ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
18/04/29(日)01:02:42 [1/3] No.500894727
『ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心なく 花の散るらむ──…』 春の陽気も落ち着き始め、日が昇るにつれ風の肌寒さも感じなくなっていく。 そんな昼下がり、箒を手に事務所の中庭に立つプロデューサー。 「なんで俺が中庭の掃除当番なんだよ…」 不満そうな顔で伸びをすると、彼は小さくため息を一つつく。 「あーもう、学校じゃねーんだから掃除当番とかやめてくれよな」 ぶつくさと文句を言いつつ、彼は手にした箒で足元の花びらをバサバサと集めていく。 そんな彼の様子を、少し離れた所から、ちょこんとベンチに座った紗枝が静かに見つめていた。 「…何してんだよ紗枝」 「見張りどす」 「見張り?」 ええ、と小さく相槌を打つと、紗枝はニコニコとした表情で彼を見つめる。 「プロデューサーはんがお掃除さぼらへんよう見張っておくように、ちひろさんから言われてますさかい」 「なんだよそれ」
1 18/04/29(日)01:03:03 [2/3] No.500894806
「今日はプロデューサーはんがお掃除係、しっかりとやっておくれやす」 「男子は掃除サボるもんなの。つーか紗枝もそこで見てるんだったら手伝ってくれてもよくない?」 「駄目どす」 「冷たいわー。京都人マジ冷たいわ。あと関係ねーけど『駄目どす』って『ダメドス』って言うとなんか怪獣の名前っぽくない?」 「しょーもない話せんと手を動かさな、昼休み終わってしまいますえ」 「はいはい」 紗枝に促され、プロデューサーは再び箒で地面に広がる桃色の花びらを掃き始める。 吹き抜けていく春の風は、いたずらに樹から花びらを奪い去っていく。 風に流されていく花びらを、しばらく何も言わずに見つめていた紗枝が、ふいに小さくつぶやく。 「…なぁ、プロデューサーはん」 「ん?」 「なんで花は、散ってしまうんやろ」 「それは化学的な質問?それとも哲学的な?」 「いけず」 「まあ… 理科のお勉強する時間でもないか… 」
2 18/04/29(日)01:03:23 [3/3] No.500894894
「『そーいうもんだから』としか言えないな。諸行無常、花は咲いたら枯れるし、流行り廃りもあれば、季節も変わる」 「でも、そんなん虚しいわぁ」 「だとしても、盛者必衰はこの世の摂理だ。平家も滅亡するし、恐竜も絶滅する。どんな力でもそれは止められない」 「なんや、プロデューサーはんの方が冷たいやないの」 「そうかな?確かに散るのは止められない。でも、どんな花を付けるかは、自由だろ」 「プロデューサーはん…」 「一度の人生、どうせ花付けるなら狂い咲きだろ。それに…、俺は花を育てるの、得意だし?」 「……。ふふっ、またそんな適当なこと言うて」 「どうせなら、この世の春を楽しもうぜ」 「そうどすなぁ…」 何もかもが 春の夜の夢にすぎないのか ならばなぜ 季節は巡って 春がやってくるのか 行き交う時の中で その答えと 変わらないものを探す 沙羅双樹の花の色は 今また美しく色づいて 今年も世に春が舞う──
3 18/04/29(日)01:11:12 No.500896663
風流だな…