虹裏img歴史資料館

画像ファイル名:1523966018460.jpg 18/04/17(火)20:53:38 No.498387239

私は備前国一の陶工の弟子に這入り、十年して師の孫娘の婿に這入った。孫娘は渓流のように清く、桃の花のように可愛らしく美しかった。私は師とその孫娘をこの上なく尊敬していた。何をするにも私は師と孫娘と三人だった。私と師の孫娘は相変わらずきょうだい弟子のようであった。 婿入りから半年ばかり経った日、師が「用があって明日まで帰らぬから留守を頼む」と云って一人で出掛けて行った。その日、私と師の孫娘は二人で土と向き合い、日が暮れると夕餉をとり、そのまま寝入った。 明くる朝、師が帰った。私が玄関先で師を迎えるなり、師は「まだ出来ていないのか」と云った。私は「丁度焼きかかっているところで御座います」と答えた。師は窯を見るなり、「まだ出来ていないのか」と再び問うた。私は泣きそうになって後を顧みると、師の孫娘が私の足を見つめていた。その姿が私にはとても恐ろしく思われた。孫娘は私の傍に歩み寄ると私の首もとに噛みついた。師は「まだ出来ていないのか」と三たび云った。私は逃げようと思ったが足が竦んで一歩も動けなかった。