19/04/14(日)14:57:06 夜の帳... のスレッド詳細
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19/04/14(日)14:57:06 No.583649899
夜の帳に 白銀の狼 全身傷だらけで丘に立ち 月を見上げている 両眼は深紅の輝きを宿し 曇りの一つも無い 孤独すら誇りだと その姿は語っていた 「寂しくないの」 声に出さず呼び掛けたけど こちらには一瞥もせず ただ静かに 静かに 夜は続く
1 19/04/14(日)14:57:17 No.583649945
窓からの薄い陽射しが 瞼を持ち上げた 「…おはようございます」 誰にも聞こえない声を出す 聞かせる相手もいないのだけど 夢を見ていた 気がする 黴と埃にまみれた部屋には似つかわしく無い 美しい狼の夢 「んっ…」 体育座りを崩し 前屈の姿勢でぺとりと倒れる 床も汚れが目立つけど 気にもならない 部屋に閉じこもって数日 飲まず食わずで居られる身体が 忌々しかった
2 19/04/14(日)14:57:34 No.583650005
雷雨の帳に 白銀の狼 濡れた身体を気にも止めず 曇天の空を見上げている 雷光が創り出す大きな影は 夜の闇よりも深い漆黒で 逆境こそ糧にする 勇猛さを現していた 「辛くないの」 声に出してみる こちらを向き 真っ直ぐに見据える 深紅の眼 ただ黙々と 黙々と 雨が降る
3 19/04/14(日)14:57:48 No.583650056
部屋の灯りが点いている事に気づくと 眠って…気絶していたのだと思い出した そしてまた あの白銀の狼に出会った事も 傷だらけだけど美しい 赤い双眸の狼 孤独も逆境も己とする 気高い生き物 今の私には とても 「すまなかったな 体は大丈夫か」 と、巽さんの声が聞こえた 壊れたドアと 椅子に座る彼 ああそういえば 気絶していたんだった
4 19/04/14(日)14:58:03 No.583650102
『―――覚悟が決まったら その箱を開けろ』 (覚悟…) 純白の箱を開くと 目に飛び込んだ赤いチェックの衣装 鏡の前に立ち 薄暗い中で合わせてみる 「あっ…」 久しぶりに見た自分の姿 白い髪に 赤い瞳 今の私に この衣装の袖を通す覚悟があるのか 確かめたい 確かめなくちゃ いけない
5 19/04/14(日)14:58:20 No.583650168
透き通る水鏡の上に 白銀の狼 血よりも紅い視線を 焼付く程に浴びせながら 光よりも白い身体を そよぐ風に靡かせながら 記憶の中の何よりも 気高く佇んでいる 「思い出したの」 声を掛け 歩み寄る ひとつ頭を撫でてやると 泡沫の様に消えて行った ただ一言 おかえりと囁き 夢は終わる
6 19/04/14(日)14:58:43 No.583650251
「待って下さい!私も行きまッ!!!!!」 メチャリとよろしく無い音がして 身体が宙に浮く 遠くなる意識の中で 吼えろと 赤い眼が語る あの白銀の美しさを 誇りを 勇猛さを 気高さを 私も――― 「ッ私は!”昭和のアイドル”…紺野純子です!」 私も 持っているはずなんだ 思い出したんだ あの狼は 私なんだから
7 19/04/14(日)14:59:02 No.583650317
その日の晩 鏡の前 月の光が 銀の髪を明るく照らし 私の瞳も 赤く璃々と輝いていた 「寂しくも 辛くも ないよ」 きっともう出会うことの無い狼へ 届かないお別れの言葉を 告げる 風も無く ただ静かに 静かに 夜は続く
8 19/04/14(日)14:59:13 No.583650355
おしまい
9 19/04/14(日)15:12:59 No.583653373
よか…
10 19/04/14(日)15:20:30 No.583654905
すっと読める短編でありんすなあ わっち好きでありんす
11 19/04/14(日)15:24:58 No.583655919
願わくば夜寝る前に読みたかった 好き
12 19/04/14(日)15:38:00 No.583658821
……レズじゃない!
13 19/04/14(日)15:38:45 No.583659003
白い箱に赤い服とか白い髪に赤い目とか なんかよかよね…上手く言えないけどよか…
14 19/04/14(日)15:44:06 No.583660233
美しい…