虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。

SSです... のスレッド詳細

削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。

17/11/12(日)23:56:22 No.465333238

SSですので苦手な方はブラウザバックをお願いします 前後編の後編ですので以前上げた分は17/10/31(火)00:49:08投稿のログを見て頂けると幸いです 探すのが面倒であればtxtファイルをお出ししますのでご用命ください

1 17/11/12(日)23:56:40 [11/21] No.465333344

広い校舎から外に出て、私たちは街中を案内される。 「じゃあまずは、駅に向かいましょうか。何か気になるものがあったら言ってちょうだい。わかる範囲でなら教えてあげるわ」 本来の役目を早々に終えた私たちは、同志たちの言う通り卒業の前旅行として楽しもうと気持ちを切り替えていた。 学校から出てすぐ、私は大きな違和感に首をかしげる。 「ねえ、この学園艦ってアメリカの所属じゃなくて日本よね?」 「なによ突然。当然でしょ?本籍は長崎よ。長崎県はアメリカだって言うの?」 「あなた達の学校がアメリカの校風なのはわかるわ。でも、なんで学校の外までアメリカ風の店が並んでるの?」 形は四角を基本にし、色とりどりの商店街。遠くに教会の屋根が見える他は建物の高さは低く、統一感のある町並みの姿はまるで外国そのもの。 テレビで見るアメリカのメインストリートそのものの姿が広がっていたのだ。 「夕方になると吹奏楽部やの履修者たちが街で芸をやったり演奏したりもするわ」 「賑やかなのね。お金持ちは凄いわ」 「プラウダだって街は賑やかなんじゃないの?大洗との試合の時なんて戦車道履修者も楽しそうにしてたじゃない」

2 17/11/12(日)23:56:56 [12/21] No.465333417

「あれは、カチューシャが同志たちの英気を養う為に遊ばせる様指示を出していたんですよ」 へぇ、と訝しげに見てくるアリサに対し私は胸を張る。 「でも、悔しいけどこんな華やかな街じゃないわ。陸で見る様な普通の商店街だし、店だって日本のお店だもの」 「それはそれで落ち着けて良さそうだけどね。でも、それなら楽しんでいってちょうだい」 なんだかんだと言いながらも私たちの案内はきちんとやるらしく、メモをまた開く。 「それじゃあとりあえずこのまま商店を抜けて、公園からバスに乗りましょうか。道も広いし、バスは2階建てよ」 ニヤリと笑うアリサの顔を見て、私は負けたくないという嫉妬心が湧き上がるのを感じてしまう。 もちろん現状で戦車道の試合をするならば勝てるだろう。 しかし、資金面での差が大きい為に不安が膨らんでいくこともあり私は「負けたくない」と考えてしまう。 そんな面白くなさそうな私の顔を楽しむかの様なアリサの笑顔が、さらに私の心を引っ掻いてくる。 ノンナが「眠くなってきたのかもしれませんね」とごまかしておいてくれたからよかったものの、私は純粋に楽しめない気持ちになってしまっていた。

3 17/11/12(日)23:57:11 [13/21] No.465333496

それから私たちはバスに乗り、戦車博物館へと向かう。 ここでは先程見たシャーマン戦車だけでなく、サンダースでは利用していない戦車もたくさん展示されていた。 「これはT1軽戦車?」 「さすがに当時のじゃないけれどね。当時の試作型を再現したモデルよ」 「へぇ、凄いじゃない。歴史のある戦車は好きよ」 「流石に私達の学園艦では展示出来ませんね」 ノンナもそう言うと、興味深そうに戦車脇に備えられた説明文を読んでいる。 「ここの戦車を使ったりはしないの?」 「無理ね、展示用だから動かせはしないわ」 「なるほど、内装は展示用に簡素にしているのね」 「そういうこと。燃料だって入れられないわ」 そう聞きながらも次の戦車を見た私は肝を抜かれる。 「ちょっと!M1戦車まで置いてるじゃない!レギュレーション違反よ!」 「…だから動かない展示用だって言ってるでしょう」 アリサは呆れながらそう伝えてきた。

4 17/11/12(日)23:57:29 [14/21] No.465333578

思っていた以上に楽しめたこともあり、博物館のから出る頃には夕方になっていた。 「まあ、悪くなかったわね」 「だから楽しんだんなら素直に言ってちょうだい」 私が満足したと伝えると、アリサは呆れながら返事をしてくる。 「これはカチューシャなりの褒め言葉なんですよ」 「だったらちゃんと伝える様に教育してほしいけど…まあいいわ。  ちょうどいい時間だし、また移動するわよ。昼寝をするならバスでしてちょうだい」 バス停で椅子に座りながら待っていた私は見慣れ始めている町並みを見ながら質問をする。 「今度はどこに行くの?」 「学生だけじゃなく、住民全員から愛されてる人気スポットよ」 自信アリ。態度だけでなく顔からもそう伺わせながらバスに乗り込む。 「そう、じゃあ楽しみにしておいてあげるわ」 そう伝えた私は椅子に座ると、バスの心地よい揺れを感じながら目を閉じる。 「遊び疲れたみたいですね」 ノンナのそんな優しい声を耳に残しながら、私は眠りに落ちた。

5 17/11/12(日)23:57:44 [15/21] No.465333660

目を覚ますと私たちはバスから降りていて、待ち合わせ場所の様な広場に座っていた。 どれくらい寝ていたか腕時計を見ると、30分程が過ぎていたことを知る。 「ここはどこかしら」 起きたことを伝えつつ、私はアリサに聞いてみる。 「やっと起きたわね。もうちょっと待ってなさい。良いものが見られるから」 そう言ったアリサは周りにいる人達を忌々しげに見る。 嫌いな相手なのか、何故かその睨んだ方向には若い男女が立っていた。 「でもここってただの広場じゃないの?学生の演奏でもするのかしら」 「ここは禁止区域よ。ここの目玉はアレ」 そう指差したのは大きな箱の左右に器が連なっている水時計。左に12、右に60までの器が連なり中央は黒い箱で覆われている。 「これが人気なの?こんなのプラウダにだってあるわ。正直、ちょっとがっかりね」 やれやれ、と呆れながら正直な感想を言うとアリサは目を丸くする。 「本当に?凄いじゃない」 そんなに驚く事だろうか?小さい物なら土産でもよくあるし、左で時刻を伝え右で分を刻む。ただそれだけなのでは? 何か噛み合っていない気がするけれど、ここはプラウダの凄さを伝えるチャンスだろう。

6 17/11/12(日)23:58:03 [16/21] No.465333773

「確かに大きいのは凄いけれど、ただの水時計でしょう?  こういうシンプルな水時計くらいならプラウダにもあるけれど、別に名物とかではないわね。  講堂の入り口奥に据え付けられていて、ただの時計と同じ様に使ってる程度だわ」 胸を張りそう伝えていると、何やら水時計の所に人だかりが出来ていた。 「カップルの中に入って行くのは癪だけど、来客の為だから仕方ないわね…」 アリサは大きなため息を吐いた後にそう言うと立ち上がり、私達を連れ水時計の方へと歩き出す。 「ノンナさん、その偉大な隊長さんが見えづらい様なら肩車をしてあげて」 一体何が始まるというのか。 説明も一切無いままに話が進められている事に若干の不満を感じつつ、私はノンナの肩に乗る。 「時間よ」 アリサは時計を指差し、見ておくようにと促してくる。 そうは言ってもたかだか水時計。他に見ておくべきスポットなんていくらでもありそうなのに…。 時刻は午後4時55分。夕飯には早く、出かけるには遅い微妙な時間。 私は今日はここまでなんだろうと諦める様に、ノンナの頭に顎を乗せて水時計を眺める。

7 17/11/12(日)23:58:19 [17/21] No.465333851

三分前となり、何やら機械の演奏が始まる。 自動で演奏をする機械が真ん中の黒い箱の中にでも入っているのだろう。 黒い箱が自動で開き、中の構造が見えて来た。その時に私は予想が外れた事を知る。 音楽はただのオマケ。スピーカーから流れているだけの様だ。もしケチをつけるならそこに口出しをしていただろう。 しかし、そんなものはもうどうでもいい。 その開かれた水時計の構造。複雑に大小の管が絡み合い、それでいて一定の間隔で流れて行く統一された美しい姿を見た私は息を飲んで見とれていた。 五時を越え、流れていた音楽が止み 「これが見せておきたかったこの学園艦の名物よ。実際はもっと大きいのが本土にあるらしいけれど、それの模造品」 アリサは誇らしげにそう言い、私達の顔を伺う。 恐らく満足させられたか気になっているのだろう。 私たちはそれには答えず、余韻を楽しむように見物客が去っていった後もその姿を一緒に眺めていた。 もちろん、それが最大の賛辞であると態度で示しながら。

8 17/11/12(日)23:58:35 [18/21] No.465333942

その日は用意された宿で一泊し、翌日も夕方まで観光や食べ歩きをして過ごした私達はついに帰還する時刻になってしまった。 前日に見た水時計が忘れられず、もう一度見たいと思ったものの帰りの船の都合もあるので仕方がない。 名残惜しいが、またいつか見に来ようと決めながら私は見送りに来てくれたアリサに礼を言う。 「まあ、悪くなかったわ。次があるなら前向きに考えたいくらいにはね」 そう言うと、すっかり慣れたアリサは「はいはい、ありがとう」と軽く返してくる。 そして、聞き忘れていたことをアピールするかのように「ポン」と手を叩きこちらを見てくる。 私は見下されない様にノンナの肩の上で背筋を伸ばし、何か聞きたいのだろうとアリサの言葉を待つ。 「そういえば、昨日あなたが言ってたそっちの水時計はどんなの?うちのより凄いって言ってたけど」 身構えていたにもかかわらず、私自身がその話を忘れかけていた事もあり言葉に詰まってしまう。 私はなんとか誤魔化そうと頭をフル回転させ、ありもしない性能の水時計をでっちあげてしまった。

9 17/11/12(日)23:58:50 [19/21] No.465334009

「ああ、あれね…あんな風に開くとは思ってなかったから驚いたわ。うちのには無い機能だったから。あれも含めて考えたら私達のが劣ってるくらいかもしれないわ」 水時計くらい実際にプラウダにもある。しかし、あんな目を奪われるきらびやかなものでなく、至ってシンプルな一品だ。 「大きさは同じくらいで、中身が凄い複雑だから見ていて飽きないの。あと…こう。なんていうのかしら。スイッチを押すと一番下に集まった液体が上がっていくのよ!」 無反応なノンナにも話を合わせてもらおうとくいくいと髪を引っ張るが、気付かれる心配があるので強くするわけにもいかない。 「凄い機能じゃない!隊長に話をして見に行ってもいいかしら!?」 信じてしまったらしいアリサが詰め寄ってくる。 「あー、いや。ほら、学校が秘密主義だから見せられないの。口外もしないでほしいくらいなのよ」 ただの夢物語としてすぐに忘れてほしい。そう願いながら説得をする。 「せめて写真で見たいわ!手紙に同封でもいいからこっそり見せてちょうだい!」 輝くアリサの表情に気圧された私は、ただ「そうね、戻ったら検討してみるわ」とだけ言って愛想笑いを浮かべ船に逃げ込んだ。

10 17/11/12(日)23:59:10 [20/21] No.465334124

帰った私達は、皆に挨拶するのを後回しにして二人で私室に戻る。 それぞれ別の個室が用意されているが、今回は私の部屋にした。 「ねえ、ノンナ。アリサの権なんだけど」 少し上目遣いになりながら、私はノンナに声をかける。 「楽しみですね、私も見たいですよ。その水時計」 ノンナはただ笑顔でそう答えてくる。 「同志たちでなんとかできないの!?」 静かに首を横に振られ、私は手立てはないのだと悟る。 いや、もとよりどうにかする方法などない。どうごまかすかと言った方が正しいのだ。 「流石に専門の学科などはありませんので、難しいでしょう」 「ノンナぁ…」 「時間が解決してくれると思います」 反省をしろ。そういう意味なのだろう。 私はただただみじめになり、どうにも出来ない悲しみの中で肩を落とした。

11 17/11/12(日)23:59:27 [21/21] No.465334217

時間が解決してくれる。 そう言われて半月ほど経った頃、アリサから手紙が届いた。 恐る恐る内容を読むと、何やらノンナへのお礼が主な内容の様だ。 その手紙を読み進めるうちに、ノンナからアリサ宛に手紙が送られた事を知る。 接待をしてもらったにもかかわらず、お礼を伝えたのは私からではなくノンナから。そんなの失礼に当たるのでは? そう危惧したものの、アリサからの手紙でそこのフォローも完全にされていた。 「私達の旅行前から調子の悪かった水時計は旅行中に完全に壊れてしまい私がひどく落ち込んでいる。なので副隊長であり同行者であった私が代筆を書いている」 そうアリサに伝えていたらしいのだ。 「代わりになるかはわからないけど、私達の学校のならまた見に来なさい」 そう慰めの文まで添えられていた。 「ノンナ、ありがとう」 ただ時間が過ぎるのを待つのではなく、その間になんとかする。 その行動を知った私は目から涙がこぼれない様に耐えながらノンナにお礼を言う。 ノンナはその言葉には何も答えず、私を膝の上に乗せて静かにコサックの子守唄を歌ってくれた。

12 17/11/13(月)00:01:21 [sage] No.465334767

おまけ よりイメージしやすいようにサンダースの水時計の参考にさせていただいたインディアナポリス子供博物館にある世界最大の水時計の画像も添えておきます su2102570.jpg

13 17/11/13(月)00:02:15 No.465335040

スレッドを立てた人によって削除されました

14 17/11/13(月)00:04:46 No.465335829

爺ちゃん家の水時計始めて見た

15 17/11/13(月)00:05:12 No.465335971

ノンナはひょっとするとおかーさんなのでは…?

16 17/11/13(月)00:06:45 No.465336494

きてる!

17 17/11/13(月)00:18:40 No.465339976

かっちゃん戦車博物館ではしゃいでたんだろうな…

18 17/11/13(月)00:52:19 No.465348807

>su2102570.jpg 巨大水時計初めて見た カチュノン可愛ええ…

↑Top