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18/12/14(金)22:50:31 No.554501468
水浴びを終えたアタシはいつものスウェットに着替え、あくびを一つかました。 寝室に向かう途中の廊下で何気なく硝子窓の外を見ると、幸太郎の部屋の窓から明かりが漏れていた。 時刻は23時を回った頃だろうか。淡いオレンジの光がどことなく寂しげで、アタシの足を止める。 「紅茶でも持っていっちゃろうか」 素晴らしい思いつきを口に出して、アタシは下ろした髪を靡かせてキッチンへと向かった。
1 18/12/14(金)22:51:03 No.554501676
淹れたての紅茶をトレイに載せて、アタシは幸太郎の部屋へ繋がる廊下を急ぎ足で進む。 純子から教わった美味しい淹れ方で丁寧に淹れた紅茶も冷めてしまえば意味がない。 幸太郎の喜ぶ顔を思い浮かべると、アタシの心はむくむくの子犬みたいに無邪気にブンブンと尻尾を振った。 カップとソーサーをカチャカチャ鳴らしつつ廊下を曲がると、その先に、そいつがいた。 「嘘やろ…」 自分の目が信じられなかった。体がこわばり、うなじがチリつく。 両腕はトレイを落とさないようにするのが精一杯だ。 月明かりに照らされた廊下に真紅に染め抜かれた特攻服が翻る。背中にはでかでかと銀糸で刺繍が施されていた。 金髪のポニーテールがさらりと動き、鋭い目が肩越しにアタシを睨みつけた。 「テメーどこ行こうとしとったい」 怒羅美の特攻隊長。二階堂サキがそこに居た。
2 18/12/14(金)22:51:45 No.554501942
「どこに行くっつっとるやろうが」 呆然と立ち尽くすアタシに《二階堂サキ》は苛立ちを隠さないゴロついた言葉を吐き、体ごとこっちに向き直った。 その手にはベコベコにひしゃげた金属バットが握られていて、木張りの床をガリリと引っ掻く。 「グラサンにお茶ば持ってくところばい」 メンチに耐えられず視線を泳がせて、あまりにも素直な言葉が口から零れる。《二階堂サキ》はペッと唾を吐き捨てた。 「情けなかァ。オトコに媚びよって。テメそれでも特攻隊長か。あ?」 「アタシの勝手やろうが。どけ」 わかりやすい挑発に、怒りが四肢から緊張を溶かしていった。目の前のチビがアタシであっても、文句を言われる筋合いなどないはずだ。 シカトを決め込み、《二階堂サキ》の横をすり抜けようとすると、やおら金属バッドが跳ね上がりアタシの手からトレイをかち上げた。 紅茶が飛び散り、床に落ちたティーセットがけたたましい音を立てる。 アタシの怒りは、一気に最高潮に噴き上がった。
3 18/12/14(金)22:52:47 No.554502323
「ぶっ殺すぞコラぁ!」 掴みかかろうとした出先を金属バットの先端が制した。 《二階堂サキ》がアタシを睨みつけ、口の端を吊り上げて鮫みたいに笑っている。 「こっちの台詞ばい。腐れちょんべアイドル」 アタシは《アタシ》と睨み合う。バットを挟んだ空気が凍りついていく。久方ぶりのその冷たさに肌が粟立つ感覚がよみがえった。 ピンクのボアスリッパを後ろに蹴飛ばす。こんなものを履いていてはろくに動けやしない。 素足で木の床を掴み、いつでも飛びかかれるように静かに重心を落としていく。 「ハッ」 《二階堂サキ》が短く嘲ると、金属バットを窓へと振り抜いた。 弾けるような音と共に硝子が木枠と共に砕け、キラキラと廊下に散らばった。 しまった。 アタシは自分の早計を後悔した。向こうは厚手のブーツを履いていてこちらは素足だ。 ソンビだから硝子を踏んだところでどうってことはないだろうが心理的な抵抗は大きい。 そんな一瞬の逡巡を察したように、《二階堂サキ》が腕を振り下ろした。顎の先をバットが掠める。頭より後退が遅れた髪が2、3本千切れた。
4 18/12/14(金)22:53:42 No.554502611
ぱきぱき。 嫌な音が足の裏を伝わった。ガラスを踏んだ鈍い痛みに視線が下がる。 その瞬間右肩に思いっきりバットがめり込んだ。 「あぐッ」 廊下の壁に叩きつけられて悲鳴がでた。ゾンビの身体は痛覚が鈍いはずなのに、灼熱の痛みが肩に走る。折れたかもしれない。 「とろくせーなー。テメーマジで九州制覇したとか?」 せからしい。《二階堂サキ》がバットを肩に置いて呆れた顔で嗤っている。 だけどその通りだった。これほどまでに喧嘩の勘が鈍っているなんて。ズキズキ痛む肩を忘れる努力をして体勢を立て直す。 あのバットをどうにかして掻い潜り殴り合いに持ち込まなければ勝機はない。 しかし《二階堂サキ》がそれを許してくれるだろうか。そう思っていると、目の前のアタシは、バットをポイ、と手放した。 あっ。と思った時には《二階堂サキ》の拳が腹に突き刺さっていた。あまりの痛みに腰からくの字にへし折れる。 ごしゃっ。お辞儀した後頭部にハンマーパンチがぶち当たり、アタシはガラスが散った床に顔面から崩れ落ちた。
5 18/12/14(金)22:54:29 No.554502852
「オラ立てコラ」 髪の毛を掴まれ無理やり釣り上げられる。分厚いブーツのつま先が、ガラ空きの下っ腹に叩き込まれる。 「おぐッッう」 ぽん。と柔らかなものがひしゃげる音がして、 アタシの口から空気とゲロが吐き出された。 息ができない。激痛が動きも思考も支配する。 ガラスまみれの床をアタシはまるでゾンビのように這いずり悶えた。 「弱かァー。テメ今までなんしとっとや。あ?」 足の裏で仰向けに転がされ、胃液に塗れた顔にバットが突きつけられる。涙と痛みでゆがんだ視界に、《アタシ》が残酷な顔で見下ろしていた。 「マジで、殺すか」 爪を噛みながら、何の感情もない言葉が《アタシ》の口から吐きかけられる。これが、生きていた頃のアタシなのだろうか。 アタシはこんな寂しく悲しい女だったのだろうか。こんなにも可哀想なガキだったのだろうか? 違う。こいつは、アタシじゃない。二階堂サキじゃない。 「やってみろよ。アクセル吹かすことしかできんチキンヤローにアタシはぜってー負けんばい」 アタシはそう言ってニヤリと笑った。
6 18/12/14(金)22:55:13 No.554503095
脳天めがけて振り下ろされたバットを紙一重で避ける。 床を叩いたバットを両手で掴むと、思い切り足を蹴り上げた。めきめき、と《そいつ》の鳩尾に踵が食い込む。 げはっ。短い悲鳴のあと仰け反ったそいつは、かくかくと膝を笑わせてたたらを踏んでいる。アタシは立ち上がり、手に持ったバットを──。 地面に放り投げると、顔を上げたそいつの頬に思いっきりビンタを食らわせた。姐さん仕込の必殺技だ。 最高に気持ちのいい乾いた音が廊下に響き渡る。そいつは吹っ飛び、盛大に床に転がった。勝負あり、だ。 「アタシの勝ちばい」 地面に倒れたままのそいつに歩み寄って語りかける。こいつはアタシじゃない。でもアタシの中に居るものだ。 ゆっくりと顔を起こしたそいつは、髪の間からアタシを見た。 「そんなに好いとっつか。あんグラサンのこと」 「…うん」 「へっ…アバズレ」 少し笑ったそいつは、音もなく消えていった。 それを見届けた後、アタシは糸が切れたように倒れた。
7 18/12/14(金)22:56:00 No.554503341
「サキ!おい、サキ」 「ん…」 幸太郎の声に意識が掬い上げられる。 柔らかい夜の光の中、サングラスの男がこちらを覗き込んでいた。 「もー何やっとんじゃいお前は。寝ぼけとったんかい」 アタシが目を覚ましたことで安心したかのように幸太郎は大きなため息をついた。 体はどこも痛くなかった。顔を動かすと案の定窓ガラスはどこも割れておらず、 喧嘩の痕跡は何一つ残っていなかった。 ただ、幸太郎へ持っていくはずだったティーカップだけが遠くで転がっていた。 「わりィ…アタシ…グラサンにお茶ば持っていこうとしとったばってん……」 「ああ……よかよか。ほら、立てぃ。スタンダッ」 優しい声色で幸太郎は手を差し出した。アタシはそれに掴まらず、両手を広げて甘えた声を出した。 「抱っこ」 「でっきるかいボケェ」 「立てんもん仕方なかろ?」 アタシはじっとサングラスの奥を見つめた。眉をピクピクして口をへの字に結んでいた幸太郎は、やがて私を抱き寄せてくれた。
8 18/12/14(金)22:56:35 No.554503514
「なんなんじゃいもぉーこの甘えん坊さんゾンビィー」 「へへ。こがんと一度やってみたかったと」 幸太郎がアタシの身体を抱いて、アタシは幸太郎の首に腕を回す。どこかで見たお姫様を抱くような格好。 180センチ以上の景色を楽しみながら、アタシは寝室までの道を幸太郎に運ばれていく。 二人分の体重が廊下を軋ませる音を背景に、さっきの喧嘩を思い出す。 あいつに会うのは初めてじゃなかった。 アイドルとして活動するにつれ、幸太郎と触れ合うにつれ視界の端に写り込んでいたあたしの中のモノ。さよならを告げたアタシの部分。 そいつと喧嘩して勝ちを収めた今なら、言える気がした。 「なあ」 「なんじゃい」 「好いとっとよ」 ずっと想い続けていた気持ちを伝えると、アタシは幸太郎に唇を合わせた。 彼のサングラスには、アタシ史上最高の笑顔が写っている。 オワリ
9 18/12/14(金)22:57:10 No.554503649
>優しい声色で幸太郎は手を差し出した。アタシはそれに掴まらず、両手を広げて甘えた声を出した。 >「抱っこ」 あっここ100点です
10 18/12/14(金)22:57:15 No.554503689
よかったいよかったい…
11 18/12/14(金)22:57:16 No.554503690
フランシュシュ分裂症ブーム…
12 18/12/14(金)22:57:51 No.554503849
途中が凄くバイオレンスでドキドキやった…
13 18/12/14(金)22:58:08 No.554503925
どういうことなの…?
14 18/12/14(金)22:59:06 No.554504200
ちなみにちょんべとはおマンコの意です
15 18/12/14(金)23:00:53 No.554504753
なんだかわからんがとにかくよか!
16 18/12/14(金)23:02:02 No.554505118
ナイスよかったい!
17 18/12/14(金)23:02:20 No.554505216
お嫁さんサキちゃんと特攻隊長サキちゃん
18 18/12/14(金)23:03:22 No.554505519
同キャラ対決いいよね!
19 18/12/14(金)23:04:48 No.554505926
こいつら気軽に光と闇にわかれよんな…
20 18/12/14(金)23:05:29 No.554506104
緩急がしんどいでありんす!
21 18/12/14(金)23:06:02 No.554506286
プリキュアみたいだな
22 18/12/14(金)23:06:22 No.554506398
サキちゃんVSダークサキ
23 18/12/14(金)23:06:51 No.554506544
サキちゃんはプリキュアとスクールアイドルやってたから自分との対話は得意なんだ
24 18/12/14(金)23:07:14 No.554506649
そういえばリーダーの中の人はプリキュアやってたな…
25 18/12/14(金)23:08:27 No.554507009
内なる自分と対決するのも王道やけんね
26 18/12/14(金)23:09:40 No.554507400
過去の自分の生き方に反抗的な今の態度シメられても 女の意地でツッパる 即婚入籍!夜!露!死!苦! フッフー! 学もねえ 明日もねえ 花嫁にだけなれるぜ
27 18/12/14(金)23:10:15 No.554507606
>そういえばリーダーの中の人はプリキュアやってたな… サキ・たえちゃん・マスター・幸太郎の中の人はプリキュア関係者か
28 18/12/14(金)23:10:23 No.554507650
拳じゃなくてビンタで返すのがよか…
29 18/12/14(金)23:14:31 No.554508823
>拳じゃなくてビンタで返すのがよか… いいよね……
30 18/12/14(金)23:14:57 No.554508931
そうか…オワリか 今までごちそうさまでした
31 18/12/14(金)23:16:09 No.554509310
この「」はいつもオワリで締める「」ってだけだと思うぞ
32 18/12/14(金)23:20:05 No.554510534
書き込みをした人によって削除されました
33 18/12/14(金)23:21:23 No.554510891
(グーパンだったような…)
34 18/12/14(金)23:22:30 No.554511268
ようやく初キスできた……
35 18/12/14(金)23:25:08 No.554512064
格ゲーだと怒羅美サキちゃんとお嫁さんサキちゃんは別キャラな感じでお願いします
36 18/12/14(金)23:26:23 No.554512436
ビンタはゆうぎり姐さんじゃねぇかな…
37 18/12/14(金)23:27:22 No.554512722
姐さん仕込みだからゆぎりんよね
38 18/12/14(金)23:32:31 No.554514220
スクストのマリさんでもあるから夢の中で平行世界の自分と会話するぐらいはよゆー
39 18/12/14(金)23:32:34 No.554514230
長い・・・
40 18/12/14(金)23:34:30 No.554514778
これお嫁時空に接続しちゃわない?
41 18/12/14(金)23:35:35 No.554515049
腐れおまんこアイドルって酷すぎるけど合ってる
42 18/12/14(金)23:36:36 No.554515315
>これお嫁時空に接続しちゃわない? さっき闇さくらが…
43 18/12/14(金)23:36:40 No.554515331
>「そんなに好いとっつか。あんグラサンのこと」 >「…うん」 >「へっ…アバズレ」 ここ!ここね!
44 18/12/14(金)23:40:30 No.554516366
今後ことあるごとに内面で (おい!今やけん!ガッと押し倒してかましたれや特攻隊長!!おい!!) って闇サキがうるせぇやつだこれ!
45 18/12/14(金)23:40:32 No.554516378
死んで生き返らされて腐ってた所に火入れられて燃えて全力で生きてたらなんか新しい所にも火が着いた そんな感じです
46 18/12/14(金)23:42:56 No.554517012
雌犬の底力上等やな…
47 18/12/14(金)23:43:10 No.554517066
正史がついに告白した… これは事件ですよ
48 18/12/14(金)23:44:59 No.554517551
格闘描写がガチすぎる
49 18/12/14(金)23:45:58 No.554517834
愛の力…
50 18/12/14(金)23:46:29 No.554517980
おにく!
51 18/12/14(金)23:46:47 No.554518070
ごはん!
52 18/12/14(金)23:46:56 No.554518115
バイオレンススイート…