虹裏img歴史資料館

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19/02/10(日)17:37:30 それは... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1549787850411.jpg 19/02/10(日)17:37:30 No.568451291

それは、いつかの夜。男と女が、一人ずつ、連れ立ってそこにいた。 男はプロデューサーで、女はアイドル。生者と死者。もつものと、もたざるもの。 虹の松原を見渡せる鏡山展望台。その景色を彼と彼女は、一緒になって眺めていた。 いつかの二人は、言葉をぶつけ合い、険悪な雰囲気を纏っていた。 だが今は違う。その仲睦まじい様子は、とても微笑ましい。 「綺麗な景色だな、さくら」 彼は彼女とこうしていられることが、とてもとても嬉しかった。 「そうですね、幸太郎さん」 そしてそれは彼女も同じ。その喜びを、二人で分かち合っている。 「お前と、お前の仲間が、この景色を守ったんじゃい」 「幸太郎さん、あなたは?」 「俺はただ、ワガママに付き合わせただけだ」 「もう、素直に誇ればいいのに。そのワガママが私達を、佐賀を救ったんですから」 「…さて、それはどうだろうな」 幸太郎は困った様子でそう答え、さくらの方に目を向ける。愛しい彼女を、その目に焼き付ける。

1 19/02/10(日)17:38:01 No.568451429

このままずっとこうしていられたら。 幸太郎とさくらはきっと、そう思っていたことだろう。叶わぬことだと分かっていて、なお。 それに、ただ願うだけなら、何の代償も支払うことはない。 願いは、叶えようとするからこそ、その代償を求めるものだ。 「お前たちは、じき消える」 「はい」 さくらたちは、フランシュシュは確かに佐賀を救った。 衰退の一途を辿っていたあの土地が再び衰退することは、たとえあっても随分先のことだろう。 しかしさくらたちが、繁栄する佐賀の行く末を見ることは、もう叶わない。 時間が来たのだ。 あるべきところに還り、再び永遠の眠りにつく時が。それは二度目の死だ。 「…二度も死なせることになった」 「二度も生まれて、幸せになれたんですよ」 ネガティブスパイラルは自分だけで十分だ、そう思いさくらは幸太郎の言を否定する。 そう、後悔なんていらない。望んで歩んできた道程だ。

2 19/02/10(日)17:38:24 No.568451507

「そうか、幸せだったか」 安堵した幸太郎は、朗らかな笑顔をさくらに向ける。 「ええ、とても」 さくらも幸太郎に笑いかけた。その笑顔は、いつか彼にだけ見せた光。 それは幸太郎にとって、希望と絶望の双方を伴っていた、甘い甘い毒だった。 毒にやられた男は、およそ正気の沙汰ではない望みを持つ。 果たしてそれは、叶ってしまった。いくつもの幸運が重なり、あり得ないことがあり得た。 だが決して順風満帆なばかりではなかっただろう。男の望みが叶い始めるまでは、10年かかった。 そのための代償は大きく、彼は失う度に傷ついてきたことだろう。 望みを叶える過程で得てきたもので満足して、立ち止まってしまってもよかったはずだ。 そう言ってくれた相手も、確かにいた。 それでも立ち止まらなかった。いいや、立ち止まれなかったのだ。 幸太郎は、意固地な男だった。誰になんと言われようと、止まらず突き進むことを決めていた。 だから紺野純子に対してあの説得が出来たのだ。頑ななのは幸太郎も同じで、同情しやすかったのだ。 そして、変わらないでいるのは決して悪いことばかりではないと、知っていた。

3 19/02/10(日)17:40:12 No.568451958

「お前にそう言ってもらえて、よかった」 そう言った幸太郎だが、やはり、どこかで納得していないところがあったのだろう。俯いている。 まさに、悲喜こもごもといった様子の幸太郎は、けたたましく振る舞うことの多い普段の彼からは、およそ想像し難い存在だった。 幸太郎はテラスの最先端まで行くと、力なく柵に寄りかかった。 「大丈夫。私はあなたを見捨てたりせんよ」 さくらはそっと幸太郎を抱き締めた。確かに感じる彼の体温を、彼女は噛み締めるように味わう。 「冷たい身体だ」 そのひどい言いぐさに、さくらは頬を膨らます。 「だが、俺にとってはそれが何より大事で、失いたくないものだった。そうだ、さくら。俺は、お前が好きだったんだよ。あの頃から、ずっと」 サングラスが、外れる。 「…やっぱり、そうやったとね。乾くん」 「そうだよ、源さん。いや、さくらさん。俺が君を、そんな風にしたんだよ」 見覚えのある顔が、そこにあった。 確信が持てていたわけではない。だが予感はしていて、それは正しかった。 それだけのことだ。

4 19/02/10(日)17:40:41 No.568452079

アイドルになりたいだなんて。持っとらん女と呼ばれる女が、何をバカな。 乾少年にとって、さくらはただの残念な女でしかなかったし、彼以外の多くもそう評価していた。 ある日彼は、そんな彼女の落とし物を拾ってやった。ただそれだけのことでしかなかった。 しかし乾少年は、その時見てしまったのだ。その、まばゆいばかりの笑顔を。 太陽よりも眩しくて、美しいと思えたそれに目をやられ、心奪われた。 そうだ。きっとその時から、源さくらはアイドルだった。 そんな彼女が初めて得たファン。それこそが乾少年で、今は巽幸太郎と名乗っている男。 「その喋り方、どうも慣れんね。戻して」 「そうか。そうだな、今さらよそよそしくなるのは、ひどく野暮だ」 「乾くんと、幸太郎さん。どっちで呼ばれたか?」 「それこそ野暮な話じゃろがい。どちらでもいい。お前が呼んでくれるなら、どちらでも」 さくらはしばらく考え込んだ。 「…うん、幸太郎さんがいい。名前の通り私を幸せにしてくれたから、そう呼びたかよ」 「そんな風に言ってくれると、名を改めた甲斐がある」 かつての乾少年は、名を孝太郎と言った。それもまた彼の生きざまには相応しい名だ。

5 19/02/10(日)17:41:03 No.568452181

「だが残念だ。お前にそう呼ばれることは、もうすぐなくなるからな」 「つれないこと、言わんで」 「だってそうだろう。お前はまた、俺を置いていってしまうんだ。そしてそれは、仕方のないことなんだ」 「散々、私たちをそっちのわがままに付き合わせてきたのに、こんな時になって、今さら、潔くなるんですか。だから最後の曲が、ああなんですか?」 「かもしれん。それに、俺もお前たちも、どこかで満足してしまっているんだ。でなければみんな、嘆き悲しんでばかりいるだろうが」 「まあ、そうなんですけど。いつかはその時が来るって、わかってました。でも」 さくらは腕に力を込め、より強く幸太郎にしがみついた。 「はなれたく、ない」 「さくら」 「わたし、あなたと離れたくない。誰よりもまず、あなたから離れるのが、いや」 「…俺もだよ」 力をなくした腕を振りほどくと、幸太郎はさくらへと向き直る。 「いいかさくら。お前はアイドルなんだから、泣くんじゃない。笑っていろ。それが、アイドルだ」 彼は彼女の顎を左手でくいと上げ、そう言った。それから二人はしばらくの間、見つめ合った。 長い月日の末、彼女が目覚めたあの日と同じように。

6 19/02/10(日)17:41:51 No.568452422

「アイドル、ですか」 「そうだ」 「あがんことするほどに、私を好きでいてくれたあなただけを、好きになるんはいかんの?」 「いかん」 「なして?」 「それはアイドルとして、一番してはいけないことだ。さくら、俺はお前にアイドルでいて欲しいんだ。お前の夢だ。そして、俺の夢でもある」 「いじわる」 「そう言われても構わん。お前の気持ちは、とても嬉しいがな。さくら、もう俺を呪うな」 「呪うだなんて、人聞きの悪いこと言わんでよ」 「俺にとって、あの笑顔はそういうものだった。まあ、あれはお前の祈りでもあったんだが」 祈り。祈りとはなんだろうと、さくらは首を横に傾ける。 「俺はあの時お前から、確かに願われたと思っている。アイドルになった私を、どうか見ていて欲しいとな」 惚れた弱みだ。叶えてやるしかないだろうと、幸太郎は懸命に足掻き、ついには叶えてみせたのだ。 「お前のファンになったこと…お前を好きになったことを、俺は、後悔していない」 唇が、重なった。

7 19/02/10(日)17:42:22 No.568452572

さくらの顔が、みるみるうちに赤くなった。 ゾンビがそうなることはないはずだが、確かに赤くなっていた。冷たい身体に、確かな熱が宿る。 「ずるかっ。幸太郎さん、ずるかよ…」 「アイドルは誰か一人だけを好きになってはいかん。だが、ファンはそうじゃない」 「そがん、屁理屈」 「そうだ。屁理屈だとも。それが俺という男なんだ、さくら」 「…そうですね。でも私、そんな幸太郎さんも、好きなんです。この想いは、なんと言われても止められない」 「やめろさくら!それは、違う!」 「いいや、違わん!今だけ、今だけはアイドルでもなんでもなかよ!私は、ただの源さくらやけん!」 アイドルとしての源さくらは、フランシュシュ1号という名前だ。源さくらではないのだ。 屁理屈には屁理屈。彼のわがままに、彼女は一歩も引かない。 「…そうか」 観念した幸太郎は、さくらからの好意を真正面から受け止める構えをとった。 「じゃあ、遠慮なく」 二人の唇が再び重なる。舌を絡ませ、溶け合っていく。

8 19/02/10(日)17:42:54 No.568452706

溶け合っていたものが、分かれた。 「これでいいか、バカゾンビィ」 「はい」 二人はまた見つめ合うと、どちらともなく微笑んだ。潔く別れる準備が出来たから。 「なら恋人ごっこはこれで終わりだ。これ以上は辛いだけじゃろがい」 幸太郎は寂しそうな顔をすると、仮面代わりのグラサンをかけた。 「…お前は俺に愛されて、幸せだったか?」 「当たり前じゃないですか!幸太郎さんはそうじゃなかと?」 「まさか」 「だったら笑って別れましょうよ。お互い、嫌いになって別れるわけじゃないんですから。潔く私の門出を見送ってください。あなたを私の未練にしたくないんです」 「泣きながら言うことじゃないんじゃい、このバカゾンビィ」 男の手が涙を拭う。そして女は、やはり笑いかけるのだ。 潔くなるのが難しくて、思い悩んでいるのは二人とも同じ。それでも精一杯、潔くなろうとするのだ。 二人は展望台を去り、皆のいる屋敷へと戻っていく。あの屋敷との別れも近い。 季節は間もなく春。出会いと別れが多くなる時期。ただ、幸太郎にとっては別ればかりだ。

9 19/02/10(日)17:43:25 No.568452839

「アイドルにしてくれて、ありがとう」 それはフランシュシュ一同が消える間際、遺していった言葉。 ファンに向けて遺したはずのものだが、ただ一人、そうではなかったかもしれないメンバーがいる。 フランシュシュ1号。またの名を、源さくら。 彼女はその言葉を、一体誰に向けたのだろうか。 それはきっと彼女にしかわからないし、この先もきっと、知らされることはない。 もう、いなくなったのだから。

10 19/02/10(日)17:44:00 No.568452994

それから、数年後のこと。 「…展望台でのこと、覚えてますか?」 「ああ、よく覚えてる」 「なんだかその、悪い気がしませんか?騙したみたいで」 「源さくらは死んだんじゃい。気にするだけ無駄だし、今さらだ」 「まあ、確かにそうなんですけど」 二度あることは三度あるという言葉がある。だが二人とも、いや誰もが予想だにしていなかったはずだ。 だが確かに三度目はあった。 そして二人は今、肌と肌を合わせながら、ベッドで語り合っている。 二人は夫婦で、もはやアイドルとは縁もゆかりもない。 だから二人はセックスをしている。 セックスを、している──。

11 19/02/10(日)17:45:44 No.568453489

一気にスケベな方に!

12 19/02/10(日)17:47:10 No.568453865

人間としてもアイドルとしても一回死んでまた生き返ったならば そりゃもうなんの遠慮も要らん…

13 19/02/10(日)17:47:43 No.568453997

!?

14 19/02/10(日)17:47:56 No.568454053

どんだけ死に別れてもまた逢えるなら凄いことだなネクロマンシー 巽が死ぬまで実質不滅

15 19/02/10(日)17:47:58 No.568454062

普通の女の子に戻りました!

16 19/02/10(日)17:48:26 No.568454184

このスレ画…ということは平もみじルート…

17 19/02/10(日)17:49:06 No.568454348

いい話でありんす… !? ドスケベでありんす!!

18 19/02/10(日)17:51:25 No.568454928

やりたい放題じゃねえか…

19 19/02/10(日)17:54:11 No.568455607

?!!!他のメンバーは死にっぱなしでありんすか?!!!

20 19/02/10(日)17:54:39 No.568455704

えっち!!!

21 19/02/10(日)17:54:40 No.568455706

>?!!!他のメンバーは死にっぱなしでありんすか?!!! 愛ちゃんは確か芸人になってたような…

22 19/02/10(日)17:55:08 No.568455821

つまり過去が不明なバイカーとかがいる世界か

23 19/02/10(日)17:55:14 No.568455846

なかよかねー

24 19/02/10(日)17:57:13 No.568456365

日野誰だっけ…マコトだっけ新たな名前

25 19/02/10(日)18:00:33 No.568457102

雷で焼け死んだアイドルのものまね芸人は凄い度胸だと思うよ、本人も起用する側も

26 19/02/10(日)18:02:54 No.568457644

起用する側というかプロデュースしてる人が人だしねモノマネ芸人…

27 19/02/10(日)18:03:12 No.568457715

さよならまたねでまたねしたと

28 19/02/10(日)18:03:22 No.568457746

まえあつさんが死んだ世界線のキンタロー。みたいなもんか…

29 19/02/10(日)18:03:36 No.568457797

>雷で焼け死んだアイドルのものまね芸人は凄い度胸だと思うよ、本人も起用する側も そのせいでずっと腫れ物のような扱いされるのも嫌だろうしね

30 19/02/10(日)18:16:30 No.568461139

よか…

31 19/02/10(日)18:18:00 No.568461513

落ち二行で思いっきりすけべに振り切れるの好きだよ

32 19/02/10(日)18:29:22 No.568464525

しんみりからいきなりスケベをぶち込まれて脳が混乱したけどよか…

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