虹裏img歴史資料館

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18/06/15(金)01:21:49 SS「水... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1528993309019.jpg 18/06/15(金)01:21:49 No.511811004

SS「水底(ミナソコ)の呼び声3~甦~」 これまでのあらすじ 愛里寿にみほのことを探して欲しいと頼まれる大河。そのために華の家を尋ねると、謎のDVDを見た直後に華が命を落としてしまう。その後、梓と紗季によりそれはエリカの幽霊の仕業だと伝えられる。一行は、次に沙織の家に向かうも沙織はすでにエリカによって殺されていた。 そして、沙織が直前まで麻子に電話をしていたことを知り、麻子のもとへと向かうのであった。 いままでの 1 su2443583.txt 2 su2443588.txt 今回の su2443590.txt

1 18/06/15(金)01:22:48 No.511811163

 麻子の家は大洗の街の中心部から少し離れた場所にあった。  人気のなかった住宅街よりもさらに人の気配がなく、さらにまばらに通る通行人も麻子の家は避けているように思えた。  一行は午後も大分過ぎた頃に、麻子の家へとたどり着いた。  だが、一行とは言っても大河の車に乗っていたのは三人だった。  大河、梓、紗季である。 「しかし、大丈夫でしょうか愛里寿さん。愛里寿さんに警察への説明を任せて私達だけで先に来てしまいましたが」 「しょうがないですよ。全員取り調べを受けていたら時間がかかりますし、ここは第一発見車の愛里寿ちゃんに任せて後で合流するのが一番ですよ」 「愛里寿さんは不満げでしたけどね」 「まあ、自分だけのけものにされたみたいでちょっと辛い気持ちは分かります」  大河と梓はそんなことを話しながら、麻子の家のインターホンを鳴らした。 「…………」

2 18/06/15(金)01:23:06 No.511811204

 なかなか返事は返ってこない。  もしかして、麻子もまた沙織のように死んでしまっているのではと、大河の頭に嫌な予感がよぎる。  そのため、もう一度インターホンを鳴らして出てこなかったら、無理矢理にでも中に入ろうかと、そう考えてインターホンに指をかけた、そのときだった。 「……誰だ」  麻子の家の扉がわずかに開かれ、中から伺うように顔が出てきた。麻子だ。  その麻子の顔は、暗く、非常にやつれ、衰えているように大河には見えた。 「あ、どうも。麻子さん……」 「お久しぶりです、冷泉先輩」 「あんた達は……随分と懐かしい顔だな。一体なんのようだ」  麻子は大河達を見て一瞬驚きながらも、すぐさま陰気な表情になった。 「その……実はお聞きしたいことがあって来たんです。みほさんと優花里さんのことについて――」 「帰ってくれ」  それは、華と最初話したときと同じ、いやそれ以上に強い否定だった。  麻子はそのまま扉を閉めようとする、大河は、その扉にしがみつきなんとか扉が閉められるのを阻止した。

3 18/06/15(金)01:23:25 No.511811257

「ま、待ってください! どうしても聞かないといけないんです!」 「話すことなど何もない。沙織から電話があって、五十鈴さんも死んでしまったんだろう。それに、その電話の途中で沙織も……! もう嫌だ。関わりたくないんだ。迷惑だ。帰ってくれ」  どうやら麻子は華と沙織の死を知っているようだった。ニュースなどで知ったのだろうか。  だが、今重要なのはそこではないと、大河は思い、とにかく率直に自分の思いを伝えることにした。 「あのDVDを見てしまったんです! 私も!」 「え……?」  そこで、麻子の扉を閉めようとする力が弱まった。  その隙をついて、大河は大きく扉を開いた。 「あっ……」 「お願いです麻子さん、話を聞かせてください! 私と、そして島田愛里寿さんもDVDを見てしまったんです。もう、こうなったらこの事件を解決するしかないんです! どうか協力してください! お願いします!」 「私からもお願いします。私はDVDは見ていませんが、五十鈴先輩にお願いされたことをここで放り投げるわけにはいかないんです。どうか、よろしくお願いします」

4 18/06/15(金)01:23:41 No.511811288

 大河と梓は麻子に向かって頭を下げる。紗季も無言であったが一緒に頭を下げる。 「…………」  麻子はそんな三人を見て、しばらく悩むような素振りを見せた後、「……はぁー」と大きくため息をついて口を開く。 「……いいだろう。中に入ってくれ」 「っ! はいっ!」  そうして、三人は麻子の家に上がることができた。  麻子に連れられ彼女の家の奥へと進む三人。その過程で、三人は言葉を失った。 「これは……」  なぜなら、麻子の家は壁という壁にアルミホイルが貼り付けられていたからだった。  さらに、アルミホイルの上には何枚ものお札が貼られている。 「……おばあが死んでから、家の周りで妙なことばかり起こるようになってな。気休めだが、こうしていると少しでもそういうものが遠ざかると聞いたのでな」 「な、なるほど……あの、紗季さん。これ効果あるんですか?」 「……一応。なくはない」  紗季がかすかな声で梓に言った。  そんな異様な冷泉家の光景を見ながら、三人は麻子の部屋へ入る。麻子の部屋は、廊下や他の部屋と比べ、一層壁や天井に貼ってあるアルミホイルが厚かった。

5 18/06/15(金)01:24:01 No.511811343

 さらに、床には満杯のゴミ袋がいくつも転がっており、長い間部屋に引きこもっているのが分かった。 「まあ適当なところに座ってくれ。汚いがな」 「い、いえ……」  三人は言われた通り適当な場所に座る。麻子は三人と向かい合えるようなところ――彼女の布団の上に座る。 「それでまず、お前達はどこまで知っているんだ?」 「あっ、はい。そうですね……」  大河達は麻子に聞かれ、これまでの経緯を話すことにした。  愛里寿がみほを探して欲しいと依頼してきたこと。  その目的で華の家に行き、優花里とのことを聞かされDVDを渡されそれを見たこと。  梓と紗季が華に依頼されエリカの霊を追っていること。  華と沙織の死体をその目で見たこと、などである。 「なるほどな……」  麻子はその話を聞くと、腕を組みしばらく黙り込んだ。 「……そこまで知っているとなると、私から話せることは殆どないぞ?」  そして、麻子は申し訳なさそうに大河達に言った。

6 18/06/15(金)01:24:20 No.511811389

「そうですか……ですが、殆ど、ということは何か話せることはまだある、と捉えても大丈夫ですか?」 「……まあな」  麻子は頷く。そして、麻子は言った。 「まずは、沙織の最後の電話の内容だ」 「はい」  大河達は息を呑んだ。沙織は直前まで麻子に電話をかけていた。つまり、直接見たかもしれないのだ。エリカの事を。 「沙織は華が死んだことを私に伝えてくれた。正直それもかなりショックでお互い気が動転していたんだが、その最後に沙織はとてつもなく取り乱して……さらに電話の途中でひどい雑音が入ってきて、なんと言っているか、正直分からなかった。だが、最後にこの言葉だけははっきり伝わってきた。『青い目が……』とな」 「青い、目……」  それは大河達がDVDで見たものを思い出させた。青い目とは、一体何を意味しているのだろうか? 大河は悩んだ。  梓と紗季も、その意味についてはよく分からないようだった。 「すまない、沙織の最後についてはこれぐらいしか分からない……すまない……」

7 18/06/15(金)01:25:40 No.511811589

 麻子はガクガクと声を震わせながら言った。  それだけで、麻子が大きな恐怖に襲われていることが分かった。それと同時に、泣いていることも。 「大丈夫です麻子さん、ここには私達が、強い力を持った紗季さんがいます。どうか落ち着いてください」 「あ、ああ……すまない……」  麻子は大河達に言われ、少しの間落ち着くのに時間をかける。 「……よし、もう大丈夫だ」  麻子は時間をかけて落ち着くと、涙を拭って言う。  そして、その言葉に続けて、意を決すように言った。 「あと、もう一つ、きっとこっちのほうをそっちが知りたがってる事だと思うんだが……実は、最後に秋山さんと会ったのは私なんだ」 「えっ!?」  大河達は驚く。それは、優花里へと繋がる大きな手がかりとなるからだ。 「それじゃあ、優花里さんがどこへ行ったのかも……!」

8 18/06/15(金)01:25:57 No.511811629

「いや、そこまでは。ただ、最後に秋山さんと話したというのが私なだけで。……だが、あそこから動いていないということも考えられる」 「あそこって、あそこってどこですか!?」  大河は麻子に掴みかからんとする勢いで聞く。その剣幕に、麻子は少し気圧される。 「王先輩、落ち着いて」 「あっ、すいません。私としたことが……」 「いや、いいんだ。自分の命が掛かっていることだものな。仕方ない」  大河は梓の言葉で冷静になり、身を引く。  麻子はそんな大河に大丈夫だと軽く手を振ると、話を続ける。 「私と秋山さんが最後に話した場所、それは、十六年前に戦車道の全国大会決勝戦が行われた場所だ」 「そんな昔の大会会場で……? どうしてまた……?」 「ああ、まずはそこから話す必要があるな。そのとき、DVDを見た直後で秋山さんにあの内容が何かを聞きに行った。そこで、秋山さんはそこに居たから私はその場所に行った。秋山さんはそこで、とある事件を調査していると言っていた。それは、十六年前に、逸見エリカという黒森峰の生徒が死んだ、戦車道の大会についてだった」 「逸見エリカ……!」

9 18/06/15(金)01:26:19 No.511811692

 それは、梓が呪いの根源として述べた名だった。それは間違いなく、優花里がこの事件の中核にいることを示している証左だと、大河は思った。 「あのDVDの内容を思い出して欲しい。あのDVDは、よくわからないインタビュー映像の後に、崖道が映っただろう? あの崖道は、戦車道大会に使われる演習場の一つなんだ。つまり、十六年前の決勝戦が行われた場所なんだ」 「あっ……そうか、どこかで見覚えがあると思ったら……!」  大河は思い出した。かつて、戦車道の取材をしていたときにその取材の一環で各地の戦車道会場を調べたことを。そして、その一つに過去の大会の決勝会場があったことを、である。 「あれは、あの場所の映像だったんですね……!」 「どうやら心当たりがあるようだな。そして、その後映った戦車の内部は、そのとき沈んだⅢ号戦車の内部だったんだ。まあ、それは私が後から調べたことだがな」  麻子は遠い昔を思い出すような目で語っていた。その様子には、懐かしさではなく恐怖がにじみ出ているように、大河は感じた。

10 18/06/15(金)01:26:35 No.511811724

「とにかく、秋山さんはそのDVDの内容については語ってくれなかった。もしかしたら知らなかったのかもしれない。だが、とにかく逸見エリカという人間のことを調べていた。そして、最後に私と秋山さんは別れた。秋山さんは、その会場にあった小さな小屋に用があると言ってな。私は不気味だったからその小屋に行くのは勘弁させてもらったんだ。そしてそれ以降、秋山さんの消息は途絶えた」  そこまで話すと、麻子は一旦話を終えた。  一方、大河は優花里へと繋がるかもしれない有力な情報に身を震わせていた。  しかし、少し引っかかることがあり麻子に聞くことにした。 「あの……そのことは警察には話したんですか? 私達はこれからそこに行ってみるつもりですが、もしかしたら警察によってあらかた調べられているかもしれませんから……」 「いや、この事を話したのは王さん達が初めてだ。正直な話、こんな事態になるまで私はなんだか恐ろしくてとても人に話そうとは思えなかったからな」 「そうですか……ありがとうございます」

11 18/06/15(金)01:26:56 No.511811779

 大河は麻子に礼をする。そして、その場で素早く立ち上がった。 「本当にありがとうございました麻子さん。私達は、これからその場所に向かってみようと思います。今回の事件に、何か打開策が見つかると信じて」 「……そうか、頑張れよ」  麻子はぶっきらぼうに大河達に言う。  と、そこで一緒に立ち上がった梓は思いついた。 「あ、そうだ。もしよければ冷泉先輩も一緒に来ますか? 今回の件に冷泉先輩は深く関わっていますし、一緒に来てくれれば――」 「断る」  麻子は大河の言葉に食い気味に言った。 「私はこの家を出るつもりはない。ここにいれば、一応安全だと思うからだ。外に出たら、何があるか分からない。もしかしたら、沙織や五十鈴さんのようになってしまうかもしれない。すまない……私は……怖いんだ……」  麻子はガクガクと体を震わせながら言った。その様子に、大河達は説得は無理だろうと思った。 「……分かりました。今回の件は、私達でなんとかします。冷泉先輩は、どうか安心してください」

12 18/06/15(金)01:27:11 No.511811814

 梓がそう言うと、一同は麻子の家を後にして車へと戻っていった。  そこで、大河が愛里寿へと電話をかける。 「もしもし、愛里寿さんですか?」 『うん、大河? こっちは終わったよ』  電話越しから愛里寿の声が聞こえてくる。大河はとりあえず情報を簡潔に伝えることにした。 「そうですか。こちらも話を聞き終えました。有力な情報が手に入りましたよ。優花里さんが最後にいなくなった場所を突き止めました。これからそこへ行くつもりです。一旦警察署で合流しましょう」 『分かった。……私も、麻子さんに会いたかったな』  と、そこで愛里寿の声が少し寂しそうなものになった。 「おや? 麻子さんとも知り合いでしたっけ?」 『まあ、一応ね』

13 18/06/15(金)01:27:27 No.511811842

「この事件が終わった後で、ゆっくり会えばいいと思いますよ? とにかく、今は優花里さんとみほさんを探さないと」 『……そうだね。今は、優花里さんと、何よりもみほさんだよね』 「ええ、そうですよ。では、一度切りますね」  電話の向こうの愛里寿が納得したようなので、大河は電話を切る。  そして、愛里寿を迎えるために警察署に向かい、そこから戦車道会場へと向かうのであった。  つづく

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