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    18/06/13(水)00:01:21 No.511357420

    ガルパンSS 大学生ノンカチュ 「離別の後の細い糸」

    1 18/06/13(水)00:01:39 No.511357511

     カチューシャがロシアへ旅立った。  それは予定されていた――留学のための旅立ち。  私――ノンナは、生まれてはじめて、カチューシャと離別した。  無理にでも付いていこうと思ったが、プラウダ高校の留学枠は『1』。  いくら私でも、それをねじ曲げる訳にはいかなかった。

    2 18/06/13(水)00:02:11 No.511357659

     大学選抜の演習場。  私は缶コーヒーを片手に紅白戦の趨勢を見守る。  しかし、その目には紅白の戦車が入り交じり、乱戦を繰り広げている以外の何物も見いだすことは出来なかった。 「ふう」  路傍の石に腰掛け、すっかり温くなった缶コーヒーを一口呷ると、不意に人影が現れた。 「となり、いいか?」 「どうぞ」  安斎千代美。  留学組ではない、『国内組』の一人である。 「ブリザードのノンナらしくないな。試合をまるで見ていない」 「見ています。機動戦術のぶつかり合いから、紅組が陣形を整えて挟撃体制に入りました」 「さすが。慧眼だな」 「あなたに褒められる筋合いはありません」  言葉に棘が刺さる。別に安斎は嫌味を言ってるわけでも挑発しているわけでもないのに。 「あー、ノンナ。ちょっといいか?」

    3 18/06/13(水)00:02:41 No.511357818

    「……はい」  試合の動向を見守るのを止めて、安斎は私を演習場の木立の中に誘い込む。 「あの、さ、ちょっと言いにくいんだけど――今のノンナは、空っぽだ」 「空っぽ?」  突拍子のない物言いに、思わず眉を顰めると、次の言葉が飛んできた。 「その空っぽの原因は分かっていると思う。カチューシャだ」 「……カチューシャとは毎日連絡を取り合っています。モスクワ戦車大学のカリキュラムや美味しいレストラン、料理にルームメイト……現地生活を逐一、それは沢山教えてくれています」  安斎のワインレッドの眼光が突き刺さる。  次の言葉は――更に辛辣だった。 「じゃあノンナ、お前はカチューシャに何を報告している?」 「ええと、大学選抜の試合の結果や、あなたを含む『国内組』の動向を伝えていますが」 「そこにお前の感情はあるか?」  私はふと考えた。……それらは事務的な報告であり、カチューシャが送ってくる『おいしいペリメニの作り方』とはまるで違う。  カチューシャは――戦車道の内容をほとんど送ってくれないのだ。

    4 18/06/13(水)00:03:15 No.511358004

    「そこだ」  安斎が缶コーヒーを一口飲み、私の方を向く。 「ノンナはカチューシャが本当に欲しがっているものを与えていない。カチューシャはノンナが本当に欲しがっているものを与えていない……。それはやがておおきな食い違いを産み、本当の離別を迎えてしまう」 「そんな、カチューシャと私は切っても切れない関係で生きて来たのに……」 「カチューシャに甘えろ。カチューシャを甘やかせ。それがおまえ達の本来の関係だ」 「しかし、それは戦車道とは関係ない――」 「戦車道漬けの毎日を送っている2人は、やはり戦車道の事を語るべきなんだよ。カチューシャは、日常に隠してるため込んでいるものを、ノンナはカチューシャのいない大学選抜でぽっかり空いた穴を埋める何かを」 「…………」 「今日やってみるといい、クラーラがカチューシャに付いていても、一つだけ出来ないことがある。ノンナと違って」  ノンナが小首をかしげる。カチューシャと共にロシアに渡った、クラーラは優秀な参謀だ、ノンナお付きのサポーターとして十二分に役目を果たしているはずだ。 「クラーラは、カチューシャを叱れない」

    5 18/06/13(水)00:03:42 No.511358118

     あ。思わず声が出た。 「命令に従い、最適解を求めることができるが、カチューシャがまちがったことを言っても、それをどうにかして良い方向に修正しようとするだろう。カチューシャにとってそれが最良の選択肢かどうかは、分からない」 「つまり、私にしかできないことがある、ということですね」  安斎がじっと私の顔を見つめて、ゆっくりと頷いた。 「……まぁ、お前とカチューシャの仲をほんの少ししか観察してない私の意見だ、聞き流してもらってもいい。だが、今日のチャットからなにか出来ることがある、そう思わないか」 「はい……」  私は、不意に熱いものが両頬を伝うのを感じた。  私は、カチューシャに何をしてきたのだ。  選抜の戦況を一方的に伝え、アドバイスをもらう。  留学生活に耳を傾け、それは素晴らしいですねと賞賛を送る。  このループに,陥っていなかったか? 「あ、ありがとう、安斎」

    6 18/06/13(水)00:04:00 No.511358182

    「礼には及ばない、気づいたことを言ったまでの事だ」  涙を見られたくない私は、俯いてその場を離れた。    紅白戦は、紅組の勝利に終わっていた。

    7 18/06/13(水)00:04:27 No.511358298

     真夜中、私はパソコンの画面に向かう。  夕方のモスクワと回線をつなぐため。 「カチューシャ、ごきげんよう」 「こんばんわノンナ、元気してた?」 「はい、おかげさまで……」  ルーチンの会話をしばらく続け、カチューシャが他愛もないテイクアウトや学友の失敗談を語る。  私はしばらく耳を傾け、頭を上げてカチューシャに訊ねた。 「それで、戦車道はどうなっていますか」 「あ……」  画面の向こうのカチューシャの顔が少し引きつる。 「う、うまく行ってるわよ。今日は3両も撃破したんだから」 「クラーラの力添え無しでですか?」 「ノンナっ!!」  カチューシャの耳が赤くなる。口がきっとへの字に結ばれる。

    8 18/06/13(水)00:04:49 No.511358392

     察した。私たちは腹を割って話し合う必要がある。 「私は今日紅白戦のメンバーから外れました……。何かが足りないのです」 「足りてないって、何よ!」 「クラーラがいなくても戦えるよう、カチューシャは訓練を重ねるべきです」 「そんなの分かってるわよ! ノンナ、紅白戦から外れたなんて聞いてないわよ! 何が足りなかったの!?」 「それは……」  また涙がこぼれた。ちらりとみた画面の向こうのカチューシャの目も涙がにじんでいる。  これが、足りなくてぽっかりと穴が空いてたんだ……。  日本とモスクワ、この距離を超えられるか。  私とカチューシャの本音のぶつかり合いが、離別の隙間を埋めるぶつかり合いが、始まろうとしていた。

    9 18/06/13(水)00:05:57 No.511358696

    おしまい この二人が離ればなれになっても留学から帰ってきてもいつも通りの二人でいてほしい……

    10 18/06/13(水)00:20:27 No.511362408

    甘やかすのか叱るのかははっきりしてほしい

    11 18/06/13(水)00:28:16 No.511364350

    ノンナとチョビとは珍しい…

    12 18/06/13(水)00:44:11 No.511367933

    >ノンナとチョビとは珍しい… ノンチョビを推してる人は知ってる限りで1人しかいない

    13 18/06/13(水)00:55:07 No.511370144

    サングラスかけた安斎が見えた…

    14 18/06/13(水)01:00:58 No.511371386

    いつも一緒にいたときは2人一緒である事自体が当たり前で、離れてみて初めて理解る存在の大きさいいよね… いい物を読めてありがたい