ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
19/04/27(土)20:51:01 No.586875699
二階堂サキは伝説の特攻隊長である。九州制覇したグループ怒羅美の先頭で戦い続けてきた。相手が男だろうと何であろうと負けることはなく数十人規模なら総長の麗子とわずか二人、ステゴロで叩きのめす。ライバルグループの殺女との抗争でチキンレースをした際、ブレーキを踏まずバイクとともに崖下で爆発炎上、そのまま還らぬ人となりその死に様も伝説となって三十年以上が経過した。数奇な運命でゾンビィとして再び現代に生を受けた彼女は、生前と変わらずその伝説の通り拳を振り上げ喧嘩上等、全国制覇を目指している。 (アイドルとして、だけんな) アイドルグループフランシュシュのリーダーとして戦っている彼女、喧嘩はご法度ではあるが今もなお誰にも負けるつもりはない。しかしながらとある存在が彼女の最強として、伝説としてのプライドを脅かしていた。それは彼女を生き返らせた張本人。 (マジでナニモンなんだ、あのグラサンは)
1 19/04/27(土)20:51:21 No.586875799
フランシュシュのプロデューサーにして、ゾンビィを蘇らせるネクロマンサー。既にその時点でヤバイ臭いしかしない存在だが、格好も蝶ネクタイにスーツを羽織ってサングラスを外さないという奇天烈具合。どう考えても不審者だがゾンビィよりは現代に適応している、社会的地位も確立している男だ。そういった不気味さ、ネクロマンサーとしての能力的優位はあるが、外面は彼女にとって大したものではない。 (なんつーかアタシが言うのもなんだけど、ありゃはみ出してるやつだわ) 前に腹を殴ったことがある。当然殺さない程度の腹パンだったが、彼は一瞬痛がったもののすぐに起きてケロッとしていた。その殴った感触はタイヤのソレ、相当体幹を鍛えていなければあんな肉体にはならないだろう。 (身体も尋常じゃねーけど、あの野郎はマジキマッてっかんなぁ) 滅茶苦茶なプロデュースに意味の分からない行動。それでいて得体のしれない気持ち悪さ。はっきり言って頭も体もイカレている。それが彼女から見た巽幸太郎という男だった。
2 19/04/27(土)20:51:37 No.586875876
「で、今日は何の用じゃいサキ」 とある日、とうとうサキは業務連絡以外で時間を取りソレと対峙した。プロデューサーを名乗るその男は、いつも通り横柄な態度を崩さない。 「このままじゃきもちわりーかんな、そろそろきっちり決めたろーや」 「突然何の話だ。今検討している案件は」 「そーじゃねぇ、上下関係の話だ。オメーとアタシ、いい加減カタつけねーとよ」 「フッ、なるほど下克上か。お前らしいな」 「へへっ、話が早うて助かるばい」 一緒に活動してきて、それなりに信頼できる男だとはわかっている。実力も覚悟もそこらの馬骨とは違うだろう。だからこそだ。お互い理解が進んだからこそ、譲れないものをかけて闘う時が来たということだ。 「それで、決闘でもするのか」 「それでもよかけど、こっちの方がいっちょんわかりやすいじゃろ」 適当な机を乱雑において、その上に肘を乗せる。挑発的な眼差しで見上げるその姿は、飢えた狼のごとき獰猛な牙を見せていた。
3 19/04/27(土)20:51:53 No.586875932
「腕相撲」 「自慢じゃねーがこれで今まで負けたことねーんだわ」 「それは、伝説だな」 「別に負けた方がどうなるっちゅうもんじぇねえ。だけん、ここでも序列ってもんがあるとやろが」 「ここは暴走族じゃないんだが。面白い、受けて立とう」 男はためらいなく、同じように机へと肘をつけた。目の前に傲岸不遜な顔を突き付けられて、サキの額に冷や汗が流れる。舐められているわけではないことがわかるから恐ろしい。彼女の力を知ったうえで伝説に挑もうとするその絶対的自身、もはや狂気の類だ。 (アタシが押されている? 有り得んばい) 男の大きな手のひらがサキの冷たい手を包み込む。それを指いっぱい伸ばして力強く握った。不安を振り払うように好戦的な笑みを浮かべるサキと、対照的にいつも通りのポーカーフェイスなグラサンが交錯する。 「誰か審判でも呼ぶか?」 「んなもんいらん。あいつらを巻き込むもんじゃなかと」 「そうだな、これは」 「アタシらのわがままばい」
4 19/04/27(土)20:52:07 No.586875995
誰も見ていない洋館の一室、時計の音だけが鳴り響く。そしてその針が真上に辿り着いた時、二人の闘いが始まった。ギリギリと相手の手を引き付けて倒す、それだけの行為。震えることもままならず痺れにも似た均衡は息を吐くことも許されない。張り詰めた空気の中、ジリジリと焦がすほどの熱戦は静かに温度を上げていく。駆け引きなんてそこにはなく、相手をねじ伏せるという獰猛な本能だけで満たされていた。サキにとってここまでの長期戦は珍しい。男の涼しげな表情に焦りが生まれ始める。しかし決して男も余裕綽々ではない。首には大粒の汗が滴り、隆々な筋肉が盛り上がってシャツがはち切れんばかりに膨らんでいた。はたから見るに実力は伯仲、であるならば勝負を決めるのは二人の身体的差異か。ゾンビィと人間、そこに筋肉量の違いはないが死者ゆえに疲労がないのは大きなアドバンテージとなるだろう。 (卑怯、なんてことなかよな) 蘇らせた張本人相手だ、遠慮なんて必要がない。そう勝手に納得したサキは徐々に緩む相手の圧力に合わせつつ様子をうかがう。相も変わらず表情は読みづらいが限界は近そうだ。 (楽しかったぜ、グラサン)
5 19/04/27(土)20:52:20 No.586876045
そんな勝利宣言を心の中でつぶやき、彼女は一気に攻勢へと出た。身体ごと倒して肩から引き寄せると、あっさりと抵抗がなくなってその手を叩きつけようと机を見る。 「あっ!?」 するとそこには、変わらず女と男の手が腕相撲をしていた。ようやく気付く。サキの腕は身体から外れていたのだ。 「てめっ、わかって」 「ゾンビィは疲労に強いが身体は脆い、それぐらいいい加減把握しろ。ゾンビィがネクロマンサーに勝てる道理はない」 「ほう、そうかい。だったらなんで止めを刺さんね? 舐めた真似してるとぶちくらすぞ!」 腕は外れても、まだ腕相撲の勝負はついていなかった。サキは手だけの状態で腕を組んでいる。男が倒そうとすれば難しくはあるまい。射殺さんばかりに睨みつけたサキを気にした風でもなく、男は虚空の対戦相手を見つめているだけだった。
6 19/04/27(土)20:52:35 No.586876102
「俺とお前は人間とゾンビィだ、全く存在が違う。野良犬でもない俺たちに、序列も何もつけられないことぐらいこれでわかっただろう」 投げられた腕を受け取り肩につける。あまりにも惨めだった。言われなくともそんなことは彼女もよくわかっている。ただ、この男を信頼していたから仲間として認め合いたかっただけ。 (なんばしよっとやろ、アタシ) 取り戻した手の握りこぶしを胸に、自嘲していた。 「しっかし、意外と伝説っちゅうんも大したことないのう」 「あ?」 「うんにゃうんにゃ、わしの天才っぷりが伝説を超えとるっちゅうことか。罪な男じゃい」 「くっ」 くねくねと変な動きであからさまな挑発をする巽に怒髪天を衝くサキ。殴りかからんばかりだが、負けてしまったので舌打ちぐらいしかできない。 「必ずリベンジしちゃるけん、首洗ってまっとれや」 「おうおう楽しみじゃい。俺とお前は共犯者。せいぜいアイドルとして佐賀のために働かんかい」 「せからしか、わあっとるわ」 見つめあって同時ににかりと笑い合う。そう、彼らはタンデムは出来ずともツーリングぐらいは出来る。そういうのもいいなと思うサキだった。
7 19/04/27(土)20:53:00 No.586876195
「あれ、サキちゃんそれ」 「ん?」 「そのチョーカー可愛いね」 「そやろそやろやーらしかじゃろ」 「珍しいじゃない、何かあったの?」 「アタシはまだ負け犬やけん、仕方ねーんだ」 「え?」 「今度こそぜってー勝っちゃるばい!」
8 19/04/27(土)20:57:37 No.586877418
よか…
9 19/04/27(土)20:59:48 No.586878025
腕相撲のやつ前も見たけどこれもよかね
10 19/04/27(土)21:00:46 No.586878319
犬は
11 19/04/27(土)21:04:22 No.586879278
こういう空気すき
12 19/04/27(土)21:06:23 No.586879859
犬でした
13 19/04/27(土)21:06:27 No.586879882
死んだ地点で負け犬やけん
14 19/04/27(土)21:07:16 [saga] No.586880099
被ってる、気はした けど書いちまった
15 19/04/27(土)21:08:30 No.586880433
いいんだよ好きに書いて
16 19/04/27(土)21:09:34 No.586880765
被ってるのは腕相撲と言うテーマだけなので問題なか! >「そのチョーカー可愛いね」 >「そやろそやろやーらしかじゃろ」 サキちゃん自ら犬に寄せてってる!
17 19/04/27(土)21:09:52 No.586880856
巽が本気出したらすごそう