ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
18/02/12(月)00:31:58 No.484529152
「雷姉!どういうことか説明してよ!」 「雷姉さん…何か言って下さい!」 私は西住雷。現在自室にて双子の姉妹に囲まれている。 若干ツリ目で今にも食ってかからんと睨みつけてる方が妹の西住陽。 言葉こそ冷静だが、目の奥底に澱みがかった何かが見える方が姉の西住陰。 さて、なぜこんなことになったかと言えば…
1 18/02/12(月)00:32:24 No.484529244
…… 今日は休日だった。よく晴れていい布団干し日和だ。 朝にみほちゃんから、転校先でも上手くやれているという旨のメールも届き一安心していた。 布団を干しながら、今日ものんびりしたいい一日が始まるなー…などと考えていると、突然ドアが激しくノックされた。 何事かとドアを開けると…よく似た姿の双子姉妹がそこに居た。 西住陰と西住陽。西住本家の娘で、まほちゃんとみほちゃんの実妹にあたる。 二人は穏やかならざる表情で私の部屋に押し入ってきた。 ああ、これで今日の休みはパァだ。 みほちゃんに転校を勧めた日から、いつか来るとは思っていたが… 私はのんびりした休日を諦めて二人の相手をすることになった。 二人をとりあえず座らせて茶を出す。
2 18/02/12(月)00:32:43 No.484529316
「で、アポ無しで人のとこに来て何の用よ? 今日休みよ休み」 険呑な目をしてこちらを見つめる二人に対し、私は多少不機嫌な体を装って言う。 普段はあまりやらないのだが、最初から文句をつけに来たであろう二人が相手だ。 最初から下手に出ても火にガソリンを注ぐ結果になりかねない。 どのみち文句の内容はわかっているし、機先を制して落ち着かせておきたかった。 「……わかってるくせに…雷姉っていっつもそうだよね!」 ダメだった。ガソリンを直火で炙ってしまったようだった。 やはり先にパンケーキにするべきだったか。 「みほ姉のことに決まってるじゃない!雷姉が転校勧めたんでしょ!?」 「お父さんと菊代さんから聞きました…ねぇ…」 「雷姉!どういうことか説明してよ!」 「雷姉さん…何か言って下さい!」
3 18/02/12(月)00:33:05 No.484529389
私は、まほちゃんに話したのと同じ内容のことのあらましを二人に説明した。 しかし二人とも納得できていないようだった。それはそうだろう。なぜなら… 「…私たちに相談しないでなんで雷姉が勝手に転校とか決めたの!? おかしいよそれ!」 「そうです! せめて私達やまほ姉さんに相談してくれても良かったじゃないですか!」 そう来るだろうと思っていた。みほちゃんに転校を勧めた時に、確かに私はみほちゃんの姉妹には全く話を通さなかった。 菊代さんと常夫おじさんにだけ私見を話して、二人が転校に賛同してくれた。 あとは二人にみほちゃんの後押しを頼んだというのが私がしたことだった。 「ねぇ聞いてる!? お父さんもお母さんも私達に話してくれたのは転校した後だったんだよ!?」 「まほ姉さんにまで話さないなんて…おかしいと思います!」 「あのねぇ…そこはみほちゃんが話すべきところじゃないの?」 私がそう言うと二人はシュン…と押し黙る。二人とも頭がいい。理解してはいるのだ。
4 18/02/12(月)00:33:48 No.484529547
「確かに私は相談されたし対応もしたよ? でもそこから先をどうするかはみほちゃんがやること。違う?」 「それは……そうだけど…でも……」 「そうじゃないんです…私達が言いたいのは…」 「…本当はみほちゃんに頼って欲しかったんでしょ」 二人は少し黙った後、互いに顔を見合わせて頷いた。 そうなのだ。この子達はただ姉に頼って欲しかったんだ。助けを求めて欲しかったんだ。 黙って置いて行くような…まるで自分達では何も出来ないと無言で伝えるような真似をされたのが辛かっただけなんだ。 「どうして…私達を頼ってくれなかったのかなみほ姉…辛いなら言ってくれれば良かったのに…」 「…雷姉さんはなんだと思いますか? みほ姉さんが黙って出ていった理由は…」 「うーん…聞いた感じだと寂しかったんだと思う、かな」 えっ、と声を上げて陰と陽は互いの顔を見やる。
5 18/02/12(月)00:34:09 No.484529617
「寂しいって…なんで?去年だって中等部に私達居たんだよ?」 「そうですよ。まほ姉さんだって居ましたし…」 「みほちゃんは自分の話を聞いて欲しかったんだよ。二人はみほちゃんに愚痴こぼされたりしなかったでしょ多分」 二人は少し俯き…そして陰が口を開く。 「…確かにみほ姉さんは自分の話をあまりしませんでした…みほ姉さんは私達ことばかり気にして…」 「みほ姉はちょっと辛そうな顔してても『私は大丈夫だから…』って言ってたよね…」 「そこよ。まー…みほちゃんもお姉ちゃんだからね。妹には弱いとこあまり見せたくなかったんだと思うよ多分」 「でも血の繋がった姉妹じゃない!辛いならせめて話してくれたって…」 「陰と陽はみほちゃんが『つらい』って言ったら心配してくれるの?」 私のこの問いに二人は眼の色を変えた。
6 18/02/12(月)00:34:43 No.484529743
「何言ってるの雷姉…当然でしょ?」 「……雷姉さん…私達をなんだと思ってるんですか?」 「落ち着きなさいな。ま、そーいうとこだよ。二人に言わなかったのはさ」 「うん?」 「どういうこと…ですか」 「心配なんてかけたくなかったから黙ってたってこと。二人が心配するってことまではわかってたのよ」 もっとも黙って出ていく方がよほど心配されるってことまで気付かなかった訳だけど、と続ける。
7 18/02/12(月)00:35:00 No.484529805
「みほちゃんもお姉ちゃんだからね。二人に心配なんてさせたくなかった訳よ。だから黙ってしまった」 「……でも雷姉には相談したんだよね…それ、なんでよ」 「そりゃああれよ。私はそんなに気負ってやらないもの。でも陰と陽は真剣に考え込むし大立ち回りだってできちゃうでしょ?みほちゃんの為に」 「…まぁ、みほ姉さんの為なら…ねぇ陽?」 「当然だよ。私はみほ姉の為なら全力で動けるよ」 「そこまでされると重いのよ。だって結局は話聞いて欲しい戦車辞めたいになるんだから」 「……そんなに戦車嫌そうにしてたのみほ姉?」 「…まぁね。戦車乗りたいって言ったならサンダースに呼んでもよかったし。そもそもちょっと引き留めるくらいでも黒森峰にまだ居たでしょうよ」 「…雷姉はさぁ…みほ姉が黒森峰にいない方が幸せになれるって言いたいの?」 泣きそうな顔で陽がこちらに訊ねてくる。信じたくない。そんなことないと言って欲しい様に。 でも、私はきっぱりとその希望を断ちきることにした。
8 18/02/12(月)00:35:31 No.484529922
「ええそうよ。少なくとも私ならいまの黒森峰にあの子は置いとけない。自殺までさせたくないもの」 私に相談に来た時のみほちゃんの様子を思い出す。 ちょっと背中を吹きでもしたら、あっという間に消えそうな蝋燭の様な姿を。 引き留めても暖簾に腕押し糠に釘。ただ「…辞めたい」「…ごめんなさい」「…もうダメだよ」と呟く姿を。 正直私を訪ねてくれただけマシだと思った。
9 18/02/12(月)00:35:58 No.484530027
「……やだ…みほ姉が居ないと…嫌だ…よぉ…っ!」 陽は大粒の涙をこぼす。陽の気持ちも分かる。 今年は中学以来で、西住四姉妹が勢揃いできるはずの年だった。 弱かった身体も比較的落ち着いて、今度こそは四姉妹で活躍できるという意気込みを楽しそうによく話していた陽。 皆そんな陽を見て笑っていた。陰も、みほちゃんも、まほちゃんも。しほさんだって。 なのに、それがもう叶わないと言われれば…こうもなろう。 もちろんそれは陰だって同じなはずで… 「………っ」 こちらも俯いて泣いていた。 私は二人の頭を抱き寄せる。二人は声を上げて泣き始めた。 今日はいい天気のはずだったのに…心はすっかり雨模様になっていた。
10 18/02/12(月)00:36:41 No.484530212
…… 「ごめん、雷姉…」 暫くして泣きやんだ二人にタオルを差し出す。 「…すみません雷姉さん…今日は本当に」 「いいって別に。私は答えてやらなきゃならなかったし。そっちだって聞かずにはいられなかったんでしょ。それだけよ」 「雷姉はさ…一応みほ姉のこと考えてくれたんだよね?」 「当然よ。それだけは胸張って言えるわ」 「……そっか。なら、今日はもうそれでいいや」 陽はおもむろに陰に抱きつく。仕方ないというように陰も陽の頭を撫でる。 これでひと段落、ということだろう。私はキッチンへ向かい、遅い茶請けの支度をすることにした。
11 18/02/12(月)00:37:14 No.484530324
「ほれ。食べな」 私は皿を二人の前に置く。 「…パンケーキ?なんで?」 「もういい時間じゃないの。おやつよおやつ。」 「いや、その…そんなに構わなくてもいいんですよ?もう用は済みましたし…」 ぐ~っ、と陰のお腹から腹ペコの音がする。途端に陰の顔が真っ赤になる。陽もくすくす笑っている。 「雷姉。それじゃあありがたくいただきます。陰姉も食べよ♪」 「……はい…いただきます…」 「ん。そうそう。遠慮なんてするもんじゃあないよ」 メープルシロップとマーガリンを二人の前に出してやる。
12 18/02/12(月)00:39:54 No.484530937
「ん~っ雷姉のパンケーキ久しぶりだなぁ♪おいしいね陰姉!」 「…はい♪このちょっとしっとりしてる部分がまた…♪」 …こうしてわいわいパンケーキを食べる姿は昔のままだ。 本家に行くたびに、この二人からはパンケーキ作ってとねだられたものだった。 …この二人は昔から特に一緒に居た。元々陽が体調を崩しやすかったせいか陰が離れようとしなかった。 陽はおかまいなく遊んでは熱出して陰に看病されていたものだった。 しほさんすら陽にはかなり甘く接していた…まぁ、不器用な人だけど人懐っこい陽には優しい母親の顔が出しやすかったのだろう。 陰はどちらかと言えばみほちゃんに近いタイプだ。というかもう少し溜め込みやすい様に見える。 陽と違い人見知りするので、正月や盆の集まりなどは割と苦手にしている。 そのためこちらから誘って二人で話し込んだりしていたものだった。 そうすると、ちょっとむくれた陽がやってきて陰の隣にピタッと座ってくるものだった。二人はずっと一緒だった。 戦車道でもそう。二人で一人前と言えるほど息の合った連携を見せていた。まるで以心伝心だ。
13 18/02/12(月)00:40:31 No.484531084
「…あのね雷姉。私…もしみほ姉に会ったら言おうと思ってることがあるの」 帰り際に陽が口を開く。 「もう少し私達を頼れって。一人じゃ確かに頼りないかもしれないけど…でも、陰姉と一緒なら絶対力になれたって」 「そしてもし…仮にみほ姉さんが当たるようなことがあればその時は…」 「試合で負かして!」 「私達を認めて貰います。一人で勝てなくても…陽と一緒なら追いつける」 「ううん。違うよ陰姉。二人なら追い越せる!だよ?」 「そうでしたね…!」 この姉妹もようやっと元気になったらしい。これでいつもの調子…いや、いつも以上に上り調子だろう。 「ああ。やってやんなさい。今のアンタ達ならきっとみほちゃんにも負けないわ」 そう言うと二人はピースサインをこちらに向け、ヘリポートへと歩き出した。 おしまい
14 18/02/12(月)00:44:08 [す] No.484531877
雷ちゃんでちょっとやってみたかった 前のまほ雷の後の話になります ss307711.txt
15 18/02/12(月)00:50:35 No.484533428
西住流の精神安定剤のお姉ちゃん…
16 18/02/12(月)00:52:05 No.484533749
姉妹の絆いい…
17 18/02/12(月)00:56:02 No.484534658
もう少し会話があれば防げたはずの傷口がどんどん開いて転校までいたるのいいよね…
18 18/02/12(月)01:01:41 No.484535806
>もう少し会話があれば防げたはずの傷口がどんどん開いて転校までいたるのいいよね… でもこの雰囲気だと最終的には希望が持てる
19 18/02/12(月)01:04:33 No.484536401
直接みぽりん訪ねる前に雷住殿のとこに来るのが姉妹からの信頼度高い
20 18/02/12(月)01:13:47 No.484537986
安心出来る程の包容力 いいよね…
21 18/02/12(月)01:13:52 No.484537993
お姉ちゃんのお姉ちゃんだからね…
22 18/02/12(月)01:17:32 No.484538700
>もう少し会話があれば防げたはずの傷口がどんどん開いて転校までいたるのいいよね… 雷姉は傷口の大きさをわかっていてみぽりんがその傷の事を心配させまいとするあまりに自分を傷付けてしまう事をも理解しているからこそ送り出したんだ…
23 18/02/12(月)01:20:51 No.484539341
妹達の事を真に理解しているからこそ出来る行為だよね やっぱり雷姉さんは格好いい
24 18/02/12(月)01:24:05 No.484539909
矢面には割と立ってくれるよね雷姉
25 18/02/12(月)01:24:58 No.484540054
『辛い、悲しい』じゃなくて『寂しい』っていうのがみぽりんらしくて上手いなあ
26 18/02/12(月)01:27:41 No.484540499
時には厳しさも見せる でもそれは相手を思いやる優しさに裏打ちされた厳しさなんだ…