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18/03/02(金)23:51:49 SS「Sil... のスレッド詳細

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18/03/02(金)23:51:49 No.488434561

SS「Silent Evil」 前回までsu2274356.txtのあらすじ 目が覚めると荒廃し化物がでるようになっている学園艦で目覚めたエリカ その学園艦で、エリカはかつてのライバルであるみほと出会う みほは姉のために薬を探していたため、みほと一緒に病院へ向かうことに その病院でエリカは怪物を撃退するが、そこで幻覚で見た光景と同じ光景を目の当たりにする……

1 18/03/02(金)23:52:18 No.488434657

 そこは、階段だった。  モノクロの世界の階段。  延々と下へと続く階段。  その階段を、エリカは降りていく。  一段一段、ゆっくりと降りていく。  錆びた鉄で出来た階段は、コツコツと音を立てる。  外で雨が降っているのか壁がこつりと音を立てる。  エリカは階段の行き止まりにたどり着く。  階段と同じ錆鉄でできた扉にたどり着く。  その扉には血でこう書いてあった。

2 18/03/02(金)23:52:35 No.488434719

『お前の罪を思い出せ』

3 18/03/02(金)23:52:51 No.488434778

 エリカはその文字を瞳に焼き付けながら、力を込め重々しい扉を開く。  その扉の向こうから湧き出てくる光に目がくらみながらも進むエリカの目の前に現れたのは――

4 18/03/02(金)23:53:14 No.488434851

  ◇◆◇◆◇     「――っ!?」  エリカは周囲を見回す。今のエリカは、見知らぬ診察室に立っていた。 「……まただ」  エリカは頭を片手で抱える。  ――また、幻覚を見た。しかも、この前と同じように、私を責める幻覚。一体、私に何を思い出せと言うの?  エリカはそう悩みながらも、視線を目の前に移す。  そこには、机の上にいわゆるカルテというものがばら撒かれていた。  エリカは、その中の一つが非常に気になった。  理由は説明できないが、エリカはそのカルテを手に取り、読んで見ることにした。 『患者■■■■■氏の様態は以前改善の様子なし。心的外傷の影響が非常に大きく、投薬による治療も一向に効果なし』  さらにそこに、メモ書きのように端に走り書きがされてあった。

5 18/03/02(金)23:54:03 No.488435040

『患者が話していないことがある? 例の事件を詳しく調べてみる必要あり』 「例の……事件?」  エリカには何のことかまったく分からなかった。だが、そのカルテを読んでいると、非常に頭が痛んだ。  エリカはそのカルテを机に戻すと、逃げるように診察室を出て、元の廊下に戻っていった。  そのままエリカは外に出る。  外には、みほが心配そうな顔で待っていた。 「あっ、エリカさん!」  みほはエリカを見ると、エリカの元に駆け寄ってきた。 「大丈夫だったエリカさん!? 随分と時間がかかったようだけど……」  みほの瞳に映る自分をエリカは見た。  その顔は、確かに大丈夫そうではなかった。  だが、だからこそエリカは、みほに聞かねばと思った。 「え、ええ……大丈夫よ、ねぇ、みほ」 「ん? 何、エリカさん」

6 18/03/02(金)23:54:30 No.488435133

「その……学園艦が今の状況になってから、記憶の欠落が起きたりしてない? あと、幻覚を見たとか」  エリカが問うと、みほは不思議そうな顔をする。 「え? そんなことはないけど……」 「そう、なら忘れて頂戴。戯言よ」  エリカはみほに背を向けて歩き始める。  みほは、急いでその後姿を追う。 「あ、ちょっと待ってよ! エリカさん、お姉ちゃんの場所分かるの!?」 「え? ああ、そうよね……」  エリカはそのことに気づくこともできないことを知り、自分が追い詰められていることを身をもって知った。 「ごめんなさい……先導してくれるかしら?」 「うん! こっち!」  みほは太陽のような笑みを見せエリカを導く。  エリカは自分の顔をぴしゃりと叩き、気合を入れ直してみほの後を追うことにした。

7 18/03/02(金)23:54:55 No.488435206

 まほの元へと向かう道筋は、途中まではいたって平穏無事に済んだ。  エリカ達にとては来た道を戻るだけなのである。それも当然だった。  途中の異形達に特に変化はなく、エリカ達はその側を難なく通り過ぎた。  エリカにとって変化が訪れたのは、エリカが落ちた屋外プールを通り過ぎたあたりだった。  先導するみほが、屋外プールからある程度いったところにあるハッチへと向かったのだ。  どうやら、みほはそのハッチの先からやってきたらしい。  そのハッチとプールがあまり離れておらず、エリカは自分の命がギリギリのところで助かっていたところを知った。 「こっちだよ、エリカさん」  エリカはみほに連れられハッチの先にと入る。  学園艦はいくつものハッチで船内部に繋がっている。エリカが最初に目覚めた格納庫から外に通じている道も、そのうちの一つだった。  ハッチの先には、暗く、細長い通路が続いていた。  みほはその通路を迷いなく進んでいく。  その迷いのなさは、黒森峰が未だにみほにとって身近な学園艦であるということが伝わってきた。そのことが、エリカにはなんだか嬉しかった。

8 18/03/02(金)23:55:21 No.488435296

「エリカさん、こっちこっち」  みほは船内にある一つの部屋の重厚な扉を開いて中に入っていった。  そこにまほがいるのだろうか? とエリカは思い入っていくも、そこはただの物置でありまほがいる気配はない。 「みほ、ここは……」 「よっと……」  エリカが部屋を見回していると、みほは物置の奥にある通気口へと入っていった。  どうやら、ここまで来るのに通気口を通ってきたらしかった。 「着いてきて、エリカさん」 「え、ええ……」  エリカはみほの後に続き通気口を通っていく。  二人とも女性であるが故に通ることのできる道だった。  とはいえ通気口は狭く、二人で這いつくばって進んでいると息苦しさを感じざるをえなかった。  細い通気口をしばらくみほに従って進んでいくと、みほは一つの通気口の出口から外に出た。  エリカもそれに習い、そこから出ていく。

9 18/03/02(金)23:55:50 No.488435383

 降り立った部屋は、どうやら厨房のようだった。 「誰だ!?」  すると、その厨房の隅から、警戒心に溢れた声が飛んでくる。  エリカはその声に懐かしさを覚えた。  その声の主は、エリカがみほと共に探し求めた人物だった。 「隊長!」 「エリカ……なのか?」  そこには、自動小銃を片手に座り込んでいるまほの姿があった。 「お姉ちゃん!」  みほとエリカはまほに駆け寄る。そしてエリカは、バッグから病院で手に入れた治療キットを取り出した。 「隊長、今治療しますからね」 「あ、ああ……本当に、エリカなのか?」 「はい。私ですよ、隊長」  エリカはまほに笑いかける。  そして、その笑顔のままみほと一緒に、まほの怪我している足の治療を始めた。

10 18/03/02(金)23:56:12 No.488435454

 まほは右足に裂傷があり、なるほどこれは自由には動けないとエリカは思った。  エリカは治療キットから薬と包帯を取り出し、まほの足を治療していく。 「っ……! まさか、こんなところでエリカに会うとはな……」 「私も驚きですよ、隊長。生き延びていて嬉しい限りです」  そう言いながら、エリカはまほの足に包帯をグルグルと巻く。  そして、治療を終えると、まほはその治療の終わった足をさすった。 「……助かった。礼を言おうみほ、エリカ」 「ううん。お姉ちゃんのためだもの」 「そうですよ隊長。私達の仲じゃないですか」  極限的な状況に置かれているはずなのに、三人は朗らかに笑いあっていた。  それは、気心の知れた三人がこうして集まり、互いを助け合っている状況が作れたからかもしれない。  まほは、そのようにしてエリカ達に笑顔を見せると、その場から立ち上がろうとした。 「さて、行かねば……っ!」  しかし、立ち上がったときに足の痛みを感じたのか、歩きだそうとした足が立ち止まる。 「隊長! 無理しないで下さい!」

11 18/03/02(金)23:56:38 No.488435539

 エリカが咄嗟にまほの肩に手をかける。 「すまないエリカ……しかし、急がねば。急いで、この異変を終わらせなければ……」 「異変を、終わらせる……?」  エリカはまほの言葉に驚愕した。  まほは言った。  学園艦から逃げ出すのではなく、異変を終わらせると。  その言葉が、エリカには信じられなかった。 「ちょっと待って下さい隊長。今、異変を終わらせるって……?」 「ああ……なんだ、みほから聞いていなかったのか?」  エリカはみほを見る。  みほは、申し訳なさそうな表情をエリカに向けた。 「ごめんなさい、なかなか言う機会がなくて……」 「そうか……なら仕方ないな。エリカ、私はこの異変を終わらせるつもりだ」 「つもりって……隊長は、何か知ってるんですか!? 今のこの状況がどうしてこうなっているのかを!」  エリカが問うと、まほはコクリと頷いた。

12 18/03/02(金)23:57:04 No.488435618

 そして、近くにあった椅子に座る。  それは、これから長い話を語るというサインであると、エリカは受け取った。 「そうだな、まずどこから話すか……エリカ、学園艦が長い歴史を持っていることは知っているな?」 「え? ええ……海外では大航海時代の頃からあったと言われていますし、日本でも相当長い歴史があると聞きますが……」  まほが突如学園艦のことを聞いてきたために、エリカは呆気にとられた。  ――何故、今学園艦の話を?  エリカの疑問は増える。 「そうだ。学園艦はどれも歴史が長い。そしてエリカ、黒森峰の学園艦が作られたのはいつだか分かるか?」 「えっと……確か、第二次世界大戦が終わったあたりだと」 「そう、その通り。日本の学園艦はみな第二次世界大戦を契機に作られたものが多い。黒森峰学園艦もそのうちの一つだ」  まほ椅子に座り直しながら話す。  気づくと、みほも近くの椅子に座っていた。  エリカは、なお立ち続けながら話を聞く。 「黒森峰学園艦の設立には、当時のドイツが深く関わっている。だからこそ、黒森峰は当時のドイツの色が濃い」

13 18/03/02(金)23:57:40 No.488435734

「えっと隊長、話が見えてこないのですが……」  そう言うと、まほは「ここからだ」と言って、姿勢を前に傾けた。 「そして、これは殆ど知られていないというか、一部の人間しか知らないことなんだが……黒森峰学園艦の設立には、当時のドイツから逃げてきたナチスの人間が多数関わっていたんだ」 「ナチスの、ですか……?」  ナチス。  かつて、アドルフ・ヒットラーの下で世界に覇を唱え、第三帝国を作り上げようとした、悪名高き集団。  そのナチスと、今回の一件がどう関わってくるのか、エリカにはまだイマイチピンと来ていなかった。 「簡単に言えば、黒森峰の学園艦はナチスの逃亡先、隠れ蓑だったんだ。多くのナチスドイツの人間がこの学園艦に逃げ込んできたという。そして、表には出ず、学園艦の奥で彼らは密かに活動していた」 「活動を……?」

14 18/03/02(金)23:58:05 No.488435810

「ああ。奴らは敗戦から七十年以上経った今でも、復活のときを目論んでいた。その中のひとつに、狂信的とも言えるカルト教団が存在した。ナチスお得意のオカルト分野を煮詰めたような連中だ。奴らは危険なナチス残党の中でもとりわけ狂っていた。奴らは奴らが信奉する邪な存在のために、あらゆるものを捧げてきた……そして、ついにその対象が学園艦そのものとなったんだ」 「ちょ、ちょっと待って下さい!? 今回の一件は、カルト教団による怪しい儀式の結果だと!?」  エリカは慌てながらまほの話を止める。  こんな状況に追い込まれながらも、エリカはまほの話をすぐに鵜呑みにすることができなかった。  だがまほは、ゆっくりと首を縦に振る。 「その通りだ。まあ、私もそこまでオカルトを信じているわけじゃない。恐らく、何か新種のウィルスか何かを使ったテロの結果が今の学園艦だろう、死人があのような化物と化しているのは。どうやら発症するものとしないものがいるようだが……その差異までは分からない」

15 18/03/02(金)23:58:40 No.488435950

 新種のウィルス。  そう言われてエリカは一応の納得を示した。  だが、エリカにはまだ疑問なことがあった。 「しかし隊長……あなたは、何故そこまで詳しいんですか?」  そう言うと、まほはふっと陰りのある笑みを見せた。 「それはな、エリカ。西住流、さらには戦車道協会が、そのナチス残党の恩恵を受けて今までやってきていたからなんだ……西住の跡取りである私は、母からそのことを聞かされていた。まあ、その深部を知ったのは今回の一件で、こんなものを偶然見つけたからなんだが」  そう言ってまほは近くにあった彼女が使っていると思しきバッグから、資料を取り出し机に投げ出した。  そこには、ナチスの残党が書いたと思われる、いくつかの覚書や、他の人間に宛てた手紙などがあった。  それを流し見するエリカ。  そして、そこに書かれていたのはいかにナチス残党が黒森峰で活動してきたかだった。 「これは……」 「みほと逃げているとき、偶然発見した隠し部屋で見つけた資料だ。そこは、恐らくカルト教団によって使われていた部屋だったんだろう。色々と、おぞましいものがあったよ」

16 18/03/02(金)23:59:06 No.488436021

 そう言ってまほはふっと皮肉な笑みを浮かべる。  側で聞いていたみほは、嫌なものを思い出したかのように暗い面持ちになっていた。 「なるほど、だいたいのことは分かりましたしかし、今回の事件を終わらせるとは、一体どうやって……?」 「ああ、そのことなんだが、さっき渡した紙の最後のものを見てくれ」  エリカは言われたとおりに資料の一番最後の紙を見る。  そこには、地図が示されていた。学園艦の地図だ。  そして、その学園艦の地図の中に、エリカの知らない隠し部屋らしきものがいくつか示されており、その中の最も深い場所に、赤く丸印が示されていた。 「これは……」 「恐らく奴らにとって最重要の機密が隠されている場所だ。他の資料と照らし合わせても、その場所に何かあるのは明らかなんだ。私は、今回の事件を解決する糸口がそこにあると、信じている」  まほの瞳は確信に満ちていた。  エリカは資料とまほを見比べ、驚いた表情を見せる。 「信じているって……まさか、これからその場所へ向かおうと!?」

17 18/03/02(金)23:59:37 No.488436148

「ああ」 「ああ、じゃないですよ! こんな危険な場所、早く逃げ出したほうがいいに決まってるじゃないですか!」  エリカはまほに必死で抗議した。  とてもではないが、今の学園艦に一分一秒とも長くはいたくはなかった。  あまりにも危険だった。  だが、まほはそんなエリカの言葉に首を振るう。 「いいや、私はいかなければならないんだ。今も怯えて隠れているであろう黒森峰の生徒達のために。そして、こんな事件を起こすような集団を今まで見逃していた私達の罪を禊ぐためにも」  まほはてこでも動かない様子だった。  エリカは仕方なく、みほに助けを求める。 「みほ、あなたはどう思っているの? こんな場所、早く脱出したいと思ってるわよね?」 「うん……私も、本音を言えば早く逃げ出したい」 「なら!」 「でも、私達が逃げ出した間に、一人また一人とこの状況に命を奪われる人がいると思うと、とてもじゃないけど耐えられないんだ……。きっと、逃げ出したら私は沙織さん達に顔向けできなくなる。私はもう、逃げ出したくないの」  みほもまた、確固たる意思をその瞳に宿らせていた。

18 18/03/03(土)00:00:08 No.488436252

 エリカは、そんな西住姉妹を見て、「ああ!」と言いながらわしゃわしゃと頭を掻き始める。 「分かったわよ! こんな状況で、あなた達を放っておいて私だけ逃げ出すなんて、そんな寝覚めの悪いようなことできるわけないじゃない! ああもう! 私も手伝うわ! その原因探し! 手伝えばいいんでしょ!」  エリカの言葉に、みほとまほは明るい表情を見せた。 「エリカさん……!」 「いいのか、エリカ!」 「いいも何も、そうするしかなさそうですしね! 一人だと、到底逃げ出せそうにありませんから。一人より二人、二人より三人ですよ隊長」 「エリカ……ありがとう」  まほはエリカに頭を下げた。  エリカはそんなまほに向かってブンブンと両手を振るう。 「頭を下げないで下さい隊長! 隊長はただでさえ怪我をしているんですから!」  そう言われたまほは、「ああ」と一言言うと、その場からゆっくりと立ち上がる。  その様子は、まだ足の怪我が堪えているようだった。  そのまほにみほが付き添う。二人のその姿に、エリカは確かな姉妹の絆をそこに感じた。

19 18/03/03(土)00:00:37 No.488436375

「さて、では行きますか。えっと道のりは……なるほど」  エリカは赤丸のついた地図から道のりを確認する。現在いる厨房から、少しだけ距離はあるも、足で十分行くことのできる距離であった。 「私が先頭を歩きます。足を怪我している隊長と戦えないみほは私の後ろに」 「ごめんね、エリカさん」 「すまないな、エリカ」  みほとまほがエリカに頭を下げる。  エリカは西住姉妹から頭を下げられるという状況に慣れておらず、つい顔を背ける。 「い、いいんですよそんなことは! ほら、行きますよ!」 「ああエリカ。ちょっと待ってくれ。これを」  これから出発しようというエリカに、まほはとあるものを手渡してきた。  それは、黒鉄に光る大きな武器、自動小銃だった。 「こ、これは……!」 「ヘーネルStG44。第二次世界大戦時におけるドイツの傑作自動小銃だ。今エリカがみほの代わりに持っているそのグレイゴーストと同じく、黒森峰の倉庫から拝借してきたんだ。黒森峰にこういう武器が多いのも、当時のナチスが運び込んだおかげだから皮肉だがな」

20 18/03/03(土)00:01:05 No.488436464

 そう言ってニヤリと笑みを浮かべるまほから、ヘーネルを受け取る。  それは見た目以上の重みがあったが、なんとかエリカはそれを構えることができた。 「……なるほど、一応扱えそうです。ですが、どうして私にこれを?」 「私は見ての通り、足をやられてしまった。これでは恐らく満足に銃を使うことはできないだろう。だから、これをエリカに託す。情けない話だが、戦闘になったときにはエリカに頼らざるをえないんだ。一応、私も戦うがな」  そう言って、まほは懐から拳銃を取り出してきた。みほが持っていたのと同じ、ワルサーP38だ。  どうやら二丁拝借したようだった。 「助かります。……さて、では今度こそ行きますよ。準備はいいですか?」 「ああ、もちろんだ」 「う、うん。大丈夫だよ」  エリカは二人に確認を取ると、厨房の扉を開けた。  そして、銃を構えながら前進する。  その後に、みほとみほに肩を貸されたまほが続く。  こうしてエリカ、みほ、まほの三人は学園艦の深部を目指して動き始めたのであった。

21 18/03/03(土)00:01:39 No.488436570

 深部を目指す三人の足取りは、思った以上に難航した。  学園艦の深部へと向かうには狭い学園艦の中を突き進む必要がある。  だが、その狭い通路では、途中で現れる異形を回避することができないのだ。 「アアアア……!」 「くっ、このっ!」  エリカは突如扉を開いて現れた異形に悪態をつきながら自動小銃の火を放つ。  タタタタタンッ! という軽い発砲音が船内に響き渡る。そして、それと共に、「アアア……!」という異形の断末魔が聞こえ、異形は動かぬ肉塊となる。 「ふぅ……これで何匹目かしら」  エリカは倒れ込んだ異形を見ながらそう言う。  エリカ達の背後には、同じく異形の死体が何体分も転がっていた。  すべてエリカが殺した異形だ。 「さすがだなエリカ」  まほが言う。  しかし、エリカはまほの言葉に寂しげな笑みを見せた。 「ありがとうございます。でも、やはりあまり気持ちのいいものではないです。こんな姿をしていても、顔は人間のものですから……」

22 18/03/03(土)00:02:05 No.488436674

 エリカは倒れている異形の顔を見る。  真っ白なその顔は、痛みからか歪んでいた。 「そうか……エリカは優しいな」 「そ、そんなことは……」 「ううん、エリカさんは優しいよ。こうして私達を見放さないでいてくれるし」 「そ、それは私の生存率を上げるためと、あなた達を放っておくと寝覚めが悪いから……!」  エリカは顔を赤くしながら二人に言い訳する。  エリカは、こんな状況でも他人に褒められるということに気恥ずかしさがあった。 「それにしても、こんな状況で言うのもアレだが、エリカが元気になってくれてよかったよ」  まほが突然そんなことを言う。  エリカはそのまほの言葉の意味が分からなかった。 「ん? なんです突然?」 「いや、エリカはずっと元気がなかったからな……今のエリカは、まるで昔に戻ったかのようだ。こんなひどい状況が、逆にエリカを元気づけてくれたのだろうか」  エリカはまただ、と思った。

23 18/03/03(土)00:02:35 No.488436785

 ――また、記憶の欠落だ。私自身に関する、記憶が抜け落ちている。  エリカは静かに笑うまほとは対照的に難しい表情を浮かべた。  そして、まほにも聞いてみることにした。  みほにしたのと同じ質問を。 「すみません、隊長。隊長はこの状況になってから、記憶の欠落が起きていたりしませんか? あるいは、幻覚を見たことがるとか……」 「いや、ないが……エリカはそういう症状に襲われているのか?」 「そ、それは……何でもないです、忘れて下さい」  エリカは無理矢理話を途切れさせた。  これ以上の話は、自分の頭がおかしくなっているのでは、と思われてしまうかもしれないとの恐れからだった。  エリカは再び歩き始める。  自分の記憶の欠落、そして突如襲ってくる幻覚の原因は何か。その答えが、もしかしたらこれからの目的地にあるかもしれない。  エリカはそんな気がいつからかし始めていた。  三人はなお暗く狭い廊下を進んでいく。  その途中から、エリカは道に既視感を覚えるようになった。

24 18/03/03(土)00:02:56 No.488436862

 学園艦の内部は、本来普通の生徒はそうそう立ち入らない場所である。  だからこそ、今までの道のりは半ば知らない道を歩く感覚で進んでいた。  だが、扉を複数越え、道を何本か曲がったあたりで、エリカは内部に見覚えのあるものを感じた。  学園艦の内部などどこも同じと思っていた。  だが実際には、僅かな違いなどがありその道のりにそれぞれ別の感覚を抱くことになる。  そして、エリカはその道を知っていた。  一体何故、と思ったがその答えは他の扉よりも大きいその扉を開いたときに分かった。 「ここは……」  そこは、戦車の格納庫だった。  そう、最初にエリカが目を覚ました、あの場所だった。 「どうしたの? エリカさん」 「え? ああ、ここ、私が最初に目を覚ました場所だから……」 「ここがか? エリカは何故こんなところに?」

25 18/03/03(土)00:03:21 No.488436947

 西住姉妹が不思議そうな顔をする。  エリカもまた、頭を傾げた。 「私だって分かりませんよ。そもそも、どうしてこんなところに倒れていたのか……」  三人は格納庫を見回す。  格納庫はエリカが起きたときと同じく、戦車が並べられていた。そのいくつかは、目に見えて壊れている。 「ここは、使われなくなった戦車が多く格納されている場所だな、理由は様々だが」 「なるほど。だから壊れているのが多いんですね」  エリカがまほの話を受け納得する。  そして、納得しながらも先に歩を進めようと歩きだした、そのときだった。

26 18/03/03(土)00:03:39 No.488437024

 突然先にある扉が、ドンッ! という大きな音を立てて吹き飛んできたのだ。 「っ!?」  エリカはそれをなんとか避ける。  後ろにいるみほとまほも、倒れ込むように飛んできた扉を回避する。  扉は激しい音を立てながら壁にぶつかり、そのまま背後の扉の前に落ち、退路を封じた。  何事かと、三人は正面を見た。  そこには―― 「ミツケマシタヨ……エリカサン……」  手足をより肥大化させた、小梅の異形がそこにいた。    続く

27 18/03/03(土)00:04:24 No.488437177

またいいところで続いた

28 18/03/03(土)00:04:34 No.488437202

赤星だんだん自我がはっきりしてる様な

29 18/03/03(土)00:05:06 No.488437316

ナチスって言われると何だか納得してしまうのは何故だろう…

30 18/03/03(土)00:05:11 No.488437330

トゥーレ協会の陰謀

31 18/03/03(土)00:05:38 No.488437431

>ナチスって言われると何だか納得してしまうのは何故だろう… それがナチスだから

32 18/03/03(土)00:08:07 No.488438017

ここでふと朝松健の邪神帝国を思い出したわダーク「」リちゃん

33 18/03/03(土)00:10:50 [す] No.488438624

>ここでふと朝松健の邪神帝国を思い出したわダーク「」リちゃん いいですよね朝松健 私も好きです「」ールグレイ姉さん 次回は明日の0時~0時半ぐらいを予定しています 次回最終話です

34 18/03/03(土)00:12:16 No.488438952

194X年10月のある日黒森峰学園艦を目指して1隻のXXI型Uボートが南極を出港した...

35 18/03/03(土)00:13:28 No.488439222

大作じゃん

36 18/03/03(土)00:14:10 No.488439379

柏葉付きなんたらこんたらも円卓の騎士になぞらえて12個作ったんだっけ 切羽詰まるとそういうのにすがり付きたくなるもんなんかね

37 18/03/03(土)00:15:44 No.488439747

あの異形化した医師…まさかメンゲレ

38 18/03/03(土)00:16:56 No.488440011

>柏葉付きなんたらこんたらも円卓の騎士になぞらえて12個作ったんだっけ 11個余ったけどね

39 18/03/03(土)00:20:32 No.488440809

アーネンエルベは邪悪だな

40 18/03/03(土)00:24:47 No.488441858

>次回最終話です 幕が降りるとき主役は舞台に…

41 18/03/03(土)00:30:13 No.488443027

静岡要素もあるならラスボスは…

42 18/03/03(土)00:31:47 No.488443384

黒幕は誰だ! HYDEリヒか日村ーか主体ナーか

43 18/03/03(土)00:35:10 No.488444083

>静岡要素もあるならラスボスは… わたくしの居住地を異世界扱いするのは止めて下さらないかしら

44 18/03/03(土)00:41:21 No.488445225

ナチのオカルト系話は読めば読む程狂ってて面白い

45 18/03/03(土)00:42:56 No.488445545

この世界の知波単では役人呪殺計画が実行されているとおもうぞ福田ァ!

46 18/03/03(土)00:47:05 No.488446384

明日が楽しみだ

47 18/03/03(土)00:49:35 [す] No.488446890

>明日が楽しみだ ありがとう…… 上でも書いたとおりちょっと遅めになるけど待っててくれると嬉しい 多分明日はちょっと早口になる可能性あるから……

48 18/03/03(土)00:50:45 No.488447129

早口歓迎 待ってるぜ

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