19/04/08(月)01:55:41 いつも... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1554656141135.png 19/04/08(月)01:55:41 No.582125452
いつもの朝のミーティングの後、私は一人残されて幸太郎さんと向かい合っていました。 今日は外のお仕事も特になく、いつも通り幸太郎さんが変なことするだけやったとけど…どやんしたとやろ。 「幸太郎さん、何で私だけ残したとですか?何か悪かことしたとでしょうか…」 ちょっと不安になって聞くと、幸太郎さんはしばらく間を置いて応えました。 「今日は何月何日だ」 「4月7日ですけど…」 「何の日か分かるな?」 「ええと何やったっけ…あ、分かりました!鉄腕アトムの誕生日ですね!」 「そうそう2003年4月7日。もう10数年以上も過去になる訳だが現代の技術水準ではまるで…って手塚治虫は特に関係ないわい」 「ここ佐賀ですもんね…じゃあえーっと…世界保健デーやったかな…?」 「ロボットも健康もゾンビィであるお前達には無縁のことだ。4月7日はさくら、お前の命日だ」 言われてようやくハッと気付かされたとです。確かに身も心も完膚なきまでに打ち砕かれたあの始業式の日と同じ日付でした。 死んでから今日でもう11年の歳月が過ぎたことになるとです。
1 19/04/08(月)01:55:59 No.582125502
「全く、自分の命日忘れるヤツがあるかこのボンクラゾンビィめ」 「この世に自分の命日覚えとる人とかおるとですかね…」 「ゾンビィ向け書類では必須事項だからよーく覚えておけ」 「書く機会なかと思うとですけど…えっと、それで命日だと何かあるとですか?」 このところずっと練習でもお仕事でも充実した日々が続いとったから、気に留めることもなかったとでした。 11年経過だと十二回忌になるから法要とかも要らないはずだし、今更自分の墓参りに行けということでもなかと思います。 「私はもうそやん気にしとらんですよ?きっと大丈夫です」 本当は何も思うところが無か訳じゃなかとですけど、何より今が大事やけん。必要以上に過去で苦しむことはしたくなかとです。 「お前は大丈夫かもしれん。だが周りが放っておくかどうか」 「…どういうことですか?」 幸太郎さんは普段とは違う真剣な表情を作って言いました。
2 19/04/08(月)01:56:13 No.582125534
「お前の死はアイドルになるための活動を始めたことが引き金となった。 だがそれまでにも努力が実らず苦しんだ時期があったろうが、それらとは一線を画す重大な事態を即時に招いている点が奇妙だ。 つまりこの日はお前にとって過大な厄日となっていた可能性を俺は疑っている」 「そ、それは…私の不注意が招いたことでもあるので何とも言えんとですけど。 …でも、幸太郎さんがそやんか俗信とかまじないみたいなこと気にすると、意外です」 「ゾンビィであるお前達がそれを笑い飛ばせるのか?」 確かにゾンビィであることも、失われた死体が復元されたことも、魔術とか超常の何かが無いとどうしたって無理なことでした。 絶対に教えてくれないので、私達がその詳細を知ることはこの先も無かと思うとですが。 「…もし本当に今日が凄か厄日やったとして、私はどやんなるとですか?もう失くす命も無かとに?」 「それは分からん。だが命日と同等の災厄が降りかかるとなれば、最悪の場合何らかの超常の事態が発生し、 お前はゾンビィの体を失いアイドルとしての継続が不可能になることも考えうる」
3 19/04/08(月)01:56:25 No.582125574
幸太郎さんの言葉に凍りつきました。途端、この一年でみんなや幸太郎さんと紡いできた豊かな思い出が蘇ります。 「そやんかと絶対イヤです。絶対イヤ。絶対、ぜったい」 取り乱して涙ぐむ私の肩に手を置いて、幸太郎さんが諭すように言いました。 「今のはあくまで最悪の事態での話だ。ただの杞憂かもしれん。だが何が起こるか分からん以上、対処だけはさせてくれ」 見つめる幸太郎さんの眼差しは真剣でした。 それで私は落ち着きを取り戻し、頷き返しました。 幸太郎さんの要求は、今日一日だけ特別に用意した部屋に篭って出ないことでした。 呪文やまじないの類を部屋や私自身にも施して、不測の事態に万全に対処するとのことです。 「分かりました。…でも一つだけ確認させて貰えますか?」 「何だ?」 「そやん処置を私にするとは、幸太郎さんが私を心配しとらすからですよね?」 「それは…まあそうだが…」 私は満面の笑顔でお礼を言いました。 それさえ聞ければ、一人で篭っても全然頑張れそうな気がしたとです。
4 19/04/08(月)01:57:03 No.582125679
そして私は案内された小部屋に篭ることになったとです。 古今東西の妙な呪具が配置され、怪しい古物商店のような趣になっとりました。 私自身にもメイクの代わりに呪文のような文字が描かれました。何だか耳無し芳一の気分。 そして部屋は締め切られ、幸太郎さんの手で外側や窓の方も呪文みたいなもので埋め尽くされました。 そのうちになにやら工事する音まで聞こえてきたとです。 物理的耐久度も上げたいということらしく…純子ちゃんご苦労様です。 部屋に一人篭ることになった私ですが、特に退屈することもなかったとでした。 なぜなら結成から現在に至るまでのアイアンフリルアルバム集とプレーヤーが置かれていたから。 これさえあれば一週間だって余裕でイケます。 何よりみんなが頻繁に部屋を訪ねて来てくれたとです。 扉越しに色々な話をしてくれて、何かと気遣ってくれるとでした。みんなの気持ちが本当に有り難かったとです。 …そして結局、夜になるまで何も起こりませんでした。 「さくらちゃんさくらちゃん」
5 19/04/08(月)01:57:17 No.582125720
もう寝ようかなと思ったところで、扉越しにリリィちゃんが呼びかける声が聞こえました。 「今日リリィたちここで寝るね!いいでしょ?」 「えっ…もしかして廊下で?嬉しかけど、そやんかことまでして貰うと申し訳なかよ」 「全然平気!みんなも一緒だし!ね?」 「あー、ちんちくがどうしてもって聞かねえけんなー」 「ぶー。サキちゃんだってすっごく心配してたくせにー」 「アイツも気にしてるみたいだしね。少しは安心するでしょ?」 「こういうのもちょっと非日常的で楽しいかもしれませんし」 「何かあってもわっちらはゾンビィでありんすから、きっと平気の平左でありんしょう?」 みんなの優しさが身に沁みて涙が出そうだったとです。 あれ、そういえばたえちゃんは…窓の外にヤモリみたいに貼り付いていたとでした。 「…たえちゃん、大丈夫やけんお布団で寝よ?ね?」 「ヴェアー」 それから私も扉まで布団を持っていって、眠るまで扉越しにお喋りに花を咲かせました。 同じお屋敷の中なのに何となく非日常的なワクワク感までして、とっても楽しく過ごせたとです。
6 19/04/08(月)01:57:31 No.582125758
いつの間にか私は夢を見ていました。 私はなんとお姫様で、みんなは騎士だったり魔法使いだったり。 そしてみんなで私を色々な魔物から守ってくれるとです。 変な状況だなあと苦笑しながらも、とっても嬉しい楽しい夢でした。 ありがとうみんな。さくらは果報者です。 翌朝。起きた私はすぐに扉を開けてみんなの元へ飛び出しました。 …何とそこにはぐったりした状態で布団に倒れ込む6人の姿が。 もう一歩も動けないという雰囲気、満身創痍で死屍累々といった様子だったとです。 「ど、どやんしたと…?何でみんなそやんボロボロになっとると?」 「お、おう…さくら、大事ねぇか…?」 「この通り、死んどる以外はぴんぴんしとるけど…」 「そっかー…良かったやん…すまんアタシは今無理だ頼む」 疲れ果てたサキちゃんがギブアップして枕に顔を埋めました。
7 19/04/08(月)01:57:46 No.582125795
夕霧さんが億劫そうに起き上がって説明を引き継ぎます。 「…実は、さくらはんが眠った後、この部屋に魑魅魍魎と思しき怪異の類が大量に現れて」 「ち、魑魅魍魎!?冗談ですよね!?」 「いいえ、嘘偽りなどありんせん。しかも奴ら、いかなる妖術を使ってか…さくらはんの髪の毛を根こそぎ奪って行ったでありんす」 「へっ…!?かっ髪の毛!?根こそぎ!?」 無くなったらアイドルとして致命的じゃなかと!? 慌てて髪の毛を確認したとです。…ある。大丈夫だよね? 夕霧さんを見ると、幸太郎はんのまじないはあんまり効果ありんせんでしたなぁ、と溜息を吐いとったとでした。 嘘を吐いているようには見えんとです…さらにリリィちゃんが勢い込んで続けました。 「リリィたちね、そいつら追いかけてたら変な世界に入っちゃって! それで頑張って戦って…やっとの思いでさくらちゃんの髪の毛取り返したんだよ?」 「超ヘンテコな話だけど、そういうこと。で、ようやくついさっき帰って来れたって訳…正直死ぬかと思ったわ」 「ゾンビィだけど何回か死んでましたね…あ、良かったちゃんとくっついてるみたいです」
8 19/04/08(月)01:57:59 No.582125829
「う、うえぇ!?」 何度も髪の毛を引っ張って取れないことを確認します。 「うひひ…つるっつるのさくら傑作だったわ。写真取っときゃ良かった」 「あ、リリィチェキ撮ってるよ。コレ」 「でかしたちんちく!ホレ見てみ?」 リリィちゃんが撮った写真には確かに…つるっつるの私が幸せそうに眠っている姿があったとでした。 頭がくらくらしてきたとです… 「それにしても、稲妻の妖術に果敢に飛び込む愛はんは勇ましかったでありんす」 「吸収して撃ちかえしてたよね!RPGの勇者みたいだった!」 「あはは、咄嗟にね…でも純子が工具一式持ってきてなかったら詰んでたかもね」 「良くない使い方ですが状況が状況でしたから…でも私なんてサキさんに守られっぱなしだったと思います」 「特攻隊長なんだから当然やろ?まー正直激ヤバかったばってん、敵隊長も気合でぶん殴ってやったたい!」 「ヴァイ!」「おー、何やかんやでたえが一番頑張ってたかもな。お前特攻隊向いてんじゃねぇか?」 みんなワイワイしながら迷い込んだ世界での武勇伝を話すとでした。
9 19/04/08(月)01:58:29 No.582125890
何だか置いてけぼりにされたような感じがするとです… 「えぇ…何かみんな楽しそう…ずるかー…」 「いやマジでヤバかったとぞ?」「ヴァヴァ(頷く)」 「うーん、捕らわれのお姫様にはちょっとさせられないかなあ?」 捕らわれたのって髪の毛だけたい! …やっぱりのけ者感があって悔しいとです。うーっとなってみんなに宣言しました。 「つ、次あったら私もみんなと戦うもん!守られるだけはイヤと!」 頬を膨らませてムキになる私が面白かったからか、みんなが笑い転げるとでした。本当に私も行くけんね! --- ゾンビィたちの様子を見ながら溜息を吐いた。結果的には収まったが、己の無力を痛感する結果だ。 …っていうかあんな百鬼夜行が来るとか考慮しとらんわメチャクチャ過ぎるだろアイツ。 まあそんな状況をどうにかしたのだから、アイツらも成長してるということで喜ぶべきなのだろうが。 きゃいきゃい戯れるゾンビィ達の姿を見ながら、ちょっと寂しさも覚える春の朝だった。
10 19/04/08(月)01:58:56 [sage] No.582125964
過ぎてしまいんしたが命日ネタでありんした 鬼太郎が毛根ごと毛を抜かれて力を失う話を思い出して
11 19/04/08(月)02:01:22 No.582126407
持っとらん力半端ないな…
12 19/04/08(月)02:02:19 No.582126563
いったいどうなってるの…
13 19/04/08(月)02:03:36 No.582126720
きっと髪を奪う星晶獣とかとバトルして帰って来たんやな
14 19/04/08(月)02:03:38 No.582126725
あの世と繋がる体の髪だから綱にすればもう一人分くらい引っ張り上げられる生唾物のレリックだ
15 19/04/08(月)02:07:37 No.582127208
こ…こわい…
16 19/04/08(月)02:16:14 No.582128130
ねぇこれ百鬼夜行呼び寄せたの巽が施した呪文やらまじないのせいじゃ… それはそれで面白いんだけど
17 19/04/08(月)03:54:29 No.582134766
ところでしれっとさくらちゃん全裸にして呪文書き込んでない?