18/08/11(土)00:01:28   &... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1533913288785.jpg 18/08/11(土)00:01:28 No.525086143
1 18/08/11(土)00:01:59 No.525086263
女が引きつった悲鳴を上げる。 「ひぃっ! バ……バケモノッ!」 女の視線の先には、今し方その女を屍鬼から助けた吸血鬼エデンの姿があった。 白い蝋のような肌と紅く光る瞳を見れば、それだけでエデンが人外の存在であることは分かることだ。 そして、歩く死者に詳しくない人間にとっては、自我を喪失し死肉を漁る屍鬼と、意志を保ちつつ血肉によらずとも存在し続けることの出来る高位の吸血鬼の区別が付かないのも無理はないことであった。
2 18/08/11(土)00:02:17 No.525086324
エデンは何も言わず、優雅な立ち姿を崩さぬままただそこに居た。 離れた場所でそれを目撃した王子はエデンの姿を見て思った。まるで死をまとった白い花がそこに咲いているようだと。
3 18/08/11(土)00:02:36 No.525086386
王子は、エデンを多くの戦いに引き連れていた。 エデンの戦力に期待していること。 仲間として戦うことでエデンの居場所を作ろうとしていること。 いつかヴィンンセントの元に帰してやりたいと思っていること。 いくつか理由はあるのだが、結局のところ王子はエデンのことが気に入っていたのだ。愛くるしい少女の姿をしたその死の花を。
4 18/08/11(土)00:02:55 No.525086452
王子は今まで、歩く死者との戦いにだけは例外的にエデンを連れて行かなかった。 乱戦の折に、自軍の兵士がエデンを敵と間違える危険性に配慮することも理由のひとつ。もうひとつは今回のように保護対象の人間がエデンを恐れることを見越してのものだった。 だが今回は遠征から帰還の途次で偶然に屍鬼が小さな村を襲っている所に遭遇してしまった。 屍鬼は一体でも逃せば、襲った被害者を屍鬼に変えて増えていく厄介な存在である。それを根こそぎ殲滅するため、王子達一行は戦闘可能な兵員の全てを以て包囲殲滅戦を実施するしかなかった。そのためにエデンも屍鬼掃討に参加せざるをえなかったのだ。
5 18/08/11(土)00:03:11 No.525086501
「済まなかった。エデン」 エデンは少し悲しげに微笑んだ。 エデンは化け物と呼ばれて返す言葉がないことを理解していた。 かつて自分自信の呪われた力を厭い、自らを滅ぼすよう王子に望んだことのあるエデンなのだ。彼女にとって、自らが存在するということは永遠に醒めない悪夢を彷徨っているようなものなのだ。恐れられ嫌われようとも納得するしかなかった。
6 18/08/11(土)00:03:27 No.525086555
戦いが終った王子は、村落に警備の兵を駐留させ、帰還した。 城に戻り諸々の報告を受け簡単な雑務をこなした王子は身辺警護のエデンを伴って早めに寝室に入った。 王子はワインと簡単な酒肴を用意させ、エデンとふたりで寝る前のささやかな酒宴に興じた。 人間と同じ食事を必要としないエデンだが、食事をすること自体は可能だ。 ただし彼女によると多くの食べ物にまったく味を感じないそうだ。 例外として赤ワインと血や内臓を使った料理は味を感じるらしい。王子が今夜用意させたのも赤ワインと血の腸詰めだ。
7 18/08/11(土)00:03:43 No.525086613
昼間のことが気になっているのか、エデンは口数少なく。食欲もないようだった。 「私はここに居てもいいのかな」 エデンのいう意味が王子にはよく分かった。 つまるところエデンは、この世界に自分が存在することを認めてもいいのかまだ迷っているのだ。 だが王子に迷いはない。
8 18/08/11(土)00:03:58 No.525086675
「花が咲くことにも果実が実ることにも理由はない。誰の許可も必要ない」 王子はエデンの瞳をまっすぐに見つめながらはっきり言い切った。 「だからずっと俺の元で戦ってくれ」 エデンは泣いているような表情で儚げに微笑んだ。 「何より俺がエデンに一緒に居て欲しいんだ。エデンはそのままでいい」
9 18/08/11(土)00:04:15 No.525086746
王子は腰の短剣を鞘から抜き、その切っ先で自らの人差し指の真ん中を軽く刺した。 エデンの小さな唇に近付ける。 エデンは何も言わずその指を、血を、吸った。 王子の心にエデンの心の欠片が流れ込んでくる。 エデンの中にも血を介して王子の心が流れ込んでいく。
10 18/08/11(土)00:04:30 No.525086807
(これがいわゆるギフトか) 気持ち好かった。この世ならざるような気持ち好さだった。 この世のあらゆる重みから解き放たれたような、全身が甘い霧に包まれたような心地を、王子は味わっていた。 吸血鬼が吸血を介して快楽や能力を与えることがある。そしてそれをギフトと呼ぶことを知識としては知っていたが、体験するのは初めてである。 なにしろ贈り主もその内容も特殊なギフトだ。吸血鬼化せずに味わう者はほぼ存在しないだろう。
11 18/08/11(土)00:04:47 No.525086878
エデンもまたその快楽に陶然と酔っていた。 人として生きた過去の記憶がなく、自らの支配者を失ったエデンにとって、王子の信頼と愛情は何にも代え難い拠り所である。 王子の血液はエデンを心から信頼するからこそ差し出されたもの。 その血がエデンにもたらしたものはエデンの心が溶けてしまいそうなほどの法悦であった。
12 18/08/11(土)00:05:03 No.525086942
王子は、自分で刺したはずの指から痛みを感じなくなっていたので、エデンが唇を離してから自分の指を確かめると、傷跡が消えている。 血を飲んで微笑むエデンの表情は輝くような恍惚に染まっていた。 まるで夜に咲く死の花のようだった。 王子はエデンと抱き合った。 一度は王国陥落と共に多くの同胞を喪った王子である。 だからこそ、死をその身にまといながらなお愛くるしいエデンを、王子は崇高なもののように感じているのかもしれなかった。 死は完全にして不変。 王子は、自らの死後もエデンがずっと自分のことを憶えていてくれることを確信していた。
13 18/08/11(土)00:05:48 No.525087124
完
14 18/08/11(土)00:06:04 No.525087189
su2538113.txt
15 18/08/11(土)00:06:57 No.525087360
イイ話だった
16 18/08/11(土)00:15:11 No.525089155
珍しいな・・・
17 18/08/11(土)00:18:43 No.525089899
シコったのでエデンに投票してきます
18 18/08/11(土)00:24:05 No.525091000
サンキュー
19 18/08/11(土)00:35:47 No.525093418
スレ画を見ていやらしい話かと思ったら!