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19/01/14(月)20:07:31 吾輩は... のスレッド詳細

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19/01/14(月)20:07:31 No.562029756

吾輩はロメロ。この洋館を守護する番犬である。 だが我輩の精神は単なる犬ではない。御主人である巽幸太郎を守護るべく、屍としての生を得た一人の紳士たる存在である。 御主人と我輩だけの住まいであったこの館にも、随分と人間が増えた。 その人間たちは同じ屍ではありながら、我輩と比べて随分と騒々しい者たちばかりである。住み始めた頃の静けさはもはや存在しない。 だが、それを御主人は喜んでいる様子だ。 ならば受け入れるべきであろう。御主人の喜びは、吾輩にとっても喜びであるからだ。

1 19/01/14(月)20:07:56 No.562029921

洋館に住む屍たちは複数居るが、その中でもとりわけ我輩に過敏な反応を見せる者が居る。 妙に湿度の高い白髪の人間の雌。名は『紺野純子』と呼ばれていたはずだ。 いかに洋館が広いとはいえ、限定された空間である。様々な場所で顔を合わせることがあるのだが、その度に一歩後ずさり距離を取るのだ。 一体我輩が何をしたというのか。誠に遺憾である。 早急に問いただしたい所では在るが、そこは人間と犬。言葉が通じぬのではどうしようもない・・・と考えるのは常犬の発想であろう。 言葉が駄目ならば別の手段で探ればいいのである。

2 19/01/14(月)20:08:24 No.562030110

まず手始めに、接近への恐怖を無くすべきと考えた。玄関先でしっとりとした空気を感じた吾輩は立ち上がる。 「ひっ!?」 その声の主を探し周囲を見渡す。視線の先に紺野純子を見つけたが、案の定後ずさっていた。 他の人間が相手ならばすぐ側まで駆け寄る所だが、吾輩はゆっくりと近づく。速度は亀の歩みだ。 人間の感覚に限らず、自らに接近する物体の速度と恐怖は比例する。速ければ危険と無意識に判断するのだ。 故に吾輩はゆっくりと紺野純子に近づく。その選択は正解であり、怯えていた紺野純子の表情も近づくにつれ徐々に和らいでいった。 「あ、あの・・・なんでしょうか?」 紺野純子は手を体の前に出し、無意識に距離を取ろうとしている。 鳴き声は恐怖を助長することになりかねない。吾輩は無言で、自らの感触を味あわせるように、紺野純子の足に体を摺り寄せた。

3 19/01/14(月)20:08:52 No.562030249

しばらくは吾輩にされるがままの紺野純子であったが、敵意が無いということを理解してくれたのだろう。 紺野純子がすっと腰を下ろし、恐る恐るといった具合に吾輩に手を伸ばしてきた。吾輩はそれを何も言わず受け入れる。 手のひらが触れる。壊れ物に触れるように緩やかに繊細な動きで、紺野純子は吾輩を撫でた。 初めはむず痒さを感じる撫で方であったが、徐々に警戒が解けた手の動きは、吾輩に安堵と歓喜を与えてくる。 思わず吾輩の喉は鳴き声を発していた。 「・・・可愛い」 紺野純子は笑顔を見せる。どうやら吾輩に対して嫌悪を抱いていたわけでは無いようだ。それは安堵して良いだろう。 しかしならば何故、あれほどに過敏な反応をしていたのか不可解だ。 どうやらそれを理解するためには、もうしばらく紺野純子と時間を共有せねばならぬようである。

4 19/01/14(月)20:09:24 No.562030434

「ロメロちゃん・・・よしよし」 あれから幾日か経った後、紺野純子が吾輩を腕に抱き、名を呼ぶほどに関係性が緩和した頃。 我輩は紺野純子の怯えの正体をおぼろげながら察することが出来ていた。 その原因は、いま我輩の視線の先に居る。 「ヴー」 それは紺野純子の足にいつのまにか噛みついていた人間――山田たえであった。

5 19/01/14(月)20:09:51 No.562030600

紺野純子が自意識に目覚めたばかりの頃、彼女は山田たえの捕食対象であった。 その行動の真意を正確に述べるのならば、屍の本能と我輩の模倣を合わせた、山田たえにとっての『愛情表現』なのである。 だが当の紺野純子は、山田たえの外見が人間のためその真意に気づけずにいた。 なまじ人間の姿であるために、彼女は山田たえを。そして同じく言葉の通じない我輩を。『自らを傷つけるもの』として恐怖していたのだ。 だが自分と同じ山田たえの捕食対象である屍の源さくらと、犬である我輩と一つ屋根の下で生活を共にすることにより、ようやく彼女は山田たえの行動が求めるものに気づいたのだ。 「あ、たえさん・・・またですか、もう・・・」 紺野純子は少し困り顔になりつつも、足を甘噛みし続ける山田たえを振りほどこうとはしない。それは紺野純子なりの親愛表現なのだろう。 その後しばらくして源さくらが来ると、山田たえの捕食対象はそちらへと移る。紺野純子はそれを楽しそうに眺めていた。

6 19/01/14(月)20:10:29 No.562030832

「・・・私、美味しいんでしょうか?」 それゆえ、唐突な紺野純子の発言に我輩は戸惑った。今の発言の意図を問いただすべく、我輩は紺野純子の顔を覗き込む。 「ほら・・・私、たえさんによく噛まれますし。昔飼っていた犬もよく私の顔を舐めていましたし。もしかしたら私は美味しいのかな、と。ふとそう思っただけなんですよ」 理由を聞いてもまったく理解できぬ。我輩は困惑するばかりであった。 「さくらさんも美味しいんでしょうかね・・・」 どこか遠い目をした紺野純子にどう対処するべきか。御主人、どうか教えて欲しい。 困惑する我輩の顔の前に、紺野純子はそっと自分の指を差し出した。 「ロメロちゃん、味見してみてください」 この人間は何を言っているのだろうか。いや、この人間は我輩に何を求めているのだろうか。 「・・・あ、本当に噛んじゃダメですよ」 そう言いつつも、紺野純子の眼差しは我輩に無言の圧力を与えてくる。 我輩はその圧に屈した。やれやれと頭を振りつつ、その指を口に含む。

7 19/01/14(月)20:10:54 No.562030963

瞬間、我輩の全身を浮き立つような感覚が襲った。 幸福・興奮・愉楽・快楽・悦楽・愉悦・恍惚。そして忘我にも似た全能感。 全ての感覚が口中に集まったかのように、理性は容易く奪い去られ、感覚だけが優先される。 もっと先を―――我輩は、自らの牙に力を込めていた。指先の皮膚の薄皮を突き破るように―――力を―――。 「ん、あっ・・・」 紺野純子の嬌声にも似た声が耳朶を打ち、我輩は我に帰る。反射的に含んでいた指先から口を離した。 その瞬間、全身から汗が吹き出る。我輩は一体どうなってしまっていたのか。 混乱する頭を落ち着けようとする我輩の頭が、こつんと叩かれる。それは紺野純子の指先による叱咤であった。 「もう・・・駄目ですよ? めっ、です」 我輩の食んだ指先に血が滲んでいた。

8 19/01/14(月)20:11:25 No.562031174

紺野純子は、唾液に塗れたその指先を塗れた薄葉紙で拭き取っていく。 白い紙に、赤い血が鮮やかに滲んでいる。 「もう、いけない子ですね、ロメロちゃんは・・・」 その笑顔は、先程までと同じ表情であるはずなのに、何故か我輩の背筋を泡立たせる。 同時に、先程感じた強い感情の波が再び心をざわつかせ、我輩は唾を飲み込むのであった。

9 19/01/14(月)20:12:20 No.562031526

ほのぼのに見せかけたホラーだこれ!

10 19/01/14(月)20:12:28 [sage] No.562031574

漱石です 謎めいた昭和のアイドルとは良きものです (訳注:やーらしか純子ちゃんを書こうと思ったのにどうしてこうなった)

11 19/01/14(月)20:13:09 No.562031802

純子ちゃん美味しそう…

12 19/01/14(月)20:13:37 No.562031946

なんかこうエロいよロメロ…

13 19/01/14(月)20:14:09 No.562032161

ほのぼのしてて可愛いなーと思ってたら急にホラーっぽくなりやがって

14 19/01/14(月)20:14:24 No.562032244

伝説のアイドルの指を口に含めばこうもなろう

15 19/01/14(月)20:16:02 [sage] No.562032931

まとめ su2828227.txt 渋にもまとめました(乾巧以外)

16 19/01/14(月)20:18:42 No.562033918

キノコの旨あじ成分が出てるのかな…

17 19/01/14(月)20:43:00 No.562043411

好きよ

18 19/01/14(月)20:49:39 No.562045853

弱々かと思ったのにいい意味で騙された…

19 19/01/14(月)20:52:01 No.562046767

マッシュルームトリップ…

20 19/01/14(月)20:54:01 No.562047557

最後の2行だけ猟奇的だな…

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