようと言ってくれたことも忘れていく、そんな予感。  トトリの右耳に開いた穴が、髪の間からちらと覗いた。先程感じた恐れと安堵が空っぽになり、代わりに後ろめたさだけが残った。 「ねえ。針、もう一本あるの?」  ほとんど無意識に放たれたミミの言葉にトトリはにっこりと笑い、大きく頷いた。

6 19/06/17(月)21:21:16 No.599840377

 トトリはミミの左耳を弄りながら、逆の指を針に添える。今から穴を開ける耳の感触を可能な限り記憶しているようだ。  ミミは居心地悪そうに組んだ指をもぞもぞと動かしていた。ミミが少し緊張していることを察し、自分の額を合わせた。ミミは恥ずかしがって嫌がるが、トトリは視界がミミだけになるこの距離が好きだった。トトリの錫色に捉えられた紫が揺れる。  ミミは痛みにではなく、トトリの手で体に跡を刻まれることへ微かに恐れを抱いている。日常の一線を越えた行為への恐れ。トトリはミミの瞳から、おおよその感情を理解する。そして、その解し方も知っていた。 「怖い?」 「…まさか」  トトリの問いへ、ミミの眼が強い意志をもって返す。  ミミはいつでも強くあろうとする。誇り高く、弱みを見せることをきらう。とくにトトリの前では、彼女を不安にさせるような、恐怖に怯える姿は見せようとはしなかった。  だからわたしは、ミミちゃんのことが好きなんだ。

7 19/06/17(月)21:21:35 No.599840473

 トトリは心に浮かび上がった感情を反芻すると、額を離し、針先を耳朶に当てる。慎重に押し込むと、肉を割いて進む感触が針越しに伝わる。二度目の皮膚の張る感触を破ると、冷静に針を引き抜いた。あまりにあっけない感覚に、耳朶を軽く引っ張り、穴を確認する。  できてる。わたしがやったんだ。  小さく開いた穴へ、完成された美に欠落を生んでしまったような背徳を感じ、トトリは背筋を震わせた。 「ちょっと、いつまで見てるの?」 「あ、ごめん」  トトリがぱっと手を離すと、ミミは、もう、と耳を隠し、ピアスを手に取って片方をトトリへ渡した。  二人はあらかじめ決めていたように、互いの耳へ手を伸ばし、ピアスを付けた。太めの軸をこじ入れてキャッチで留める。それだけのことだったが、もはや二人の間には儀式的な、神聖な意味すら生まれていた。 「2ヶ月は外さないでね、穴が塞がっちゃうから」 「にっ…なんで、いちいち後に言うのよ!やっぱり外すわ」 「ふぅん?いいよ、外しても。わたしはずっと付けとくけどね」 「……ヤな奴」  トトリはにんまりと笑い、ミミの肩を押して鏡の前へと連れて行った。

8 19/06/17(月)21:21:51 No.599840535

 鏡に映ったふたりの耳に飾られた宝石は透明でなく、トトリのものは濃紫に、ミミのピアスは深い海のような碧に染まっていた。 「色が変わってるわ」 「もう一方を付けた人の人格が反映されるんだって」 「これ、元々ペア用のピアスだったってこと?」 「うん」  一対のピアスを身につけて並ぶ二人は、まるで一個の生き物のようにさえ映った。トトリとミミが付けるために作られたと思えるくらいに、そのピアスは「しっくり」きた。 「やっぱり、似合ってるよ」 「まあ、そうね。あんたもいいんじゃない。その…綺麗よ」 「ほんと?嬉しいな」 トトリは鏡越しにミミの眼を見つめたまま、右肩に顎を乗せる。

9 19/06/17(月)21:22:03 No.599840599

「わたしね、こうやってピアスをお互いに開けられるなんて、特別だと思うんだ」  鏡を見たままミミの右耳に顔を寄せる。トトリの頬には僅かに朱が浮かんでいる。 「こんなふうにできる相手、きっとミミちゃんだけ。これからもね」  浮ついたトトリの台詞には軽い響きは無く、錨のようにミミの心を刺した。 「あんた、私がなんでも許してくれると思ってるなら、はっきり違うって言っておくわ」  じっと鏡を見るトトリよりも大げさに紅くなったミミは、それでも離れようとはしなかった。 「でも、あんたがそういうふうに思う相手は、私だけにしておきなさい。私以外の人があんたのわがままに付き合わされたら、気の毒だから」 トトリはミミの眼をじっと見てから、手を重ねた。 「分かってるよ。わたしはミミちゃんので、ミミちゃんはわたしの。そうだよね。これは、その印」  手をトトリのピアスへ導くと、耳をくしゃくしゃに撫でさせる。  伝わったた体温の違いが、どうしようもないくらい甘く、二人の胸を満たした。

10 19/06/17(月)21:22:14 No.599840647

おわり

11 19/06/17(月)21:23:52 No.599841155

最高かよ……

12 19/06/17(月)21:23:53 No.599841158

txtで塩に上げたら?

13 19/06/17(月)21:26:37 No.599842058

>txtで塩に上げたら? 長くなったし次からそうする

14 19/06/17(月)21:26:59 No.599842173

イチャイチャしやがって…

15 19/06/17(月)21:28:09 No.599842525

いい...

16 19/06/17(月)21:29:53 No.599843039

トトリちゃんのが拗れた性癖持ってそうって偏見から書きました

17 19/06/17(月)21:30:03 No.599843083

これはもうほぼ性交では?

18 19/06/17(月)21:33:41 No.599844241

左様

19 19/06/17(月)21:36:53 No.599845232

左様って… 女の子同士ですよ!?

20 19/06/17(月)21:37:54 No.599845559

いい…

21 19/06/17(月)21:42:34 No.599847101

なんやなんや名作やんけ

22 19/06/17(月)21:43:49 No.599847544

いいものを見た…

23 19/06/17(月)21:44:07 No.599847636

>二人の胸を満たした。 まで読んだ

24 19/06/17(月)21:47:04 No.599848626

>女の子同士ですよ!? なあに錬金術師にとっては些細な問題だ

25 19/06/17(月)21:47:43 No.599848835

お互いに初めての穴を開けあってお揃いの印を身につけるだなんてそんな…

26 19/06/17(月)21:49:34 No.599849405

次はクリピアス付けっこですね…

27 19/06/17(月)21:53:47 No.599850775

トトミミ本当に好き ありがとう

28 19/06/17(月)21:55:24 No.599851369

トトリちゃんがインモラルだ

29 19/06/17(月)22:04:05 No.599854192

いい…

30 19/06/17(月)22:07:48 No.599855345

つまらなすぎて胸を満たしたまでしか読めんかったわ でもなぜつまらないのかの研究したいから毎日立てていいよ

31 19/06/17(月)22:13:34 No.599857299

どろっとした宝石みたいな泥が滲み出てるの素敵…

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