18/12/26(水)22:20:41 深夜、... のスレッド詳細
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18/12/26(水)22:20:41 No.557361215
深夜、俺は資金の為にやっている仕事を終え、この不気味な洋館に帰った。 そして部屋に戻り椅子に座ると、手近にあった『天吹』を『古伊万里浪漫』を肴に一杯煽り、そのまま机に突っ伏してしまった。 「…いくーん。乾くーん?」 ああ俺はまた寝落ちたか…夢を見ると必ずこの声が聞こえる。既に捨てた筈の名前を呼ぶ声が。 「おーう。今日も元気かー?」 「うんうん元気元気!でも乾くんまた無理ばしよんやん!もうちゃんとご飯ば食べんと!」 母親の様に俺を気遣う彼女の名前ははっきり言って分からない。 確かなのは女性であるという事と、この声を俺は知っているという事くらいだ。 「あー大丈夫大丈夫!俺は丈夫が取り柄やけんな!」 「もー強がってー!あっそういやあん子達はどげん?」 『あん子達』とは俺が『徐福』という謎の老人から預かっている『お人形達』の事だ。 何故彼女がこの存在を知っているかは考えないようにしている。
1 18/12/26(水)22:22:42 No.557361834
「うーん…全くうんともすんとも言わんなー…本当に起きるとやろか…」 「大丈夫!必ず目覚めるって!乾くん頑張っとるし!」 いやに事情を知っている彼女に俺は励まされる。 根拠の無い励ましだが彼女の声で言われると何故か心強い。 「あっ乾くん!そう言えばあん子達にまたいやらしい事しよったろー!」 「じゃーい!?そ、そ、そんな事ある訳無いんじゃーい!おっお前なんば言いよるとかー!?」 「うふふ、冗談冗談!あ!そろそろ朝になるばい!乾くんじゃあまたねー!」 ここで俺は目が覚めた。喋ってばかりだが不思議と疲れは取れている。…本当に不思議だ。 この奇妙なやり取りはいつから続いているだろうか。 それは遡ること7年程前、メイク,作曲,振り付け等と言った一連の技術を習得する為に単身渡米をした頃だ。
2 18/12/26(水)22:23:32 No.557362082
右も左も分からない上に言語もままならない。そしてこんな得体の知れない日本人に、はい教えますなんて言ってくれる奴がいる訳が無い。 そんな事は百も承知の上乗り込んだ筈だったが、俺の様な若造には現実は余りにも厳しすぎた。 俺は辛うじて滑り込んだモーテルのバカみたいに硬いベッドでぐっすりと寝入った。 気が付くと周りが光に満ちた謎の空間の中に俺は居た。何も無い空間に。 「あ、これは夢やな…」 咄嗟に明晰夢と察した俺は、取り敢えずじゃいじゃいと歩き回る。 普通の夢と違い手足の自由が利く。うーん何かすげえ楽しい! するとどこからともなく声が聞こえてくる。 「…いくん……ぬいくん…」 断片しか聞こえないが、聞き覚えのある懐かしい声だ…
3 18/12/26(水)22:24:17 No.557362338
「誰だ?誰かおるんか?」 「あー!やっぱり乾くんだー!」 「じゃいっ!?」 その懐かしい声は俺が捨てた名前を呼ぶ。ただ、俺から見る彼女の姿はモヤが掛かっており誰だか全く判別ができない。 「えーっとどちら様でしたっけ…?」 「あー…もう3年位経つけん覚えとらんかー。まあよかよか!取り敢えずよろしくね乾くん!」 「は、はあ…すまんなあ覚えとらんで…」 この全く一方的なやり取りが彼女との初めての出会いだった。 渡米期間中の俺は始終彼女に励まされっぱなしで、ハリウッドで得られた成果は正直彼女のお陰と言っても過言では無い。 無論佐賀に戻って来ても励まされ続けたのだが…
4 18/12/26(水)22:25:03 No.557362603
そんなある日、自我が無いとはいえようやく動き始めた『お人形達』について徐福のじいさんに尋ねに行った俺は、その日も酒を飲み寝落ちた。そしていつもの様に彼女の夢を見た。 「乾くん!乾くん!よかったやん!みんな動き出して!」 「おう!まあ正直何で動き出したかは分からん!」 「いやいやー!乾くんが頑張ったからばい!…本当よく頑張りよったからね…」 彼女は何故かしんみりして俺にそう言った。そして明るい声になり 「特にあの子喜んどらすよ!もう感謝感激ばい!」 「うん…そうだとええっちゃけど、これは俺が独り善がりでやっとる事やし、何と言っても生命への冒涜やしな…それにあの子は迷惑と思っとるかも知れんし…」 「もうそんな事言わんと!私には分かるとよ、あの子が乾くんに感謝しとるって!」 つくづく彼女の励ましは根拠がないが、不思議な説得力がある。 「ああ、そう言ってもらえると助かるばい…」
5 18/12/26(水)22:26:06 No.557362970
すると彼女は突然 「あ!そうそう、新曲できたっちゃろ!?なんて曲!?」 と俺に尋ねる。そう出来たのだ!自信作が…ってまた知られとるわ。 「残念ながらここでは聴かせられんが、タイトルは教えられるばい。」 「へー!どんなん?どんなん?」 彼女はキラキラした表情で俺に聞く。顔は見えないが何となく分かる。 「『ヨミガエレ』ばい!どやー!よかろー!?」 「うん!かっこいい!曲が聴けんとは残念やけどまあいずれ聴けるしね!」 「いずれ…?」 「あ…!いやいやこっちの話!じゃまたねー乾くん!」 「あっおい!」 ここで目が覚めた。この夢は不思議と記憶の引き継ぎができる。RPGの様に。
6 18/12/26(水)22:26:36 No.557363104
これ憑かれて…
7 18/12/26(水)22:27:55 No.557363488
それからしばらく経ったある日、俺はまた夢の中で彼女と話していた。ただ彼女が突然切り出した話に俺は動揺してしまう。 「あんね…乾くん…私と今日でお別れなんよ…」 「…はっ!?お別れ!?そげん唐突に言われても困るばい!お前がおらんと俺は…」 「大丈夫!乾くんもう一人じゃ無くなるけん!」 「は?意味がわからんぞ!頼むからずっと俺の側におってくれ…!」 俺は夢なので恥も外聞もなくそう叫んだ。 「ごめん無理なんよ…でもまた会えるけん…またね…」 彼女はそう言うと光が射す彼方へ歩き出す。俺の心の中にある名前が湧き上がりそれを無我夢中で叫んだ。 「行かんといてくれ源さん!!!」 「うふふ、ようやく言うてくれたね乾くん。そう私は源さくら。ここからずっとあなたを見守ってきたんよ…」 彼女の周りを覆っていたモヤが晴れ、俺の知っている源さくらがあらわになった。 「み、源さん…」 「やけん大丈夫やって!あ!源さんとか他人行儀な呼び方じゃなくてさくらって呼びぃよ!あと私たちが起きたら元気に挨拶してね!あと最後に!あまり飲みすぎないようにね…」 彼女はそう言うと俺の前から消えた… 「さく…ら…行かないで…くれ…」
8 18/12/26(水)22:28:34 No.557363650
乾は悲しい男じゃい…じゃい…
9 18/12/26(水)22:28:48 No.557363727
………… は!いかん、寝てしまっていた様だ。内容は覚えていないが奇妙な夢を長々と見ていた様な気がする。しかも泣いていた様だ… 外を見ると雨、それもかなり降っている。 すると俺の部屋にゾンビィ犬のロメロが「キャイキャイキャイ!」と吠えながら入って来た。 「おう何じゃいロメロ。何かあったんかい?」 「ワウワウワウワウ!」 言ってることは分からんが大変な事が起きてる様だ。俺はゾンビィ供が眠る部屋に急いだ。 「源さ…さくらがおらん…目覚めたとか…」 俺はいつの間にか『さくら』と呼んでいた事に自分で気付かず、いなくなったさくらを探しに行く事にした。 俺は涙目を隠す為にサングラスを掛け、倉庫で目に入ったスコップを持つと豪雨の中の唐津に駆け出した。 「さくら!お前は俺がきっと助けるんじゃい!」 おわり
10 18/12/26(水)22:31:16 No.557364435
悲しい…
11 18/12/26(水)22:32:03 No.557364658
みんなが目覚めるまで大変だったよなぁ巽…
12 18/12/26(水)22:32:43 No.557364852
巽も乾も報われるべき
13 18/12/26(水)22:37:19 No.557366137
よか…でもじゃいじゃいしてて吹く…
14 18/12/26(水)22:39:05 No.557366671
悲しい…
15 18/12/26(水)22:44:45 No.557368461
じゃいじゃいは精神を安定させるからな
16 18/12/26(水)22:46:07 No.557368835
乾くんはお酒を飲める歳になった…
17 18/12/26(水)22:54:56 [sage] No.557371787
やっぱり自分にはこういうのは向かんと痛感しました 明日からはまともにじゃいじゃい言わせます
18 18/12/26(水)22:55:50 No.557372071
私はこの路線もいいと思う
19 18/12/26(水)22:57:06 No.557372502
いや良かったよ それはそれとしてじゃいじゃいも好き
20 18/12/26(水)22:57:40 No.557372678
>咄嗟に明晰夢と察した俺は、取り敢えずじゃいじゃいと歩き回る。 鳴き声みたいになってる…
21 18/12/26(水)23:02:00 No.557374177
さくらの魂が乾を励まし 巽になった乾がさくらを起こしたのか
22 18/12/26(水)23:05:06 No.557375097
「人形」とだけ呼んで死体のさくらに触れないのは夢の中では目をそらしているのかな…