19/01/23(水)00:33:01 伝説の... のスレッド詳細
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19/01/23(水)00:33:01 No.564022823
伝説のアイドルプロデューサー・巽幸太郎は長い長い仕事を終えて、扉の前に立っていた。 とりあえず一息つこうなどと考えながらドアを開けると、その先には見慣れた面々。同じく伝説のご当地アイドル・フランシュシュの姿があった。 「あっ、おせーぞグラサン!こやんか遅くまで何やっとったと?」 「…サキは相変わらずうっさいのう、俺はずっと仕事しとったんじゃ、し・ご・と!」 するとリリィが何やら悲しげな目を向ける。 「たつみ、働きすぎは良くないんだよ?」 「これからはしっかり休むからええじゃろがい」 「…まあ、無駄にごまかしてた頃よりはマシなんじゃない?観光とか嘘ついて営業の打ち合わせやってた時に比べたら随分変わったわよ」 「そう考えると幸太郎はんも素直になりんしたなあ」 ゆうぎりも感慨深そうに呟いている。 「お前らに今更隠しても意味がないからな」 「確かに言えてるわね…とりあえず色々と聞きたい事もあるし、そこ座りなさいよ」 「ああ…これから長くなりそうだしな」 愛に促された幸太郎は、そのままソファへ腰掛けた。
1 19/01/23(水)00:33:32 No.564022952
「…にしても本当に様々な活動をされてたんですね、巽さん。あなたの指導を一番最初に受けられた私たちも鼻が高いです」 幸太郎の仕事ぶりを再確認した純子はほとほと感嘆していた。 「これが俺のキャラだからな…伝説のプロデューサーならできて当たり前じゃい!」 「けど風の噂で聞いたわよ。アンタプロデューサーのくせに自分の担当したアイドルとスキャンダル起こしたんだって?」 「あ、それは初耳です…!水野さん、詳しく聞かせて頂けますか?」 何やら食いついてしまったようで、話題を修正できそうにない。 「あれは勝手に言い寄られただけじゃい!そもそも誰が担当アイドルに手出すかこんボケェ!」 「アンタは本当にダメ男ね、まったく…」 「巽さんはそういう所がありますからね…私の時と同じで乙女の純情を平気で弄ぶ、悪い人です」 純子も冗談めかして笑いながら巽をからかう。 「だから話を聞かんかい!向こうが玉砕覚悟とかなんとか…」 「分かった分かった!事情聴取はあとでたっぷりしてあげるから覚悟しときなさい」 「黙秘権を行使しま「ダメ(です)よ」 伝説のアイドルコンビは、何やら楽しげに言い残し去っていった。
2 19/01/23(水)00:34:07 No.564023099
純子と愛を追いかけようとすると、ソファに座ったリリィがポツリと零す。 「たつみはまだ来なくてよかったのに…」 「こっちに来るのは俺の勝手じゃろがい…なんだ、リリィは俺に会いたくなかったのか?たえはこんなに喜んどるぞ?ほれほれ」「ヴァウ!ヴァウ!」 幸太郎は自分の頭をずっと甘噛みしているゾンビィを指差した。 「…会いたかったけど会いたくないの!たつみのバカ!」 そう言うとリリィはフイとそっぽを向いてしまった。 「悪りぃグラサン、ちんちくは知り合いに会うのが嫌なんやとさ。しばらくあのままで居させてやってくれんか?」 サキが小声でフォローを入れるが知ったこっちゃない。 幸太郎は構わずリリィの隣にドカッと座った。 「…なぁリリィ、そんなに俺が来るのが嫌だったのか?」 「………嫌に決まってんじゃん、たつみが来るのはまだ早いの」 幸太郎は膝を抱えて丸くなっているリリィの頭をワシャワシャと撫でる。 「そんな事ないさ。俺はもう十分すぎるくらい楽しんで満足したからな…お前が気に病む必要はない」 「………………たつみのばーか」 苦し紛れの口撃も、照れが籠ってしまったのかうまく言葉にはならなかった。
3 19/01/23(水)00:34:32 No.564023198
ふと、物憂げそうにこちらを見つめるゆうぎりが視界に入った。 「何か気になる事でもあったのか?」 「……幸太郎はん、あの人はどうしているでありんすか?」 どうやら古い友人が無事にやっているか心配だったらしい。幸太郎は、「それなら」と前置きしてあの小憎らしい仙人が今も現役である事を伝える。 「数日前にアイツの方から会いに来たよ。『俺にはまだやるべき事が沢山あっておちおち死んでもいられねえ…ゆうぎりの事はよろしく頼む』だとさ」 「『やるべき事が沢山ある』…あの人らしいでありんす」 「まったく…あのジジイのバイタリティにはついて行けんよ」 それを聞くと、どうやら安心したようでゆうぎりの顔が綻んだ。 「ほんに徐福はんは何年経っても変わりんせんどすなあ…」 「あのジジイは何があっても変わらんさ…何年経とうが、何十年、何百年経とうがな」 「幸太郎はんも素直にはなりんしたけど、根っこはそのまんまのようで…わっちもほっとしんした」 部屋の扉の前で、サキがゆうぎりに手招きしている。どうやらさくらを除いた6人は何か用事があるようだ。 「悪りい…アタシ達は先行っとるけん、さくらとグラサンも早く来いよ」
4 19/01/23(水)00:35:00 No.564023332
そして部屋に残されたのは、幸太郎とさくらのただ二人。 「幸太郎さん…色々言いたい事はあるっちゃけど、まずはお疲れ様です」 さくらはペコリとお辞儀をして、彼がこれまで歩んできた旅路をねぎらった。 「…私たちがこっちに戻ってから50年間、大変だったみたいやね」 「ああ、それはもう…いくら話しても時間が足りないくらいだ」 「幸太郎さんが話しきれなかった事もここに来た人たちから沢山聞いたと…落ち目やったアイアンフリルをトップアイドルまで蘇らせたり、風前の灯やった佐賀に活気を取り戻してくれたり…他にもいろんなアイドルをプロデュースしてみんなスターダムに押し上げて…そやんか事もぜーんぶ知っとる」 「………」 「幸太郎さんは、私たちも佐賀も、みーんな救ったとよ」 「違う…俺は…お前を、お前らを救えなかった!ゾンビィにした挙句、二度目の死を迎えさせてしまった!」 それはフランシュシュが黄泉国へと帰ってからの間、ずっと心に残り続けていた後悔だった。 「そやんか事なかよ…私も、みんなも、幸太郎さんがいたおかげで未練なくここにおると」 「……今までよく頑張ったとね、幸太郎さん」
5 19/01/23(水)00:35:26 No.564023455
幸太郎はさくらの言葉を聞いて膝から崩れ落ちる。 「私はあなたのおかげでアイドルになるって夢を叶えられた…あなたのおかげで精一杯生きた証を残せた。けど、それは私だけじゃなか」 50年越しの感謝。その一つ一つが、幸太郎の心に熱く染み渡る。 乾という名を捨てた日から、全ての歳月をアイドルを輝かせる事に費やしてきた男。サングラスに隠されたその目からは涙がとめどなく溢れていた。 神に背き、禁忌を犯した。それでもたった一人の笑顔を糧に数多くの蕾を、徒花として散らす事なく綺麗に咲かせてきたのだ。 全ての原動力となった彼女の一言で、男は自分の歩んできた途方もない道のりが報われていく感覚に包まれた。 「さくら…俺は……」 泣き崩れる幸太郎を、さくらは優しく抱き寄せる。それはまるで、赤子に慈愛の眼差しを向ける母のようで。 「今まで幸太郎さんに救われた子たちば沢山おるけん…あらためてこれだけは言わせて」 「……私達をアイドルにしてくれて、ありがとう」 巽幸太郎という一人の男にとって、その言葉こそが一番の『生きた証』だった。
6 19/01/23(水)00:36:13 No.564023666
暫くして涙も止まり、落ち着いた幸太郎にさくらが語りかける。 「…幸太郎さん、もう休んでもよかですよ?」 「ここに来る前はそう思ってたさ…人生80年近く走り続けてやっと休める、これから一息つこう、ってな。だけど、お前らの姿を見てたらまた気力が湧いてきた…不思議なもんだな」 「そっか…ならまた私たちのプロデュースをしてもらうけん、今後ともよろしくお願いします!」 「…………はい?プロデュース?」 幸太郎はまるで知らない単語を耳にしたような素っ頓狂な口調で繰り返す。 「そう、プロデュース!私たちこっちでもアイドル活動しとったけん、みんなライブの準備で先に行っとるんよ!」 「ライブ…ほう…え、ライブ?ここで?」 かつての自分が行っていた急な要請。それを自分に向けられた幸太郎は何がなんだか理解しきれないようで。 「そう!これまでずっと働いてきた幸太郎さんには悪いかなー…って思ったっちゃけど、もしまた一緒に活動できるなら…よかですか?」 ばつが悪そうに頼み込むさくら。その申し訳なさそうな視線に動揺を隠しつつも、状況を把握した幸太郎は言葉の端々にワクワクを込めながら高らかに叫んだ。
7 19/01/23(水)00:36:39 No.564023764
「…俺は伝説のプロデューサー・巽幸太郎様じゃい!そんくらいの事は大船に乗った気分で任せんかい!」 すると、さくらはあの時と同じ満面の笑みを浮かべる。 「ありがとう、幸太郎さん!これでみんなもきっと喜んでくれるとよ!」 「…ここでまたフランシュシュをプロデュースできるんだ、何でもやってやるさ」 先程まで涙を流していた男の目は、かつてないほどの希望に満ち溢れていた。 「行こう、幸太郎さん…みんな待っとるけんね!」 二人は顔を見合わせると、皆の待つ光の先へ1歩、歩き出した。
8 19/01/23(水)00:37:01 No.564023857
死んだか…
9 19/01/23(水)00:37:51 No.564024092
以上です 巽幸太郎享年77歳でネタが思い浮かんだけど難しかったでありんす ただフランシュシュと話してる時の幸太郎の見た目は27歳verだと考えてるでありんす
10 19/01/23(水)00:38:06 No.564024146
よかった…嫌な予感がしたけどハッピーエンドだ…
11 19/01/23(水)00:38:18 No.564024217
なんて幸せな顔してやがる・・・
12 19/01/23(水)00:38:19 No.564024228
リリイは本当にいい子だな!!!
13 19/01/23(水)00:38:25 No.564024269
完全なる満足死
14 19/01/23(水)00:39:35 No.564024651
まさおがいい子すぎて泣く
15 19/01/23(水)00:41:09 No.564025082
>完全なる満足死 何やらじゃなくてちゃんと死ねたのはいいことだ…
16 19/01/23(水)00:42:20 No.564025387
若い頃どころかその後も無理してそうなのにそこまで生きたなら大往生だよ よく頑張ったよ
17 19/01/23(水)00:42:22 No.564025397
ちゃんと天寿を全うしたんだな
18 19/01/23(水)00:42:37 No.564025471
フランシュシュ2度目の死の後よく立ち直ったな…
19 19/01/23(水)00:42:51 No.564025545
>リリイは本当にいい子だな!!! 再会できた嬉しさよりも死んじゃった悲しさが上回っちゃってて本当に可愛いしえらいし読んでてうるっときてしまった
20 19/01/23(水)00:43:11 No.564025648
みんなが先に逝って幸太郎が一人生きてきたのか…
21 19/01/23(水)00:43:41 No.564025788
>若い頃どころかその後も無理してそうなのにそこまで生きたなら大往生だよ >フランシュシュ2度目の死の後よく立ち直ったな… そこはホラ…死に際にフランシュシュ全員で「末永く幸せに生きてね」って…
22 19/01/23(水)00:45:46 No.564026321
アイアンフリルが衰退してる…と思ったけど50年もたてばそりゃそうだな
23 19/01/23(水)00:46:07 No.564026415
イイ話だった…
24 19/01/23(水)00:46:58 No.564026591
>そこはホラ…死に際にフランシュシュ全員で「末永く幸せに生きてね」って… 呪いだコレ!
25 19/01/23(水)00:47:22 No.564026680
死後再開するってわりと定番なのに思いつかなかった すごくよかった
26 19/01/23(水)00:47:49 No.564026776
すぐにでも後を追いたかったがフランシュシュの誰かが長生きしてねと頼んだら愚直に守っちゃうんだろうなあ
27 19/01/23(水)00:47:58 No.564026812
幸太郎に会いたくないと言い張るリリィのいじらしさが…
28 19/01/23(水)00:49:24 No.564027163
フランシュシュの最期の頼み事なんて絶対に断れないよね…
29 19/01/23(水)00:50:30 No.564027428
まあ呪いどころか幸太郎がそれをモチベーションに伝説を作ってるし…
30 19/01/23(水)00:54:38 No.564028387
幸太郎さんは本当に他人のために生きるのが得意なお方…
31 19/01/23(水)00:57:09 No.564028965
巽…
32 19/01/23(水)01:02:25 No.564029940
しょっぱなであの世だこれ!て気付いて対ショック覚悟してたけど意外と大往生だった上に豪腕なハッピーエンドでよかった…
33 19/01/23(水)01:03:01 No.564030043
この世界では麗子やパピィはまだ来てないんだろうか
34 19/01/23(水)01:05:57 No.564030519
よか・・・
35 19/01/23(水)01:10:54 No.564031310
そうそうこういうエンドでいいんだこういうエンドで
36 19/01/23(水)01:13:23 No.564031638
「世界で一番のプロデューサーになって…」
37 19/01/23(水)01:13:48 No.564031706
あの世のアイドル業界とか混沌としてそうだな
38 19/01/23(水)01:21:23 No.564032787
伝説がゴロゴロいやがる…
39 19/01/23(水)01:23:38 No.564033066
立派な大往生でよかね…