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  • SS「Sil... のスレッド詳細

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    18/03/04(日)00:25:36 No.488663199

    SS「Silent Evil」 前回までsu2275934.txtのあらすじ 目が覚めると荒廃し怪物がうろつくようになった学園艦にいたエリカ その道中で様々な幻覚を見ながらも西住姉妹と協力し異変の解決へと望む その道中の最後にて、エリカ達は異形化した赤星小梅と対峙するのであった……

    1 18/03/04(日)00:26:18 No.488663404

      第三章 サイレントイーヴィル

    2 18/03/04(日)00:26:51 No.488663535

    「アアア……エリカサン……」 「小梅っ!」  エリカは叫ぶ。  目の前に現れた、かつての友人に。  小梅の背後の通路は炎が燃え盛っており、消化しなければ通れないだろう。 「えっ、エリカさん今、小梅って……」 「ウアアアアアアッ! エリカサン! エリカサン! エリカサン!」 「話は後! 来るわよ!」  小梅は突如興奮したようにエリカの名前を叫びながらエリカ目掛けて走ってきた。  エリカはその小梅に対し持っていた銃で応戦する。  広い格納庫内にタタタン! という銃声が響く。  だが、その銃撃を小梅はまったく意に介さないで突進し続けている。 「くそっ!」  エリカは横転し回避行動を取る。  小梅はそのまま突進し、壁を大きくへこませた。

    3 18/03/04(日)00:27:16 No.488663642

     エリカはその背後に、なおも銃撃する。 「このっ! このっ! このっ!」  弾が切れると素早くリロードし、撃ち続ける。  だがそんな銃撃に、小梅は僅かに怯むだけで、その勢いを衰えさせることはなかった。 「エリカサン……ドウシテ……」  小梅はそんなことを呟きながら、またもエリカに迫ってくる。  エリカは小梅からジリジリと後退して距離を取って銃を撃ち続けた。 「うああああああああああああああっ!」  その照準はブレていたが、それでもエリカは少しでも急所を狙おうと小梅の顔を狙って撃つ。  だが、なかなか顔に当たらない。  小梅は、銃撃を受けながらも近くにあった鉄柱を引きちぎった。  そして、それを武器のように持ち、再びエリカに迫ってくる。 「よるな……よるな!」  エリカはなおのこと撃ち続ける。

    4 18/03/04(日)00:27:37 No.488663738

     だが、小梅には効かない。 「ドウシテ……エリカサン……」  小梅は、その鉄柱をエリカ目掛けて振り下ろしてきた。  エリカはそれから逃げる。  鉄柱は、嫌な音を立てて床を打ち付けた。  ――なんとか避けれた……!  エリカはそう思った。  だが、次の瞬間鉄柱を持っていないほうの腕がエリカに襲い掛かってきた。 「うぐっ!?」  エリカはその腕に吹き飛ばされる。  エリカの体は宙を舞い、ゴロゴロと床を転がった。 「えはっ! げはっ!」  エリカは口から赤い血を吐き出す。  大きなダメージを受けてしまったようだった。  すぐには動き出せないエリカ。

    5 18/03/04(日)00:28:02 No.488663845

     そこに、小梅が近づいてくる。 「ナゼ……ナゼデスカ……エリカサン……」  エリカは、その小梅の姿に、ついに覚悟を決めそうになる。  そのときだった。 「エリカさんっ!」  初めてみほに助けられたときと同じく、ピンチの状況でみほの声がエリカを呼ぶ。  次の瞬間、小梅の体は大きく吹き飛ばされた。  そして、先程まで小梅がいた場所には、巨大な鉄の塊が――戦車が、そこにあった。 「エリカさんっ! 大丈夫!?」 「これは……Ⅲ号戦車……?」  Ⅲ号戦車。かつてのドイツにおいて作られた、二十トン級の中戦車。  そのキューポラから、みほが体を出しエリカを呼んでいた。  エリカはなんとか体に力を込め、立ち上がる。  そして、そのⅢ号戦車によじ登る。 「エリカさんっ! 早くっ!」

    6 18/03/04(日)00:28:41 No.488663995

    「え、ええ……」  みほはエリカに手を差し伸べ、エリカはそのみほの手を取る。  そして、そのままエリカはみほに連れられ戦車の中に入った。  戦車の中では、まほが操縦席に座っていた。 「大丈夫か、エリカ!?」 「はい、ご心配をおかけしました……」  エリカはハァハァと息をつきながらも、まほにそう言う。 「よかった。よしエリカ、砲手につけ。みほは車長兼装填手だ」 「……はい!」 「うん!」  みほは再びキューポラから頭を出し、エリカは砲座につく。  そして、照準を見回すと、先程吹き飛ばされた小梅が立ち上がっていた。 「お姉ちゃん! 立ち上がってきたよ!」 「ああ、こちらからも見えている。狭い格納庫内だが、なんとか逃げるぞ!」 「ウアアアアアアアアアアアアアアッ!」

    7 18/03/04(日)00:29:07 No.488664113

     小梅が大きく叫び、戦車に突進してくる。  まほは、それを洗車を急発進させて回避する。  小梅は再び壁に突撃し、大きく壁をへこませる。 「あれを食らったら、Ⅲ号といえどひとたまりもないだろうな……」 「うん……でも、あの突進は大きな隙になると思う」  まほとみほが、真剣な表情で話し合う。  エリカは、砲座につきながらもその二人に絶大な信頼感を覚えていた。  ――この二人に任せれば、この状況を切り抜けられる。  そんな感覚が、ふつふつと湧いてきたのだ。 「っ! お姉ちゃん! もう一度突撃来るよ!」 「ああ! みほ、砲弾を装填しろ! エリカ、私が奴の突進をなんとか避ける。その隙に、奴に砲弾を食らわせてやれ!」 「了解!」 「エリカサン……エリカサアアアアアアン!」  小梅は再び戦車目掛けて突進してくる。

    8 18/03/04(日)00:29:39 No.488664243

     その最初に、手に持っていた鉄柱を投げつけてきたが、戦車の装甲はなんとかその鉄柱に耐えることが出来た。  鉄柱を投げたあと、先程よりも勢い良く突進してくる小梅。 「今だっ!」  まほはそれを、再び急発進により避ける。 「エリカさんっ! 準備いいよ!」  みほが砲弾を装填する。 「ええっ!」  エリカは砲塔を回転させる。  そして、小梅に照準を合わせる。  小梅は、とうとう穴を開かせた壁から体を引き抜き、再び突進の準備に入ろうとしていたところだった。 「これで終わりよ……小梅!」  エリカは完全に照準を小梅の中心部に合わせると、カチリと引き金を引いた。  ドォン! という砲音が鳴り響く。  砲弾はまっすぐ小梅の方向へと飛んでいき、巨大な小梅の体を引き裂いた。 「ガアアアアアアアアアアッ!」

    9 18/03/04(日)00:30:02 No.488664312

     小梅の肉体は、戦車の砲撃を受けてバラバラになる。  肉塊が、ぽたりぽたりと地面に落ちる。  そして、小梅の頭と右腕がついた肉塊が、戦車の側に落ちる。  そのとき、小梅が力ない声で、 「ドウシテニゲルンデスカ……エリカサン……」  と、呟いたのを、戦車にいた三人は聞いた。  戦車の中を沈黙が支配する。  だが、 「……ふぅ」  というエリカの吐いた息により、緊張の糸は溶けた。 「やったね……エリカさん」 「ええ……」  みほに声をかけられ、エリカは安堵の色を見せた。  力なく、背後に倒れ込む。 「それにしても、またこの戦車に乗るなんてね……」

    10 18/03/04(日)00:30:44 No.488664517

     エリカは戦車内の壁をさすりながら言う。  そのⅢ号戦車は、エリカにとって因縁深い戦車だった。  なぜなら―― 「この水没した戦車に、再び乗るなんて……」  それは、エリカがかつての大会で、水没させた戦車だった。  エリカは複雑な表情で、戦車の中を見回す。 「ああ、だからこの格納庫にあったんだろう。その、いろいろと……いわくつきの戦車だからな。だが、この戦車がここにあって助かった。動ける戦車は殆どないなか、こいつは動けたんだからな」  まほの言葉に、みほもエリカも頷く。  と、そこでみほが恐る恐ると言った様子でエリカの肩を叩いた。 「ん? どうしたのみほ?」 「あ、あの……エリカさん。さっきあの怪物に言ったよね? 小梅って……」 「え? ええ、そうなのよ、あれは実は小梅で――」 「それって、おかしいよ。だって、赤星さんは……」  そしてエリカは、次のみほの発言に耳を疑った。

    11 18/03/04(日)00:31:02 No.488664596

    「だって赤星さんは、ううん、赤星さん達は、あのときの事故で死んじゃったんだから……」

    12 18/03/04(日)00:31:28 No.488664708

      ◇◆◇◆◇ 「え……? ど、どういう……」  エリカは困惑する。  ――あのとき小梅が、いや小梅達が死んでいた? 一体、どういうこと?  訳もわからないという顔をするエリカに、みほは暗い面持ちで言う。 「あの水没事故で助かったのは、エリカさんだけだった……エリカさんだけが、私の手を取ってくれた……。他のみんなは、エリカさんを助けた瞬間、崖につっかかっていた状態だった戦車が、崩れ落ちて助けることができなかった……だから、私は学校を止めた。誰も助けられなかったのが、辛くて……」  みほはとても嘘を言っている様子ではなかった。  まほもまた重い表情をしているために、それが本当だと分かる。 「だから、赤星さんがここにいるわけないんだよ……ねぇ、エリカさん。あれは本当に赤星さんなの?」 「そ、そうよ。私は彼女の顔を近くで見たし、何より私を呼ぶ声が彼女の声だった……」

    13 18/03/04(日)00:31:50 No.488664803

    「…………」 「…………」  みほもまほも、沈黙する。  エリカはそこで、自分の置かれている状況が、想像以上に異常な事態であると思い始めていた。  いるはずのない死人。  そのことすら忘れている自分自身。  一体何が起きているのか、エリカは頭が混乱し、まともに考えることが出来なくなり始めていた。 「……とにかく、先に進もう。恐らく、私達の目的地に、その答えがある」  まほが厳しい表情で言う。 「……はい」 「……うん」  そのまほの言葉に頷いたエリカとみほは、まほと共に戦車を降り、小梅が現れた扉のほうへと向かった。  扉の向こうでは、未だ炎が燃え盛っていた。

    14 18/03/04(日)00:32:09 No.488664875

     恐らく、近くに燃料か何か置いてあったのだろう。 「あっ……私、消化器持ってくるね」  そういい、みほが格納庫内にある消化器を取りに行った。  と、そのときだった。  扉の向こうで、スプリンクラーが発動したのだ。  遅すぎるタイミングでのスプリンクラーに、エリカとまほは訝しい表情になる。 「…………」  エリカは、そんな表情のまま、一人先にその扉のない扉の向こうへと、足を進めた。  そして、スプリンクラーの水が、エリカの体を打った。  そのとき、エリカの視界が白く染まった。

    15 18/03/04(日)00:32:28 No.488664952

      ◇◆◇◆◇     「……また、なのね」  エリカは、いつの間にか屋外にいた。  雨の降る屋外。  切り立った崖の側の小さな脇道。  モノクロに見えながらもその場所に、エリカは見覚えがあった。 「ここは……去年の大会の会場……」  そう、そこは去年の戦車道の全国大会の会場であり、かつてエリカが水没した戦車に乗っていた、その場所だった。  エリカはその道を進んでいく。  雨が体を叩き、雷鳴が耳に鳴り響く。  だが、なおもエリカは進んでいった。  モノクロの世界を。  狭くも広いその道は、だいぶ泥濘んでいた。

    16 18/03/04(日)00:32:46 No.488665050

     ちょっとしたことで、足を滑らせてしまいそうだった。  進んでも進んでも、あるのはモノクロの崖と道のみ。  だがエリカは歩みをとめない。  そして、一際激しい雷が鳴り響く。  その瞬間、エリカの耳にこんな声が聞こえてきた。 「エリカさんっ!」  それは、小梅の声だった。  小梅が、エリカを呼ぶ声だった。  エリカは、崖下に流れている川を見る。  そこには、今にも沈んでいる最中であるⅢ号戦車があった。

    17 18/03/04(日)00:33:01 No.488665111

     それを覗き見るエリカ。  その瞬間だった。  エリカの足元が、急に崩れ落ちたのだ。 「きゃあっ!?」  エリカはそのまま崖下に落ちていく。  Ⅲ号目掛けて落ちていく。  そして、Ⅲ号にぶつかろうとする、その瞬間――

    18 18/03/04(日)00:33:29 No.488665235

      ◇◆◇◆◇     「……ああ」  エリカの目の前には、降りる階段と扉があった。  その階段を、扉を、エリカは知っていた。  それは、二度目の幻覚で見た扉だった。  今度は、ちゃんと色があった。  水が打ち付ける音が聞こえる。  それは、スプリンクラーの水音だった。  エリカは階段を降りていく。  一段一段、ゆっくりと降りていく。  みほとまほがまだ来ていないことなど、今のエリカには気づけないことだった。  ゆっくりと階段を降りていき、ついに、扉の目の前へとたどり着く。

    19 18/03/04(日)00:33:49 No.488665317

     そしてエリカは、ついにその扉を開く。  扉には鍵はかかっておらず、すんなりと開いた。  中は闇だった。  真っ暗な闇だった。  エリカは闇の中を進んでいく。  すると、その暗黒の中、光で照らされている何かがあった。  エリカは、その光の下へと歩く。  そして、その光に照らされているものがだんだんとはっきりしてくる。  それは、椅子に縛り付けられていた。  椅子の下には、真っ赤な血で描かれた複雑な魔法陣が描かれている。  魔法陣の中心にある椅子に縛り付けられているのは人間だった。  その人間の顔をエリカはよく知っていた。  誰よりも、よく知っていて、誰よりもよくしらない顔だった。  その顔は――

    20 18/03/04(日)00:34:20 No.488665473

    「……私、だ」  椅子に縛り付けられているのは、エリカだった。  旨に真っ赤な宝石を埋め込まれている、エリカの死体だった。 「……ああ、そうか、私……」  その瞬間、エリカは思い出した。  あらゆるすべてのことを。 「エリカさん!? お姉ちゃんが先に行けって言うから来てみたら、これって……!?」  そこに、みほが現れた。  みほは、驚愕していた。  当然だろう。  目の前に死体と、その死体であるはずの少女が立っているのだから。  だが、エリカは動じていなかった。  すべてを、思い出したのだから。 「……ねぇみほ。私、あなたに謝らなければいけないの」

    21 18/03/04(日)00:34:36 No.488665596

    「えっ……? 急にどうし――」 「あのとき戦車が沈んだのは、事故じゃない。私が、故意に沈めたの」 「……え?」  エリカは語り出す。  あのときのことを。 「私はね、あのとき、戦車の操縦を変わってもらったの。この道は危ないから、私が慎重に進めるために変わるわ、って。そして、私は変わったあと、わざと、崩れそうな道に進んで、戦車を水没させた」 「エリカさん、何を言って――」 「いいから聞いて」  それは、エリカの懺悔。  みほに対する、後悔の言葉。

    22 18/03/04(日)00:35:24 No.488665880

    「私ね、あなた達姉妹に嫉妬してたのよ。あなた達姉妹が妬ましくて仕方がなかった。恵まれた環境で育って、戦車乗りとしての才能を十二分に持っていて、努力も怠らない。そんなあなた達が……憎かった。だって、私には何もなかったもの。家柄も、才能も……必死で努力したけど、それでもあなた達には届かなかった。努力ですら、あなた達には近づけなかった。そして、私はいつしか思ったの。あなた達が敗北すればいい。あなた達の経歴に、土をつけたいってね。そして……私はそれを実行した。あの大会、あの瞬間に、私にとって有利な状況が揃った」  エリカは自らの死体に近づき、触れようとする。  だが、不思議な力に阻まれたように、エリカは自らの死体に触れることができなかった。 「……でも、小梅を、みんなを殺すつもりなんてなかった。ただ、うっかり水没させて、あなたが助けに来て、そのせいでフラッグ車がやられてしまえばいいと、それだけしか思ってなかった。でも……運命は、いいえ私は、彼女達を殺してしまった……」

    23 18/03/04(日)00:36:10 No.488666102

     エリカは自分の体に触れるのを諦め、だらりと手を下ろす。 「水没した戦車で私が目を覚ましたときには、意識があったのは私だけだった。他のみんなは、意識を失って水の中を漂っていた。小梅なんて、頭から大量の血を流していた。私はみんなを必死で起こそうとした。でもみんな起きなくて、水はどんどん増えていって、もう駄目だと思ったときにあなたが現れて、それで……」 「エリカさんは、私の手を取った……」  エリカはみほが言葉を返すと、振り返る。  その瞳からは、涙を流していた。 「あんなことになるなんて、思ってなかったの……。そして、あなたは学校を去った。すべての責任を取って。私は……私は、一人で勝手に傷ついた。傷ついて、心を閉ざした。そこを……彼らに見つかった」 「彼ら……?」  みほが聞くと、エリカは床を指差す。

    24 18/03/04(日)00:36:53 No.488666318

     すると、エリカの指差したところが照明で照らされる。  そこには、覆面で顔を覆った、異様な出で立ちの人間の死体がいくつも転がっていた。 「ひっ……!?」  みほは思わず声を出す。  だが、エリカは冷静だった。 「……彼らの信奉していたものは本物だった。彼らは、ずっと供物を探していた。心に大きな傷を負い、あらゆるものを憎み、後悔し、死を望む少女をずっと探していた……そして、彼らは見つけた。私を」 「も、もしかして、お姉ちゃんが言っていた狂信的な人達が……その人達なの……?」  エリカはゆっくりと頷く。  そして、エリカが指を下ろすと、照明は消え、再びエリカの死体のみが闇の中で照らされている状況となった。 「でも、私はどうやら触媒として力がありすぎたらしいの……私を触媒として使ったことで、私の絶望は学園艦すべてを飲み込み、この異世界を作り上げた……」  エリカの言っていることは、普通なら到底信じられないことだった。  だが、目の前の状況はそのことを信じさせるに十分だった。

    25 18/03/04(日)00:37:59 No.488666691

    「今までの怪物ね。実は、みんな私の知り合いなの。小梅は当然として、途中であった幾つもの異形は私のクラスメイトだし、とある家で出会った家族の怪物は私にファンとして近づいてくれた家族だった。病院で会ったのは、私の精神科の主治医。つまり、私に関連している人間がここで死ぬと、怪物になる……」  そこまで言うと、エリカはみほの方を見た。  その顔は、とても虚ろな顔をしていた。  エリカの顔に、思わずみほは息を呑む。 「ねぇみほ……お願いがあるの」  そして、エリカはみほに言う。 「私を……完全に、殺して」 「……え?」  みほは意味が分からなかった。  ――殺す? エリカさんを? どういうこと?  混乱するみほに、エリカは語りかける。

    26 18/03/04(日)00:38:35 No.488666851

    「そこにあるのは、私の死体。でも、完全には死んではいない。あの胸に埋め込まれた宝石が、私を死にながら生かしている。こうして私の魂だけを、この学園艦に張り付かせている。だから、あの宝石を破壊して、みほ。どうやら、私にはできないみたいだから」  そう言って、エリカはみほに近づくと、みほの手にとあるものを乗せた。  それは、銃だった。エリカがみほから受け取った、拳銃だった。 「これで、私の胸の宝石を射抜いて。すべてを、終わらせて。私を、消して」 「そんな……」  みほは震えた手で拳銃を持つ。  そして、 「そんなこと、できないよっ!」  そのまま拳銃を、床に叩きつけた。 「お願いみほ。あなただけが頼りなの」 「そんなこと、できるわけないよっ! エリカさんを殺すなんて、そんなっ……他に何か方法を考えよう!? エリカさんが助かって、学園艦も助かる、そんな手をさ!」  みほが必死に言う。  だが、エリカは静かにふるふると頭を振った。

    27 18/03/04(日)00:38:54 No.488666968

    「いいえ、そんな手段はないわ、みほ。私には分かるの」 「そんな……」  エリカは地面に叩きつけられた銃を拾うと、再びみほの手に握らせる。 「ねぇみほ。私、あなた達姉妹には本当に酷いことをしたわ。そして、こんなことを頼むなんて本当に都合がいいかもしれない。でも、お願いしたいの。もう、ここで私の罪を終わらせて欲しいって」 「エリ、カ、さん……」  みほはいつしか泣いていた。  泣きながら、エリカを見た。  エリカは、泣くみほの涙を指で救って笑いかける。 「もう、泣かないの。あなたを嵌めた女なのよ? 私は」 「それでも……エリカさんは、エリカさんだよ……」 「ふふ、本当に優しいわね、あなたは……でも、今回はその優しさを、どうか忘れて欲しい。私はあなたが憎むべき存在だから。あなたの友達を大量に奪った、最悪な存在だから」 「そんな、こと……」  エリカはみほの手を引く。  みほの手を引いて、自らの死体の正面へと連れて行く。

    28 18/03/04(日)00:39:32 No.488667202

    「あなたにこうして背負わせることを、どうか許して欲しい……私ったら、本当に最低の女ね」 「そんなこと……ない……エリカさんはちょっと怖いけど優しくて……世話をよく見てくれて……お姉ちゃんの妹として孤立してた私に話しかけてくれて……」 「でも、そんなあなたを私は憎んでた」 「しょうがないよ! 人間なら、誰だってそういうことあるよ……! そりゃ、赤星さん達のことは許せないよ……! でも、それでも私はエリカさんに生きていて欲しいんだよ……! そうだよ、辛いなら、生きて償えばいいじゃない……! 死んで逃げるなんて、駄目だよ……!」  泣きじゃくるみほに、エリカは困ったように笑いかけた。 「ごめんなさい。私もそうしたいけど、どうやら無理みたい、でも大丈夫、すべてが終われば、きっとあなたは私のことを忘れられる。私みたいな、嫌な奴のことなんてね……」  エリカはみほの腕を持ち上げた。  そして、その腕を自らの死体の胸の宝石に向けさせる。 「さあ、みほ……」

    29 18/03/04(日)00:39:50 No.488667338

    「うっ、うっ、うああああ……」  みほは泣いた。  とにかく泣いた。  だが、腕は降ろさなかった。  それは、みほが分かっているからだった。  もうどうしようもないと。  これ以外、道はないのだと。  そのことを、目の前のエリカが一番分かっているのだと。  ここでエリカの願いを拒否すれば、確かにエリカはみほの側に居続けるだろう。  だが、それはエリカが望まないこと。  エリカに、永遠に罪の苦しみを味わわせることを意味する。  それもまた、残酷な選択だった。  どちらを選んでも残酷な道ならば、みほは、みんなを救いたかった。エリカを救いたかった。  だから、みほは――

    30 18/03/04(日)00:40:07 No.488667415

    「ごめんなさい……ごめんなさい……エリカさん……」 「……ありがとう、みほ」  乾いた銃声が、その部屋に鳴り響いた。

    31 18/03/04(日)00:40:48 No.488667670

      ◇◆◇◆◇     「そうか、そういうことだったのか……」  まほとみほは、船の端に立っていた。  そこで、風を受けながら、まだ夜の明けない海の地平線を眺めていた。 「うん……」 「にわかには信じられないが……だが、突如として廃墟と化していた街並みが元に戻ったことを考えると、信じるしかないようだな」  まほは背後に振り返る。  そこには、元の姿を取り戻した街並みが広がっていた。 「お姉ちゃん、私、あれでよかったのかな……私のしたことは、正しかったのかな」 「ああ、大丈夫だ。お前のしたことは、何も間違っちゃいない」  まほは、座り込むみほの肩を優しく叩いた。  そして、海の先を見つめながら話し出す。

    32 18/03/04(日)00:42:04 No.488668118

    「この世の人間は、生まれ持って罪を背負っているという、生きていることこそが罰なのだと、そういう話がある」 「……うん」 「罪とは本来罰せられるものだ。いかなる罪にも、罰がある。だが、罰せられない罪は、裁かれない罪を背負って生きていく苦しみは、どうしればいいと思う?」  まほはみほに問う。  みほはその言葉の意味が分からず、まほに聞く。 「……どうすれば、いいの?」 「私が思うに、罪を抱えて生きていかねばならないと思うんだ。どんな罪も、その重さに耐えて生きていかねばならない。そう、例え許される罪だったとしても、心の中ではその重さを背負わなければいけないんだ。……エリカは、裁かれることのない罪を背負ってしまった。それは、エリカの心の中にある、“静かなる悪意”がそうさせたんだろう」 「静かなる悪意……?」 「そうだ。それは誰の心の中にだってある。普段はなりを潜めているも、ときとして人に凶行を犯させる、そんな悪意だ。エリカはある意味、そんな悪意に取り憑かれてしまった犠牲者なんだ」

    33 18/03/04(日)00:42:24 No.488668279

    「そう、なのかな……」 「ああ。だからこれは、ある意味どうしようもないことだったんだ。私達にはどうすることもできなかったし、エリカもどうすることもできなかった。誰もが、その静かなる悪意に取り憑かれる可能性はあるんだから」  そこまで言うと、まほは天を一度仰ぎ見た。  空は、だんだんと青くなってきていた。  まほは再び水平線に視線を戻す。

    34 18/03/04(日)00:42:44 No.488668413

    「私は、これからどうすればいいの?」  そこで、みほが再び問うた。  それに対しまほは応える。 「……そうだな。忘れないこと、だと思う。エリカのことも、エリカの犯した罪も、エリカがいてくれて良かったことも、すべてを」 「すべてを、忘れない……」 「ああ、それが、今の私達がエリカにできる、すべてだ……。お、見てみろ、みほ」  まほが指差す。  みほは立ち上がり、その先を見る。 「夜明けだ」  そこには、水平線から上がってくる、輝かしい太陽の姿があった。 おわり

    35 18/03/04(日)00:43:37 No.488668699

    UFOエンドを!ください!

    36 18/03/04(日)00:44:57 No.488669091

    読んでいただきありがとうございました su2275998.txt 過去作もよかったら ・シリーズもの su2276001.txt ・短編集 su2276002.txt

    37 18/03/04(日)00:45:19 No.488669193

    切ない…

    38 18/03/04(日)00:47:39 No.488669889

    ダークサイド「」リちゃん…スレ画のエリちゃんの目にハイライトが有ったのは罪を清算出来たからなのかしら?

    39 18/03/04(日)00:50:20 No.488670690

    書き込みをした人によって削除されました

    40 18/03/04(日)00:50:24 No.488670705

    >「すべてを、忘れない……」 忘れたら逸見が生きた証が消えちゃうからね

    41 18/03/04(日)00:52:30 No.488671242

    なんだろう ダークだけどダークとは何かが違う気がする

    42 18/03/04(日)00:52:39 No.488671289

    死んでたナチ残党ってSSの軍服着たチベット人とかじゃないでしょうね

    43 18/03/04(日)00:52:41 [す] No.488671298

    >UFOエンドを!ください! 青い宝石を手に入れて特定の場所で掲げてないから…… >ダークサイド「」リちゃん…スレ画のエリちゃんの目にハイライトが有ったのは罪を清算出来たからなのかしら? このエリカは極限状況に追い込まれても諦めずに最後には自分の罪を自覚して立ち向かったから心は死んでないんです「」ールグレイ姉さん だからハイライトがあるんです

    44 18/03/04(日)00:58:42 No.488673035

    >なんだろう >ダークだけどダークとは何かが違う気がする エリカが自分に決着を付けたからでは

    45 18/03/04(日)00:58:56 No.488673079

    自分の犯した大罪に正面から向き合って、そして自分自身と戦い、笑って逝った

    46 18/03/04(日)01:00:28 No.488673404

    本当にタフなやつだった

    47 18/03/04(日)01:04:24 [す] No.488674435

    >本当にタフなやつだった ホラーゲー主人公はある程度タフじゃないとね ちなみに今回オマージュしたものとしては サイレントヒル バイオハザード SIREN バイオショック あたりがメイン軸にあります あとちょびっとだけどナチス要素はウルフェンシュタインです あと宣伝みたいになるけど学園祭にこれのもともとの本もってこうとも思ってます 在庫が殆どないから新しく刷ることになるけど……

    48 18/03/04(日)01:07:38 No.488675473

    悲しい話だけど不思議と後味は悪くない…

    49 18/03/04(日)01:11:34 No.488676735

    >>ダークだけどダークとは何かが違う気がする >エリカが自分に決着を付けたからでは 私が思うにそれに加えて自分の罪やかつての悪意を告白した上でみぽりんに最期の願いを託したからじゃないかしらね 自分を消す事=悪意の清算を信頼する人に委ねたのだから 自分の命をかけた和解でもあると…上手く表現出来ないわエリちゃん

    50 18/03/04(日)01:15:40 No.488677810

    よかった以外の言葉が出ない

    51 18/03/04(日)01:17:56 No.488678643

    >あと宣伝みたいになるけど学園祭にこれのもともとの本もってこうとも思ってます ありがてえ…飛行機が無事に飛ぶことを願う

    52 18/03/04(日)01:20:06 No.488679223

    学園祭の日はでかい方のイベント重なって行けないのが辛い

    53 18/03/04(日)01:24:01 No.488680304

    ちょっとだけジェイコブズ・ラダーを思い出した