18/11/27(火)23:24:48 夢を見... のスレッド詳細
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18/11/27(火)23:24:48 No.550697368
夢を見ていた。人生の絶頂、いや、この先もっと輝いていける道の途中。ライブのクライマックス、最高の高揚感に満たされていた私を引き裂いた光と爆音。痛みと熱、焼け焦げた臭い、仲間と、ファンのみんなの驚愕、悲鳴、絶叫……。 ちがう。これは想像が生み出した幻だ。焼け焦げた死臭も、みんなの悲鳴も、実際には体験していない。だって私は……即死だったんだから。
1 18/11/27(火)23:26:00 No.550697673
「っ……!!……はっ……はぁっ……!!」 大声をあげなかったのは我ながら上出来だった。布団の中で、掠れた悲鳴を漏らす口を手で塞ぎ、身体を丸めて落ち着くのを待つ。サガロックのライブで乗り越えたと思っていたけど、やはりそんな簡単なことではなかったらしい。どんなに忘れようと努めても死の影はぴったりと背中についてくる。腐敗した肌が、身体中に巻かれた包帯が、雷に打たれ、黒焦げになって死んだ自分を確かに突きつけてくる。以前、パソコンで、あの事故についてまとめた記事を読んでしまったのも原因かもしれない。読者の興味を煽るためか、やや悪趣味なほど生々しく書かれた、アイドル水野愛の死に様は、自身の記憶も合わさって、より臨場感ある最期を夢に見せたのだろう。 ──────あの不運な落雷で命を落としたのは、水野愛ただひとりだった。あるいは彼女が、その命を賭して、仲間を、ファンたちを守ったのかもしれない────────── ドラマチックな文面で締められていた記事の最後を思い出して、またいやなものが込み上げてくる。違う、守るなんて、そんなんじゃない、私は死になくなかった、生きたかったのに、なんで……なんで私だけ……?
2 18/11/27(火)23:26:34 No.550697828
そんな、最低な思考に染まりそうになる頭を振って、考えるのをやめる。これ以上、みじめになりたくはなかった。 「…気持ち悪い」 身体中がベトベトする。ひどい寝汗だった。ゾンビであるこの身体にも新陳代謝があることに疑問を抱きつつも、そういうものだと納得するしかない。 もう一度庭で水浴びをしよう。目は冴えてしまいそうだが、どちらにせよこのまま布団の中にいても眠れそうもなかった。 仲間達を起こさないように忍び足で布団を抜け出す。悪夢に魘されて飛び起きたなんて、みんなに知られたら……きっと心配してくれるだろう。馬鹿になんてするはずがない。それは、とても嬉しくて、同時にくすぐったいことだった。サガロックのライブでは随分と情けないところを見せてしまったが、だからといって、弱みを自ら進んで晒け出すのは、意地っ張りな自分には許せることではなかった。
3 18/11/27(火)23:27:05 No.550697946
庭の洗い場に出たところで、視界に入ってきたのは、しゃがみこむ見覚えのある後ろ姿だった。そういえば、寝室を抜け出す時、視界の端で布団がひとつ空だったような。 「純子……?」 声に反応してビクリと震える肩。ゆっくりと振り向くその顔は、ゾンビであることを踏まえても、ひどくやつれていた。口元は何やら汚れて、瞳の焦点は微妙に定まっていない。もしこれが出会って間もない頃ならば、思わず恐怖の叫びをあげていたかもしれない、それくらいの顔だった。 「……あ、ご、ごめん、なさい、なんでもないんです、なんでも…………きゃっ」 どう見ても、なんでもなくはなさそうな様子で、逃げるようにその場から離れようとする。ただ、その足どりはおぼつかず、足をもつれさせ転びそうになったところを咄嗟に支えた。腕の中でこちらを見やり、おそらくまた、ごめんなさい。と言おうとしたのだろう。それは言葉にならず、代わりにその口からは吐瀉物が溢れた。私は、あまりのことに面食らいながら、どうすればいいかわからず、再びしゃがみこんだ純子の背中を、さすり続けることしかできなかった。
4 18/11/27(火)23:27:41 No.550698103
「ごめん、なさい。私、みっともないところを、見せてしまって……」 しばらくして、少しは落ち着いた様子で、純子は呟いた。相変わらず、その表情はどこか虚ろだが、それでも、先程よりは幾分かマシになってきている。 「何があったのか、教えてくれる?……あんたが、嫌じゃなければ、だけど。」 吐瀉物をホースの水で軽く処理し終えて、純子の隣に腰を下ろし、尋ねる。できるだけ優しく、問い詰めるようにはならないように。純子は、しばらく俯いたまま、ゆっくりと口を開いた。 「夢を、見たんです。……私が……死んだ時の夢。」 思わず、声が出そうになった。私の動揺にも気づかない様子で、彼女は更に続ける。 「飛行機の、事故で、エンジンのトラブルみたいでした。機体が大きく揺れて、それからぐるぐる、ぐるぐる。みんな悲鳴をあげて、泣いて、叫んでいました。私も、わたしも、怖くて、助けて、いや、死にたくない、だれか、だれか助けて…って。」 彼女は不安定になっている様だった。細い肩は震えて、それなのにどこか熱に浮かされたかのように言葉を吐き出す。
5 18/11/27(火)23:28:15 No.550698237
「それから、窓の外に見える景色が、どんどん下がっていって、墜ちるんだ。って思いました。でも、もう、何もできなくて、たくさんの人の、怒ったような、悲しいような、声と、それも聞こえなくなるくらい、耳が、きーんってして。」 やめて。そう言って、口を塞いでしまいたかった。今の純子は、自らの傷口を広げているだけだ。それでも、吐きださずにはいられないのだろう。それは、私にも、痛いほどわかる。 「こわい、音と、身体が、吹き飛んでしまいそうな、揺れと、窓の外には、木と地面があって、それで、」 もしも、ここに居たのが私ではなく、さくらやサキなら、もっとうまくやれたのだろうか。あの日、雷に怯えて、公園の遊具の中で、震えながら縋りついた私に、サキの声は驚くほど優しかった。 純子は、一旦息を止めて、それからゆっくりと言葉を吐き出した。 「真っ赤になりました。全部、ぜんぶ。……ちゃんと覚えているのは、そこまでです。……ひゃっ」
6 18/11/27(火)23:28:34 No.550698351
やや乱暴に、片手で純子の頭を胸に抱き寄せる。……違う、サキは、もっと自然に、私を抱き寄せて、頭を撫でてくれた。だけど、私には、うまくできないんだ。それが無性に悔しかった。純子は、少しだけぽかんとした後、言葉を続けた。 「……その後は、いっぱいの炎と、なにかが、焼ける臭い、たくさんの、黒い塊。……全部ぼんやりしてて、本当の記憶なのか、もしかしたら、私の想像なのか、よく、わからない、ですけど。」 抱きしめながら、私は自分の身体が震え出さないか、気が気ではなかった。純子の語る死の場面は、生々しく、また、先程夢で見た自身の最期を思い出させて、こちらまで、胸を掻き乱されるようだった。慰めている私の方が泣きたくなってどうするのよ、情けない。そう自らに言い聞かせていると、 「ごめんなさい。」 ポツリと、今までとは異なる様子で、純子が呟いた。彼女の震えは、もう止まっていた。
7 18/11/27(火)23:28:58 No.550698452
「最期の記憶なんて、わたしだけじゃないのに、わたしだけ、こんな……同情を、買うみたいに……情けないです。」 自嘲するような、自分を卑下するような、そんな雰囲気で彼女は続ける。 「愛さん、慰めてくれてるんですよね?ありがとう、ございます。ごめんなさい。失望させて、しまいましたよね。アイドルの在り方について、あんな、偉そうな態度をとっておいて、こわい夢を見たくらいで、こんな、取り乱すなんて」 「うるさい。」 聞いていられなかった。卑屈な言葉を並べながら、もぞもぞと、私の腕から逃れようとする純子を、今度は両手で抱きしめた。息を大きく吸って、声を張る。勇気を出す。意地っ張りな自分を、今は隅に追いやった。 「私も、さっき見たわよ、怖い夢。怖くて、眠れなくて、水浴びにきたの。」 「えっ?……あ、の……」 面食らった様子の純子に目線を合わせ、コツンと額を寄せる。 「平気なわけないでしょ。死んだ時のことなんて。今思い出しても、怖いし、……泣きそうになるし。」 ゾンビ特有の血の色の瞳に、お互いの姿が映し出される。潤んでいるのは、純子の瞳か、私の瞳か、よくわからなかった。
8 18/11/27(火)23:29:21 No.550698558
「死にたくなかったわよ!当たり前でしょ。もっと生きたかった。生きて、アイドルとしてもっと高みを目指したかった。こんな姿じゃなくて、ちゃんと綺麗な身体で!」 言葉が溢れてくる。それは慰めというよりは、愚痴に近いものだったが、もう止まらなかった。 「私、アイドルなのよ。なのに、こんな包帯グルグル巻きで、身体中腐ってて、あの警官とラッパー共には、バケモノみたいな目で見られるし……挙句の果てには撃たれるし!」 「わたしも!わたしも……こんな、ツギハギだらけで、死臭もするし、温泉にも、まともに入れないし……わたし、そんな悪いことしたんでしょうか……?頑張ってたのに……小さい頃から憧れてたアイドルになって、お仕事も増えて、これからだったのに、なんで……?」 鼻先がぶつかりそうなほどの距離で、私たちは泣いていた。それはともすればみっともない傷の舐め合いであり、私が、そしておそらく純子も、嫌っている行為の筈だったが、それでも、もうどうしようもなかった。
9 18/11/27(火)23:29:40 No.550698634
止まらない嗚咽を噛み締めるように、私と純子はお互いをかき抱き合った。パジャマの下で触れ合う2人の身体がグチャリと音を鳴らすのが悲しくて、また少し泣いた。 「……明日からは、明日からはまたちゃんとするから、 ゾンビだろうと関係ない、アイドルとして、全力で頑張っていくから、だから……」 「はい……今だけは、このままで、いましょう……。」 泣き疲れた後にやってくるのは、ぼんやりとした睡魔だった。ソンビィに睡眠は必要ない。あの男の言葉が脳裏に浮かんだが、本当なのだろうか、少し考えて、どうでもいいやと結論づけた。それよりも、今は、この暖かさに包まれて、眠ってしまいたかった。腐った身体でも、確かに、本当に、暖かかったのだ。
10 18/11/27(火)23:30:04 No.550698725
翌朝、布団の中に2人が居ないことに気がついたさくらによって、庭で身を寄せ合って眠っていたところを発見され、愛ちゃんと純子ちゃんが抱き合って死んどるだのなんだのとちょっとした騒ぎになったのは、また別のお話である。 おしまい
11 18/11/27(火)23:31:32 No.550699074
ふたりとも頑張れ…
12 18/11/27(火)23:31:34 No.550699082
きたのか!
13 18/11/27(火)23:31:47 No.550699139
せつないで…ありんすな…
14 18/11/27(火)23:32:26 No.550699305
せつなか…
15 18/11/27(火)23:32:57 No.550699456
可哀想な女の子いいよねと思ってたら無駄に長くなってしまいました なんていうか序盤の並んで暗い顔してる愛ちゃん純子ちゃんいいよね!
16 18/11/27(火)23:33:14 No.550699509
いい話だったけど寝る前に見るんじゃなかった… 重い!
17 18/11/27(火)23:33:25 No.550699558
切ない…
18 18/11/27(火)23:33:28 No.550699578
辛いときは仲間の腕の中で泣いたら良いんだ…
19 18/11/27(火)23:34:47 No.550699911
女の子がゾンビってそりゃキツいよね…
20 18/11/27(火)23:35:30 No.550700098
おつらぁい…
21 18/11/27(火)23:36:15 No.550700303
重いって!
22 18/11/27(火)23:37:55 No.550700715
>なんていうか序盤の並んで暗い顔してる愛ちゃん純子ちゃんいいよね! いい…本編で笑顔になってるからこそ怪文書で曇り顔が見たい…
23 18/11/27(火)23:38:42 No.550700921
不器用な愛ちゃんよか…
24 18/11/27(火)23:40:55 No.550701475
実際アイドルを生業にしてた子達がゾンビって辛いよね… 二人しかわからない景色もあるし…よかったよ!!ありがとう!
25 18/11/27(火)23:41:22 No.550701580
よかったい…
26 18/11/27(火)23:42:06 No.550701784
純子ちゃんの死の瞬間とか想像するとつらい 即死がマシとは言わないけど
27 18/11/27(火)23:44:12 No.550702272
題材が題材なもんで暗い話書こうとすればいくらでも書けちゃうな…
28 18/11/27(火)23:44:46 No.550702390
水浴びできるってことは腐ってはいなさそうだけどね いや腐っているのかな…
29 18/11/27(火)23:48:18 No.550703298
純子ちゃんの死因は本編でも流石に茶化せなかったのが笑える要素皆無だからな…
30 18/11/27(火)23:50:02 No.550703731
>愛ちゃんと純子ちゃんが抱き合って死んどる 切ない話なのに最後のこの文でダメだった
31 18/11/27(火)23:52:52 No.550704444
もうちょっと綺麗に蘇らせることはできなかったんですかね…
32 18/11/27(火)23:54:07 No.550704756
綺麗なゾンビじゃあゾンビ感ないじゃろがーい!
33 18/11/27(火)23:56:14 No.550705285
「目は覚めたか」 いつの間にか私達は部屋の中に居た。もっと言えば巽の部屋。夜中にこっそり忍び込むことがほとんどだったから明るい時なんて見たことがなかったけど思ってたよりもずっと綺麗な部屋だ。 「…何よ、何か言いたいことでもあるの?」 部屋の中まで運んでくれたあいつに対する第一声が憎まれ口。こいつに文句を言っても仕方ない…そんなことは分かっている。むしろこいつは私の夢の続きを見せてくれている。感謝するべきなのも分かっている。分かっているけど。 「こんな思いするなら私生き返りたくなかった」 本心なのかどうなのか分からない、今は凄く楽しいのに時折ゾンビの自分が嫌になる。そんな気持ちがグルグルと混ざってよく分からないまま口から吐き出た。何を言っているんだろうか私は。 「すまなかった。お前達の意思など考えずに生き返らせた俺にも責任はある。」
34 18/11/27(火)23:56:14 No.550705286
実際腐ってんのかね 腐臭がするみたいなことは姐さんが言ってた気がするけど
35 18/11/27(火)23:57:05 No.550705523
ギャグ寄りだけど前提としてみんな若くして夢半ばで命落としてるんだもんな…
36 18/11/27(火)23:59:36 No.550706113
愛ちゃんにしても純子ちゃんにしてもアイドルとしてまさにここからってときに死んでるんだよなあ…
37 18/11/28(水)00:01:23 No.550706554
予想外の言葉が返ってきた。こいつが私に謝るなんておかしい。いつものようにふざけた言葉で私の神経を逆撫でするに決まってる。そう思ってた。 いや違う。こいつに謝る必要なんて無い。予想外とかそんなことを思ってる場合じゃないんだ。今すぐ訂正しないと、そう思っても声にならない声が口から溢れる。目から涙が止まらない。上手く喋れない。 あいつはそのまま部屋から出ていった。純子だけが私の隣で背中をさすってくれている。顔を覗くと純子も泣いていた。
38 18/11/28(水)00:01:46 No.550706650
なんか続きが!
39 18/11/28(水)00:06:55 No.550707742
純愛キテタけどお辛い…
40 18/11/28(水)00:08:11 No.550707991
重い…重いよ兄貴!
41 18/11/28(水)00:10:37 No.550708564
でもこういう暗いお話書けるのもいいよね…
42 18/11/28(水)00:12:40 No.550709015
え…バッドエンドなの!?
43 18/11/28(水)00:13:39 No.550709229
もう一人降りてきたぞ!
44 18/11/28(水)00:14:28 No.550709407
>え…バッドエンドなの!? 怖い夢見た2人が泣きながら抱き合って庭で寝ちゃっただけだよ! 死んどるのは元々やし!
45 18/11/28(水)00:18:03 No.550710233
寝る前に読むにはちょっとヘビーでした
46 18/11/28(水)00:20:48 No.550710853
2人で暫く泣いていた。どれくらい時間が経ったのだろうか?2人で過ごす時間はとても絶望的で、凄く重苦しい。けれど扉は急に開いた。 「お前らいつまで泣いとんじゃいボケェ!!!」 泣かせた張本人だった。 「…はあ?何ふざけて…」 「ふざけとるのはお前らじゃいこの部屋は元々わしのもんじゃいボケェ!大体一回謝ったらもうそれでチャラにするのが当たり前じゃろがい!」 さっきとのあまりの変わりように私達は言葉も出なかった。 「お前らをゾンビになる前以上に輝からと思ったからこっちは生き返らせたんじゃい!これ以上なんか文句あるならトップアイドルでもなんでもなって偉くなってからにせんかい!絶対そうなるようにするからなこの泣き虫ゾンビィ!!」 私達は部屋から投げ出された。突然のこと過ぎて暫く動けなかった。順子の顔を覗き込むとポカンとしたマヌケヅラ。思わず笑ってしまった私を見て純子も笑った。
47 18/11/28(水)00:22:02 No.550711135
好感度調整完了!
48 18/11/28(水)00:22:25 No.550711223
良かった…ハッピーエンド…