19/04/25(木)02:31:47 どうす... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1556127107317.jpg 19/04/25(木)02:31:47 No.586235854
どうすればいいのだろう。 どうすればよかったのだろう。 答えは出ているはずなのに、私は未練がましく自問していた。 この子を殺せばよい。私が死ねばよい。結論はとうに出ていたはずなのに、それを受け入れたくない。きっと何か、誰も傷つかずに済む方法がどこかにあるはずだと、すがるような思いで毎日を過ごしていた。そんなもの、この世のどこにもありはしないのに。 しかし、そんなことをしていられる余裕ももはやない。なぜなら、この事態を解決するためのまたとない機会が巡ってきたのだから。
1 19/04/25(木)02:32:12 No.586235901
彼が珍しく、会社の出張で数日ほど家を空けると言ってきた。彼に気づかれないように、この子と私自身を始末するには今が絶好の機会であることは言うまでもない。彼は身重の私を置いて出張に行くことを随分渋っていたが、どうしてもということで今回はやむなく行くことになったのだと聞いている。これを逃せば、彼が私から離れてどこかに出掛けることはますます期待できなくなるだろう。 だから今しかないのだ。ここでやらなければ、取り返しのつかないことになる。
2 19/04/25(木)02:32:51 No.586235948
夢を見た。 彼が私を励ましてくれる夢。 彼が生まれたばかりのあの子を抱いて、「よく頑張ったね」と私に寄り添ってくれる夢。 そして、彼が大きくなったあの子と一緒に綺麗な花を摘んで、笑ってしまうくらいあの子とそっくりな眩いばかりの笑顔を添えて、私に駆け寄ってくれる夢。 それは残酷なほど幸福で、狂おしいほどいとおしい光景だった。私が欲していたもの。私が願っていたもの。何をしてでも手に入れたかった。私のたった一つの望み--- 突然、私の足下から黒い泥が湧きだしてくる。それは瞬く間に広がっていって、あの子と彼と美しい花畑を呑み込んでいく。 お願い、やめて。彼とあの子を巻き込まないで--- 「そんなにあの人のことが大事なんですかぁ?なら、もう何をすればいいかはわかっていますよね」 最後に耳に響いたのは、あまりに聞き慣れた甘い女の声だった。
3 19/04/25(木)02:33:03 No.586235968
私が生きている限り、あの人に幸せは訪れない。頭では理解していたことを、まざまざと見せつけられる。 目覚めた私の心は、ようやく結論に手をかけていた。 死のう。私を殺して、この悲劇を終わりにしよう。あの人は今まで、ずっと身を挺して私を守ってくれた。ならば今度は、私の命で、彼の命を救う番だ---
4 19/04/25(木)02:33:40 No.586236029
段取りはついた。 今日の夜駅を出る列車で、ここから数十キロの距離にある人里離れた山あいの町に行き、用意していたロープを使って、そこの森の中で首をくくる。翌日になれば私の遺体が発見され、それとほぼ同時に家に戻ってきた彼は置いてきた遺書を見つけて真実を知る。 既に列車の切符とロープは手に入れた。あとは遺書をしたためて、列車に乗ればよいだけだ。 既に時刻は5時を回っていて、短くなりはじめた日が傾いていた。列車の出発までは間があるが、そう長いわけではない。早く書いてしまわなければ。
5 19/04/25(木)02:33:59 No.586236048
事態の経緯を説明することは容易かった。お互いに素性を知っているのだから、さして込み入ったことまで書く必要もなかった。あとは彼への別れの言葉を書いて、それで終わりにすればよい。 なんと言えばよいだろうか。私が彼に伝える最後の言葉だ。後悔のないように、きちんと選ばなければ。 彼との思い出を手繰り寄せる。初めて会ったときのこと。一緒に住むことになったときのこと。彼が私の料理を誉めてくれたときのこと。 そして、彼が、私を受け入れてくれたときのこと--- 「俺も、ずっとカーマと一緒にいたい」 胸が締め付けられるように痛くなる。これ以上思い出してはだめだ。行きたくなくなってしまう。彼を不幸にしてしまう。 書かなければ。行かなければ--- そのとき、ガチャリ、と玄関の鍵が開いた。
6 19/04/25(木)02:34:54 No.586236129
「マスター、さん…?」 何故。彼が帰ってくるのは明日のはずなのに。そう思ったが、彼の顔を見た次の瞬間、その疑問は頭から吹き飛んでいた。 常に微笑みを浮かべていた快活さは面影もなく、その表情からは疲労と苦悩しか感じられなかった。おまけにそこらじゅうを走り回りでもしたのか、スーツはくたびれ、そこかしこに汚れがついていた。 いったい何があったというのだろう。まるで、今にも死にそうという風ではないか---
7 19/04/25(木)02:35:09 No.586236152
「死ぬつもり、なんだよね?カーマ」 えっ、と思わず声が漏れる。誰にも言っていなかったのに。ましてや彼には、絶対に悟られないようにしていたのに。 「ごめん、出張に行ってたっていうの、嘘なんだ。ほんとはね、君を助けられるあてがないかと思って、ずっと探してたんだ」 知らない事実をどっと告げられて、頭が混乱する。あなたはこれのことを--- 「うん、知ってた。といっても、すごく最近にだけど。だから、君の呪いがその子にかかってるってことも知ってる」 そうか。では--- 「ずっと探してたんだ。今までもみんなの力を借りて、どんなことだって乗り越えてきた。だから今回も、きっと解決できるんじゃないかって。 でも、無理だった。君を傷つけずにそれを倒すことは、どうやってもできないんだ…! ごめん。本当に、ごめん……!」 彼の声の調子が、どんどんと落ちていった。 やはり、無理か。ならば--- 「それを倒すには、生まれる前に消すしかない」 もう、どうしようもない。だが、これもよいだろう。どこかもわからない場所で一人で死ぬよりは。 彼の手にかかるならば、私も本望だ。
8 19/04/25(木)02:35:53 No.586236220
覚悟を決めて目を閉じる。最後に彼の顔を見られないのは心残りだが、これでよかったのだ。 彼が近づいてくるのがわかる。そして--- 強く、抱きしめられていた。 驚いて目を開ける。何故--- 「無理だ。俺にはできない。君を殺すことなんて、できない………! 俺、最低だ。世界中の人を危険に晒しても、君とこの子を守るほうが大切だって思ってる……!」 嗚咽が耳朶を打つ。言葉が堰を切って溢れ出す。 「ずっと不安だったんだ。カルデアを出て、日常に戻って、俺はどうやって生きていけばいいんだろうって。 でも、君がいてくれたから頑張れた。辛い仕事も責任のプレッシャーも、君がいたから乗り越えられた。君がそばにいてくれたから、今俺はここにいられるんだ。 だから、お願い。死ぬなんて言わないで。ずっと俺のそばにいて。俺は絶対に、君を守るから---」
9 19/04/25(木)02:36:05 No.586236232
もう、押さえきれなかった。隠さなくては、消さなくてはと思っていた想いが、もう止められなかった。 「ごめんなさい、ごめんなさい……! ずっと、辛かったですよね……! あなたのそばにいます。あなたと一緒に、どこにでもいきます……!」 ああ、なんて罪深い。この人は、私と一緒に、逝くつもりなのだ--- 「君一人に背負わせたりしない。最期まで、ずっと、ずっと一緒だよ---」 もう、なにも望まない。あなた以外、なにもいらない---
10 19/04/25(木)02:36:57 No.586236297
「はぁ、はぁ、はぁ--」 追っ手を振り切って一息つく。どうやら、私たちを見失ったようだ。 「ごめんお母さん。たぶん、もって2、3分だと思う。けど大丈夫だよ。お父さんとお母さんは、絶対に助けるから」 誰よりも疲れきっているはずなのに、精一杯の笑顔を浮かべて娘が笑う。優しい子だ。なのに、どうしてこんな--- 娘は、何の変轍もないふつうの女の子として生まれた。何事もなくすくすくと育ち、思いやりの深い、周りの人とすぐ打ち解けられる、父親に似た子どもになった。 けれど、呪いは彼女を離そうとはしなかった。彼女の善良さとは裏腹に、それは容赦なく牙を剥いた。
11 19/04/25(木)02:37:39 No.586236356
娘がある夜、夢を見たと言ってきた。恐ろしいになって人を襲い、食べてしまう夢を見たと。彼女はそれを必死で止めようとしたが、その抵抗も虚しく彼らは死んでしまったと。 怯える娘を抱きしめながら、ついにそのときが来てしまったと思った。しかも、最も残酷な形で。彼女は、自分では全くそれを望んでいないのに、それを止めることもできずに、人を喰らう怪物になってしまったのだ。 友達思いの優しい彼女には、それがどんなに辛いことだったろうか。けれど、彼女は私よりもずっと強い子だった。 「絶対に止めてみせる。私の中にいる怪物なんかに、絶対に負けないから」 けれど、彼女の健気な努力を嘲笑うかのように、彼女の中の怪物は力を増していった。そして、彼女という怪物を始末するための力もまた、姿を表していた。
12 19/04/25(木)02:38:30 No.586236427
サーヴァントたちを振り切って一時は逃げおおせたが、それもいつまでもつかわからない。この家に戻ってこれたのも、奇跡に誓い幸運だ。 一刻も早くここから立ち去らなければならない。すぐにここも見つかってしまうだろう--- 否、どこに逃げても無駄だ。もはや逃げる場所も、生き残る方法もない。もう、自分達はここでお仕舞いなのだ。 「ごめんね、お母さん。みんな私のせい。私のせいでみんな死んじゃったの。私のせいで、お母さんも、お父さんも---」 違う。あなたはなにも悪くない。悪いのは全部、弱い私なのに---
13 19/04/25(木)02:38:42 No.586236441
「ありがとう、お母さん。お母さんはいつも優しいんだね。 私、お父さんに似てるってよく言われるんだ。だから、なんでお父さんがお母さんのこと好きになったのか、わかる気がするの」 声がどんどんと弱くなる。もう、聞こえないほどに--- 「もし、生まれ変わってまた人間になれたら、次もお父さんとお母さんの子供に、生まれられたらいいな--- ごめんね、もう、疲れちゃった。少し、眠るから---」 そう言った彼女の瞳が、開くことは二度となかった。 わかっていた。こうなってしまうと。私も、彼も、この子も。けれど、それでも、この子は私たちに愛を遺してくれたのだ---
14 19/04/25(木)02:39:20 No.586236496
「もう、終わりだね」 彼がそっと口にする。そうだ。これが最期なのだ。私と、彼の。 「守って、あげたかったなぁ。君も、あの子も」 静かな、けれど寂しそうな声だった。まるで、遠くに行ってもう帰ってこないものを、懐かしむような。 「ねえ、カーマ。最後だから、一つだけ言おうと思うんだ。 世界中の誰よりも、何度生まれ変わっても、君を、愛してる」 愛してる。私がかつて、一番嫌いだった言葉。 でも、今は--- 「はい。私も、ずっと、ずっと、あなたを愛しています」
15 19/04/25(木)02:39:44 No.586236537
この町の離れには、少しだけ有名な場所がある。 そこには元々家が建っていたのだが、火事で焼け落ち、そこに住んでいた夫婦とその娘もそのときに死んでしまったのだという。そのせいか新しい建物を建てようという動きもなく、瓦礫が片付けられてからは手付かずのままなのだ。 だが、この場所は心霊スポットとして有名なのではない。 不思議なことに、誰が種を蒔いた訳でもないのに、春になるとそこには色とりどりの花が咲き乱れるのだ。その場所が町を見下ろす高台にあることもあって、休日は恋人たちで賑わうのだという。 この話を聞いたとき、私はこう思ってしまった。きっとそこには女神がいて、その家族の居場所を彩っているのではないかと。 【DEAD END】
16 19/04/25(木)02:40:37 No.586236608
このルートはこれで完結になります 別ルートは明日明後日にでも
17 19/04/25(木)02:41:43 No.586236696
なんで寝る前にこういうの見せるの…
18 19/04/25(木)02:49:18 No.586237284
過去ログがほしいわ
19 19/04/25(木)02:56:34 No.586237820
抑止力が良く知る誰かで、記憶がそのままだったら… これでインド関連だったりしたら… 宝具相性からアルジュナが選ばれたりしたら彼本気で折れる…
20 19/04/25(木)02:56:39 No.586237826
>過去ログがほしいわ http://kako.futakuro.com/futa/img_b/585982838/ これかな
21 19/04/25(木)02:58:46 No.586237993
>抑止力が良く知る誰かで、記憶がそのままだったら… エミヤとかでもおいしいと思わないか どの衛宮でもいい感じにすり減ってくれるぞ
22 19/04/25(木)03:25:09 No.586239680
いい…いやエンディング的によくないけど
23 19/04/25(木)03:40:47 No.586240477
ボブに抑止力やらせて完全に壊れてもらおう
24 19/04/25(木)05:53:17 No.586244666
面白くて美しいけどぐあああぁぁって悶えて曇るからもうちょい優しい世界を…