ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
18/12/18(火)23:50:08 No.555526036
山海経に曰く、古代中国の南方に不死人の国あり。 不死人とは肌黒くして不死長寿、老いる事なき伝説上の存在であるとされる。 果たして彼らの実在は定かではないが、それを信じる人間はいたのだろう。 信じた先にある、それが伝説というものだ。 伝説の平成のアイドル、ゾンビ3号こと水野愛は相も変わらず、自由時間だというのにアイドル研究に勤しんでいた。 向かいには珍しく、ゾンビ2号・二階堂サキが仏頂面で机を睨んでいる。 視線の先には古今東西の資料が広がっており、現代西洋ダンス表現論だのといった難解な文字が踊っている。 おそらく彼女らのプロデューサー・巽幸太郎に集めさせたと思しき紙束が層を作っている。 サキがかろうじて理解できたのはそこまでであった。
1 18/12/18(火)23:50:24 No.555526114
「何ねこれ……さっぱわからんわ」 横文字だらけの紙っぺらを一枚つまみ上げて頬杖をつくサキ。 「それはヒップホップダンスの歴史についてまとめたものね。一応目を通しておこうかと思って」 愛は手元のまた別のプリントに目を通しながらすらすらと答えてのける。 サキは紙が散らばらないようにそっと紙を戻すと、かけているソファの背もたれに体を投げ出した。 「あーっもうやめたやめた!アタシにはこういうんいっちょん向いとらんけん」 「むしろやろうって言い出した方がびっくりしたわよ……」 ついに資料から顔を上げた愛が、だらんと背もたれにしなだれかかるサキを細目で見やる。 「アタシ完全にアイドル素人やけんな、ちょっとくらい勉強……と思ったばい。無理」 部屋干しになったまま、サキは右手をひらひらと振って応じた。
2 18/12/18(火)23:50:42 No.555526181
「それならDVDとか……まあライブ映像見たらいいんじゃない」 「おーそれそれ、そーいうのやろうぜそーいうの」 善は急げとばかりに二人がかりで棚を漁りだす愛とサキ。 今現在彼女たちが勉強のために、と使わせてもらっているのはプロデューサーの自室である。 ここならば冊子映像に限らず手早く資料の閲覧ができる事から、愛が幸太郎に交渉したのだ。 彼の本棚には関連書籍だけでなくCD、DVD、果てはレコードまで置いてあり、埃が積もった様子もない。 普段の仕事ぶりを伺わせる佇まいに、二人は心の内でひっそりと感心した。 「おっ、お前のライブツアーDVDもあるとぞ!」 「……私のはいいでしょ私のは。ていうか他のメンバーのもあるんじゃないの」 目的が徐々にすり替わりつつある事に気づかぬふりをしていたのは二人とも同じだった。
3 18/12/18(火)23:51:03 No.555526256
「おい見ろこれ!純子の出とるテレビ番組の録画ビデオ出てきたばい!ツメも折っとらすぞ!」 「こっちガールスカウトマニアの事件簿3BD全巻に映画も揃ってるわよ……何かちょっとキモい」 いつの間にか棚は片っ端から掘り返され、幸太郎の部屋はもはや大掃除の様相を呈している。 当然片付けるのが目的ではなく、二人はどんどんと物色する範囲を広げていった。 奥行きのある本棚が半分ほど空になった頃、思わず夢中になっていた愛の隣でサキがぽつりとつぶやく。 「……見事に仕事関係のモンばっかったい。エロビデオの一つでも出てこんか」 「は?何言ってんのアンタ。目的忘れてない?」 ものの見事に自分の事を棚上げした愛の一言もどこ吹く風、サキはいたずらっぽく愛の耳元で囁いた。 「バッカテメーあのグラサンとぞ?いっつもふざけよってからに、どんな趣味しとるか気ンならんか」 「……ならないわけじゃないけど」 その答えを聞いたサキは、いつかの温泉の時のようにニンマリと笑みを浮かべた。
4 18/12/18(火)23:51:20 No.555526328
引き続きサキは本棚と格闘しながら愛への教唆を続ける。 「ああいうのは人に言えんようなヤツ隠しよるかもしれんぞ……ん、開かんなこれ」 愛は手に持った資料の束に目を落とす。佐賀の様々な施設や会社の情報がまとめてあるようだ。 これもやはり現在までずっとアップデートされ続けているのだろう、ファイルカバーはクタクタになっていた。 「サキ、やっぱり……」 と、愛が何か言いかけてファイルを棚にしまおうと伸ばした手が、格闘中の二重棚のロックに当たった。 そして、サキがいじっていた勢いのままに棚はスルスル開いていき…… 「あっ」 「おっ」 果たして中から『ZLS』と書かれた白い箱が現れてしまった。
5 18/12/18(火)23:51:39 No.555526395
「流石にちょっと……ねえ?」 愛がサキへと曖昧な言葉を向けた時にはもう箱は開かれていた。 「ちょっと!?」 「見るだけ!見るだけやけん!見たら戻すけん!」 二人が揉み合ってる間に見えてしまった箱の中には大きめの封筒が二つ。 片方は土だかなんだかで擦ったような跡があって読めないが、もう一つには『ZLS企画書』と記されている。 「これもしかして」 「アタシらのアレか!?ゾンビの秘密ってやつじゃねーか!?」 そう、ここが自分たちをゾンビにした主犯の根城である事を、二人とも完全に失念していた。 息を呑んで顔を見合わせ、頷きあう。 そして、封筒の中から紙束をサキがゆっくりと取り出す。
6 18/12/18(火)23:51:56 No.555526451
封筒の中にはさらに封筒が入っており、一枚の紙が添えてある。 二人が書面に目を通すと、それは幸太郎直筆の添え状……というには少々文体の崩れた手紙であった。 丁寧な文字と真摯な言葉遣いで上司相手にだろうか、企画に対する情熱が綴られている。 最後は「どうか彼女達の可能性を信じて、お力添えの程、何卒宜しくお願い申し上げます。」と締められていた。 手紙には日付などが記載されていないので何年前のものかは判断がつかない。 ただ、若かりし巽幸太郎の姿が、文章だけとはいえそこにあったのは確かだった。 そそくさと、二人はどちらが言い出すでもなく、現状を元のように片付け始める。 勉強を始める前のようにすっかり片付いた後、二人は机を挟んで最初のように向かい合った。 「……ある意味すごいもの見ちゃったわ」 「……あんなこっ恥ずかしいモンいつまでとっとうつかグラサンは」 罪悪感というには面映い感情をどうにも消化しきれないまま、愛とサキは今日のところは一旦解散を決定した。
7 18/12/18(火)23:52:12 No.555526505
「あいつら、何かガチャガチャいじりよったな」 幸太郎は外されたままの二重棚のロックを見て独り言ちる。 机の上にはお詫びのつもりなのか、温かいコーヒーと母乳の出やすくなる千歳飴が添えてあった。 彼が覚えている限り、二重棚の中にはZLS企画発足当時の書類などを雑に放り込んである。 封筒の中身は紹介用のアイドルプロフィールと企画趣旨のプレゼン書類だ。 口頭説明を前提とした平易なものなので、彼女達が見てもおそらく何の事やら理解できなかっただろう。 「ゾンビランドサガ……か」 独り言を漏らしながら二重棚の中にあった白い箱を開け、汚れている封筒からUSBメモリを取り出す。 PCに挿すと、中に入っているのは動画ファイルが一つ。 映っているのは生前の源さくら。アイドルオーディション提出用自己PR動画だった。
8 18/12/18(火)23:52:34 No.555526600
『みっ、源さくら、17歳です!し趣味は……』 動画を流しながら幸太郎はコーヒーと千歳飴を口に放り込む。 『私、持っとらんと思ってましたけどアイアンフリルの水野愛ちゃんに憧れて……』 今や彼女はその水野愛とともに単独ライブを目指すまでになった。 『あんな風に強くなって……キラキラ輝いてみたくて……』 幸太郎がもう一つの封筒を見ると、少しだけ紙が飛び出している。 『だから、持っとらんでも、信じて頑張ってみたいと思っとる……てます!』 彼直筆の手紙、その末尾の空白に二人分のサインがあった。思わず笑いが漏れる。 「やっぱり俺は持っとる」 中身がない伝説でも、伝説でさえなくても。 信じ続けるならば不死人の国だって佐賀にそびえ立つだろう。 信じた先にある、それが伝説になるのだから。
9 18/12/18(火)23:52:54 No.555526669
>机の上にはお詫びのつもりなのか、温かいコーヒーと母乳の出やすくなる千歳飴が添えてあった。 ノルマ達成!
10 18/12/18(火)23:56:14 No.555527513
サキちゃんサインできるんだな…
11 18/12/18(火)23:56:32 No.555527584
幸太郎はフランシュシュのメンバーすっごく大事にしてそうでよか
12 18/12/18(火)23:57:59 No.555527956
こういう本編の謎を補完する怪文書すき!
13 18/12/18(火)23:58:00 No.555527962
うーんよかったい!
14 18/12/18(火)23:59:23 No.555528304
よか…
15 18/12/19(水)00:03:29 No.555529396
二人がエロビデオを見るパートなかね!?
16 18/12/19(水)00:04:32 No.555529640
有るかーい!
17 18/12/19(水)00:13:34 No.555531785
追記 動画を停止し、コーヒーを飲み干し、幸太郎は外に耳を澄ませた。 音が聞こえない事を確認しつつ、PCのある机の一番下の引き出しを開ける。 そこには雑多な書類が詰め込んであるが、よく見ると外見よりも若干スペースが狭い。 そう、二重底である。 「ここは家探しされなかったか……フッ、まだまだじゃい」 勝ち誇ったようにほくそ笑む幸太郎だったが、彼は見落としていた。 窓とカーテンの隙間にまるで生きているかのような目玉が二つ光っている事を。 次回、ゾンビランドサガ「男の人ですから仕方ありませんよねSAGA」 追記終わり
18 18/12/19(水)00:16:13 No.555532432
どやんす動画でシコってると思ったのに…
19 18/12/19(水)00:17:18 No.555532732
>次回、ゾンビランドサガ「男の人ですから仕方ありませんよねSAGA」 このじめついた敬語は!
20 18/12/19(水)00:18:18 No.555532976
ホラーやめろ!
21 18/12/19(水)00:21:03 No.555533593
ゾンビの体を使いこなしてやる事が覗き
22 18/12/19(水)00:22:06 No.555533862
3人めか!
23 18/12/19(水)00:25:37 No.555534702
珍しく二人だけかと思ったら!
24 18/12/19(水)00:28:35 No.555535402
もしかしてずっといたのか
25 18/12/19(水)00:30:36 No.555535837
愛ちゃんサキちゃんから情報が漏れただけかもしれないじゃん!
26 18/12/19(水)00:44:48 No.555538632
この画像から何個怪文書作ればみんな気がすむんだよ!ありがとうございます!
27 18/12/19(水)00:44:50 No.555538637
ミステイク!