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18/11/16(金)00:02:59 No.547909748
ガルパンSS 『ケーキ召しませ』 安藤とマリーのお話
1 18/11/16(金)00:03:17 No.547909842
「隊長、安藤、入ります」 「どうぞ、いらっしゃい」 私は重たい隊長室のドアを開けて、ふかふかの絨毯の上を歩いて行く。 マリーが、瀟洒なロココ調の隊長席の椅子にちょこんと腰掛けていた。 にこやかな笑顔の彼女が、秋の陽光の中で輝いて見えた。 「何の用だ、急に呼び出して」 「新作のケーキが届いたの、一緒に食べましょう」 「なっ……! それだけの理由で呼んだのか!? 練習の最中だったんだぞ」 「あら、服も制服に着替えて来たのなら、それなりの用事だと分かったんでしょう?」 シャワーを浴びている余裕は無かった。 汗と鉄と油の匂いを少しでも隠そうと、軽くオーデコロンを纏ってきたのも、彼女にはお見通しなのだろう。
2 18/11/16(金)00:03:38 No.547909947
「コーヒーを入れて頂戴。……いや、紅茶がいいかしら」 「紅茶は苦手だ、美味くないぞ」 「美味く淹れられるようにならないと、後々困るわよ?」 私はコーヒーしか飲まないんだ、ミルクたっぷりのカフェオレばかり飲んでるのはよく知ってるだろうに。 しかし、ここで争っても仕方が無い。渋々ながらマリーの命令に従うことにする。 部屋に備え付けのギャレーで、押田がやってるように紅茶を淹れてみる。 一度お湯で暖めたティーポットに茶葉を入れ、すぐふたをして蒸らす。 その間に、食器棚から取り出したティーカップ2つにも、お湯を注いで温めておく。 「ちょっと待っててくれ」 「ええ」 茶を蒸らす間に、マリーがどこかしらに電話を掛ける。 ほどなくして、給仕係の生徒によりケーキの皿が2つ、隊長席の机に並べられた。
3 18/11/16(金)00:03:56 No.547910034
私も、お盆に載せたティーポットとティーカップ2つを、机にそっと置く。 「レナ」 「何だ」 「食べさせて頂戴な」 「……またか」 私は頭を掻いてからティーポットを手に取り、琥珀色の紅茶をゆっくりと注いでいく。 そして、席に座りスプーンで新作の秋のケーキ――たしか、モンブランダックワーズと呼んでいた――をひと掬いしてから立ち上がると、マリーの口元に差し出した 「ありがと」 「ん」 全隊としては優雅な所作……なのだが、まるでひな鳥のように大きく口を開け、ケーキを一口で頬張るのはエスカレーター組のトップとしてはどうかと思うが。
4 18/11/16(金)00:04:33 No.547910238
「美味いか?」 「ん……おいしい」 マリーが2口目を所望する 私はケーキをスプーンに掬い、差し出す 3口でマリーは満足したようで「後は自分で頂くわ」と言って、目の前の自分のケーキにとりかかる。 私は、傍らに用意されていたナプキンを手に取った。 「ちょっと待て」 「?」 「失礼」 「んんっ」 マリーのほっぺたに付いてたケーキのかけらを指で取ってから、ナプキンで口許をぬぐう。 ――優雅な顔にマロンクリームが付いていたのが、どうしても気になったから。
5 18/11/16(金)00:04:52 No.547910323
「お茶も飲んでくれないか」 「そうね」 完璧な仕草で、ティーカップを傾けるマリー。 普段のマリーは無造作にケーキを頬張るばかりだが、茶を喫む時だけは典雅なお嬢様の仕草が自然に現れる。 振り回されてばかりの私も、この時だけはこの少女が美しい、と素直に感じてしまうのだ。 「どうだ」 「ちょっと薄いわね」 「……次からは気をつけるよ」 ケーキとお茶が済むと、その後はとりとめのない話題になる。 マリーと私とは階級が違うので、天気とか、授業の話とか、戦車道以外の話題は自ずと当たり障りがないものばかりだ。 こういう場では、マリーから話を振ってこない限り、戦車道の話はしない。 こちらからすると「止めて頂戴、ケーキが不味くなるわ」と遮られてしまう。
6 18/11/16(金)00:05:09 No.547910428
でも、今日ばかりはどうしても気になることがあって、思い切って聞いてみた。 「なぁマリー、なんでこれをルカ……押田に頼まないんだ?」 「あら、ルカと一緒にケーキを食べる事もあるのよ?」 「それは知っている。なんで私がマリーに食べさせてるんだ、と聞いている。これだって押田に頼めばいいじゃないか」 マリーは一瞬きょとんとした顔をして、私をしばらく見つめた後……手元のケーキを一口食べて、紅茶を飲んでから短く告げた。 「レナだからよ」 「それは……エスカレーター組の押田には頼めないから外部生の私に頼んでるという意味か?」 口調に少し棘が乗る。思わず詰るようになっていた。 自分が召使いにでもされているような気がしたから。
7 18/11/16(金)00:05:24 No.547910505
「レナ」 「何だ」 少し俯いていたマリーが、顔を上げにっこり微笑みながら、自分のケーキをスプーンに掬い、私に勧めた。 「お礼よ」 私は、少しだの間考えて――マリーの好意に甘える事にした。 身を乗り出し、差し出されたスプーンを咥える。 「おいしい?」 「ああ、美味い」 私も紅茶を一口、含む。 ……たしかに、ケーキのお供にはいささか薄味だ
8 18/11/16(金)00:05:40 No.547910598
「……レナだからよ」 マリーは、さっきの言葉をもう一度繰り返す。 その顔は一点の曇りも無く、秋の空のようにからりとしていた。
9 18/11/16(金)00:05:57 No.547910705
おしまい
10 18/11/16(金)00:16:05 No.547914326
プロポーズだこれ… いい…
11 18/11/16(金)00:19:30 No.547915478
マリ押!こういうのもあるのか… >私は、少しだの間考えて―― 誤字かもしれないので一応報告しておきます
12 18/11/16(金)00:20:13 No.547915714
>>私は、少しだの間考えて―― >誤字かもしれないので一応報告しておきます ありがとうございます! 直しておきます
13 18/11/16(金)00:21:57 No.547916341
マリ安なのになんでマリ押って書いちゃったんでしょう私… お目汚し失礼しました
14 18/11/16(金)00:25:27 No.547917621
su2714557.txt 誤字を修正したテキストー 昨日の晩即興で書いたのをちょっとだけ肉付けしてみました
15 18/11/16(金)00:44:59 No.547923345
この甘み…