ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
18/01/23(火)21:00:57 No.480640977
夜は華のJ組!SSもあるよ! チャイムが放課後を知らせた。 クラスのみんなは帰宅の準備だったり、部活動の準備だったりで慌ただしく動き始め、私もそんな彼女達の一人として部活動へ向かう準備をする。 教科書をカバンへ押し込めた私は隣の席の子達に軽く挨拶をして席を立った。 女子高生と言う生き物は忙しい。学業にしても部活動にしても遊びにしても。 女子高生で在る事にみんな一生懸命なのだ。 そうやって一生懸命生きているからこそ、青春とか、感動とか、友情とか、そういうキラキラした風景の中に居られるのだ。 そんな当然の事に気付いたのは部活動に入ってからだった。 “何か”を求めて未体験の吹奏楽部に入部した私に待っていたのは、目新しい事などない平和な日々だった。 女子高生になれば。新しい事を始めれば。 そんなふわふわした理由だけで手に入れられるほど、青春と言う言葉は軽くなかったことを知った。
1 18/01/23(火)21:01:19 No.480641099
別に今の生活に不満があるわけでは無い。 クラスのみんなは良い人ばかりだし、吹奏楽部だって楽しくないわけでは無い。 自分が不幸とは思わないし、むしろ恵まれている方だろう。 ……それでも満たされないと思ってしまうのは我儘だろうか? まだ入学して少ししか立っていない私が高校生活を語ろうなどとはおこがましいだろうか? そんな事を考えながら、ふと廊下の窓から校庭を見下ろせば運動系の部活動が基礎練習を始めていた。 ただグラウンドをぐるぐると走っているだけなのに、少し傾きかけた日に照らされた彼女たちは輝いて見えた。 それはたぶん錯覚でもなんでもなく、彼女たちは本当に輝いているのだろう。 じゃあ、彼女たちと私の違いってなんだろう。 そんな考えが頭を過り、あわてて首を振る。 その拍子に眼鏡がズレてしまい、私の視界がぼんやりと歪んだ。 ぼやけた視界が映した廊下の風景は、先ほど見下ろしたグラウンドの風景と違って、鮮明さに欠けた色をしていて、そんなぼやけた風景の中に取り残されてしまったような錯覚に襲われた私は、眼鏡をかけ直すと逃げ出すように廊下を後にした。
2 18/01/23(火)21:01:36 No.480641186
吹奏楽部の部室へ向かうには一度階下へ下り、特別教室棟に向かわなくてはならない。 でも、階段を前にした私の足は止まってしまった。どうしても、今日は部活動へ行く気分にはなれなかったのだ。 そうなると当然逃げ場は上しかないわけで、私は誘われるように屋上へと向かい始めた。 芋毛女学院では昨今の高校には珍しく、屋上は常に解放されている。だから昼休みに屋上で昼食をとる生徒も多いようだ。 普段はあまり出向かない場所だが、今日はそんな校風がありがたかった。 屋上で少し休憩すればこの憂鬱な気持ちも吹き飛ぶだろう。その後で部活に行こう。 そんな事を考えて屋上への扉を開けると、まだ少し肌寒い春風がスカートをはためかせる。意外な事に屋上には誰も居らず、どうやら貸し切りのようだ。 ふと、風に乗って焼香に似た匂いが漂ってきた。まさか屋上で葬儀が行われている訳でもあるまい。 匂いの方へ向かうと、ちょうど屋上へと上がる階段の裏に一人の少女が座っていた。
3 18/01/23(火)21:01:59 No.480641307
「……なにしてるんですか?」 声をかけられた少女がビクリと肩を震わせる。 錆びついた機械のように首をゆっくりとこちらへ向ける少女の背後にギギギという擬音が見えた気がした。 「……見た?」 「えーっと……タバコ?」 取り繕うように手を振った彼女の手にはキセルが握られており、その先端からは未だ煙が立ち上っている。 匂いの原因はこれだろう。 「女子高生なんだしそういうのはまだ早いと思いますよ。それにせめて学校では……」 「あ、これはタバコじゃなくて……いや、はい、そうですタバコです」 なにやら挙動が怪しい。 それによく見れば彼女の視線はふらふらと揺れていて安定していない。 そこまで観察してようやく思い当たるものがあった。 最近は脱法ドラッグなるものが流行っており、手軽に入手出来てしまうせいか若者の薬物汚染が酷いと何かの記事で読んだことがある。
4 18/01/23(火)21:02:22 No.480641413
「ねえ……もしかしてそれって危ない薬?」 「うっ……」 言い淀んだ。これは確定だろう。 「ねえお願い!先生には言わないで!」 「そうは言っても……」 流石に校内で薬物汚染が広がってるのを無視するのはどうなんだろう。 とは言えこうも怯えた表情で懇願されては先生に差し出すのもそれはそれで後味が悪い。 どうして私が素行不良生徒の為に頭を悩ませなければいけないのか!と葛藤していると、ふと彼女の容姿に見覚えがあることに思い至った。 「もしかして同じクラスですか?」 「そういえば見覚えが……あ、もしかして出席番号3番の?」 「そうですけど、19番さんで合ってます?」 「合ってるよ。だから同級生の誼みで今日だけは見逃して貰えないかなー……?」
5 18/01/23(火)21:02:57 No.480641583
尚も食い下がる彼女の姿に面倒ごとに関わりたくないのも事実だし見逃してあげても良いかなと言う気持ちが強くなる。 と、そんな考えをしているうちに屋上に上がって来た当初のもやもやとした憂鬱がどこかに霧散している事に気付いた。 それはそうだ。ある意味では当然とすらいえる。だって、漠然とした輪郭を持たない悩みなんかよりよっぽど衝撃的な問題が目の前にいるのだから。 正直な話、脱法ドラッグなどというものは違う世界の話で、私とは一生無縁なものだと思っていた。 それがどうだろう。そんな非日常的なものが今私の目の前にある。 ……魔が差した。同時に、私の中にあった悩みが一つ輪郭を持ったのを実感した。 なんてことはない。ただ、退屈だったのだ。 女子高生になれば。新しい事を始めれば。 そこには違う世界が広がっていると信じていた。 私を取り巻く高低差の無い平和な日々は、確かに客観的に見れば恵まれているのかもしれない。 だけどそれはとても退屈な事で。私の心を満たしていたのは幸福感とは程遠い虚無感だったのだ。
6 18/01/23(火)21:03:14 No.480641662
相変わらず少し動揺したような表情でこちらの様子を伺っている級友へ「じゃあ、先生に言わない代わりに一つ条件があります」と話しかける。 「できる範囲の事なら」と承諾した彼女の姿に満足気に頷いた私は、彼女が手にしたキセルへと手を伸ばす。 「これ、私にも一口吸わせてください」 「ええっ、やめといた方が良いと思うけど」 「……」 「わかった、わかったって。でも気を付けてね? ハマっちゃったりしたら大変だし」 そういっておずおずと差し出されたパイプの先を口元に近付ける。 パイプの先には先ほどまで彼女が吸っていた痕だろう。色付きのリップが付着しており、なんだか少しいけない事をしている気持ちになってしまう。 「いきなり肺に入れるとむせると思うから、一旦口の中でふかしてそれを深呼吸して吸い込む感じがいいかも。一度吸い込んだら、少し肺の中で貯めてね」 言われたとおりに、キセルから煙を軽く吸い込み、口の中に含む。 鼻腔を焼香に似た匂いが刺激し、それだけで少しクラクラした気分になった。 一呼吸おいて口内の煙を深く肺へ落とし込んでいく。すると煙はスルリと肺を満たし、私はそれを逃がすまいと息を止める。
7 18/01/23(火)21:03:42 No.480641815
そんな私の様子を心配そうに見守る級友の姿を見ていると可笑しな気持ちになってしまう。もとはと言えばこれを吸っていたのは自分だというのに。 そんなに心配するようなものならこの子はどうして吸ったりしているのだろうと、少し目の前の級友へ興味を持った。 そんな事をぼんやり考えていたが、変化は突然に起きた。 最初に感じたのは聴覚の異変。 グワングワンと波のように音が脳に響いてくる。 鼓膜を通さずに直接脳を揺さぶるようなその波は私から平衡感覚を奪っていく。 私は思わず体制を崩し、そんな私の体を彼女は慌てて支えた。 彼女の肩をありがたく借りた私は少々の恐怖心に襲われながらもそのまま自らの体に怒る異変に身を委ねていく。 そして次に視覚の異変。 視界が急激に狭まっていく。 焦点を当てられる範囲が極端に狭くなり、視界の端は黒く塗りつぶされ、そこにちらちらと光が躍る。 その光は脳に響く音と共に波のようにうねり、まるで私の鼓動そのもののように思えた。 (ああ綺麗だな) それは、嘘偽りない感想だった。 今私の視界に映っているものは、何もかもが例外なく輝いて見える。
8 18/01/23(火)21:03:58 No.480641900
殺風景なはずの屋上の風景はつい先ほど見下ろしていた校庭の風景のように。 私を支える級友の少女は校庭を駆け抜けていた少女たちのように。 そしてそんな彼女に支えられている私もまた、キラキラとした風景の中に居るのだと感じられた。 入学当初の私が想像していた形とは違うけれど、今この瞬間、この場所には、私が求めていた“何か”があるのだと確信できた。 だったら、きっとこの高校生活は素敵なものになるに違いない。 そんな自信過剰な確信は果たして私の本心なのか。それとも薬が与える万能感故のものか。 この薬から覚めたら、まずはこの可笑しな級友に名前を聞こう。 そしてもし彼女が許してくれるのなら友達になろう。 きっと、この子と一緒に居れば退屈しないから。 それがたとえ退廃的なものだったとしても、私にとっては青春と呼ぶべき日々になるはずだから。 そこまで考えて、とうとう私は意識を手放した。 暗転する意識の中にあっても、私の胸を満たしていたのは奇妙な充足感だった。
9 18/01/23(火)21:04:53 No.480642176
以上 中毒部の出会いとか妄想しつつ書いてみました!
10 18/01/23(火)21:05:17 No.480642300
中毒部いいよね…
11 18/01/23(火)21:06:29 No.480642702
いい…
12 18/01/23(火)21:07:26 No.480642971
なんとなくリアリティありそうな描写だ…
13 18/01/23(火)21:12:20 [J19] No.480644536
J3ちゃんがちょっとネガティヴっぽく読めちゃうかもしれないけどそんな事はなくとても素敵な子だと思います! もしそう読めてしまったら私の執筆力不足ですので本当に申し訳ない!
14 18/01/23(火)21:14:39 No.480645319
こっから最終的にJ3ちゃんが主導権握ると考えるとすごく興奮しますよ私は
15 18/01/23(火)21:22:57 No.480648123
J組のみんなの初遭遇時の反応とか見てみたい感じある
16 18/01/23(火)21:26:41 No.480649405
犯罪ジャン!
17 18/01/23(火)21:27:15 No.480649597
あーそれいいね 入学してクラス分けされて辺りを見回してる当たりとかよさそうね
18 18/01/23(火)21:28:19 No.480649916
>犯罪ジャン! 当時は合法!合法でした! でも合法非合法関係なく絶対お薬に手を出すのはやめましょう!ロクなことになりません!
19 18/01/23(火)21:30:24 No.480650568
>あーそれいいね >入学してクラス分けされて辺りを見回してる当たりとかよさそうね 自分の周りの席の子の第一印象とか書いて見せあったら楽しそうだよね クラス評は以前やってたけどそれをもっと周りの席の子に絞って深くする感じで
20 18/01/23(火)21:34:14 No.480651804
この描写もしかして実体験…
21 18/01/23(火)21:34:31 No.480651878
>この描写もしかして実体験… ……