19/02/08(金)17:08:23 「サキ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1549613303828.png 19/02/08(金)17:08:23 No.567918263
「サキ、私は絶対に死なんばい!」 自信に満ちた表情でそう言うと、麗子は単車に乗り込んだ。 (止めんね、麗子…死ぬんばアタシんほうだ、お前は逝っちゃいけん!) なんとかして麗子を止めようと必死に声を張り上げる。けれども、口から出てくるのは蚊の鳴くような細い声。駆け寄って単車から突き飛ばそうとしたが手も足も鉛のように重く、動かない。 何もできないでいる自分を嘲笑うかのように、無二の親友を乗せたバイクは鏡山の夜空へ飛び立った。そして、聞こえたのは耳を劈くような爆発音。間を置かず視界の全てがオレンジ色に染まる。 ──なして、なしてアタシやなくて麗子が死なんばいかんのか。 襲いかかる絶望に打ちひしがれながらも、麗子を燃やし尽くそうとする爆炎へ手を伸ばした。 すると次の瞬間、景色があっという間に反転する。気付けば見慣れた天井と青白い右手がその目に映っていた。
1 19/02/08(金)17:08:47 No.567918320
「……………………またこん夢か」 最近ずっと『あの日』の夢を見る。実際に馬鹿をやって死んだのはアタシなのに、夢の中では決まって麗子が鏡山で命を散らしていった。目の前の惨劇を止める事もできず、ただ見ているだけ…それが延々と繰り返されていく。 何度も、何度も、何度も…まるでふーけもんに罰を与えるかのように。 「………クソッ!」 自身の寝覚めの悪さに小声で悪態をつきながら、汗でじっとりと濡れた身体を起こす。 …とりあえず外の風にあたってこよう。そうすりゃ多少は気が晴れるかもしれん。 寝息を立てている皆をよそに、誰も起こさないよう足音を忍ばせて部屋を後にした。
2 19/02/08(金)17:09:17 No.567918395
「いやあ2号さん、本日は有難うございました!」 今日は『フランシュシュ2号』単体での仕事だった。 地元企業から「佐賀愛に満ちた2号さんを是非我が社の商品キャラクターに起用させて頂きたい」とのオファーを受け、数パターンの宣伝用ポスター撮影とローカルラジオCMの収録を行ったのだ。 仕事自体は何事もなく成功し、「今後も別商品でCM出演のオファーをするかもしれない」とまで伝えられた。 しかし、撮影中は昨夜の夢を思い出してしまい、どこか元気が出ない。それをおくびにも出さないよう努めたが、グラサンには見破られてるかもしれないと気が気でなかった。 その後「俺はまだ打ち合わせがあるからお前は外で待っとれい!」と追い出されたアタシは、公園のベンチに腰掛けて物思いに耽っていた。 昨日のアレは思い出しちゃいけん…気が滅入る。 心の中に靄がかかった感覚。できるだけその不快感を遠ざけるよう、楽しかった思い出を頭の中で反芻する。すると、どこからか聞こえてくる馴染みのある声。 「2号さーん!お久しぶりです!」 その方向に視線を向けると、原付から降りてこちらに駆け寄る万梨阿の姿があった。
3 19/02/08(金)17:09:43 No.567918451
「おう万梨阿!元気しとったか?」 「はい!この間のライブ以来ですね…あん時の2号さん、がば素敵でした!」 「そりゃよか…万梨阿、いま暇やけんちっと付き合えや!たまにはファンと交流するのもアイドルの役目ばい!」 …一人でいると気分が落ち込むけん、ゾンビィバレせんやったらファンとの交流くらいグラサンも許すっちゃろ。 アタシはベンチの隣をポンポンと叩き、万梨阿へ座るよう促した。 余計な事を言わないように気を配りつつ、心に巣食う不快感を誤魔化そうと笑い話を続ける。 「でよ、3号が言いよったんだ。『なんなの!?』って…」 そんな話をしていると、万梨阿が少し落ち込んでいる事に気がつく。 「……なんかあったと?」 「いえ、何でもなかです…2号さんにこれ以上迷惑かけられん」 「そがな心配いらんけん、話してくれんか…?アタシが相談に乗ってやるくらいばできっけん」 麗子の愛娘だから…という訳ではないが、気が沈んでるなら少しでも助けになってやりたい。 …現在進行形で気が沈んどるアタシが言えた事じゃなかけど。
4 19/02/08(金)17:10:19 No.567918548
「…実は、お母さんに怒羅美を続ける事を認めてもらえんとです」 「あー…お前の母ちゃん厳しそうやけん、説得すんのは難しそうばい」 「いや、お母さんは怒羅美の初代総長やったらしいけど、そがん風には見えませんでした…いっつも悪くないのに、謝って…私はそれが嫌んなって当たってしまったとです」 アタシは麗子に意外な一面があった事に驚き、それと併せて20年という長い年月を実感する。 「けどあん時の母ちゃんは気合入っとったやろ?」 「…はい。あんな顔見たの初めてでした」 今でも思い出す、鬼のような麗子の形相。 20年分の重みがこもったパンチは、正直痛かった。 「なあ万梨阿、お前…殺女と決闘した時どやん気持ちやったと?」 「どやん気持ちって…?」 「アタシの感想ばってん、あん時の万梨阿は周りがなんも見えとらんやった。万梨阿自身はどうやったか聞きたか」 「………正直あん時はミサと決着を着ける事しか考えとらんかったとです。『怒羅美を守るために私がナメられてちゃいかん』って、そやんか事ばっかり考えてました」 「…そっか」
5 19/02/08(金)17:10:43 No.567918616
あの頃のアタシとまるで同じばい、と心の中で呟く。 そして、同時にこうも考えた。 あの頃のアタシと同じ。そがな奴を麗子が認める訳がなか。 「万梨阿、アタシはな…死ぬ事が怖くなかったと。その調子で実際に死んで……いやちげえ、死ぬ気で突っ走っとった」 その結果が今のゾンビィ生活だと思うと、悲喜こもごもで少々複雑ではあるが。 「今でも死ぬ事自体はなーんも怖くなか。だから常にアクセル全開にしとーと。けどな、万梨阿…例えアタシ自身はそれで良くても身近な人はそうは思わん」 「あっ…」 それは万梨阿にとっての麗子であり、同じ怒羅美の友人たち。 麗子を置いて逝ってしまった立場だからこそ、同じ過ちを繰り返させないために、自分が言わなければならない事であった。 「周りば見らんで走り続けて、それで死んだら一番悲しむんは遺された人たちと。やけんアタシは、死んで大事な人ば悲しませるのが一番怖か」
6 19/02/08(金)17:11:15 No.567918699
そう思いはじめたきっかけは、ちんちくの父ちゃん…ヤーさんがフランシュシュのイベントに来た事だった。 ちんちくとヤーさん。大切な人を置いて逝った者と遺された者の関係。 お互いに笑顔を作りながらも、内心はとても辛そうで見ていられなかった。 その時からアタシは『麗子もこがん辛か思いしとったとやろか』と思い始めるようになっていったのだ。 同時に、麗子を喪う悪夢を見るようにもなっていった。 「殺女と決闘した日に言うたよな…?『この勝負でホントに死んじまったバカがおる』って。そいつはおまえの母ちゃんの親友だったらしいんよ」 万梨阿の表情が急に険しくなる。 「私…お母さんの気持ちなんて考えとらんやった……」 「多分、アイツは万梨阿が同じように死んじまうんじゃねえか…って、不安なんやと思う。アタシには普通ってモンが分からんけど、多分これが普通ばい…って万梨阿、大丈夫と!?」 ふと隣を見やると、万梨阿がポロポロと大粒の涙を流していた。
7 19/02/08(金)17:11:37 No.567918747
「お母さんに酷か事言うて…私…あぁぁ…」 「…佐賀ん事以外で泣くなんて総長らしくなか。万梨阿は怒羅美を背負っていくとやろ?」 「ごめんなさい、2号さん…私…わたし…」 それでも涙は止まらないようで、特攻服の袖で目元を隠している。 「まあ、今日だけは泣かせちゃる。ほれ…カイロいくつも入っとるけん、ぬくかやろ?」 そう言って、万梨阿を優しく抱き寄せる。 あくまで貼り付けられた体温。それでも、万梨阿を慰め、温めてやるには十分だった。 「アタシは万梨阿が怒羅美を続けたいっつーなら全力で応援したるけん、これだけ約束してくれんか。怒羅美の八代目総長として『絶対に死なん』って」 かつての自分が守れなかった約束。だからこそ、怒羅美を受け継ぐ万梨阿にはそれを貫いてもらいたかった。 アタシがしばらく頭を撫でてやっていると、どうやら泣き止んだらしく恥ずかしそうに身体を離す。 目を真っ赤に腫らしながらも万梨阿の視線はアタシを強く見据えていた。 「2号さん、怒羅美の八代目総長として約束すっとです!…私は絶対に死なんばい!!」 その声には今までよりも強い意志が込められていた。
8 19/02/08(金)17:11:58 No.567918797
近くの道路に視線を向けると、見慣れた黒いバンが停まっていた。 打ち合わせが終わったのだろう、グラサンが窓を開けてこちらに手招きしている。 「悪りい、万梨阿。もう行かんと…」 「今日はありがとうございました…2号さんのおかげで、怒羅美を続けていく決心がついたとです!」 「おう、アタシ達も歌っとる通りばい。諦めずにいれば母ちゃんが気合認めてくれっけん、頑張れよ!」 ぺこりと大きくお辞儀をする万梨阿に手を振り、バンへ乗り込む。 心に巣食ってる靄はまだ晴れる気配がない。 けど、モヤモヤの正体はなんとなく分かった気がする。 万梨阿の気合、しっかり受け止めてやらんね。麗子。 アタシはバンの窓から、ずっと手を振り続ける万梨阿を見つめていた。
9 19/02/08(金)17:13:44 [sage] No.567919075
以上です なんか長くなったんでこっちにまとめたでありんす 幸太郎はんが別れを受け入れられないイメージが強くて悩み相談×2になってしまったでありんす su2877359.txt
10 19/02/08(金)17:22:44 No.567920411
思ったよりおつらい話だった 幸太郎はサキちゃんくらい割り切れる性格なら良かったろうに
11 19/02/08(金)17:26:44 No.567921047
サキちゃんマジリーダー
12 19/02/08(金)17:32:15 No.567921918
サキちゃんの家族関係に関してはノータッチだからまだ掘り下げできそうなのよね
13 19/02/08(金)17:38:23 No.567922870
よか… ここまで話すとサキちゃんが巽の内側に気がつくのも時間の問題なのかもしれないな