18/02/20(火)02:13:54 SS「サ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1519060434862.jpg 18/02/20(火)02:13:54 No.486226397
SS「サウナにて」
1 18/02/20(火)02:15:00 No.486226504
「ふぅ……」 その日、ミカは継続高校の寄港地にあるサウナに、一人で入っていた。 普段はアキやミッコと一緒に入るサウナだが、この日はアキもミッコも予定があるらしく、一緒にサウナに入ることができないでいた。 「一人で入るサウナというのも、またオツなものだね。……話す相手がいないというのは、少々寂しいものもあるが」 そんなことを言いながらも、ミカはどこか満足気だった。 一人でサウナに入るというのは、継続高校に入学しアキやミッコと出会ってからはなかなかなくなっていた経験だった。 アキやミッコは常にミカと一緒にいてくれた。 その生活に不満はなかった。むしろ、それまでずっと一人だったミカの心の隙間に、二人はすっぽりと収まってくれた。 今では、アキとミッコがいない生活など考えられなかった。 しかし、たまにはこうして一人の時間を過ごすというのもいいと、ミカは思った。 一人でいる時間が、アキやミッコの大切さを教えてくれるからだ。
2 18/02/20(火)02:15:15 No.486226530
普段いることが当たり前になっている二人の大切さを、より感じられる。そのことが、ミカにとってぬくもりにも似た感覚を与えていた。 「大切なものは存在しないことによって初めてその大切さを実感できる……人はそのことに気づかなすぎだね……ふふっ」 ミカは自嘲気味に笑う。 「まったく、一人だというのにどうも言葉が多くなってしまう。これも、あの二人の影響かな」 ミカはそう言いながらヴァスタで自分の体を叩いた。 そのときだった。サウナの扉がガラガラという音を立てながら開いたのだ。 「おや? 誰か来たのかな? こんな場所にあるサウナに来るなんて、奇特な人もいたものだね」 「あなたほど奇特な人はそうそういないと思いますけれどね」 入ってきた者の言ったその言葉に、ミカは固まった。 いや、正確には、その声色に凍りついたのだ。 その声色は、ミカがよく知っている、しかして会いたくない人間の声だったからだ。 「久しぶりね、風美香」 「……あなたは……」 ミカが視線を向けたサウナの入り口に立っているタオルを体に巻いた女性。 その名は、島田千代。
3 18/02/20(火)02:15:30 No.486226563
島田流戦車道の家元だった。 「……っ」 ミカはその顔を見た瞬間、立ち上がり出ていこうとする。 だが、そのミカの肩に素早く千代は手を置く。 「あら、まだ出るのには早くてよ、風美香」 「……何しに来たのかな、千代さん」 「まあ千代さんなんて他人行儀な。昔のように母と呼んでくれていいのよ?」 「…………」 その言葉に、ミカは普段のひょうひょうとした表情からは想像できないような苦虫を噛み潰したような顔になる。 「……よくもそんなことを堂々と言えたものだね。自分で追い出した娘だと言うのに」 「私はあなたを追い出した覚えなんてないわよ? あなたが勝手に家を出ていったんでしょう?」 「瑛里香叔母さんを追い出した時点で、私を追い出したのと変わらないよ。私が叔母さんの事を慕っていたのは知っていただろう?」 ミカは軽蔑するような視線で言う。 その言葉に、千代の表情が少し陰る。 「それは……でも、あのときはそうするしかなかったのよ。そうでもしなければ、私は瑛里香を守れなかったわ」
4 18/02/20(火)02:15:54 No.486226610
「守る? はっ、ふざけたことを言うじゃないか。分家に自分の血を分けた妹を捨てておいて、守る? 寝言も寝てから言ってほしいものだね。家元の地位にあるなら、もっとやりようがあっただろう?」 「あのときはそれ以外なかったのよ、老人達の力が強くて……」 「どうだか。耄碌した老人達など、どうにも無視できたじゃないか。でもそれをしなかったのは、愛娘の愛里寿に次期家元の座を渡すのに私と叔母さんが邪魔だったからじゃないのかい? 愛里寿には才能があった。私と叔母さんでは到底敵わない才能がね。それを見たとき、あなたはどうしても愛里寿を次期家元にしたくなったんじゃないのかい? いや、そうに決まってるね。そうでなければ、あんなひどいことはできない」 「……あなたに恨まれているのは知っているわ。でも信じてほしいの、私は今でもあなたや瑛里香のことを愛していると」 「愛している? ハハッ! それこそふざけた妄言だ! 私はあなたから愛をもらったことなど、一秒たりともなかったよ!」
5 18/02/20(火)02:16:09 No.486226639
ミカは吐き捨てるように言う。その言葉に、千代は表情を暗くした。 「……悲しいわ。そこまで恨まれていたなんて」 「むしろ、恨まれていないと思っているほうがどうかしているよ」 「そうね……でも、風美香。私にやり直す機会を欲しいの。あなたと、家族としてやり直す機会を」 「機会? 一体何を言っているんだい?」 ミカは蔑むような目で千代を見る。 一方、千代はまっすぐな瞳でミカを見た。 「風美香。お願いがあります。どうか、島田家に戻ってきてくれませんか」 その言葉を聞いた瞬間、ミカの目が見開かれた。 「……けるな……」 そして、わなわなと体を震わせながら、言った。 「ふざけるなっ!」 ミカは激昂した。そのミカの怒りを、千代は黙って受ける。 「ふざけるな! 叔母さんにあんなひどい仕打ちをしたあなたの元に戻れと!? 愛里寿を道具のように扱っている島田の家に戻れと!? そんなこと、よく言えたものだね! ああ、面の皮の厚さも老人達に似たのかな? 実に島田流の家元らしいよ! あんなクズの掃き溜めになんか、そうそう戻る気はないね!」
6 18/02/20(火)02:16:24 No.486226663
「そんなことを言わないで風美香。もう厄介な老人達はいないわ。もう、あなたや瑛里香を敵視する人間はいないの。やっと私達が家族として暮らせる環境が整ったの。だから戻ってきて風美香。大切な娘に、私は戻ってきて欲しいのよ」 「はっ、家族? やめてくれないかな、そんな吐き気を催す言葉を言うのは」 ミカは嘲るように言った。 「実の妹すら切り捨てる人間の言う家族なんて言葉を信じられると思うのかい? そもそも、叔母さんにこの話はしているのかい?」 「それは……まずは娘であるあなたからと思って……」 「ほら見たことか! それが何よりの証拠なのさ! 本来一番に謝るべきである叔母さんのところに行かず私のところに来たのが、あなたの浅ましさと汚さを証明している! あなたは体面を気にしているだけなんだ! どうせ私が戻れば叔母さんも戻って来ると考えてのことなんだろう? そんなことだからいけないんだよ、あなたは! 叔母さんを恐れて私のところに逃げてきて! そこには、保身しか見えない! 本当に、最低だ……!」 「ち、違うの風美香。聞いて」
7 18/02/20(火)02:16:42 No.486226692
千代がすがるようにミカの体に触れようとする。しかし、ミカはその手を振り払った。 「触るな!」 「きゃっ!」 「さっきから風美香、風美香と馴れ馴れしい……私はミカだ! 継続高校の名無しだ! もはやそれ以上の誰でもない! あなたとの縁なんて、もう存在しないんだ!」 「いいえ、あるわ。あなたは私がお腹を痛めて産んだ子ですもの。その事実は消えることはないわ」 「ああそうだね……なんて忌々しい事実なんだろう。できることなら、私は過去にいって自分を産湯に浸かる前に絞め殺したいところだよ、こんな呪われた血、生まれたときに断つべきだったんだ」 ミカはそこまで言うと、千代に背を向け扉に向かう。 「待ちなさい! まだ話は終わってないわ!」 「終わってるよ、私は戻る気はない。これは私の断固たる意志だ。きっと、叔母さんもそう言うだろうね」 「そんな……待って……風美香……!」 千代はミカの後を追いミカの手を掴む。 「だから、触るなと言っているだろう……!」 ミカはその手を振り払うと、近くにあったサウナの温度を上げるための水を掬うひしゃくを手にし、それを千代に投げつけた。 「きゃっ……!」
8 18/02/20(火)02:17:03 No.486226726
「こんなところまでご苦労だったね。でも、私はもうあなたの顔なんて見たくない。もう二度と私の前に現れないでくれるかな? 私にはもう、ここに大切な人がいるんだ。私の生活があるんだ。それを、壊さないでくれ」 そう言い放って、ミカはサウナから出ていった。 サウナには、一人地面に尻もちをついた千代が残った。 「……うう……風美香……ごめんなさい……ごめんなさい、風美香……」 千代は泣いた。サウナの中で、さめざめと泣いた。その泣き声は、サウナの中に静かにこだました。
9 18/02/20(火)02:17:23 No.486226761
「……うううああ……!」 サウナから直結している更衣室。そこで、ミカは服に着替えた後、彼女もまた泣いた。 「母さん……! どうして、どうして今頃……どうしてもっと早く……!」 ミカは決して千代を完全に拒否しているわけではなかったのだ。 だが、すべてが遅すぎたのだ。 ミカは今更島田家には戻れない。もはや、ミカは風美香ではないのだから。 「うああああああああっ……!」 ミカは誰にも見せたことのない涙を流していた。 そこにいるのは、普段の皮肉屋で嘘つきなミカではなく、一人の少女としてのミカだった。 千代とミカ。 二人の親子の仲は、すっかり冷え切ってしまっていた。 それは、彼女の愛するサウナでも決して温めることのできない、冷たい氷だった。 おわり
10 18/02/20(火)02:19:32 No.486226961
読んでいただきありがとうございました su2257544.txt 過去作もよかったら ・シリーズもの su2257546.txt ・短編集 su2257547.txt
11 18/02/20(火)02:23:04 No.486227315
流石筆が速い…
12 18/02/20(火)02:36:14 [す] No.486228473
ちなみに今回のはメモ住で貰ったお題 「サウナ」「ちよきち」 で書きました サウナと言ったらミカだよね! という安直な発想です >流石筆が速い… ありがとう 即興はなるべく早くお出ししないとね 軽い運動みたいなものだし
13 18/02/20(火)02:46:03 No.486229385
「結局何を描きたいんだろう」って感じのどうでもいいSSだなって思ってたら ああお題もらってそれに沿っていただけかさもありなん
14 18/02/20(火)02:52:01 No.486229885
ただただ安易な島田設定なだけだね…
15 18/02/20(火)02:52:57 No.486229966
安直と切り捨てづらい程度には定着してると思うんですけど
16 18/02/20(火)02:56:25 No.486230204
私はいいと思う こんがらがった関係がいかにも彼女ららしくて
17 18/02/20(火)03:27:12 No.486232278
まあ技量も熱もない習作か手慰みのような作品って誰が得すんだろって思わなくもない 皆言わないけど
18 18/02/20(火)04:23:58 No.486235222
皆言わないけどって自分がそう思ってるだけでは