18/07/02(月)00:43:16 SS「Gir... のスレッド詳細
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18/07/02(月)00:43:16 No.515834182
SS「Girls und Steins;Gate~世界像のインデターミニズム~」
1 18/07/02(月)00:44:51 No.515834633
「ついに着いたわよ……秋葉原!」 一点の曇りもない青い夏の空の日差し眩しい朝頃、黒森峰女学園二年、逸見エリカは多くの人々が往来する秋葉原駅の前で静かにと両手を握りしめ言った。 ヒラヒラとしたフリルのついた私服を着た彼女は、秋葉原の独特な空気に妙に馴染んでいる。 しかし、その服に似合わない大きなカバンが、ある種いびつな彩りとなり彼女の存在を際立たせていた。 「ずっと待ち望んでいた夏休みにおける学園艦の東京寄港……隊長達にも内緒でやって来たんだから、今日は思う存分楽しむわよ!」 エリカはそう言いながら秋葉原駅前から歩き出す。 彼女の楽しそうな様子は傍から見ても手に取るように分かるようだった。 「さーて、最初はどこから買い物しようかしら?」 エリカは微笑みながら秋葉原の大通りを見回し歩き始める。 その表情は、普段つんけんとした態度ばかりで、学校でも友人や先輩にも固い表情ばかり見せる彼女からは想像できないような、楽しそうな表情だった。
2 18/07/02(月)00:45:14 No.515834722
エリカがここまで秋葉原を楽しそうに歩いているのは理由があった。 彼女は趣味としてネットサーフィンをすることが多いのだが、その中でも、インターネットにある匿名掲示板の中でも最大級の掲示板、@ちゃんねるを見るのが何より好きだった。 @ちゃんねるはインターネットの中でも様々な層が集まる匿名掲示板であるが、その中でも特に、いわゆるオタクと呼ばれる人種が在中していることが多かった。 エリカはネットサーフィンで@ちゃんねるを見るようになってからというもの、そういった人々と多く交流することになり、結果、彼女も幾分か毒され、オタク趣味を持つようになったのであった。 そんな彼女が、オタクの聖地と呼ばれる秋葉原に興味を持つようになったのは、自然な流れと言えよう。 「まずはアニメイトでしょ、そのあとはとらのあな、メロンブックス、まんだらけにトレーダー……行くところは沢山あるわね!」 エリカは指を折りながら言う。そのエリカの姿は、フリルの多い可愛らしい服装も相まって、一際輝いて見える。
3 18/07/02(月)00:45:34 No.515834820
「あ、せっかくだしメイド喫茶も寄ってみたいわね……あと、裏路地とかにあるマニアックな店とかも。大通りにある店ばっかじゃもったいないですものね。ああ、とにかく行ってみたい場所がいっぱいあるわ!」 エリカは瞳を輝かせながら言うと、街の雑踏の中に入ろうとする。 「と、その前に」 エリカは一旦足を止めた。 「あれ、見とかないとね」 エリカは目の前にあるビル、世界のラジオ会館の屋上を見る。そこには、屋上に突き刺さった謎の人工物があった。 「あれがラジ館に落ちたっていう人工衛星ね……とんでもないこともあったものだわ」 エリカは見上げながら言う。エリカが秋葉原に来る前に、ラジオ会館に人工衛星が落ちたというニュースがあり、動画が出回っていた。それを、エリカは見ているのである。 「……ま、さんざんテレビで見たし生で見てもそこまで感動はないわね。それより散策散策っと」 こうして、エリカは秋葉原での散策を始めた。 エリカは午前中を大通りにある店を回ることに費やした。
4 18/07/02(月)00:45:54 No.515834919
秋葉原にある店は普段彼女がいけるような店とは段違いに大きく、彼女の好奇心や購買意欲をくすぐった。 エリカは立ち寄った店で漫画や同人誌、同人ゲームなどを買い込む。買ったものは彼女がそのために持ってきていた大きなカバンに入れた。 ある程度大通りでの買い物を終わらせると、エリカは秋葉原にあるカレー店で昼食を済ませる。 カレーは彼女の尊敬する先輩である戦車道の隊長、西住まほの好物であり、チェーン店でもあるためその店の味を覚え今度まほを秋葉原以外の場所で店を見つけたときにエスコートしようということも考えてその店に寄ったのであった。 狭い店内において可愛らしい服装でカレーを食べるエリカの姿はある種異様ではあったが、秋葉原はそういった客も多いため、彼女の姿は特に周囲の目を引くこともなかった。 そうして昼食を終えた後に、今度は裏路地の店の探索でる。 「すごい……一本道をずらしただけでここまで雰囲気が違うのね……」 大通りを少し離れただけで醸し出されるアンダーグラウンドな雰囲気に、エリカは痺れた。
5 18/07/02(月)00:46:19 No.515835003
「人通りは少ないけど色々な店があるのねぇ。私みたいなのに向けた店はさすがにないかしら……」 エリカはそう言いながら裏路地の道を歩き、並んでいる建物に目をやる。 売っているものはどれもマニアックなものだったり、ちょっと怪しいものだったりと、ある意味それはエリカの心をくすぐった。 普段なら胡散臭いと一蹴しているところだが、今のエリカはその場の空気感に影響され、興味を湧かせているのであった。 「さすがにココらへんは……普通のビルとかかしら?」 エリカはいつしか裏路地の奥にまで迷い込んでいた。エリカの目の前にあるのは、一階が店になっているようなビルだった。 その店はどうやら今の時代珍しくなったブラウン管テレビを売っているらしく、その店に並ぶ数多くのテレビ画面はエリカの目を引いた。 さらに、エリカの足を止めさせたのはそれだけが理由ではなかった。 その店先にいる少女が、ある意味その店には不釣り合いだったからだ。 青いジャージと短パンのその少女は、店先でどうやら自転車をいじっているようだった。ブラウン管というもののイメージからはかけ離れたような少女だ。
6 18/07/02(月)00:46:41 No.515835092
その姿を、エリカはなんとなく見ていた。 「ん?」 と、そこでその少女がエリカに気づいた。 「あ、お客さん?」 「え? 私? い、いえ。違います! ただちょっと気になっただけで」 「うんうん確かに気になるよね、こんなにいっぱいテレビあるとさ。君、観光で来たの? だったら見ていけば? あんまり面白いものじゃないかもしれないけど」 「は、はぁ……」 どうやら店員らしいその少女に言われ、店の中を外から伺うエリカ。 店の中は暗く、よく見えないがやはり沢山のテレビがあることだけは分かった。 そんなときだった。 「……それでクリスティーナよぉ、タイムマシン開発の経過はどうなのだぁ?」 「ティーナって言うなと言っとろうが! ……まあまあって感じね。現在の進捗具合で言うと……」 ふと、窓の開いた店の上の階の部屋から、妙な会話が聞こえてきたのだ。 「……タイムマシン?」
7 18/07/02(月)00:47:05 No.515835206
エリカは何かと思う。アニメかゲームの話だろうか。しかし開発と言った。それが何故かエリカには気になった。 さらにクリスティーナとは外人の名前だろうか? しかし、話している相手はどう考えても日本人のようだったが、とエリカは思う。 「あー……ははは、まあ気にしないで」 エリカの様子に店員らしい少女は苦笑いする。 「岡部ー! あんたねー!」 「まっ、待てクリスティーナ!」 すると、上の階がなんだか騒がしくなり、そして少しすると階段を一人の男が降りてきた。 その男は、白衣を身にまとうという町中では奇抜寄りな格好をしており、無精髭を少しばかり生やしていた。 「まったくクリスティーナの奴……プリンぐらいであそこまで怒りおって……ん?」 「あ」 と、そこでエリカはその男と目があった。 「…………」 「…………」 わずかな間見つめ合う二人。男はエリカと店員の少女を見比べたかと思うと、突如携帯電話を取り出し突然会話し始めた。
8 18/07/02(月)00:47:20 No.515835279
「もしもし、俺だ。緊急事態だ。ミスターブラウンの家に謎のエージェントがやって来ている。ああ……何!? これも機関からの手先だと言うのか!? おのれ……やつらは俺達の地盤を脅かしに来たと言うのか!」 「えっ、ちょっ、何っ!?」 突然誰かと妙な会話をし始めた男に対し、困惑することしかできないエリカ。 男はそんなエリカをチラチラ見ながら電話を続けている。 「ちょっと岡部! 財布忘れてるわよ!」 と、そこで階段から別の人間が降りてきた。ジャケットを着崩した長髪の女だ。 「ん……?」 その女は、エリカとその男の状況を見て、一瞬固まると「はぁ……」と軽くため息をついて男から携帯を奪い取った。 「あっ、何をするクリスティーナ!」 「だからティーナって呼ぶな! ……ごめんなさいね突然。ほら、これ見てみてください」 「え? あ……」 女はエリカに男が喋っていた携帯を見せる。すると、その携帯電話はただの待受画面であり、通話状態ではなかった。 「この人、ちょっと変な人だから気にしないで」
9 18/07/02(月)00:47:37 No.515835355
「え、ええ……」 突然携帯電話に向かって独り言を喋りだすのは確かに変な人間なのだろうと、エリカは思った。 だがそんな男相手に平然としている彼女も彼女ですごいな、ともエリカは思った。 「それで、あんたは何で突然見ず知らずの人間の前でそんなことしてんのよ」 「いいか助手よ、この少女はミスターブラウンの店を覗いていたのだ。この少女がだ。普段は殆ど客も無く来るとしても電気オタクか老人ぐらいしか訪れないミスターブラウンの店にだ!」 「……なるほど、確かにそれは珍しいわね」 二人はまじまじとエリカを見る。 「えっと……」 その視線が妙に恥ずかしく、二人から目をそらすエリカ。そらした先には店員の少女がおり、彼女に助け舟を求める。 すると、その視線からエリカのメッセージを悟ったのか、店員の少女は話し始めた。 「ああこのお客さんは私が呼び止めたんだよ。なんか店に興味持ったらしかったからさ。たまにはバイトらしいことをしようと思って」
10 18/07/02(月)00:47:53 No.515835441
どうやら少女はバイトらしい。エリカはそれに一人納得した。 一方、そのバイトの少女の説明で目の前の男達も納得したようで、「なるほど……」と首をうんうんと振る。 「なるほどそれなら話は早い。どうやら機関からのエージェントではないようだな」 「き、機関……?」 「だから、目の前の人が混乱するからそういうのはやめろって言ってるでしょうが!」 どうやらそうとうに変な人らしい、とエリカは目の前の男を見てそう思った。 これは早めにここから離れたほうがいいかもしれないとも思った。なので、エリカは一言別れを告げその場から立ち去ろうと考えた。 「……それじゃあよく分からないけど頑張ってくださいね、えっと……岡部さん?」 確か女のほうが男のほうをそう呼んでいたため、エリカはその名前を呼んでその場から逃げようとした。 「違ぁう!」 だが、その名前に対し目の前の男は叫んだ。 「えっ!?」 「我が名は、鳳凰院凶真! 世界を混沌へと導く狂気のマッドサイエンティストだ!」 あまりにも痛々しいその名乗り。
11 18/07/02(月)00:48:19 No.515835569
普通の人間ならさらに顔を歪めてその場を立ち去るだろう。 しかし、エリカは違った。 「鳳凰院凶真って……あのクソコテの!?」 エリカはその名に反応した。反応してしまったのだ。 「え?」 「え?」 「え?」 エリカが大声でその男の名を知っていたことに、三人がポカンとする。その瞬間、エリカは思った。 ――やってしまった……! と。 「……貴様、我が名を知っているだと!? やはり機関からのエージェン――」 「だからそういうのはいいから。……えっとあなた、今こいつの自称を知ったわよね? しかもクソコテって。ていうことはつまり……」 目の前の女が言葉を濁しながらもエリカに聞く。 その段階ならまだ挽回のチャンスはあっただろう。だが、エリカは――
12 18/07/02(月)00:48:34 No.515835634
「ちっ、違うわよ!? 私別に@ちゃんねるなんて見てないし! そこのクソコテと何回もレスポンチバトルとかしてないし!」 墓穴を掘ってしまった。 クソコテとは、匿名掲示板においては目立つ固定ハンドルネームのことをコテハンと言い、そのとりわけ目立つコテハンのことを指す言葉である。そして、レスポンチバトルというのは匿名掲示板への書き込みをすることをレスと言い、それの応酬で喧嘩することを言う。 どちらもインターネットの匿名掲示板で使われる用語だ。 それをエリカは堂々と外で使ってしまった。 「……あ」 「……お前、ねらーか?」 それは自分が、@ちゃんねるを見ているという告白と同義であった。 「……そ、そうよ! 私が@ちゃんねるで時折あなたに噛み付いてた疾風戦車123よ! 何か文句ある! このクソコテ鳳凰院凶真!」 「クソコっ……!?」 エリカはもうやけっぱちだった。顔を真っ赤にし、目にはうっすらと涙を浮かべ、初対面の人間――ネット上では初対面ではないのだが――相手にタメ口でいつもの学校での姿で接したのだ。
13 18/07/02(月)00:48:51 No.515835698
「……君、女の子を泣かせるのはどうかと思うよー?」 「最低ね、岡部」 そんな通称鳳凰院凶真に、冷たい視線が刺さる。 「俺か!? 俺が悪いのか!?」 その視線に、さすがの鳳凰院凶真もたじたじになったらしく、先程までの奇行も鳴りを潜め、慌てている。 「その……動じることはないフリフリの少女よ! そこのクリスティーナなどバレバレであるのに未だに自分がねらーだということを隠せていると思っている悲しい奴なのだからな!」 「はぁ!? だ、誰がねらーよ!?」 「ぬるぽ」 「「がっ」」 それに、エリカとクリスティーナと呼ばれた女が反応した。 「……っ!」 条件反射的に反応したエリカと通称クリスティーナは、恥ずかしそうな顔をする。 「もうっ、人前で何言わせるのよっ!」 「黙れねらーよ、ねらーならねらー同士なんとかするのだ!」
14 18/07/02(月)00:49:07 No.515835754
「それはあんたもだろーが!」 いつしかエリカそっちのけで喧嘩を始める二人。 その光景にエリカは未だ顔を赤くしつつも唖然となった。 「ははは……なんかごめんね」 と、そこに先程のバイトの少女が話しかけてくる。 「い、いえ……大丈夫です……こっちこそなんかお仕事の邪魔しちゃって……」 「ううん、いいのいいの。どうせ暇だし」 そう言って軽く手を振ってくれるバイトの少女のおおらかな態度に、エリカは幾分か気持ちが楽になる気がした。 「ほら! もうこうなったら私のプリンと一緒に彼女の分のプリンも買ってくる! それでいいわね!」 「だからなぜ俺が自腹でプリンを買いに行かねばならんのだ!?」 「女の子泣かせたんだから当然でしょ!」 「だから俺のせいではないと――」 「いいから行ってくる! それとも何か? また正座したいか?」 「っ! わ、分かった!」
15 18/07/02(月)00:49:30 No.515835850
エリカがバイトの少女に慰められているうちに、どうやら何故か鳳凰院凶真がプリンを買ってくるという話になったらしい。 鳳凰院凶真は急いでその場から走り去り、コンビニへと向かって行った。 「ごめんなさい、ただブラウン管工房に訪れただけなのにあなたに恥ずかしい思いをさせてしまって」 「い、いえ……」 そして、鳳凰院凶真が立ち去った後に通称クリスティーナが話しかけてきた。 「よかったら謝罪にだけど、上でプリンを食べていかない? もちろん嫌なら買ってきたのを渡すだけにするけど……」 エリカの目の前のクリスティーナという女は、エリカに好意を見せてくれているようだった。その好意を無下にするのもよくないと、エリカは思った。 「あ、じゃあせっかくなので……」 なので、エリカはその申し出を受けることにした。 「分かりました、えっと……クリスティーナさん?」 「違うから! ティーナじゃないから! 私は紅莉栖、牧瀬紅莉栖です」 「あ、はい。私はエリカ。逸見エリカです」 エリカは、牧瀬紅莉栖から自己紹介され、その流れで彼女もまた自己紹介した。 「おーい、買ってきたぞ」
16 18/07/02(月)00:49:45 No.515835895
と、そこへ鳳凰院凶真が走って帰ってくる。 「あ、いいタイミングで戻ってきたわね。ちょうどいいわ岡部。あなたも彼女に自己紹介しなさい」 「ん? 何がちょうどいいのだ?」 「いいから! 彼女、逸見エリカさんって言うんですって。私も名乗ったし彼女も名乗ったんだから、あなたも名乗るのが礼儀でしょ」 「むぅ……分かった。我が名は狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶――」 「そういうのはいいから。本名名乗れ本名を」 「むぅ……俺は岡部倫太郎だ、よろしく」 「ちなみに私は阿万音鈴羽、よろしくねー」 鳳凰院凶真こと岡部倫太郎、そしてバイト少女こと阿万音鈴羽がそれぞれ名乗った。 これが、逸見エリカと岡部倫太郎、そして牧瀬紅莉栖の出会いだった。 ◇◆◇◆◇
17 18/07/02(月)00:50:03 No.515835979
「というわけで、これが我がラボ、未来ガジェット研究所だ!」 「へぇ……」 倫太郎の高らかな声と大げさな手の動きにより、その部屋に案内されたエリカは軽く声を上げた。 ラボと言うには小さな部屋に、乱雑に様々な物が置かれている。 部屋の窓側に置いてあるパソコンの前には太った男が座り、反対側のソファーのところにはヒラヒラとした帽子を被った少女が座っていた。 その部屋を見てエリカは一言。 「こじんまりしてるわねぇ……」 「なっ!?」 エリカの言葉に一瞬顔を歪める倫太郎だったが、すぐさま余裕のある表情に戻り、エリカに言う。 「ふん、素人には分からないだろうな。このラボがいかに世界を混沌に陥れるか、その恐ろしさが」 「んー? オカリン、その子誰なのさ?」 「あれー? オカリンがまた誰か連れてきたー」 と、そこで太った男とソファーに座った少女がそれぞれエリカに反応する。
18 18/07/02(月)00:50:18 No.515836048
エリカはその二人に軽く頭を下げる。 「どうも、逸見エリカと申します。その、ちょっと色々あってここでプリンを食べていかないかって言われて……」 エリカは詳しいことは端折り二人にとりあえずの目的だけ伝えた。泣いたなど認めたくなかったからである。 「ほうほう、何があったので?」 しかし、太った男はそこに食い下がる。 「岡部がこの子泣かせたのよ」 それに対し、紅莉栖がはっきりと言う。 「オカリンー……」 「むぅ、オカリンそれはひどいのです……」 「なっ、泣かせてなどいない!」 「そっ、そうよ! 私だって泣いてないから!」 倫太郎とエリカはそれぞれ弁解するように言う。それに対し、二人は疑いの目を倫太郎に向けていたが、倫太郎はそれをあえて無視するように部屋の中央に行き、エリカのほうへと向き直る。
19 18/07/02(月)00:50:34 No.515836116
「よ、よし。それでは紹介してやろう。まずは、ラボメンナンバー〇〇二! 椎名まゆり!」 倫太郎はソファーに座った少女、椎名まゆりに手のひらを向けて言った。 「トゥットゥルー! どうもエリカさん! まゆしぃは、まゆしぃなのです」 「とぅ、とぅ……?」 その独特の挨拶に困惑するエリカ。だがそんなエリカを置いて、倫太郎は紹介を続ける。 「そして、ラボメンナンバー〇〇三! スーパーハカー! 橋田至!」 「ハッカーだろ常考。どうもー逸見氏。よろしくお」 「よ、よろしく……」 やはり未だ場の空気に慣れていないエリカは、たどたどしい挨拶をする。 ――なんだかすごいところに来てしまった。場違いではないだろうか? エリカはそんなことを考える。 だが、そんなエリカのところに、まゆりがニコニコしながら近寄ってくる。 「……えっと?」 「うーん、エリカちゃんのこの服、可愛いのです。ヒラヒラしてて綺麗で、お人形さんみたいだなーってまゆしぃは思うのです」 「お、お人形!? 私が!?」
20 18/07/02(月)00:50:54 No.515836194
エリカは驚く。 今までエリカはそんな評価を他人からされたことはなかった。そもそも、他人に自分の私服をあまり見せてこなかったからなのだが。 「べ、別に私はそんな可愛いわけじゃ……」 「ううん、そんなことないのです。顔もすごく綺麗だし、コスプレとかしたらすごく似合いそうだなーとまゆしぃは感じるのです」 「へ、へぇ……」 「あら、照れてるんですか? 逸見さん?」 まゆりのまっすぐな好意に顔を赤くするエリカ。そのエリカに、紅莉栖が微笑みながら言う。 「てっ、照れてないわよ!」 エリカはつんとそっぽを向いてそれを否定する。その仕草がすでに肯定の意になっているのだが、エリカはそれに気づけない。 「そ、それよりプリンよプリン! 私、それを食べるためにここによったんだから早く食べさせなさいよね!」 エリカは話題を逸らすように言う。 その様子に、紅莉栖はクスクスと笑いながらも倫太郎からプリンの入ったビニール袋を奪い取る。 「ええそうね、私も食べたかったところだし。一緒に食べましょう?」
21 18/07/02(月)00:51:10 No.515836255
「……まあ、別にいいけど」 「だったらここに座るのです。エリカちゃんが真ん中で、その両脇にまゆしぃと紅莉栖ちゃんが座るの!」 「え、ええ」 エリカは言われた通りに二人に挟まれて座る。そして、右隣にまゆり、左隣に紅莉栖が座った。 「ねぇねぇ、エリカちゃんは何歳なの?」 「え? その、十七だけど……」 「おお! まゆしぃよりひとつ上なのです!」 「ということは、逸見さんは私よりひとつ下ね。だったらタメ口でいいかしら?」 「……すでにタメ口じゃないの。なら、私もタメ口で。そのほうが私もやりやすいし。それに、呼び捨てでいいわよ。いちいちさん付けというのも柄じゃないわ」 「分かったわ。エリカ。私達のことも呼び捨てでかまわないわよ」 「ええ……えっと、紅莉栖に、まゆり?」 「ええ」 「はいなのです!」 エリカはいつの間にか自然と二人と楽しく会話をすることができるようになった。
22 18/07/02(月)00:51:30 No.515836336
それはきっと、まゆりのおかげなのだとエリカは思った。まゆりが話しやすいように親しみやすく接してくれたおかげだと、そう思った。 そんな三人を見ている倫太郎と至。 「……キマシ……キマシ……」 「ダル。それ以上言うと助手に殴られるぞ」 「わ、分かってるお!」 三人を見て興奮する至に、倫太郎が言うのであった。 二人がそんな会話をしている間にも、三人はいろいろと楽しく会話を続ける。 「へぇ、エリカは熊本の高校に通ってるのね」 「ええまあ。熊本と言えば熊本ね」 「へぇーすごいのです。勉強もすごくできそうだねぇ」 「まあまあってところよ。一応、物理は結構できる自信はあるわよ。でもまあ、紅莉栖には及ばないでしょうね。だって海外の大学で論文発表してるってさっき言ってたでしょ。凄いじゃないの」
23 18/07/02(月)00:51:45 No.515836395
「私はやりたいことをやっているだけよ。そしたら結果がついてきただけ」 「そう言えるだけ凄いわ。私なんて全然結果が出てくれないもの。たまに嫌になっちゃうわ」 和気あいあいと話す三人。一方で、やはり倫太郎と至の二人は黙ってそれを見ていた。 「……ダルよ」 「何、オカリン」 「微妙に疎外感を感じるのは俺だけか」 「禿同。イチャイチャ空間すぎて居場所がないと思われ」 三人を見てそんな感想を口にする倫太郎と至。 二人はしばらく話し続ける三人をただ黙って眺めていた。 そうして少し経ったときだった。 「そうだ! まゆしぃにいい考えがあるのです!」 突然、まゆりが両手を合わせながらエリカに言った。 「エリカちゃんが明日もいるなら、明日からのアキバ観光をまゆしぃ達が手伝ってあげるの!」 「えっ、いいのまゆり?」
24 18/07/02(月)00:52:00 No.515836451
突然の提案に紅莉栖が驚いた。もちろん、エリカもである。 「私が言うのもなんだけど大丈夫? 私としては願ってもないんだけど」 「いいのいいの! せっかく仲良くなれたんだし、一緒に楽しくアキバを周りたいとまゆしぃは思ったのです」 「ほう、いいのではないか。三人で楽しんでこい」 「何言ってるのオカリン。オカリンも一緒に来るんだよ?」 「えっ」 完全にまゆり、エリカ、紅莉栖の三人で行くものと考えていた倫太郎は、まゆりのその一言に虚を突かれたように声を出す。 「当然でしょー? だってオカリン、エリカちゃん泣かせたんだよ? 責任はちゃんととらないとー」 「し、しかしだなまゆり。俺は世界を混沌に落とすというマッドサイエンティストとしての大切な使命が――」 「オカリンー?」 まゆりはソファーから立ち上がり、倫太郎に詰め寄る。まゆりに詰め寄られしどろもどろになる倫太郎。 そしてじっとまゆりに見つめられた倫太郎は、ついに諦めたような表情をし、突如バッと妙なポーズを取った。
25 18/07/02(月)00:52:18 No.515836534
「……フッ、フッハハハハハハ! いいだろう! この狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真が、そこのいたいけな少女にアキバの闇を教えてやろう。感謝するがいい、シルバーファングよ!」 「シ、シルバーファング!? それって私のこと!?」 突然妙なあだ名で呼ばれ、エリカは困惑する。それに対し、倫太郎は顎を上げエリカを見下ろすような形で喋りだす。 「そう、その通りだシルバーファングよ。その輝く銀髪にオオカミのような鋭い双眸。そんな貴様の真名をこの鳳凰院凶真の魔眼が見抜いたのだ!」 「オオカミでファングって気取ってるところが岡部よねー」 「うるさい黙れこのクリスティーナ」 「だからティーナってつけるなって言っとろうが! ま、岡部とまゆりがアキバを案内するなら、私はいらないわよね。頑張ってね二人共」 「む、なぜ貴様は来ないつもりなのだ!」 「私がいなくなるとアレの開発が滞るでしょ? 他にも実験とかしないといけないし」 「むぅ、確かにそうだが……」 「アレって?」 紅莉栖が濁すように言った言葉に、当然エリカは引っかかる。
26 18/07/02(月)00:52:39 No.515836631
「ふっ、それを貴様に教えるわけがないだろうシルバーファングよ。これは我がラボの最重要機密。それは世界に大いなる変革をもたらす奇跡の発明であり――」 「あっ、もしかしてタイムマシン? って奴のこと?」 エリカがその言葉を言った瞬間、倫太郎と紅莉栖がとても驚愕した表情をした。 「なっ!? なぜ知っている!? やはり貴様、機関からのエージェント!?」 「だから違うわよクソコテ。……外に居たときにあなた達の話が聞こえてきたのよ。まあ、どうせタイムマシンっていう名のよくわからない代物何でしょうけどね。この部屋に散らばっているものを見る限り」 エリカは部屋にある様々な物――未来ガジェットを見ながら言う。 そのエリカの態度に、倫太郎と紅莉栖は目を合わせ、無言で頷きあう。 「……え、ええ。まあそんなところよ。あなたももう分かってるだろうけど、この岡部っていう奴は厨二病でいちいち大それたことを言うやつだから」 「ふっ、素人には俺の偉大なる思考は読めまい……」
27 18/07/02(月)00:52:57 No.515836699
「はいはい、厨二病乙。……ま、そういうことなら明日お願いしようかしらね。一人じゃ分からないこといっぱいあるし。よろしくね、まゆり。倫太郎。あと泣いてないから」 エリカはその場の空気に妙な違和感を覚えつつも、とりあえずまゆりの提案を了承し、その日はもう少しラボメンと談笑した後、プリンを食べて宿泊所として予約していたホテルへと帰ったのであった。 つづく
28 18/07/02(月)00:54:55 No.515837222
つ…つづいた…
29 18/07/02(月)00:55:35 No.515837385
キャラデザが違い過ぎる…!
30 18/07/02(月)00:55:46 No.515837452
大作すぎる…
31 18/07/02(月)00:57:53 No.515837999
ハンバーグネタで忘れてたけど 趣味ネットサーフィンだったな…
32 18/07/02(月)01:00:40 No.515838613
ニヤニヤしながら全部読んでしまった シルバーファング馴染み過ぎる
33 18/07/02(月)01:01:24 No.515838823
秋葉に繰り出すエリカを想像してフフッってなった
34 18/07/02(月)01:02:06 No.515838983
やつって汎用性あるなあ
35 18/07/02(月)01:02:49 [エリクリキテル] No.515839188
エリクリキテル
36 18/07/02(月)01:12:46 [す] No.515841099
次は明日の同じくらいの時間帯に多分します 多分、いやおそらく
37 18/07/02(月)01:22:30 No.515842658
クロスオーバーとかここで需要あんのかなぁ 別であげればいいのに…
38 18/07/02(月)01:36:23 No.515845226
俺に需要あるから大丈夫っす
39 18/07/02(月)01:39:11 No.515845834
そもそもここはクロスオーバーなスレいっぱい立つ場所だからな…