18/05/03(木)01:48:33 SS「運... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1525279713036.png 18/05/03(木)01:48:33 No.501891831
SS「運命の女神は誰に微笑む」
1 18/05/03(木)01:48:49 No.501891865
ダージリンは最近、とある賭け事に夢中になっていた。 内容はシンプルである。戦車道とは別に戦車によって競い合う競技、タンカスロンにおいての勝敗を予想するという賭け事である。 きっかけは些細なことであった。 ダージリンにとってのよきライバルである西住まほの動向がおかしくなったためである。 まほは、全国大会での優勝を二連続で逃してしまったことから、彼女の母親である家元を始めかなり多方面から叱責を受けていたらしい。 まほ本人にとっては最初の敗戦はともかく、妹の西住みほと戦った二回目の戦いは満足いくものであったのだが、周囲がそれを許さなかった。 まほは敗戦の責任を問われ続け、どんどんと精神的に疲弊していった。それは周囲が見ても分かるほどで、ダージリンもまほのことを遠回しにだが心配していた。 だが、ある日を境に追い詰められていたまほの表情に笑顔が見えるようになってきた。 最初は何があったか分からないがそれは良いことであると思った周囲だったが、まほの行動や言動がそれに伴い荒くなっていくと疑問が生まれ始めた。
2 18/05/03(木)01:49:05 No.501891903
なぜまほの言動が急に変わったのか。そもそも、まほは本来感情をあまり表に出さない人間だったはずなのに、表に感情が色濃く出るようになったのはなぜか。 そんな疑問を周囲は持った。もちろんダージリンもである。それを解明するために、ダージリンは彼女の所属する聖グロリアーナ女学院の情報網を使い、まほの動向を調べた。 すると、まほが最近タンカスロンの試合観戦によく出向いていることを知った。 それを知ったダージリンは、何があったのかを突き止めるために自らまほの事を調べることにした。 そして、ダージリンは知った。まほが、タンカスロンの会場で戦いの勝敗に対する、違法な賭け事に興じていることを。 「まほさん、何をやっていらっしゃるの」 ダージリンは会場で熱中しているまほにそう声をかけた。 「ダージリン……? どうしてこんなところに」 「どうして、とはこちらの言葉ですわ。あなたこそこんなところで何をやっているのです。見たところ、賭け事をしているように見えますが」 「……ああ、そうだ。私はタンカスロンで賭けをしている」 「やはり……どうしてそんな」
3 18/05/03(木)01:49:21 No.501891943
「それは私から説明しましょう」 まほと話しているダージリンの元に現れたのは、プラウダ高校の副隊長、ノンナだった。 「あなたは……ノンナさん? どうしてここに」 ダージリンが驚きの色を見せる一方で、ノンナはその氷のようなポーカーフェイスを保っている。 「私がまほさんにこのタンカスロンでの賭けの事を教えたんです」 「っ!? あなたが……!?」 それはダージリンにとって驚くべきことだった。ノンナはとても賭け事をやるような人間には思えなかったからだ。 「そうですね、あなたが驚くのも無理はないでしょう。私もずっと隠してきましたから。……私は、色々と疲れていました。カチューシャに尽くす生活はとても充実しています。しかし、カチューシャに迫る様々な魔の手ややっかみから彼女に知られないように守るには、少々骨が折れるのです。その疲弊を誰にも言えない日々に、私の心は少々弱っていました。そんなときです、このタンカスロン賭博のことを知ったのは」 そう言ってノンナは手に持っていた投票券を見せた。
4 18/05/03(木)01:49:39 No.501891986
「この賭博はもちろん違法です。ですが、そのせいか試合を観戦し、純粋に自分の利益のために勝敗を願うこの競技に、私は強く惹かれました。そして、勝利したときの快感を……そして知ったのです。賭博というものは、現世に対しもっとも近くしかしもっとも離れた癒やしになることを」 「……それで、まほさんが疲弊しているのを知って、まほさんをこの賭博に誘った、というわけですの?」 「ええ。その通りです。まほさんは最初は難色を示していましたが、勝利を当て配当を手にする喜びを知って、すぐさま考えを変えてくれました」 「ああ、ダージリン。どうか見逃してくれないか。私も正直、かなり疲れていたんだ。お母様や西住流の人間、黒森峰のOG達からの辛い責めに……。だが、賭博をしている間はそんなことを忘れて、純粋に戦車の勝ち負けだけに没頭できる。そしてそれに勝利したとき、たまらなく気持ちいいんだ」 「あなたたちは……」 そのときは、ダージリンは二人の気持ちが分からなかった。賭博から得られる快感というものに、理解を示すことができなかった。
5 18/05/03(木)01:50:00 No.501892029
だが、しかし―― 「そうだ、ダージリンもやってみるといい。そうすれば、私達の気持ちが分かるはずだ」 「な、なぜ……」 「簡単さ。ダージリンも、私達と同じ側の人間だからな」 まほはとても暗い目でダージリンを見ながら言った。 その言葉に、ダージリンは心の臓を掴まれたような気持ちになる。 「そ、そんなこと……」 「そんなことはないと? それこそそんなことはないだろう。知っているぞ。ダージリンがいつも聖グロリアーナのOGと在校生の折衝に気を揉んでいることを」 「そ、それは確かにそうですが……」 「……ダージリンさん、今日だけでいいんです。ぜひこの賭博というものを体験してみてください。そうすれば、私達の気持ちが分かるはずです」 ノンナが氷のように張り付いていた無表情の仮面から、笑顔の仮面にすり替えてダージリンの肩を叩いた。 ダージリンはすぐさまに否定しようと思った。 が、できなかった。 そこには、苦しみから開放されているまほやノンナを見て生まれた、小さな、しかし確固たる感情が原因だった。 憧れ、である。
6 18/05/03(木)01:50:23 No.501892094
「……分かりました」 そして、ダージリンは言ってしまった。 「今日だけです。今日だけ、あなた達に付き合ってあげましょう」 それがいけなかった。 ダージリンはその日に、運良く大きな勝利を当ててしまったのだ。 そして、味わってしまった。賭博で勝利する快感を。戦いを高みから見世物として見物する愉悦を。苦労せずに金銭を手に入れる興奮を。 「……これが、賭け事……」 ダージリンは今まで優雅ながらも心の奥底では真面目に生きていた少女だった。 常に格言を口にし他人と距離を作ってきた。 だが、そんな彼女にとって賭博は劇薬となった。 ノンナやまほにとってそうだったように。 それから、ダージリンは落ちるようにタンカスロン賭博に熱中していった。 空いた日を見つけては賭博に興じ、まほやノンナと共にどこが勝利するかに熱中した。ミイラ取りがミイラになってしまったのである。 だが、ダージリンは確かに楽しいと思っていた。この楽しい時間を、もっと長く、もっと激しくしたいとも考えた。 そんなある日である。ダージリンは、とあることを思いついた。
7 18/05/03(木)01:50:43 No.501892155
「三校を競わせる、だと?」 ダージリンの突然の提案に、まほが言った。 「ええ」 ダージリンは紅茶を飲みながら答える。 「私達はそれぞれ学校の戦車隊をある程度好きに運用できる立場にあります。それを利用して、黒森峰、プラウダ、そして我が聖グロリアーナの三校をタンカスロンに出場させ、それぞれ自分の高校の勝利に賭ける、というのはどうでしょう? もちろん、自分の高校を出すのだから賭け金はそれなりに、ということで」 ダージリンの提案はとてもまともなものとは思えなかった。自分達の学校を、賭けの道具にしてしまおうと言っているのだ。 普通なら、拒絶するのが当然であろう。 「……なるほど、なかなかに面白そうだな」 「ええ、私もカチューシャに頼むことになりますが、カチューシャにうまくとりなせば問題はないでしょう」 だが、彼女達は賭けに狂っていた。 彼女達にとって、賭けの享楽がどれだけ得られるか、すでにそれだけが問題だった。 「ええ、ではそういうことで。……ふふ、この賭けの間は私達は敵同士ということになりますわね。なかなか刺激的な間柄ではないこと?」
8 18/05/03(木)01:51:00 No.501892198
「そうだな。普段の戦車道とは違った、ヒリヒリとする敵対関係だ」 「ええ、私、まほさん、ダージリンさんでの三つ巴の戦い。非常に楽しみです」 ダージリン達は静かに笑いあった。そこには、三人それぞれ自分の勝利を疑わない傲慢さがにじみ出ていた。 それから数週間後、あっという間に賭けの当日となった。 三人はそれぞれうまく手を回し、自分の高校の部下をタンカスロンの試合に出場させた。 そこには色々と細かい取り決めがあり、なるべく戦力は同等になるようにされていた。そのほうが、賭けの興奮がより増すからである。 「さて、いよいよこの日が来ましたわね」 投票券を持ったダージリンが、戦場が映し出されるモニターの前で言う。 「ああ、悪いが賭け金は私がいただく」 「おや、それは私の言葉ですよまほさん」 それに対し、まほとノンナが自信に溢れた様子で返す。
9 18/05/03(木)01:51:18 No.501892241
三人とも、自軍の勝利を疑っていない眼だった。 「はてさて、運命の女神は誰にキスをするか……楽しみですわね。ところでみなさん、賭け金は一体どれくらい賭けたので?」 「もちろん、今までの勝利分全額だ。私の部下が出るんだ。勝ちが目に見えている試合ならそれぐら賭けるだろうさ」 「私も、ほぼ全額賭けました。理由はまほさんと同じです」 「あら奇遇ね。わたくしもよ。だって、聖グロリアーナが必ず勝つと分かっているもの」 三人はそれぞれそう言って視線で火花を飛ばす。 そうしているうちに、試合は始まった。 試合は激戦だった。三つ巴の戦いとなったタンカスロンは、それぞれがそれぞれの持ち味を活かし、息もつかせぬ戦いを見せた。 その試合の細かな変化に逐一、ダージリン達は興奮した。賭け金はほぼ自分の財産の全額。それが掛かっているのもあって、いつも以上の興奮を彼女達にもたらした。 その一瞬の興奮のために、三人はすべてを注いでいると言っても過言ではなかった。 それに、三人の中では言葉にしていないものの、負けても問題ないという安心感があった。
10 18/05/03(木)01:51:35 No.501892279
三人は秘密を共有する仲であり、大事な賭け仲間である。それゆえ、誰かが勝って誰かが負けても、勝った人間が他の二人に手に入れた賭け金を分け与えるだろうということが言葉を交わさずに取り決められているようなものだったのだ。 つまり、一瞬のスリルを味わうと共に、負けてもあまりリスクのない戦いになっていると、どこか三人は安心している部分があった。 だが、その安心は戦いの最終局面で打ち破られることとなる。 「えっ!? あ、あれは……!」 ダージリンが声を上げた。 戦況を映し出すモニターに、突然新たな戦車が現れたからだ。 それはどことも知れぬ戦車で、つまりは乱入ということになる。 タンカスロンは殆どルール無用の戦いで、乱入すら許容する。それゆえ、賭博としていない観客達は沸き立った。だが、ダージリン達賭博をしている観客達は、どよめいた。 もし乱入者が勝った場合、自分の賭けたチームが負けることを意味する。 それは、賭け金をまるごと誰もが失ってしまうこととなる。 そんな事態、誰もがごめんだと思った。
11 18/05/03(木)01:51:53 No.501892323
誰もが乱入者の敗北を願った。 だがしかし、勝利の女神は、乱入してきた一台の戦車に微笑んだ。 乱入してきた戦車が、たった一台で他の三校を倒してしまったのだから。 『わああああああああああああああああああっ!』 会場は沸き立った。突如乱入してきた新たなスターの誕生にである。だが、その歓声の中で、絶望に顔色を染める者達もいた。 ダージリン達三人も、その中に含まれていた。 「……そんな……わたくしの、全財産が……」 「……おのれっ……! おのれっ……!」 「あ……ああ……」 ダージリンは体から力が抜けぺたんとその場に座り込み、まほはやり場のない怒りを投票券にぶつけ、ノンナはただ言葉もなく絶望していた。 これは罰なのかもしれない。 絶望のなかダージリンはそう思った。 自らの一瞬のスリルのために、自分の高校まで利用しようとした自分達への。 だが、いくら後悔しても後の祭りだった。
12 18/05/03(木)01:52:10 No.501892364
もはやダージリン達はほぼすべての財産を失い、彼女達が求めてやまなかった賭博の快楽への道が閉ざされてしまったのだから。 少なくとも、今後しばらくは。 こうして三人の三つ巴は誰もが苦しみを味わって終わる事となった。 だが、三人はそれでも法外な賭博からは離れられないだろう。もはや、彼女らの体には求めてやまない毒々しい快楽の味が、染み付いてしまっているのだから。 おわり
13 18/05/03(木)01:54:35 No.501892740
読んでいただきありがとうございました 先程スレで頂いたお題「ダージリン三国志」で書きました 三国志要素が三つ巴と三つ巴どれも勝たないで別の勢力が勝つぐらいしかないけど許してくれるかな許してくれるねありがとうグッドトリップ
14 18/05/03(木)01:57:22 No.501893124
相変わらず筆が早い…!
15 18/05/03(木)01:59:19 No.501893430
おのれシナモンロール頭
16 18/05/03(木)02:08:27 [す] No.501894673
txt貼るの忘れてた su2374336.txt >相変わらず筆が早い…! 書きながらこれもうちょっと練れば倍ぐらいの文章でいけるんじゃないかと思ったけどまあスレで即興で書いてお出しするって言ったしこれでいいかなって
17 18/05/03(木)02:15:16 No.501895492
これ一切合切アッサム様に筒抜けなのでは…
18 18/05/03(木)02:17:04 No.501895695
一体何者なんだ謎の乱入者は…呂布かな?