虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    19/01/13(日)00:57:48 No.561561730

     ちゃりん。  パン、パン。  お賽銭を入れて、二回拍手をし、私は神様にお願いごとをする。  願い事は毎年――といっても数年前から同じことだけど。  あまり多くは願わないが、だからこそ絶対に叶えてほしいただひとつの願い。 (今年も愛ちゃんと一緒に元気でいられますように)  私と今横にいる少女ふたりぶんの息災を、5円玉ひとつで神様に願う。  ちょっと欲張りかなあと思わなくもないけれど、ありがたいことに今の所私も彼女も大きな怪我はしたことがないことを考えると案外神様も人間の横暴を許してくれているのかもしれない。  顔を上げてちらりと横を見ると、かの少女は手を合わせてぶつぶつと何かを呟いていた。

    1 19/01/13(日)00:57:58 No.561561768

    「…よし」  呪文のような願い事を唱え終わって、すっきりした顔で二回礼をしている彼女の願い事はいったい何なのだろうか。 「愛ちゃんは何お願いしてたと?」 「…言うと叶わないから言わないわ」  そっぽを向かれてしまった。 「えぇ~、そんなそっけないこと言わんと」  二人で参道を引き返しながら教えて、いや教えないの問答を繰り返す私達。あまり有名ではない地元の神社なのでそこまで混雑しているわけではないが、うっかりするとはぐれてしまう可能性もなくはない。  あ、そうだ。 「ねぇ愛ちゃん、はぐれたら困るし手繋がんとか?」 「…? 別に、いいけれど」  少し照れながらだが積極的に、愛ちゃんはコートに突っ込んでいた手を差し出した。 「あ、でも」  私はその手を前に、わざとらしく手を後ろに組む。 「願い事教えてくれないと手、つないであげんとよ?」

    2 19/01/13(日)00:58:09 No.561561798

    「……っ」  私の言葉に少し面食らったような顔をした彼女は少し俯いて考えたのちに、観念した様子で口を開いた。 「…私とさくらが、一年間幸せでいられますようにって祈ったの!」  耳まで真っ赤にしながら願い事を白状した彼女は、私の目の前に自らの手を突きつけた。 「ほら! 言ったんだから早く繋ぎなさいよ!」 「もう愛ちゃんったら照れちゃって、子供なんやけん」  そう言う私も――  顔が熱い、けれど。 「…そういえばそういうさくらは何を祈ったのよ」  手を繋いですぐ、彼女は私にそう問いかけてきた。 「え?」 「いやいや、私が教えたんだからさくらも教えなさいよ。何お願いしたの?」 「私の――お願い事はね」  ぷらん、ぷらんと繋いだ手を振りながら私の願いについて考える。 「何よ、早く言いなさいよ」

    3 19/01/13(日)00:58:20 No.561561849

     愛ちゃんは私を急かすけれど。  でも、でもまさか―― 「私のお願い事は――」  貴女と同じだなんて―― 「なーいーしょ」  言えるわけ、ないよね。 「あ! ちょっとさくらずるいわよ!」 「内緒やもーん」 「教えないと私だって手繋いであげないんだから!」 「じゃあ帰りにフランクフルト買ってあげんよ?」 「ふ、ふらんく…ずるい!」  そんなことを言いながらもお互い繋いだ手を離そうとはしない。  手だけでなく肩までくっつけると、触れ合った箇所から彼女の温度が伝わってくる。  身を切るような風の中、その温度だけが限りなく温かい。  今年もよろしく、私の大切な人。

    4 19/01/13(日)00:58:30 No.561561883

    「じゃあ私ちょっと向こうでフランクフルト買ってくるけど、何か買ってきて欲しいものある?」  屋台の雑踏の中、私達は目印になりそうな大きな木の下で一息ついていた。 「うーん…あ、りんご飴売っとったら買うてきて」  あのぱりぱりとした食感と、中のしゃりしゃりとした甘くてすっぱいりんごがわりと好きなのだ。 「りんご飴ね。じゃあすぐ戻ってくるからここで待ってて!」 「あっでも、りんご飴はりんご飴でも…あー」  最後まで説明する前に行ってしまった。 「最初っからちゃんと言っとけばよかったと…」  繋いでいた手を見つめながら後悔するが、今となってはもう遅い。  私の欲しいのはりんごあめはりんごあめでも―― 「おっさくら、さくらじゃなかとか!?」

    5 19/01/13(日)00:58:42 No.561561929

     一人手に残った温度を見つめ続けていた私の前に。  ずい、と。  金髪にメッシュが入ったド派手な髪色をした少女の顔が、私と手のひらの間に突然飛び出してきた。  よく見るとそれは見覚えのある顔――どころではなく。  そのまま彼女はさしたる葛藤もなく、特筆すべき感情もなく。  ただただ久々に会った友人に言うように、こう言った。 「よっさくら、久しぶりやね」 「サ…サキちゃん!?」  彼女の名前は――二階堂サキ。  私の、昔の、特別な――  ――友人、である。

    6 19/01/13(日)00:58:55 No.561561984

    「サキちゃん今までどこ行ってたと!? 心配したとよ!?」 「ごめんて…でもちゃんと約束通り、全国取ってきたけんな」 「全国なんかどうでもよかと! それより私、心配で心配で…」  高校のころからだから……もう2年ぶりだ。  当時私にただ一言、「全国を取ってくる」とだけ言い残し私の前から消えていった彼女。  それっきり連絡もなく、こちらから連絡も取れず、どうしようもない日々が続いた。  ネットで調べてみたけれど暴走族のシマの取り合いがネット上に詳しく載っているはずもなく、私はそのまま大学生になってしまった。 「でも…でも、よかった…元気で」  彼女の手を取って、会えた嬉しさを噛みしめる。  こんなにも突然に再会できた困惑もあるが、それ以上に彼女が元気で居てくれたことが嬉しくて仕方ない。  「悪ぃ…さくら」  彼女はあのころのように、私を抱きしめる。 「心配、かけちまったな」 「サキちゃん……」  私も同様に、彼女を抱きしめ返――

    7 19/01/13(日)00:59:07 No.561562024

     いや。 「あ、あの、サキちゃん。私実は今、いやちょっと今ここにはいないんやけど、あのね」 「あっそうやったそうやった、さくらにお土産があると」  彼女は私の身体をぱっと離すと、持っていたビニール袋をガサガサとあさり始めた。 「さっきそこで買ってきた奴なんやがな」  タイミングをすっかり外されてしまって、二の句がつげずにいる私を尻目にサキちゃんは袋の中から赤い何かを取り出した。 「ほら、りんご飴。さくら好きやったやろ?」 「あ……これ」  サキちゃんが私に差し出したのは、小さく光る姫りんご飴。 「覚えてて、くれたんやね……」  そうなのだ。  私が好きなのは、りんご飴はりんご飴でも姫りんご。  小さくてかわいくてあまり大口をあけなくってもよくて、私が好きなのはこっち。 「ほれ、あーんしてみ」

    8 19/01/13(日)00:59:17 No.561562061

    時空がねじれたか…

    9 19/01/13(日)00:59:17 No.561562064

    「えっそんなん…恥ずかしかよ」 「ええてええて、どうせ誰も見とらんけん」 「そう…やね、じゃあ一口だけ…」  ぱくり。  サキちゃんが握った割り箸の先の果実の端を齧る私。 「うまかと?」 「うん、美味しい…やなくて!」  違う! いや違わないけど! 美味しいけど! 「私今ね、その…付き合ってる人がおって…」  ちょうど、言おうとしたときだった。 「すいません、私の彼女に何の用ですか?」  サキちゃんと同じ屋台のビニール袋を持って、買い物を済ませたらしい愛ちゃんが戻ってきた。 「さ…さくら…お前」  サキちゃんはいきなりの愛ちゃんの登場に、さすがに驚きを隠せない様子だった。  私とサキちゃんの間にかなり無理矢理割り込んだ愛ちゃんは待っていたかのように、私の手を再度握る。

    10 19/01/13(日)00:59:27 No.561562106

    「うん…紹介するね、私の、付き合ってる人。水野愛いうの」 「…水野、愛です。さくらと同じ大学に通ってる――さくらの恋人です」  愛ちゃんは私の手を握ったまま、どこか睨むような目で、そう言った。 「…へぇー」  サキちゃんはその挨拶を受けてどこか感心しているような、でも特に関心があるわけでもないかのような、不思議な反応をしていた。 「アタシは二階堂サキ。ま、さくらをよろしくな」  サキちゃんはそれだけ言ってきびすを返し、手を振りながらゆっくりと私達の下から去っていった。 「またすぐ会いにくっからよー」 「ほ…ほんとにー!?」 「おぉー、ほんとほんとー」  サキちゃんはそう大袈裟に手を振った後、私に「あーん」をした後持ちっぱなしにしていた姫りんごにかぶり付いた。 「酸っぺ」  そう呟いたサキちゃんがかぶり付いた箇所は――私の視力が正しければ、私が齧ったのと同じ場所。  いや――私と彼女の間柄は今更間接キスくらいでドキドキするような関係でも、ない、のだけれど。  ぎゅう。

    11 19/01/13(日)00:59:43 No.561562161

    「い、痛かとよ愛ちゃん」  愛ちゃんが私の手を、かなり強く握った。 「あっ…ごめん」  すぐ手を離した愛ちゃんは一瞬ばつが悪そうにしていたが、何かを思い出したように喜んで持っていたビニール袋に手を突っ込んだ。 「あっ、そうだ! ほらさくら! りんご飴買ってきたわよ!」  嬉しそうに、満面の笑顔で取り出したのは――  顔が映るような、大きな大きなりんご飴。 「あ、ありがと、愛ちゃん」  あれ、でも。  愛ちゃんが持っている袋はどうやらりんご飴のひとつだけ。 「嬉しいんやけど、フランクフルトは買ってこんでよかったん?」 「あっ…あー、そっち買うの忘れてた、私のバカぁ…」  座りこんでしまった愛ちゃんに、私はりんご飴を差し出す。 「ほら、あーん」

    12 19/01/13(日)01:00:03 No.561562248

    「あ、あーん!?」  彼女は一瞬、何が起こったのかわからないような表情をしていた。でも少しだけためらって、大きな口で端っこを齧る。 「美味しかと?」 「ふん、ほいひい」 「あはは、愛ちゃんの顔まっかっかでまーるく膨らんでて、りんご飴みたいやね」 「は、はによ、ふるはいはね」  大きなりんご飴も、好きかもしれない。  口の中に残る甘さを感じながら、私はそう思った。

    13 19/01/13(日)01:00:46 No.561562470

    終わりです こんな世界もあったはず

    14 19/01/13(日)01:01:16 No.561562608

    意地悪な世界だ

    15 19/01/13(日)01:02:53 No.561563051

    天然悪女の…さくら!

    16 19/01/13(日)01:03:55 No.561563353

    わっちこういうのだいすきでありんす

    17 19/01/13(日)01:06:44 No.561564275

    大事にしてくれる紳士な今カレと 理解してくれるワイルドな元カレ…

    18 19/01/13(日)01:12:28 No.561566032

    スレ画二人の甘々初詣だと思ってた

    19 19/01/13(日)01:14:19 No.561566525

    捻ってある

    20 19/01/13(日)01:15:49 No.561566920

    >大事にしてくれる紳士な今カレと >理解してくれるワイルドな元カレ… どやんすどやんすー!

    21 19/01/13(日)01:18:57 No.561567761

    まるで少女漫画だ…

    22 19/01/13(日)01:26:17 No.561569816

    連載4話目くらいで3人目の候補来るタイプでありんすな?

    23 19/01/13(日)01:28:03 No.561570270

    すっと身を引くサキちゃんが切ないけどかっこよか…

    24 19/01/13(日)01:51:13 No.561575292

    ダキナンシ…ダキナンシ…