虹裏img歴史資料館

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19/03/11(月)23:51:36 澄んだ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1552315896835.png 19/03/11(月)23:51:36 No.575565994

澄んだ青空に伸びる、少々古ぼけた煙突を星川リリィが眺めていると、生前自身の父親に、自分の元から去ったりはしないかと詰め寄った記憶が彼の頭をよぎった。母の死について、自分の中で整理をつけようとした。言われた通りに、前を向いて生きようとした。それでも、時たまそういう感情が抑えきれなくなる日があった。そういう日は、大抵夜だった。母親を奪っていったその日のような、寒い寒い夜に良くそういう気分になった。そうなると、父親から否定の言葉を引き出さずにはいられなくなった。 「そろそろ別れの時間だ。今ならまだ間に合うぞ、リリィ」 自分と煙突を隔てる、車の窓ガラスの内側。助手席に座る自分、その背後から聞こえる男性の声。リリィはわざとらしく不機嫌な様子を作ってから、顔だけを向けてその声に応答する。 「しつこいなあ。いいって言ったでしょ」 リリィはそう言うと、話しかけるなと言わんばかりに、再びその小さな顔を窓ガラスの外にプイと向ける。子供っぽい振る舞いだと自分でも思いながら。

1 19/03/11(月)23:51:56 No.575566094

『ずっと、傍におるけん』 パピーは、約束破るんだね。頭の中にふと浮かんだその言葉を、リリィは即座に取り消し、嘲笑う。父を独り残したのが他ならぬ自分である事を、彼は強く自覚していた。主観の年齢がもうすぐ成人を迎える彼の頭は、彼を棺に泣き縋る少年のままにはしてくれない。 「……煙」 「昇っていくな」 「……只の水蒸気だよ」 煙突から微かに漏れる白煙を、リリィはそう形容する。それが魂ではない事を、彼はよく知っていた。 「……なんの話だ」 「別に」 リリィは白煙が途切れたのを見届けると、顔の向きをフロントガラスに向け、車のシートに背中を預ける。 「もういいよ、たつみ。ありがとう」 「……リリィ。お前に一つ提案があるんだが」 運転席に座る男、巽幸太郎の提案というワードに反応したリリィは、億劫そうに顔を巽の方へ向けて言葉を返す。

2 19/03/11(月)23:52:24 No.575566219

「なに?」 運転席に座る巽は腕を組み、正面を見据えている。彼のトレードマークである色眼鏡の向こうの表情は、助手席からは伺う事が出来ない。 「人間に戻るつもりはないか?」 「……は?」 この男は、今なんと言っただろうか。信じられないという目を、リリィは一瞬覗かせる。 「……それってどういう意味」 「お前達を人間に戻す目途が付いた」 巽は淡々と、感情を込めずにそんな事を言う。何故、今日。不謹慎じゃないだろうか。不謹慎なのだろうか。まあ、適切な日だとは普通思わないだろう。普通、こんな話はしないだろうが。 「……何で、今日なの。態々今日言わなくても良いじゃん」 敢えて形容するならば、愚痴を言うような調子で、リリィは続ける。我儘を言っている。我儘な態度を取っている。分かっていても、問わずにはいられない。 「そんな事が出来るなら、パピーもマミーもそうしてよ。そう思っちゃうよ」 そう吐き捨てたリリィは、何となく巽から視線を逸らし、煙突の方に再び目を向ける。当然のように、そこにはしょぼくれた筒が空に伸びているだけの景色があった。

3 19/03/11(月)23:54:41 No.575566857

「いや、今日だからだ」 その言葉を耳にしたリリィは、顔は窓の外を向けたまま、意識を巽の方へと向ける。 「お前の死を奪ったのは、俺だ。再度人間として生きて、死んでくれ。リリィ」 変な事を言う。リリィはそう思った。巽らしくもない、ような気がする。そもそも、問いに対する答えになっているのだろうか。 (……寝てる所を叩き起こされたのを、死を奪ったって形容したのは何となく分かる。だけど、それを死んでくれって言葉で結んだ意味は。お互いが対応してるなら、死を与えるって事?やけにポエミーだけど辻褄は合うよね……そうすると、今は死を持っていないって事になる。ゾンビに死は無いとしたら、終わりはあるの?もしかするとその答えを知ってるからこんな事を言ってるのかも、っていうのは考えすぎかな) 思考に行き詰ったリリィがちらりと巽の方を見ると、いつからかじいっとこちらを見ていた巽と目が合う。 「何見てんの。きもい」 「……それは理不尽じゃろがい」 こうして巽の顔をまじまじと見るのは久しぶりだな、とリリィは感じた。少し出会ったころより老けた気がする、といったら怒るだろうか、凹むだろうか。

4 19/03/11(月)23:55:18 No.575566999

リリィの生前の最後の記憶と比べ、ゾンビとなってから再度見た父親は随分と老けていた。あれから6、7年が経っただろうか。そろそろ、老年に差し掛かろうか、という年だった。 パピーは、マミーは、肯定か否定か、どちらの返答をする事を望むかな。何となく、そんな事を考える。重大な局面で、亡者を思っても仕方がない。それでも、不孝の息子として、遅くとも多少の孝行をしたいという気持ちは本物だとリリィには思えた。 きっと、パピーとマミーならば、喜ぶ方がどちらかは別として。 「たつみ」 「……おう」 「リリィは、人間になりたい」 自分のやりたい方を選べと言うと思うから。 「……そうか。いいのか。大人になって可愛くなくなるのは」 「リリィ大人になっても可愛いから大丈夫」 「いい歳こいてお前」 「ふふっ……お願いね。たつみ」 「分かった。必ず人間にする。その後の事も任せておけ」

5 19/03/11(月)23:55:34 No.575567066

「その後って?」 「そりゃ、戸籍とか、通う学校とか、その辺のめんどくさい事全般じゃい」 「あー、学校かー。あんま考えてなかったなー……リリィの年齢的に……大学生?」 「はーいお前は小学生からでーす」 「いやちょっと待って。リリィもうすぐハタチなんだけど」 「いやお前享年の12歳でもギリギリの容姿してるのに19だの18だので通るわけないだろ」 「なんでそこで常識的になるの!?リリィ嫌だよ今更小学校通うの。ランドセルなんか背負ったら絶対皆にネタにされるじゃん」 「されればいいじゃないか」 「怒るよ」

6 19/03/11(月)23:56:04 No.575567208

数か月後 色々あって人間に戻った後の事。長きにわたる交渉の末、星川リリィは中学校に編入する事になった。そうして今日は編入日。制服に身を包み、編入先の校門の前に立つと、少しばかりの緊張が体をこわばらせる。中学に通うのは、人生でこれが初めてである。精神年齢の離れた自分が溶け込めるのかという不安もある。だが、いつまでも立ち往生するわけにはいかないと意を決して学校の中に 「そこの君―。小学生は入っちゃいけんよー?」 リリィが入ろうとしたところで、女子の声に止められる。 「……リ、僕はここの学生だよ?」 「ホント?それはごめん……確かに制服も来てるし……でも君みたいな小さい子見覚えが無いんやけど……」 この中学の制服を着た女子生徒が、リリィを訝しげな目で見る。三つ編みのツインテールに明るい茶髪、くりっとした目が快活な印象を人に与える。

7 19/03/11(月)23:56:55 No.575567441

「今日から編入するからね……ほら、学生証もあるよ」 「偽造……なワケ無いよね……ご、ごめんなさいぃ……」 「いや、大丈夫大丈夫。気にしてないから」 「でもとんだ失礼を……ん?」 「?」 「君……フランシュシュの6号ちゃんに似てるって言われない?」 ギクリ。一応、髪型だのファッションだのは変えてあるが、変装という程の事はしていない。性別の違いというのもあり多少ならばバレないだろうと高を括っていたリリィに緊張が走る。 「……まあ、偶にね。フランシュシュ好きなの?」 リリィは、一先ず話を逸らすことにした。 「そりゃあ、私は最古参ファンの一人で」

8 19/03/11(月)23:57:42 No.575567653

その時、少女の言葉を遮るように校舎の方からチャイムの音が鳴った。 「あ!!遅刻しちゃう!!」 少女はそう言うと、一目散に校舎に向け走り去っていった。 「……元気な子だなあ」 リリィは苦笑いを浮かべながら、校舎へと歩いていく。少女のせいで遅刻してしまったが、おかげで緊張が取れた気がする。 (あの子はフランシュシュのファンなのかな。だったら、同じクラスとかじゃない方が楽だなあ) 終わり

9 19/03/11(月)23:58:35 No.575567861

踊ってくれたあの子か

10 19/03/12(火)00:00:04 No.575568218

あー!あの子かー!

11 19/03/12(火)00:00:36 No.575568379

なんだかたつみは危うげだな…

12 19/03/12(火)00:01:32 No.575568610

お父さんのお葬式に出られないの辛いな…

13 19/03/12(火)00:02:13 No.575568765

古参幼女先輩か…

14 19/03/12(火)00:07:01 No.575569904

su2939544.txt 忙しい→体調崩す→体調崩したのでタスク溜まる→忙しい→治らない そういうわけで久しぶりでありんす 強い気持ちで休むのが大事だと思ったでありんす

15 19/03/12(火)00:09:02 No.575570415

20後半から30前半の加齢で老け込んで見えるって巽はかなりボロボロそうな…

16 19/03/12(火)00:13:00 No.575571340

フランシュシュは解散したのかな…

17 19/03/12(火)00:13:35 No.575571477

お久しぶりでありんす 養生しなんし!

18 19/03/12(火)00:15:45 No.575571990

>su2939544.txt 読んでて正雄おじさんの人かなって思ってたらマジだった ゆっくり休みなんし 書きたくなったら書きなんし

19 19/03/12(火)00:35:14 No.575576916

ゆっくり休んでまた書いておくんなし…

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