ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
19/03/19(火)23:46:54 No.577451903
純子は部屋に独り、椅子に座って膝を抱えていた。 遠くからわいわいと賑やかな声が聞こえる反面、ここはとても静かで――― ほう、と息をつく、その音さえここでは一番大きな物音。 まるでかくれんぼをしてるみたい、と思う。 息をひそめて、じっと動かないで。 ゆっくりと流れる時間の中で、遠い喧騒に耳を澄ます。 固く閉ざされた扉は、そのまま世界を断絶する魔法の壁だ。 この世界に純子は独り。孤独と静寂に安らぎを覚える。 いつもは仲間に囲まれて、とてもとても楽しいことだけど――― 私はやっぱり『ぼっち』気質なのかしら、とほんの僅かな微笑みを浮かべた。
1 19/03/19(火)23:47:09 No.577451960
ううん、でも、やっぱり昔とは違うのだ。 だってこの安寧と仲間たちと、どちらがいいかと訊かれたら、 一片の迷いもなく仲間を取ると言えるもの。 それに。 それに今だって、別にかくれんぼをしているわけじゃない。 かくれんぼは誰にも見つからないことを目的にする遊びなのだから、 純子が今やっていることはむしろまったく逆だと言えるかも知れない。 純子は、待っているのだ。 ここに『あのひと』がやってくるのを。 フランシュシュのミニライブ後の物販とチェキ会。 その進行や記録、そして会場スタッフとの連携の為に休憩も取らず、 アイドル以上に大忙しだったそのひとが、遅い昼食を摂るためにこの控え室まで戻ってくるのを。 まるで美味しいお茶を淹れるため、葉っぱを蒸らしている時間のように、 純子は静かな気持ちで待ち焦がれている―――。
2 19/03/19(火)23:47:22 No.577452009
………。 ………でもこれはきっと、みんなを裏切っていることになるんだろうな、と純子は思う。 純子は昭和のアイドルだ。昭和のアイドル、だった。 だから現代アイドルのことがわからなくて、そのあり方や活動を拒絶してしまったこともある。 今仲間たちがやっているチェキ会がまさにそれ。 テレビの企画でもないのにアイドルがステージを降りて、 ファンと直接触れ合うことなんて昔は考えられなかったことだから。 紆余曲折を経て、結局純子はチェキ会に参加しなくてもいいということになった。 だから純子はいつもこうして、楽屋や舞台袖でイベントが終わるのを待っている。 ―――けど、純子だって現代に蘇ってもう長い。 今のアイドルとファンの距離感に、かつてほどの戸惑いは実のところ、もう無かったりする。 今、改めて仲間たちからチェキ会に参加してみないかと誘われたら―――。 もしかしたら、純子はこくんと首を縦に振るかも知れない。
3 19/03/19(火)23:47:35 No.577452062
……いや、そうじゃない。 きっと純子は勇気を振り絞って、自分からチェキ会に参加しますと言うべきなのだろう。 けれどそれをしないのは……。 これが私のキャラだと決めてしまったからとか、言い出すのが恥ずかしいからだとか、 色々な言い訳が頭をよぎる。 でも、やっぱり自分に嘘はつけない。本当のことは、たったひとつ。 チェキ会に参加しない代わりに販売するブロマイド。それを撮影するその時に。 短い休憩を取るであろう時間を見計らって、こうして控え室まで先回りしたその時に。 いつも忙しいあのひとを、自分だけが独占できる。 この特権を手放したくない。 それが理由だ。それだけが、理由なのだ。
4 19/03/19(火)23:47:51 No.577452120
我ながら、ひどい。 つまり今純子がここでこうしていることは、ただのサボタージュと変わらないということだ。 こんなこと、絶対に仲間たちには言えっこない。 言ったら間違いなく呆れられるだろうし、叱られるだろう。 それどころか、もしかしたら嫌われてしまうかもしれない。 そう思うと、耐え難い。ただでさえ動かない心臓がきゅっと冷たく縮こまるほどだ。 ああ、でも、やっぱりあのひととふたりきりになれるひとときはとても甘くて、嬉しくて。 ごめんなさい。やめられそうに、ありません。 うふふ。 ―――鏡を、見る。 そこにいたのは、仲間たちやファンのみなさんからは控えめで大人しい方だと思われている女の子。 でも、ここだけの話。実は私がフランシュシュ一番のワルで、不良なんですよ? そう思うと、なんだか可笑しかった。
5 19/03/19(火)23:48:07 No.577452175
そんな不良の私は、今日はあのひととどんなお話をしましょうか。 抱えていた脚を投げ出して、ぱたりぱたりと振ってみる。 いつも話題になるのは、やっぱりもちろんライブの話。 今日で言えば、印象的だったのはフランシュシュ3号である愛さんが、 間違えて自分を4号だと名乗ってしまったハプニングだ。 あまりにもハッキリ、堂々と間違えたものだからただただびっくりしてしまったのだけど、 思えばあの時、本物の4号である純子が面白可笑しく指摘するなりオトボケするなりしていれば、 もっと楽しい話になっただろう。反省。 間違えたと言えばある曲でサキさんが一番と二番の歌詞を入れ替えて歌っていたけれど、 あれは間違えて覚えてしまっているのかそれとも二度同じ歌詞にならないようにとっさに入れ替えたのか。 ……でもそういうことを言うと、他人の失敗に目ざとい女だと思われるかも知れない。 そんなのは嫌だ。やめましょう。 あとは―――……
6 19/03/19(火)23:48:23 No.577452248
……なんて考えていても、あのひとはとても忙しくてほんの少ししかここにいられないし、 いても軽くお弁当を食べる間だけだからそんなにお喋りはできないのだけど。 ―――と。純子はぴくん、と顔をあげた。 誰かがこの部屋に近づいてくる足音がする。大股の早足で、だけど―――…… ……これはあのひとではありませんね。 純子はまたつまらなさそうに姿勢を戻した。 案の定、きっと会場スタッフの方であろうその人はフランシュシュの控え室の前を通り過ぎて、 そのままどこかへ行ってしまった。 伊達にチェキ会の度にこれをやっていない。 今や、あのひととその他の人の足音の聞き分けくらいは朝ご飯前だ。
7 19/03/19(火)23:48:39 No.577452317
それにしても、遅い。 いや遅いも何も、既にお昼時はとっくのとうに過ぎている時間であるわけで、 純子は勝手に当たりをつけて待っているだけなのだけれど。 ……もしかして今日は休憩を取らないか、 自動販売機でコーヒーを一本買って飲むだけというパターンかも知れない。 そういうことも有り得る。 だったら純子はこんなところにいないで、また会場が見える舞台袖まで戻るべきだ。 確かに純子はチェキ会には参加しないけれど、 その姿をちらりと見せたり少し手を振るだけでもお客様は喜んでくれるのだから。 どうしましょうか。どうしましょうか。 純子はそわそわと備え付けの時計を見て、あと3分待っても来なかったらステージまで戻ろうと決めた。 結果―――
8 19/03/19(火)23:48:53 No.577452370
……結局10分も粘ったけれど、あのひとは来ませんでした。 純子は溜め息をついて控え室を出、鍵を締めた。 罪悪感で気が重くなる。これでは、本当にただのサボタージュだ。 いや初めからただのサボタージュなのだけど。 と。 「なんだ、純子。これから戻るところだったのか」 角を曲がったところで、ばったりとでくわした。 純子がずっと待っていた、黒いサングラスののっぽさん。 純子たちのプロデューサー、巽幸太郎さんそのひとだ。 「あ―――、はい。その……あ、鍵、お返しします」 「悪いな。もしかして待っていてくれたのか?」 「いえ……そんなことは」 純子は慌ててぱたぱたと手を振った。 その通りですなんて、言えるわけがない。
9 19/03/19(火)23:49:07 No.577452424
それにしても、タイミングが悪いとはこのことだ。 一度出てきてしまった以上、ここから引き返すのは不自然だし。 「じゃあ、私はこれで……」 「おう。すぐ戻るが、何かあったら楽屋にいるからな」 「はい」 純子は寂しげに微笑んで、たっと小走りに駆け出そうとして――― 「純子」 呼び止められて、立ち止まる。 なんでしょうかと思い振り返ると、何故か幸太郎はそっぽを向きながら頬を掻いて、 「あー……その、何じゃい。いや、やっぱりいい。戻っててくれい」 「なんですか?」 「……別に、何も」 「なんでしょうか」 「………………………」
10 19/03/19(火)23:49:27 [おしまい] No.577452504
ずいと一歩迫る純子に、幸太郎はやっぱり目をそらしながら――― でも、気恥ずかしげに少しだけ頬を染めて、 「大したことじゃない。今日はお前の茶が飲めんな、と思っただけだ」 「………………………」 「い、いやホレ、ここ最近、チェキ会やっとる裏で休憩入れる時は いつも楽屋でお前が待っていて、茶ァ淹れてくれたろう。 だからちょっと、ほんのちかーっと、な。残念に思っただけじゃい」 純子はぱちぱちと目を瞬かせたあと――― 「――――――わかりました。じゃあ、一杯だけ!」 と満天の笑みを浮かべて、足取りも軽くその隣に並んだ。
11 19/03/19(火)23:51:18 No.577452871
待つ女よかね…
12 19/03/19(火)23:51:32 No.577452923
はいお前かわいい
13 19/03/19(火)23:52:10 No.577453076
ずるかー!
14 19/03/19(火)23:52:54 No.577453231
ずるずるきのこ!
15 19/03/19(火)23:53:42 No.577453425
不良きのこ…!
16 19/03/19(火)23:54:13 No.577453534
あー心がキュンキュンするでありんす
17 19/03/19(火)23:54:13 No.577453538
卑しい純子好き
18 19/03/19(火)23:56:31 No.577454078
昭和の香りがする よか…
19 19/03/19(火)23:57:05 No.577454202
純子ちゃんは結構欲望に忠実なのがいいよね
20 19/03/19(火)23:57:15 No.577454232
ふふふ。
21 19/03/19(火)23:57:21 No.577454247
読ませるねェ…
22 19/03/19(火)23:58:41 No.577454553
>でも、気恥ずかしげに少しだけ頬を染めて、 >「大したことじゃない。今日はお前の茶が飲めんな、と思っただけだ」 >「………………………」 >「い、いやホレ、ここ最近、チェキ会やっとる裏で休憩入れる時は > いつも楽屋でお前が待っていて、茶ァ淹れてくれたろう。 > だからちょっと、ほんのちかーっと、な。残念に思っただけじゃい」 はいお前可愛い
23 19/03/19(火)23:59:19 No.577454689
卑しい純子ちゃんよか…
24 19/03/19(火)23:59:46 No.577454776
待ってるといろんなことが思い浮かぶよね…
25 19/03/20(水)00:01:31 No.577455224
足音で分かるレベルなのが重いよ!
26 19/03/20(水)00:02:17 No.577455419
3分待つと言いながら10分待つ純子ちゃんやーらしか
27 19/03/20(水)00:04:05 No.577455810
いいよね幸太郎も無意識でも惹かれているの 幸純は心洗われる
28 19/03/20(水)00:06:22 No.577456303
4号の怪文書を読んでると脳内が少女漫画になってしまう
29 19/03/20(水)00:07:37 No.577456585
独特の世界でいいよね
30 19/03/20(水)00:08:06 No.577456696
こんな特権があるならそりゃ愛ちゃんも4号になりたがる
31 19/03/20(水)00:08:28 No.577456767
哀愁きのこ
32 19/03/20(水)00:08:41 No.577456822
そういえばサガロックの時も椅子の上で体育座りしてたな…
33 19/03/20(水)00:11:28 No.577457480
抱きなんし!!!!抱きなんし!!!!!!1!!
34 19/03/20(水)00:13:16 No.577457906
昭和は独白がよく似合う
35 19/03/20(水)00:13:42 No.577458002
楽屋でアイドルがPに抱かれるのはまずいよ!
36 19/03/20(水)00:13:48 No.577458022
一杯だけ おかわりはどうですか? もう一杯?すぐに入れますね! ついでに私もいただきます 落ち着きますね(ドキドキしてます)
37 19/03/20(水)00:14:52 No.577458266
紅茶も緑茶も似合うのは良い…
38 19/03/20(水)00:15:46 No.577458454
1人でトイレに呼びに来るし 1人だけ巽の予定を聞き出してる卑しいきのこ
39 19/03/20(水)00:17:07 No.577458780
>それに今だって、別にかくれんぼをしているわけじゃない。 いやしんぼでありんす
40 19/03/20(水)00:19:40 No.577459391
19歳が足パタパタとかあざとかー!
41 19/03/20(水)00:23:05 No.577460229
きっと出かけるときはいってらっしゃいをするし きっと玄関で待ってておかえりなさいを言うのが日課
42 19/03/20(水)00:23:41 No.577460374
私仕事をサボっちゃってますよね…ってぽつりと漏らすと 次からチェキ会終わって戻ってくる皆の分のお菓子の用意をしとけとか控え室を掃除しとけとかちょっとした仕事を横暴げに振られるようになって 巽さんに気を使わせていけないなぁと思いつつも嬉しくなっちゃう奴
43 19/03/20(水)00:26:18 No.577460943
ステージの陰に隠れるのもキャラ作りって仕事の内だからね… 私生活っぽいブロマイドは大好評だからね…
44 19/03/20(水)00:37:00 No.577463614
それが私のキャラだと言ってやりなんし!