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19/05/06(月)22:30:27 ガクッ... のスレッド詳細

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19/05/06(月)22:30:27 No.589408503

ガクッと、落ちた。いや落ちるような感覚で足を着ける。周りを見るとそこは事務所の机で、革張りの椅子に座っている。すべて見慣れた景色であり、見たことがないような錯覚、所謂ジャネビュに陥る。現実感がない。夢と現実の境目にいつも惑っている。目元を指でほぐした。最近、寝不足が続いている。考え事も多くなっている自覚はあった。カレンダーを見ると、――――2008年。 (私は、今も生きている) 手元を見ると、皺が刻まれて細くなった手がある。ツギハギなんてあるわけもない。目がかすむのは老眼か。気だるさは更年期か、それとも疲労か。 (社長さんはやることが多いですね) 事務所から独立したのは最近の話。慣れてきたとは自負しているが人員不足は否めない。人を入れることに問題はないけれど、あまり目の届かない場所は作りたくない。慎重すぎる、憶病な自分は変えていく必要があるとは思っていた。伝説の歌手ともてはやされて早数十年、紺野純子は今も変わらず、自他ともに認める頑固者だった。

1 19/05/06(月)22:30:48 No.589408641

(どうしても、すべて自分でやりたくなります。誰か信頼のおける人がもっといれば――) と再度黙考が始まろうとしたとき、控えめなノックが響いた。さっと鏡を見て身なりを整える。 「はい。――ああ、どうぞ」 「失礼します」 聞きなれた声とともに、礼儀正しい年嵩の男性が入ってきた。彼はマネージャーとして長らく務めてもらっていて。数少ない信頼できる人間の一人だった。独立した後もこうして秘書として助けてもらっている。 「何かありましたか」 「ええ、少し見てもらいたいものが。今お忙しかったでしょうか」 「いえ、大丈夫です。ちょっと考え事をしてました。昔のことです」 「昔の、ですか。もしかしてあの不思議な体験のことですか」 「ええ――――」 彼には、大まかながら伝えてある。私が見た夢、かつて経験した荒唐無稽な話。1983年、九州への地方巡業の時、墜落した飛行機に私が乗っていて乗客すべて亡くなった事故が起きたところから始まる。私は何故か未来の佐賀、とある洋館に蘇っていた。しかも、ゾンビでだ。

2 19/05/06(月)22:31:01 No.589408713

身体には血が通わず心臓も動かない、体温もない。そんな中途半端な存在だから身寄りもなくて、ネクロマンサーの言いなりに徘徊する日々。それでもそのネクロマンサーは、アイドルが佐賀を救うのだと本気で信じてゾンビを使って実行に移す変人だった。普通のアイドルのように仕事やレッスン、宣伝活動をこなして。その合間には普通の少女のように遊んで、話して、喧嘩して、泣いて、笑って。確かに、私にとってかけがえのない日々になっていった。素敵なお仕事、素敵な仲間、――そして素敵な人に、巡り合えた尊い時間。いつ終わるかもわからなかったその仮初の世界は、唐突に崩れ去る。気づいた時、私は九州の地に降り立っていた。五体満足で、隣には私のマネージャーさん。その時私は理解した、元の時間に戻ったことを。そしてそこにあった感情は生きている喜びよりも、空しさや悲しみの方が大きかった。彼らと過ごした思い出が、幻だったのかとそう思ったから。でも、私は確かに見た。空港から去るバスの中で、群衆から覗く長身のサングラスをかけた男性を。――思わず声を張り上げて、彼の名を叫んでいた。 (恥ずかしい醜態を晒してしまいました)

3 19/05/06(月)22:31:15 No.589408776

結局いくら探しても、彼を見つけられなかった。それどころかどこを探しても彼の名前は存在しなかった。それでも私はあの幻がただの夢ではなかったことを確信出来る。私たちが見た場所は真新しく残っていたり、いまだにできていない建造物もあり。時の流れがあの場所で見た歴史年表と変わっていなかった。つまるところ、ここは私が事故にあわなかった世界で。 (きっと、それは偶然じゃない) 不自然なことがある。事故が起こっていたと思われる時、私が乗った飛行機が別の便になっていた。マネージャーさんに聴いてみると本来乗るはずの飛行機に不備が見つかったらしい。困り果てた私たちは、ファンだと名乗る親切な方から頂いたチケットで九州まで来れたのだそうだ。私にはこの経緯、全く身に覚えがなかった。 (本当に親切で、罪なお方ですね) 誰に知られることもなく独り戦い続けている。私が気づいていることも承知の上で、会いに来てくださらない。言いたい言葉も返したい恩も、時とともに降り積もっている。 (私、きっともう長くありませんよ) もう会えないのかもしれないなんて、嫌だった。だから私はこうして動いている。

4 19/05/06(月)22:31:30 No.589408844

「彼女は順調にアイドルとしての道を歩んでいます。早晩、事務所のテコ入れで彼女、――水野愛のためのアイドルグループが創設されるという噂もあります」 「そうですか。全て予定通りですね」 「では彼女に接触いたしますか?」 「……いえ、経過を観察してもらうだけで結構です。それで何か進捗が?」 「はい、こちらとは別件ですが。この写真を見てください」 「あ――ふふっ、いえ、なるほど。彼女らしい」 「社長が探してらっしゃる女性らしき人物を目撃したとの情報でしたが、間違いなさそうですね」 「ええ、間違いありません。こちらは、――伝説の特攻隊長、二階堂サキさんです」 秘書に渡された写真には、元気にドライブイン鳥を切り盛りする元気な女性がいた。特徴的なメッシュにポニーテールと勝気な眼差し、老けてはいるけれどかつて夢で見たままの姿。フランシュシュのリーダーである彼女が、今でも無事生存していた。 (嗚呼、貴方は今もなお私たちを救い続けている) 死ぬはずだった私と同様、彼女も何がしかの手を使って生存させたのだろう。自殺に近い狂気の中で亡くなったと聴くサキさん、彼女を救うには尋常ではない闘いがあったはず。

5 19/05/06(月)22:31:50 No.589408934

「悔しい、ですね」 「社長?」 「いえ、何でもありません」 不思議そうな顔をする秘書を横目に、カレンダーを見やる。何故今になって私の心が夢に囚われているのか。こうして腰を据えることが出来るまで大御所としてわき目も振らず走ってきていたこともある。それ以上に、今年からまた動き出す時期だったことも、当然あった。現在、2008年――――、フランシュシュメンバー二名の没年に差し掛かっている。 (皆と女子会、と称して夜は語り明かしましたっけ) 佐賀での生活はゾンビィであったこともあって、外をまともに出歩くこともできずに暇だった。娯楽は室内での限られたもののみだったため、必然仲間たちとの会話を楽しむ時間は長くなり、彼女たちの境遇を覚えるほど聞くことになったのは幸運だったといえる。 (今年はフランシュシュ1号と3号、源さくらさんと水野愛さんが亡くなった年) サキさんのことを考えると、間違いなく彼も表に顔を出すことになるだろう。アイドルとして成長し続ける愛さんまでも手を伸ばすなら、必ずだった。

6 19/05/06(月)22:32:15 No.589409045

(私には目標がある。そのためには手段を択ばない) 脈打つ心臓に耳を傾ける。時は近い。 「……それでは社長、私はこれで」 「――ええ、よろしくお願いします」 長考していた私に置き去りにされていた彼は、丁寧な礼をして背中を向けた。 「ああ、そういえば。最近、近くの公園で不審者が出るそうですよ」 「へ」 「サングラスをかけてスーツを羽織る若い男のようで、奇声を上げて踊っているとのことです。ご注意ください」 「――――」 再度礼をして、彼は今度こそ去っていった。取り残されたのは、目を丸くした私。時計とカレンダーを見て、その日私は初めて仕事を早退した。

7 19/05/06(月)22:32:33 No.589409149

「やはり、巽さんだったんですね」 「久しいな、純子。元気そうで良かった」 「ええ、おかげさまですよ。でももうおばあちゃんになっちゃいました」 「遅くなった、そして唐突だがお前の力が欲しい。どうしてもアイツらを救うカードが足りなくてな」 「そう言うかと思って色々と準備して待っておりました」 「流石だな純子」 「そこで、取引とは言いません。ただお願いを聞いて頂けませんか? 貴方に全てを捧げる勇気が欲しいんです」 「ほう、まあ俺が出来るものならくれてやる」 「――――私を、最期まで見届けてください」 時が交わらないならせめてお側に。 「――――ああ約束しよう。お前の生き様、この俺巽幸太郎が見届けてやる」 「嬉しい、ありがとうございます。では貴方にはウチの社員になってもらいます。週に一回は顔を見せてください。もう逃げないでくださいね」 「お、おう。したたかになったのう」 「昭和の伝説、紺野純子ですから」

8 19/05/06(月)22:35:17 No.589410029

年相応になった紺野純子か…

9 19/05/06(月)22:44:08 No.589412852

岡部みたいなことしやがって…

10 19/05/06(月)22:45:16 No.589413228

相応に年とるなら純子とサキちゃんは少し切ないのう

11 19/05/06(月)22:45:28 No.589413298

よか…

12 19/05/06(月)22:46:20 No.589413601

なんかいい…こういうのいい

13 19/05/06(月)22:47:30 No.589414047

シュタインズサガでありんすな…ゾンビランドゲート?

14 19/05/06(月)22:49:24 No.589414700

ゆうぎり編とはまた違った良さがあってよか…

15 19/05/06(月)22:52:00 [sage] No.589415572

ゆうぎり編の御方とアイデアが被っていたようでありんす 二次創作の醍醐味ということでご勘弁願いたい

16 19/05/06(月)22:52:37 No.589415765

時をかけるグラサン

17 19/05/06(月)22:55:10 No.589416607

>ゆうぎり編の御方とアイデアが被っていたようでありんす >二次創作の醍醐味ということでご勘弁願いたい 勘違いしてごめんでありんす わっちこれ大好き

18 19/05/06(月)22:55:40 No.589416752

二次創作は自由でありんす!

19 19/05/06(月)22:56:01 No.589416852

40、50代の紺野純子か

20 19/05/06(月)22:58:17 No.589417610

タイムループもの大好きだから色んな人が書いてくれるの本当有難い…

21 19/05/06(月)23:06:51 No.589420296

幸純良いよね

22 19/05/06(月)23:16:35 No.589423093

2008年の乾くんとは別の世界線の巽なのかな?

23 19/05/06(月)23:20:41 No.589424283

エモか…

24 19/05/06(月)23:26:31 No.589425782

よか…

25 19/05/06(月)23:27:53 No.589426148

全員分読みたいでありんす…

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