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19/05/05(日)22:34:15 曰く、... のスレッド詳細

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19/05/05(日)22:34:15 No.589137789

曰く、魂の総量は質と量だと。 曰く、分配式が普通なのだと。 曰く、だがこれまで長い事生きてきたが、お前は並ぶ者を見た事が無いほどに良い質の魂だと。 曰く、分配もできるが、お前程の魂ならば、全てを対価に運命を変えられるだろうと。 曰く、起きてしまった"それ"を無かった事にし、救えるだろうと。 曰く、神に仇なす禁術中の禁術だと。 曰く、まあ、死者を蘇らせるなんて時点で十分神に中指立ててるんだがなと。 俺の師とも言える老人がそう言っていたのを覚えている。 その時の俺は運命に抗う事しか、かの者達に自らの終わってしまった宿命を覆させる事しか考えていなかったた め、そっちを選ぶ事は無かった。

1 19/05/05(日)22:34:42 No.589137978

…だが、あいつらと過ごす内に自分に変化が起きたようだ。 あいつらの怒りを見る度に、あいつらの涙を見る度に、あいつらの笑顔を見る度に。 …嗚呼、生きていたのなら。これが終わった後ではなく、ハッキリと血と命が通う身体のままで、人目を憚る事無 く表現できたのなら。 そう思うようになった。 きっと、好きになってしまったのだろう。あいつらを、ゾンビィ達を、フランシュシュを。 きっと、変わってしまったのだろう。死してなお、成長を続けるあいつらに影響され、自分も。 だから、もう一度聞いてしまったのだろう。あの老人に、選ばなかったもう一つを。

2 19/05/05(日)22:35:23 No.589138254

お座敷に入れば、わっちは一人の花魁となり、お客さんの望む通りに事を成す。 望まれるように見つめ、望まれるように話し、望まれるように魅了する。 其れが花魁。其れがわっち。ただ、其れだけが。 そう、思っていた。 お座敷にて、今日もあの人を待つ。これまで見てきた男たちとは比較にならない程に背が高く体格も良く、それ なのに少年のような笑顔を見せるあの人を。 「おう。待たせたな、ゆうぎり」 「あい。おいでなんし。主様」 異国のすぅつを着こなし、じゃけっとを翻しながら部屋に入るあの人。 「今日は、一体どんな話を聞かせてくれるのでありんすか?」 「ふぅーん!そうせっつくなせっつくな。幸太郎さんのかぁっこいい武勇伝は逃げませーん!」 巽幸太郎。そう名乗ったこのお方との出会いで、お座敷に入る事が、わっちを見せる事が、楽しいと感じるよう になった。

3 19/05/05(日)22:36:36 No.589138731

初会で一目見た時は見るからに胡散臭いと思っていた。背丈の高さと、異国の服装がそうさせたのだろう。 『っ!』 よくある反応だ。見飽きた反応だ。お座敷に入りわっちを一目見た瞬間に、緊張して身体が強張る。これまで出会ってきたお客さんは皆そうだった。 『ゆうぎり…』 呆然としたように名を呼ぶが、反応は無い。これは初会。わっちは花魁であるがゆえ、何も語らない。何の反応も無い。 『お前似合わんなそこ』 …今、この男はなんと言った? 『伝説って聞いてはいたが、いやこれは…』 一瞬、理解ができなかった。…似合わない?わっちが?多くの男達が全てを差し出してでも一目見たいと、話したいとされてきたわっちが? 『何ぼけーーーっとした顔しとんじゃい』 思考が上手く纏まらない内に話しかけられる。自らの表情を指摘されると同時に、花魁(じぶん)を取り戻す。 『いや今更キリッとしても遅いじゃろ』

4 19/05/05(日)22:37:11 No.589138938

なんだ。なんだ、この男は。 『主様は…一体…』 思わず出てしまった言葉だった。わっちの言葉だった。無自覚で出た言の葉を抑えるように口に手をやるが、もう遅い。男を見ると、 『ようやく話しおったな』 勝ち誇ったかのような笑顔。してやったりと言わんばかりの笑顔。子供のような笑顔。顔がカッと熱くなる。立ち上がり、男に歩み寄る。 『えっあっえっぶーーーーーーーーーっ!』 平手打ちをしていた。男は空中で四回転半し、畳に頭から着地した。思わず自分の手を見てしまう。本当に自分がした事なのかと。わっちが、したかった事なのかと。 『タタミィ…タタミィ…』 ぼそぼそと聞こえる声に気付きそっちを見やると、男は這い蹲り何かを集めるかのような動きをしていた。…本当に一体なんなのだ、この男は。

5 19/05/05(日)22:37:53 No.589139217

『何者か、と聞きたそうだな?』 『っ!』 立ち上がった男に疑問を見透かされる。 『よーく覚えんかい!俺は持っとる男、巽幸太郎じゃーい!!!』 持っている男。巽幸太郎。不敵な笑みで高らかに叫ばれたそれらの言葉が、異様な程頭に残る。 『お客さんお時間です』 『えっなんですかちょっ待っあっあっ』 何か騒動が起きていると判断されたのだろう。警備をしている番の者が連れ出そうとする。 『…主様』 お座敷を出させられる直前で声をかけると、首だけをこちらに向ける。 『また来なんし』 『…任しとけ。面白い土産話を持ってきてやるあーーーーーっス!出ますから!今出ますから!腕ミシミシ言っ てますから!あーーーー』 騒がしい声が遠ざかる。…結局のところ、あの男の事は名前しかわかっていない。だが何故か、あの男はまた来る。また、わっちを引き出してくれると、本当に何故かわからないがそう信じる事ができた。

6 19/05/05(日)22:38:37 No.589139553

『そこでわしがガツンとこう言ってやったんじゃい!やり直してみればいいじゃろがい!!一回死んだつもりでな!!とな!』 『武士を相手に、でありんすか?勇気がありんすねぇ…』 彼の語る"武勇伝"は面白可笑しく、時には胸を熱くさせ、また時には涙を誘い、時間を忘れてしまう程に楽しかった。 初めは身振り手振りで語る彼を上座から冷めた目で見ていた。よく男が気を引くためにするモノだろうと。だが、熱心に彼の語る"外"での冒険譚。わっちには届かない場所での出来事は、心を揺さぶった。 『…なんで、そんな事をしていたんでありんすか』 或る時、語る彼に疑問に思った事を聞いてしまった。 『ふふっ』 笑ってしまった。 『そんな出来事がまことに?』 驚いてしまった。 『あっ…今宵は、ここまででありんすか…』 もっと聞きたいと思ってしまった。

7 19/05/05(日)22:39:07 No.589139717

『今、なんて言いんしたか』 …近くで聞きたいと思ってしまった。 『…失礼しんす』 彼の隣に座り、話を聞くようになった。いつもは大胆不敵、傍若無人な彼が慌てるのを見て、可愛らしいと思った。 馴染みになり、床入れを許した後も、わしゃこっちを話したいんじゃーい!自慢したいんじゃーい!!と子供のように駄々を捏ね、用意された布団の上に胡坐で座り、胸躍らせる話をしてくれた。 『わっち程の花魁を招いて、花魁道中を歩かせて、お話しだけで済ませるのでありんすか』 『なんじゃい。不満か』 『違いんす。随分と贅沢なお方だと思っただけでありんす』 『はー!?わしの武勇伝を一人占めしといて人の事を贅沢って言える立場かいこんボケェ!…何笑っとんじゃい』 『…なら、二人お揃いでありんすなぁ』 『なっ!…むっ…ぐっ…』 …こういうところが、ほんに可愛らしいお方。

8 19/05/05(日)22:39:49 No.589139994

「今日はこれも持って来たわい」 彼は後ろ手に持ってきていた袋から瓶を取り出す。 「これは…?」 「甘酒じゃい。好きだってお前が前に言っとったやろがい」 「…覚えていたんでありんすか」 「幸太郎さんは頭の出来がそこら辺の連中と違うからのぉ!」 瓶を手に取る。特別な銘柄だったりする物では無い筈なのに、何故か大切に、慎重に扱いたくなった。 「…それとな」 彼は自分の背後に手を回す。何かを探すように背後の畳をパタパタと叩く。アレっという表情をして後ろを振り返る。 おもむろに立ち上がり、お座敷の外に上半身を突っ込んで、えーとえーとあれ?おぉ!あったあった!と言いながら大きな袋を手に取り戻ってくる。 「これもだーーーいじなモンでな!」 「たいそう大きいでありんすが、一体なんでありんしょう?」 「金じゃい」

9 19/05/05(日)22:40:25 No.589140240

言葉の意味がよくわからなかった。お金は大事というのはわかるが、何故今更この場で? 「お前を買う金じゃい」 更に謎に包まれた。今出会って話しているこの時間こそが、彼が大金をはたいて買っている物ではないか。だが今のような時間を過ごすためのそれにしては、あまりにも大きい額だった。少し考える。考えて、ある可能性に辿り着くが、辿り着いた途端に思考がうまくできなくなる。 「……っ!それは…」 「おう。身請けってやつじゃい」 「無駄でありんす」 「…なんじゃい。いきなり否定しおってからに」 「わっちは数多の男を魅了して来んした。それこそ、文字通り破滅させる程に。そうして破滅した者達を見ても男達はわっちを求めんした。そんなわっちを、楼主が身請けさせる事を許す筈がありんせん」 「試しても無いのに否定するのやめんかい。ったくもう…」 口を尖らせて、彼は呟く。 嗚呼、叶うならば、わっちもそちらへ、彼の隣で外を見たい。…だけど。

10 19/05/05(日)22:40:52 No.589140466

「…無理なので、ありんす」 「無駄か無理か、やってみないとわからんじゃろうが」 「どれだけの大金を積もうと、無理なのでありんす」 期待をさせないでほしい。夢を見せないでほしい。願わせないで、ほしい。彼の側で笑いながら日々を過ごす自分を、どこか遠くに見せないでほしい。 「…そうか」 彼は憂いを帯びた表情で袋を持ち、立ち上がる。 …これでよかったのだ。仕方がなかったのだ。どうしようもないのだ。そんな言葉が、感情を覆い隠すように脳を埋め尽くす。 「…で諦めると思うじゃん?」 「…ふぇ?」 「楼主に断られるのなんざ想定済みじゃーーーーーーーい!!!幸太郎さんの頭の出来は違うって言っとるじゃ ろがーーーーーーーーーーーーい!!!!」 不敵な笑みを浮かべつつ、彼は袋を置き、また座りこむ。

11 19/05/05(日)22:41:21 No.589140647

「確かに、楼主はほぼ間違いなくお前を手放そうとはせんじゃろう」 「……」 「だから楼主以外の全てを味方につけてやったわい」 「…あい?」 「従業員、役人だの番の者だの遣手だのを全員味方につけまーした!!はい俺すごーい!!はい拍手ーー!!!」 お座敷の外から小さく手を叩く音が聴こえる。番の者だろう。 「やかましいんじゃいこんボケェーーーーーーーーーー!二人きりにせんかーーーーーーい!!」 「エェ…」 お座敷の外から聞こえる歩く音が、どんどん遠くなっていき、聞こえなくなる。 「はぁーいというわけでぇ!楼主に断られたらこの金はあいつ等への報酬に変わるわけでっす!」 …ただ、唖然とする。多くの困惑が、疑問が、期待が、自分の周りを通り抜ける。 一つだけ、数多の通り抜けて行ったモノの中で一つだけ、どうしても確かめなければいけないモノがあった。 「…なんで」 「あん?」 「なんで、わっちにそこまで入れ込むのでありんすか」

12 19/05/05(日)22:41:41 No.589140745

「なんで、ってそんなもん決まっとるじゃろ」 「え?」 「お前と居ると楽しいから以外の何があるんじゃい」 一瞬、この世界が止まった気がした。 止まった世界の中で、自分の、わっちの、心臓が、こころが、激しく高鳴るのを痛いほどに感じていた。 「ゆうぎり」 呆然とするわっちの前で、彼は片膝をつく。 「俺と共に外に出るぞ」 「…いや、違うな」 片膝をついたまま手を差し出してくる。 「俺と共に、外に出てみないか」 …ほんに、卑怯なお方。 最後の選択は、わっちにさせるなんて。

13 19/05/05(日)22:42:10 No.589140922

「…あい」 差し出された手を取る。 彼と出会うまでは滅多に無かった事だった。演技ではない、自然と、こころから溢れ来るモノに身を任せ笑顔になったのは。 両端が上がった口唇に何かが触れた事で、自分の頬を濡らしているモノに気付く。 どこか気恥ずかしくなり、目の前の彼から視線を逸らす。 …逸らした先の窓辺から、鳥が羽ばたいて行くのが見えた。

14 19/05/05(日)22:42:35 No.589141068

遍く流れる時の奔流と そこに寄り添う人の思いと 宿命づける神の意思に 逆らい進む 魂が、欠けた。 ゆうぎり編_終

15 19/05/05(日)22:43:20 [sage] No.589141368

きぶり回路と全方位曇らせ回路の2つがフル稼働したでありんす!!!!!! 長くてすごい疲れたでありんす!

16 19/05/05(日)22:46:23 No.589142616

タイムループして全員の死を回避するルートかな?

17 19/05/05(日)22:46:34 No.589142689

このクオリティで全員分やるならちょっと楽しみすぎる…

18 19/05/05(日)22:48:59 No.589143650

全員分あるの嬉し過ぎるし楽しみ過ぎる…

19 19/05/05(日)22:49:56 No.589144104

楽しみ

20 19/05/05(日)22:51:41 No.589144876

巽に心開いていく姐さんがやーらしかすぎる

21 19/05/05(日)22:52:00 No.589144992

新しい切り口だな

22 19/05/05(日)22:53:01 [sage] No.589145429

su3049606.txt まとめと言える程の量は無いというかまだ2本とちょっとした物だけでありんすが貼っておくでありんす!

23 19/05/05(日)22:53:03 No.589145441

幸太郎が倫太郎になっちまうー!

24 19/05/05(日)22:54:47 No.589146171

だから今1秒ごとに世界線を超えて

25 19/05/05(日)22:55:05 No.589146287

これさくら救うのが超無理ゲーなやつ!

26 19/05/05(日)23:00:26 No.589148384

世界を騙せ

27 19/05/05(日)23:01:28 No.589148895

コウターロ

28 19/05/05(日)23:01:28 No.589148899

まるで…世界が結託してさくらを殺そうとしてるかのように

29 19/05/05(日)23:01:57 No.589149146

いってきまーーボケェエエエエ!!…ボケェ…ボケェ…ボケェ……ドシャ はわわわわわ乾君がキャット空中三回転!? どやんす!?どやんす!?あ!救急車!!お母さんきゅーきゅーしゃー!!

30 19/05/05(日)23:02:09 No.589149228

シュタインズ・ゲート・サガ

31 19/05/05(日)23:03:15 [sage] No.589149742

時と宿命に抗いつつ現代に至る予定なので次は純子はん編予定でありんす! 投稿は寝言愛はんの続きが投下される辺りくらいでありんすかねぇ…

32 19/05/05(日)23:05:07 No.589150623

わっちこれ大好き!

33 19/05/05(日)23:07:40 No.589151790

>投稿は寝言愛はんの続きが投下される辺りくらいでありんすかねぇ… ちょっと待てよ!

34 19/05/05(日)23:08:23 No.589152087

こういうのも二次創作の醍醐味でありんすねぇ…… 次も待っとらすよ!

35 19/05/05(日)23:09:44 No.589152697

コウターロ…

36 19/05/05(日)23:10:58 No.589153374

>時と宿命に抗いつつ現代に至る予定なので次は純子はん編予定でありんす! >投稿は寝言愛はんの続きが投下される辺りくらいでありんすかねぇ… 最終回がまさかのリリィに

37 19/05/05(日)23:14:06 No.589154572

徐々に巽が病んでいきそう… 頑張れ…!

38 19/05/05(日)23:15:05 No.589154923

伝説の父つぁん坊や俳優として20を過ぎてもいまだに小学生役でトップシェアを誇る乾幸太郎の人気によって自然と仕事の数が減り体力が温存され思春期ショックも乗り越えられたリリィ…

39 19/05/05(日)23:16:01 [sage] No.589155272

>徐々に巽が病んでいきそう… >頑張れ…! 答えは最後のレスにあるでありんすよ! 病んだりなんてしないでありんす!

40 19/05/05(日)23:19:11 No.589156378

愛する7人のゾンビィを救う男の物語

41 19/05/05(日)23:25:10 No.589158473

よか…

42 19/05/05(日)23:30:01 No.589160185

幸太郎消えちゃいそう...

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