ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
18/03/30(金)22:45:32 No.494496587
乱動以上の戦乱がゼンディカーを飲み込み、そしてそれが終わり、暫くの日が過ぎた。ゼンディカー人は種族を超えた同盟者であり続けた。 彼らが愛した、強く美しい世界。世界中から集まった生き残りは、それぞれに彼らの美しい故郷を自慢し、壊滅され尽くしたそれらに郷愁を抱き、再びその地を踏む為に旅に出ることを強く望んでいた。 彼は違った。他の人々のように笑うことは出来なかった。青春を旅や冒険に費やし、その喜びを知った大人達とは違う。彼はその最も多感な時期を醜い侵略者との戦いに放り込まれ、それがまるで人生の全てであったかのように感じた。 戻る場所は失った。帰りたい過去もなく、向かいたい未来もない。それらは全て、エルドラージに壊し尽くされている。 彼は、宙ぶらりんだった。道の歩み方。知らなかった。ただ、その日を生きる為にゼンディカーの復興に従事をすることを選んだに過ぎない。 「隣、いいかな」 海門の残骸、夕陽の下でそのマーフォークに出会うまでは。
1 18/03/30(金)22:46:02 No.494496740
「へえ、あなたはバーラ・ゲドの出身なんだ」 「ええ。ウムングの海沿いの村の生まれです。でも、もう」 マーフォークと話したことは数える程しかなかった。吸血鬼やコーとも同様だ。エルドラージがこの世界を殺戮に包むまで、彼の世界は人間とエルフが殆ど構成していた。 「私もそんな感じ。多少はマシだけどね」 赤い肌に美しい白の珊瑚の鎧兜が映える。その女性の名も知らなかったが、すぐにそれらはどうでも良くなった。 「あの怪物どもが、全部を奪っていった。けれど、ほんの少しだけ取り戻した。残されたものは、新しい形を生み、新しい大切を手に入れる」 彼女の言葉はどこにも向けられていなかった。 「掛け替えがないから、大切なのにね」 「俺も、そう思います」 マーフォークは鰓を広げて笑った。 「だね。私は遺跡潜りをしてたの。今はどれだけ残ってるか知らないけど。貴方は何を？」 「俺は……」 彼は踏み出そうとしていた。冒険者として生きる道、ウムング河の渡し守として生きる道、大洋に出て他の大陸に向かう道。様々な選択肢があった。そのどれかを選ぼうとしたその時、取り上げられただけで。
2 18/03/30(金)22:46:23 No.494496848
「何かになろうとしていました。自分の道を選ぼうとしていました」 彼は吐き出すように言った。このマーフォークも、分かってくれないのだろうか。 そう考えると胸が痛んだが、不思議と悪い気分でもなかった。 「……ごめんなさい、そんなつもりじゃ」 「いえ、いいんです。話しただけで、少し楽になれましたから」 彼女はゆっくりと首を振り、彼の手を取った。マーフォークの冷たい手と人の暖かい手が重なり、互いに奇妙な感覚を覚える。 「ジョリー。ジョリー・エンよ。良かったら、また明日、同じ時間、同じ場所で」 彼は初めてマーフォークと目を合わせた。吊り目の彼女がゆっくりと微笑むのに、上手には返せなかった。 「ええ、喜んで」 エルドラージとの戦いから、人生は『生まれて初めて』の連続だった。そして彼は生まれて初めて、女性と逢う約束をした。 これはデートと呼んでもいいのだろうか？そう考えて、マーフォークの女性にまるで真剣な自分におかしくなった。 同盟者。ゼンディカーの人々にとって最も重要なことは、同じ目的を持つことだ。彼はその意味を反芻した。
3 18/03/30(金)22:46:38 No.494496907
マーフォークなのにエッチいよねって言いに来たら… あいつ
4 18/03/30(金)22:47:53 No.494497273
ちょっと待って こいつ同盟者ついてないやん
5 18/03/30(金)22:48:39 No.494497473
ヤバイ泣きそう
6 18/03/30(金)22:49:32 No.494497713
何個あるか分からないけど戦ゼン最大の反省の一つ同盟者なのか同盟者じゃないのか分からない問題…許せねえ…
7 18/03/30(金)22:50:04 No.494497891
>ちょっと待って >こいつ同盟者ついてないやん えっそういうオチ…？
8 18/03/30(金)22:56:22 No.494499708
翌日、相変わらずの復興作業は小さな結果を繰り返していた。荒れ果てた海門の整理は今日も終わる気配は見えない。しかし、ゼンディカーの人々は互いに夢や希望を語り合うのだ。 彼も、口には出さないが一つ、やりたいことが生まれた。そう表現するには余りにも近い出来事かもしれないが。 今日も、ジョリーと会う。ただの予定かもしれないが、それすら持たなかった彼には十分だった。約束の時間の二十分前に、約束の場所で待つくらいには。 「ごめんごめん、待った？」 ジョリーの声が彼の背中をくすぐった。相変わらず珊瑚の兜を着けていた彼女だが、今日は昨日よりラフな服装だった。 「いえ、今来た所ですよ」 「嘘つき」 くすりとジョリーは笑った。彼は心臓が跳ねるのを感じた。 「見てました？」 「ちょっとだけ。すぐ行けたら良かったんだけど、別の用事があって」 ジョリーは手を伸ばし、大きく伸びをした。水掻きから漏れた陽光が水泡のような影を生む。 「でも、良かった。あなたは今、自分で道を歩んだ。その手助けになれて」
9 18/03/30(金)22:58:58 No.494500503
いい…
10 18/03/30(金)23:07:28 No.494502936
「どういうことですか？」 「友達に、貴方に似た人がいたの。一番多感な時期に信じていた神を失い、どうしていいか分からなくなった友達が」 コーシ。マーフォークは確か、彼らの神をそう呼んでいた。エルドラージの巨人が、かの神の正体が彼らの信仰を打ち砕くまで。 「その子は、いなくなってしまった。最期を迎えたのか、それとも何処かでひっそりと隠れてるのか、それすら分からない。私は、何も出来なかった」 彼女が彼の隣に座った。そっと海面に脚を伸ばし、ちゃぷちゃぷと音を立てて遊んでいた。 「……」 「気にしないで。だから、私はあなたに手を差し伸べることが出来たの。自分の進むべき道が分からない時、それを導いてあげるのは先人の役滅でしょ？私、遺跡潜りだったから、道案内は慣れてるしね」 海の向こうを眺める横顔に、薄暗闇に隠れ行く微笑みに、彼は知らない感情をまた一つ覚えた。 「ごめん、話し過ぎたね」 「……明日も、いいですか？」 彼女は、微笑んだ。
11 18/03/30(金)23:17:50 No.494505682
人間とマーフォークの奇妙な関係はそれからも続いた。二人はおおよそ一時間も話さなかったが、十分だった。 「ジョリーさん、俺は、一つ勘違いをしていました。人々が手を取り合うのは、単にそうする必要があるからだと思っていました。けれど、思うに、そうしたいから、そうするのかもしれません」 彼はジョリーに手を伸ばし、マーフォークの水掻きに指がそっと触れ、彼女はくすぐったい声を上げた。 「そうかも。私も、最初は単に報酬の為に遺跡潜りをやっていたけど、いつの間にか遺跡に潜ること、その謎を解き明かすこと……何より、それを分かち合う人の為に仕事をしていたから」 ジョリーは指を絡めようと奮闘したが、丈夫な水掻きをどうすることもできずに断念した。 「もしも、あなたが遺跡潜りを再開する時は、一緒にお仕事をしても良いですか？」 「海門で私の帰りを待ってくれる？」 「喜んで」 「でも、その頃には私はおばあちゃんになってるかな」 「構いませんよ。それまで、毎日だってこうして話しましょう」 二人は見つめあった。繋いだ手から愛おしさが溢れて、どちらともなく。マーフォークの冷たい皮膚と、人間の生温い肌が重なった。
12 18/03/30(金)23:19:12 No.494506049
何なのこれ…何なのこれ…
13 18/03/30(金)23:19:41 No.494506175
公式小説かと思った
14 18/03/30(金)23:21:12 No.494506546
俺ジョリーの良さ分かった！
15 18/03/30(金)23:21:18 No.494506584
すごくいい
16 18/03/30(金)23:24:04 No.494507357
ジョリーさんとゼンディカーの復興したい でも同盟者じゃないんだねジョリーさん、俺を騙していたんだ 俺のことなんて遊びだったんだろう 日が暮れたらあなたは他の男のところに行っていたんだろう ジョリーさん、俺は貴方を待つつもりでしたが考えを改めました あんまり遅いから迎えに来ましたよ、心配で仕方なくて 黒い憎悪に身を任せて俺がジョリーさんの部屋に乗り込むと、彼女は気持ちよさそうに眠っていた。兜を外しているのを見たのは初めてだ。あ、何気に俺ジョリーさんと同じ屋根の下二人きり…？ 俺はジョリーさんの寝顔を目に焼き付けて部屋を後にした
17 18/03/30(金)23:25:33 No.494507760
オチのある怪文書じゃなくて普通にいい話だと…しかもジョリーエンの？なんで…？
18 18/03/30(金)23:28:54 No.494508594
ジョリーと言えば「ジェイス、こんちくしょうめ」
19 18/03/30(金)23:33:17 No.494509730
ジョリーといいキオーラといいゼンディカーのマーフォークはエロい
20 18/03/30(金)23:39:50 No.494511325
ジョリーいいよね…
21 18/03/30(金)23:41:49 No.494511839
>役滅 なんか漏れ出てるぞ