虹裏img歴史資料館

1 19/03/06(水)23:27:26 No.574306565

「まさか、大洗にこんなものが有ったなんて知りませんでした」 「いやー、『まさかのとき』に使おうと思ってたんだけどねぇー」 「本当は急病人の輸送用に生徒会費を貯めて買ったんだけど……今日まで使う機会が無くて」 「まぁ使う機会が無くて良かったんだけどねぇ」 「でも、もっと意外だったのは……」 「意外って言うなぁぁ！！」 　太平洋上を進む軽飛行機、ＦＡ－２００エアロスバル。 　西住みほはその機上の人となっていた。 　操縦桿を握るのは河嶋桃。 　付添に角谷杏と小山柚子が同乗していた。

2 19/03/06(水)23:27:42 No.574306644

「うちのガッコでヒコーキの免許持ってるのかーしましかいないんだよねー」 「それじゃあ、４月から誰が操縦するんですか？」 「新２年生の阪口さんに免許を取るよう頼んでるわ」 「春休み返上になるからちょっと気の毒だけど、あの子も乗り気でね」 「かーしまはヒコーキの免許くらい持ってた方がいいと思ったんだよね、ツブしが利くし」 「かいちょぉ！　私はもう合格したんですからそういう話はしないで下さい！！」 「ギリギリだったけどね」 「余計なこというなぁぁぁ！！」 「河嶋先輩、前！　前！」 　高度が不安定になりかけるのを必死で修正する。 　洋上をエアロスバルは南へ南へと進んでいく。 　遙か遠くの彼方に、目指す場所がぽつんと見えてきた。

3 19/03/06(水)23:28:15 No.574306798

　◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 　 「隊長、今日の予定ですが」 「ええ」 「１５００まで通常授業、１５３０から１７３０まで戦術確認の座学、以上です」 「１７３０で終わり？　何よ、ノー残業デーでもしようっての？」 「はい」 　途端に赤星小梅のほっぺが左右に伸びる。 　逸見エリカがぐにぐにとほっぺをつねると、小梅が脇に抱えていたバインダーを取り落としてじたばたと手を振り回した。 「いはい！　いはい！」 「あんたそんなことで来年度黒森峰が優勝できると思ってんの？　４時間は早いわよ４時間は！」 「ぷあっ……その後の予定が有るからですよぉ」 「何よ、その後の予定って」

4 19/03/06(水)23:28:41 No.574306923

「隊長のお誕生日パーティーです」 「はあああ？」 「いはい！　ひっはっはひゃれふぅ！」 　…………。 「誕生日パーティーもプレゼントも要らないって言ったでしょう。だいいち今日が誕生日だなんてすっかり忘れてたわ」 「自分の誕生日くらい覚えてて下さい……あいたたた」 「誕生日を祝う暇が有ったら戦車に乗って陣形の１つでも勉強してた方がマシよ。取りやめにしなさい今すぐ」 「もう会場も予約してありますし、機甲科全員どころか全校生徒の半数が参加するって言ってますから」 「はああああ？　なによそれ、数万人単位になるじゃないの！？」 「ちなみに残りの半分は会場に入りきらないのでライブビューイングで参加します」 「小梅、あんたのほっぺがどこまで伸びるか試してみていいかしら」 「……やめてください！　もち肌が千切れちゃいますぅ！！」

5 19/03/06(水)23:29:06 No.574307038

　◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 　 『レディースエンドレディース！　ウェルカムトゥエリカイッツミーズバースデーパーティー！！』 『イェェェェェェェェェェエエエエエエ！！！！』 　地響きのような大歓声。 　本来はドイツ語での挨拶が推奨されるところを、敢えてサンダーススタイルでの応酬。 　幾千万の少女達で埋め尽くされたアリーナは最高潮のボルテージに達していた。 『Ａｌｌｅｓ　Ｌｉｅｂｅ　ｚｕｍ　Ｇｅｂｕｒｔｓｔａｇ！！』 『声が小さーい！！』 『ＡＡＡｌｌｅｓ　Ｌｉｅｂｅ　ｚｕｍ　Ｇｅｂｕｒｔｓｔａｇ！！！！』 『聞こえなーい！！』

6 19/03/06(水)23:29:23 No.574307121

「……な、なによこのノリ。どうしてこんなことになったわけ……？」 「最初は内輪だけの小さなお祝いにしようと思ったんですが――」 「ですが？」 「我も我もと参加者が増えていって、試しに機甲科全員にアンケートを採ったら全員が参加したいという話になって」 「なって？」 「そのアンケートの内容が機甲科外に漏れた結果『機甲科だけズルい』『私たちもお祝いしたい！』という話になって」 「はぁ」 「結果的に参加者に尾鰭が付いてこのような状況になりました」 「なりました、じゃないわよ！」 「あ、エリカ隊長の演説の時間です。みなさんが静かになるまで黙って立ってるんですよ」 「何よそれ」 「演説の秘訣、だそうです」 「ふぅん」

7 19/03/06(水)23:29:41 No.574307228

　◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 　 　エリカの心打つ誕生日のお礼の演説の後、プレゼントの贈呈式が行われた。 　全員がプレゼントを贈ってしまうとプレゼントでエリカが圧死してしまうため、クラス毎に代表してプレゼントが贈呈された。 『――続いて、他校からのプレゼントの贈呈式です』 　継続、知波単、プラウダ、アンツィオ、サンダース、聖グロリアーナ……さまざまな高校から代表して一品ずつプレゼントが贈られてきた。 　もうこの時点で逸見エリカは細かいことを気にするのを止め、流されるがままになることにしていた。 『最後に、大洗女子学園からのプレゼントです』 「は？」 　台車で運ばれてきた、リボンのかかったひときわ大きな木箱。

8 19/03/06(水)23:30:02 No.574307319

　さすがのエリカも口をあんぐりと開けたまま閉じる事が出来ない。 「ちょ、ちょっと嫌な予感がするわ。あのプレゼントだけは後から開けるわね」 「でも、あのプレゼント『ナマモノ』って書いてますよ？」 「だから嫌なのよだから！！」

9 19/03/06(水)23:30:27 No.574307457

　◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「えへへ、来ちゃった」 「来ちゃったじゃないわよ来ちゃったじゃ！　あんたもほっぺたがどこまで伸びるか試してやろうかしら！？」 「いはい！　いはい！　えいあしゃんいはい！！」 　はたしてプレゼントの中身は西住みほだった。 　手書きのバースデーカードと『みぽりん１日フリーパス』と書かれたチケットを手に、木箱の中に入っていた。 「明日までエリカさんの好きなようにしていいからね！」 「そんなのこっちからお断りよ！」 「ふぇぇぇ……」 「あ、ちょっと言い過ぎた、泣くんじゃないわよ、ごめん、ごめんってば」 「てへ」 「嘘泣きぃ？」

10 19/03/06(水)23:30:53 No.574307587

「いはい！　いはい！」 　ほっぺを引っ張られて赤くなったみほが、涙目でエリカを見る。ご主人の命令を待つ子犬のように。 「誕生日プレゼントを渡さないとわたし大洗に帰れないよ」 「といっても、あんたにしてもらうことなんて――」 　しばらく思案顔だったエリカが、ポンと手を打った。 「そうだ、みほ、耳かきさせて」 「はい？」

11 19/03/06(水)23:31:17 No.574307699

　◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「き、緊張する……かな？」 「大丈夫よ、こうみえて射撃の腕もなかなかのものなんだから」 　エリカの膝の上にみほの頭が乗っかっている。 　ショートボブの髪をかき分け、耳を露出させると、エリカの指先に握られた耳かきの先がそっと近づいていく。 「あ……っ」 「何よ変な声出して。動いちゃダメよ」 「うん」 　みほの耳穴の中をコリコリと静かに掻いていくエリカ。 　時々もじもじしながら、極力動かないように我慢するみほ。

12 19/03/06(水)23:31:43 No.574307821

「えっと……エリカさん」 「なぁに？」 「なんで耳かきなんかしようと思った、のかな」 「ふっ」 「ひゃあん！」 　エリカが耳穴に息を吹きかけると、膝の上でみほの頭が暴れた。 　引き続き、梵天をそっと挿し入れる。 「……なんとなく、やりたかったからよ」 「それだけ？　わたしがやるんじゃなくて？」 「みほにされるより、したほうが性に合ってるかな、って」 「それだけなんだ」 「悪い？」 「悪くないよ……。ありがとう」

13 19/03/06(水)23:32:02 No.574307927

「はい、反対側」 　みほが起き上がると、エリカがひざをぽんぽんと叩く。 「えへへっ」 「結構耳垢がたまってたわよ、ちゃんと耳掃除してる？」 「え？　やだっ」 「――なーんてね、冗談よ」 「エリカさんのばかぁ」 　みほの手がぽかぽかとエリカの太ももを叩く。 　エリカはふっと笑いながら、みほの耳を引っ張り、そっと息を吹きかけた。 「ひゃあぁん！！」

14 19/03/06(水)23:32:42 No.574308134

おしまい 誕生日になんとか間に合った…

15 19/03/06(水)23:49:10 No.574312758

桃ちゃんに飛行機の免許は無理じゃねぇかな…

16 19/03/07(木)00:06:44 No.574317358

のびるほっぺいいよね

17 19/03/07(木)00:12:29 No.574318897

あの世界多分個人でヘリや飛行機くらい乗れそうだし…

18 19/03/07(木)00:20:27 No.574321174

>台車で運ばれてきた、リボンのかかったひときわ大きな木箱 会長の仕業だな…

19 19/03/07(木)00:20:53 No.574321269

愛されてるな…

20 19/03/07(木)00:22:43 No.574321777

小梅の言ってる演説の秘訣ってこれ…