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17/11/11(土)21:34:40 No.465019337
はいふりSS だいちこく
1 17/11/11(土)21:35:36 No.465019695
「ひーまー」 夜の艦橋に、退屈そうな芽依の声が響く。 「静かにしないか西崎さん……当直中だぞ」 「そうは言うけどさあ、事件も特になくて暇じゃん」 「平和ならそれにこしたことはないだろう」 「まあそりゃそうなんだけど、こうも何もなさすぎるとさー。副長が面白い話とかしてくれたら多少は紛れるのに」 「私に何を期待してるんだ……」 共に当直をしていたましろは、芽依のやる気のない言動に怒る気力すら出ずにため息をつく。 「西崎さん、そんなに暇なら見回りでもしてきたらどうだ」 「ついさっき行ったばっかじゃん。平和そのものだったし、なにも起こんないって」 「じゃあ大人しく外の様子でも見るんだな」 「……はーい」 ましろに言われ、芽依は諦めたような返事と共に艦橋の外に視線を向ける。 「……はあ」 それを見ながら、ましろは小さくため息をついた。
2 17/11/11(土)21:37:26 No.465020357
芽依の言動や態度には大いに問題があるのは間違いないが、これで仕事はちゃんとこなしている。 先ほども言った通り、見回りもきちんと済ませて戻ってきたばかりだ。 あまりしつこく叱るのも不毛だろう。そう思い、ましろはそれ以上はなにも言わないことにしていた。 「しかし……平和だな」 芽依と共に周囲に別の船や障害物の影がないことを艦橋の窓から確認しつつ、小さくこぼす。 ましろとて、退屈を感じていないわけではないのだ。 もちろん、平和ならそれにこしたことはないし、事件など望んではいないけれど。 「宗谷さん、西崎さん」 「ん?」 そこに、声をかけられる。 二人が振り向くと、艦橋の入り口に洋美が立っていた。 「あ、クロちゃん」 「黒木さんじゃないか。何かあったのか?」 「今、私たちの部屋で菓子パやってて。それで、当直の二人にも差し入れを、と思って」 見れば、確かに洋美は両手にラムネのビンやお菓子の袋を抱えている。
3 17/11/11(土)21:38:28 No.465020687
「そうか……わざわざありがとう。ありがたくいただくよ」 「おっ、ラッキー! クロちゃんありがとう! よしよし、それじゃあ早速──」 「ぎにゃああああああああああ!?」 と、その時だった。耳をつんざくような悲鳴が伝声管から響き、思わず三人は飛び上がってしまった。 「うわ、何!?」 「な、なんだ!? 悲鳴?」 「今の声……多分、ルナだわ」 「駿河さん?」 「ええ。何があったのかしら……」 三人は顔を見合わせ、ごくりと生唾を飲み込む。 「……私が見に行ってみる。西崎さんはここを頼む」 「わ、わかった」 意を決したましろの言葉に、芽依が頷く。
4 17/11/11(土)21:39:37 No.465021059
「私も宗谷さんと一緒にいくわ。ルナのことも心配だし……」 「わかった。お願いするよ。じゃあ、行こう」 「ええ!」 固い表情のまま二人は頷き合い、艦橋を出て声がした方へと向かった。 「あわわわわわわわ……」 艦橋を出たましろたちは、ラウンジの隅で留奈を見つけた。 留奈はすっかり怯えた様子でしゃがみこみ、ぶるぶると震えている。 「駿河さん!」 「ルナ!」 「ひっ、ひい! 命だけは~! って、く、クロちゃんに副長……? よ、よがっだぁ~!」 「うわ、ちょっとルナ!」 「ごわがっだ~!」 声をかけると、怯えた様子であったが、意識ははっきりしているらしい。 二人を見るなり、洋美に泣きついてきた。
5 17/11/11(土)21:40:12 No.465021266
「駿河さん、一体何があったんだ?」 「誰かに襲われたの?」 「ひっく、ひぐっ……そ、それが……」 あまりの様子に怪訝な顔をしながら、二人は泣き続ける留奈に問いかける。 少しは落ち着いたのか、留奈がしゃくりあげながらもぽつぽつと話し始めた。 「寒い~……はやく部屋に戻らないと……」 機関科の仲間内でお菓子を持ちより、洋美の誕生日を夜通しで祝うためのささやかなパーティーの最中。 じゃんけんに負けて自販機で追加の飲み物を購入させられていた留奈は、自室兼パーティー会場である第四兵員室に戻ろうと足早に通路を歩いていた。 短い秋も終わりが近づき、冬の足音が聞こえ始めたこの季節、艦内通路はお世辞にも暖かいとは言えず、また夜の静けさも合間って歩いているだけで気が滅入ってしまう。 そして、こんな時は大体、よからぬ想像力も働いてしまうもので。 「……お化けとか、出ないよね……?」 半ば無意識に、思ったことが口からこぼれ落ちてしまう。
6 17/11/11(土)21:40:44 No.465021408
「な、ないない……ないよね?」 口にすると本当に出そうな気がしてきたものだから、慌ててぶんぶんと首を振る。 まさか。お化けなんて、いるわけがない。そうに決まっている。 そんなことはわかっているのだけれど、留奈は更に歩くスピードをあげてしまっていた。 そうして、機関室の横を通ろうとした辺りで。 「……ゼェ」 「……え?」 何か、声のようなものが聞こえて。 留奈は思わず、立ち止まってしまった。 「え、な、何……?」 慌てて辺りを見回す。しかし、何もいない。 けれど気のせいと言うには、あまりにも無視できない何かがあって。 「ゴゼェ……」 「ひっ! ま、また……!」 また、声のようなものが聞こえる。今度は、さっきより心なしかはっきりと。
7 17/11/11(土)21:41:15 No.465021571
「だ、だれかいるの……?」 「ジィ……ゴゼェ……」 問い掛けると、返事のようなものが返ってくる。ざりざりとノイズの入ったような、おどろおどろしい声だった。 「……ひっ!?」 そして。 突然、周囲の灯りが消えた。 急に暗闇に包まれた留奈は、思わず、縮み上がってしまう。 ひた、ひた、と、足音のようなものまで聞こえてくるではないか。 「ま、まさか……ほ、ほほほ本当に、お化──」 そんな、留奈の言葉を肯定するかのように。 「ヨゴゼェエエエ……!」 ぼうっと照らし出された白い何かが留奈の眼前に姿を現し、おどろおどろしい声と共に何かを突き出してきた。 「ぎにゃあああああああああ!?」 たまらず、留奈は何もかも放り出して脇目も振らずに元来た道を走り、ラウンジまで逃げ帰ったのだった。
8 17/11/11(土)21:41:43 No.465021740
「こわかったよぉ……」 「よしよし、もう大丈夫だから……」 事の顛末を聞き、未だに怯えた様子の留奈の背を撫でてやりながら、洋美は隣に立つましろに目を向ける。 「でも、一体だれがそんなこと……宗谷さん?」 「……あっ! ああいや、そっそそそそうだな……そんなことがあああああったとは……」 「宗谷さん大丈夫?」 「へっヘアッへへへ平気だ! まっっったく問題ない! と、とにかくだな、これは見過ごしてはおけない……すぐに解決しなければ」 「そ、そうね……」 明らかに顔面蒼白で声も上ずっているましろの様子はどう贔屓目に見ても大丈夫ではないのだが、洋美は何も言わないでおくことにした。 「とりあえず、ルナを私たちの部屋に連れていってもいいかしら。このまま居るよりはマロン達に任せた方がいいと思うし」 「そうだな……駿河さん、歩けそうか?」 「う、うん……」 幸い腰は抜けていなかったようで、三人は第四兵員室に向かう。 ラウンジからはそう遠い距離ではないのが幸いだった。
9 17/11/11(土)21:43:22 No.465022256
「ただいま」 「もー、ルナ遅すぎー……って、黒木さんと副長も一緒じゃん。どうしたのそんな顔して」 「副長も連れてきたのか? でもクロちゃん、確か副長って今日は当直だろ?」 ドアを開けると、留奈の帰りを待っていたらしい麻侖達が三人を出迎えるも、共に入ってきたましろ達のただならぬ表情を見て怪訝な顔を浮かべた。 「それが──」 困惑する彼女達に、ましろが経緯を説明する。 「ええっ!?」 「お化けが出た!?」 「ああ……そういうことになるらしい」 「で、でも今時お化けなんて」 「何かと見間違えたんじゃないの?」 「そんなことないよ! ホントに見たんだってば!」 「まあ、確かにこんなに怯えるルナは初めて見るけど……」 ましろの話に半信半疑といった顔をしていた麗緒たちだったが、涙目で訴える留奈を見て思い直したらしい。 真面目な表情になって顔を見合わせる。
10 17/11/11(土)21:44:05 No.465022484
「とりあえず、無視できない事態なのは確かだ。私はこの辺りに怪しいものがいないか確かめてくる。皆は駿河さんを──」 「待って宗谷さん、私も行くわ」 そうましろが言うと、洋美が同行を申し出てきた。 「く、黒木さん? しかし、今は黒木さんの……」 正直なところ恐怖を必死に圧し殺しているましろとしてはその申し出は大変ありがたいのだが、今は洋美の誕生祝いのパーティーの最中のはず。 それをおしてまで同行をしてもらうというのは、流石に気が引けた。 「大丈夫よ。それに、こんな状況じゃパーティーだなんて浮かれていられないもの」 「それはそうだが……」 「クロちゃんの言うとおりだ」 と、何やら考え込んでいた様子の麻侖が口を開く。 「お化けだかなんだか知らねえが、ルナちゃんが襲われたとあっちゃあ黙ってられねえ! マロンもいっしょに行くぜ副長!」 「柳原さんまで……」 「マロンもこう言ってるし、いいよね、宗谷さん?」 「……わかった。助かる」 二人がこうまで言ってくれるなら、突っぱねる理由はない。何より、ましろ自身その方が心強い。
11 17/11/11(土)21:45:39 No.465022907
心の中でも二人に礼を言いながら、ましろはその申し出を了承した。 「よし、決まりだな! レオちゃん達はルナちゃんを頼むぜ」 「う、うん。わかった」 「気を付けてね」 「おう! 任せろ、すぐにとっちめてやるってんだ!」 四人が見送る中、ましろ達は再び夜の艦内通路へと戻ることにした。 「うーん、特にここの電源や配線には異常なさそう」 「そもそも、マロン達が部屋にいたときに停電なんか無かったぜ?」 「かといって駿河さんの通ったというここも今は普通に灯りがついているから、照明の寿命というわけでもなさそうだな」 留奈がお化けに遭遇したという辺りを捜索していた三人は、それぞれの収穫を報告しあっていた。 「となると、灯りは誰かが意図的に消したというのは間違いなさそうね」 「怪奇現象でなけりゃ、な 」 「そ、それはないだろう……」 そう思いたいましろである。
12 17/11/11(土)21:47:35 No.465023491
「でも、この辺りの電源ってラウンジの奥の方よ。ルナの話だと灯りが消えてすぐに出てきたみたいだし、ちょっと遠くないかしら」 「足音がしたっていうし、ダッシュで近付いてきたんじゃねえか?」 「それならもっと激しい足音にならなるんじゃないか? 駿河さんの話だともっとゆっくり歩いてくる感じに聞こえたが」 「それもそうか……」 ああでもない、こうでもないと三人は考え、腕を組む。 とはいえ、ましろは留奈の話全てが正確なものであるとは思っていなかった。 本人はそう感じていても、恐怖と混乱で記憶違いをしている可能性は大いにある。 「和住さん達や勝田さん達が騒いでない辺り、ルナ以外には誰も見ていなさそうなのよね」 「そうだな。マロン達も中で喋ってたせいか全然気付かなかったし」 「そういえば、和住さんと青木さんはパーティに誘わなかったのか? 若狭さんや柳原さんの時はあの二人も一緒に祝っていたと思うが」 「ああ、二人も誘ったんだが今日は用事があるとかで断られちまったんだ」 「用事? 何か工作でもしているのか?」 「さあ。その辺は教えちゃくれなかったからマロンにもわかんねえよ」
13 17/11/11(土)21:48:19 No.465023737
「そうか……」 「ところで宗谷さん、一度艦橋に戻った方がいいんじゃないかしら」 と、洋美がそんなことを言い出す。 「ああ……そう言えばそうだな……」 騒ぎが起きてからどたばたしていてすっかり忘れてしまっていた。 艦橋を任せている芽依にも何があったか報せておくべきだろう、とましろは頷く。 「すまない、それじゃあ私は一度艦橋に戻るよ。二人には引き続きこの辺りの捜査を任せていいだろうか。すぐに戻るし、三人で向かう必要はないだろう」 「わかったわ」 「おう、任せときな」 「頼む」 そこで一度二人と別れ、ましろは艦橋に向かうことにした。 「ええっ、お化け!?」 「お化けじゃない! と思うが……」 艦橋に戻ったましろは、芽依に事の次第を説明する。
14 17/11/11(土)21:49:19 No.465024039
芽依も予想外の事に驚いたのか、目を丸くしていた。 「とにかく、引き続き捜査をしたいと思う。ここは任せてもいいだろうか」 「わ、わかった」 「すまない、頼む」 「副長も気を付けてよね」 「ああ、わかってるよ……」 気を付けようにも、どうすればいいというのか。 本音を言えば芽依に捜査を押し付けてしまいたいくらいなのだが、そういうわけにもいかないましろは震えを抑えながら艦橋を後にする。 「まったく……なんだって私が当直の時に限ってこんなこと……ついてない……」 恐怖の代わりにぼやきを表に出しながら、ましろは洋美達と合流すべく階下への道を急ぐ。 先程は捜査中だった手前、二人には見栄を張って一人で大丈夫だなどとのたまってしまったものの、ましろはまったく大丈夫ではなかった。 怖い。怖い。とんでもなく怖い。 人は恐怖を覚えるとただの草木でさえ魑魅魍魎の類に見えてしまう生き物である。 まして人一倍怖がりなましろに取って、留奈の恐怖体験を聞いた後の艦内通路の一人歩きは、そこらのお化け屋敷などよりも余程恐ろしく思えてしまうようになっていた。 そんな、時だった。
15 17/11/11(土)21:50:36 No.465024423
「っ!?」 突如として、通路の灯りがパッと消え、周囲が闇に包まれる。 「ま、まままままさか……!」 はっと息を呑むましろ。 バカな、これではまるで── 「駿河さんの、話と、おな、じ」 その疑念を、肯定するかのように。 「……ゼェ」 「ひっ!?」 ざりざりという声が。 ひたひたという足音が。 ……聞こえた。 「ジィ……ゴゼェ……」 生唾を飲み込む自分の喉の音がこえる。 暗闇で視界を奪われたことで聴覚が研ぎ澄まされてしまっているせいか、ひどく大きな音に聞こえた。
16 17/11/11(土)21:51:41 No.465024758
「だっ、だめだ、立ち止まるな私!」 しかし、このままでは相手の思う壺だ。 そう自分に言い聞かせたましろはなんとか己を奮い立たせ、足を踏み出そうとする。 だが。 もう、手遅れだった。 「オガジィ……ヨゴゼェエエエエエエエ!!!!」 「ふぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!?」 ぬらりと目を輝かせた何かが、目の前に現れて。 ましろの絶叫が、通路中に響き渡った。 「宗谷さん! 大丈──って、あれ?」 「副長! 無事か──ありゃ、なんでおめえらここにいるんだ?」 「あ、機関長に黒木さん……」
17 17/11/11(土)21:52:07 No.465024867
ましろの叫びを聞いて駆けつけた洋美と麻侖が見たものは、媛萌に百々、そして美波の姿だった。 周囲には何故か、大きなカボチャのようなものが転がっている。 そして、彼女らが取り囲んでいるのは、他でもない。 「む、宗谷さん! ぶ、じ……」 しかし、その姿を見て洋美は絶句してしまう。 「し、しんでる……」 思わず、麻侖が呟く。 「……」 ましろは、立ったまま意識を失っていた。 「……いや、死んではいない。気を失っているだけだ。二人とも、ひとまず副長を寝かせてやって欲しい」 「う、うん」 「了解っす」 そんな麻侖の言葉を訂正しながらも、美波はばつの悪そうな顔で媛萌と百々に指示を飛ばし、廊下に横たえられたましろの脈を取りはじめた。
18 17/11/11(土)21:52:49 No.465025087
「……これはどういうことかしら、みなみさん、和住さん、青木さん」 「まあ、大体察しはつくけどよ……」 そんな様子を見ながら、洋美が媛萌達に詰問し、麻侖が呆れたような顔でかぼちゃをぺしぺしと叩く。 「そ、それがその……」 「えーっとっすね……」 「……」 事と次第によってはぶちかましも辞さないと言わんばかりの洋美の様子に、三人は冷や汗を流し、 「「「ご、ごめんなさ~い!」」」 ──数日前。 「そういえば、みなみちゃんってアメリカの大学に通ってたんだよね?」 きっかけは、媛萌のそんな一言だった。 「ああ。そこで医師免許も取得した」 「アメリカかあ。行ったこと無いっすねえ」 「私もー。二年になったらやるっていう遠洋実習で行けたりしないかなあ」
19 17/11/11(土)21:53:23 No.465025242
「あり得なくはないだろうな」 「アメリカ、いいっすね~」 「みなみちゃん、もしアメリカに皆で行くことあったら、オススメの店とか教えてよね」 「オススメ、と言われてもな……」 二人に聞かれ、美波がアメリカの話をしていたときの事だった。 「アメリカのお祭りといえば、やっぱりハロウィン?」 ふと、媛萌がそんな話題を口にする。 「ああ。クリスマスはもちろんイースターも大がかりなイベントだが、ハロウィンもなかなかのものだ」 「ハロウィンっすか。日本でも最近は結構メジャーになってきたっすよね。あたしの実家もここ数年はハロウィン用の衣装の依頼が来るようになったっす」 「本場のハロウィンもやっぱり気合い入った仮装するの?」 「ああ。本物そっくりの狼男や吸血鬼のコスプレをした学生も大学に沢山いたものだ」 「へえ~! あ、みなみちゃんはどんな仮装したの?」 「私か?」
20 17/11/11(土)21:53:51 No.465025383
「そうそう、めちゃくちゃ気になるっす!」 「やっぱりカボチャのお化けとか?」 興味津々と言った様子で聞く二人。 しかし、美波は気まずそうに頬を掻いた後、 「いや……私は特に何も」 と小さく呟いた。 「ええっ、どうしてっすか?」 「みなみちゃんのコスプレとか絶対かわいいのに~」 「研究で忙しかったんだ。それに、大学だと同年代の人間もいないし……」 「あー……」 「それもそうっすよね……」 当時を思い出して少し残念そうな顔になる美波。 悪いことを聞いてしまったような気がして、二人は気まずそうな顔になる。 しかし。
21 17/11/11(土)21:54:15 No.465025533
「あ、じゃあさ! 今日ここでハロウィンやらない!?」 「え?」 「ほら、ちょうどハロウィンの日だしさ、みんなを驚かせてお菓子を貰うの!」 「い、いやしかし……航海中だぞ?」 「そうっすよヒメちゃん、流石に業務中は怒られるっすよ……」 「流石に昼間にはやらないわよ。でも、夜の間なら大丈夫っしょ」 「あー、それなら大丈夫っすね」 「しかしだな……そもそも衣装がないだろう」 「そこはほら、モモと私で用意するからっ。ねっ? いいでしょ?」 「は、はあ……」 というわけで── 「よっし、出来たー!」 「時間がなくて結局みなみさんの分しか出来なかったっすけど、その分出来には自信があるっすよ!」
22 17/11/11(土)21:55:02 No.465025764
医務室で作業すること三時間。 そこには、一つのカボチャのお化けが産まれていた。 「本当に作ってしまうとはな……」 「まあまあそう言わずそう言わず」 「被ってみてくださいっす!」 「はあ……」 呆れたように溜め息をつきながらも、美波はとりあえずカボチャを被ってみる。 「着心地はどうっすか?」 「……少し重いが、悪くはない」 その言いながら、美波は軽く頭を振ってみる。 急な話で本物のカボチャは用意できなかった為、針金でできたフレームとフェルトと綿で作られたマスクは見た目よりは軽かった。 「しかし、目の部分に何もないがこれではすぐにばれてしまうんじゃないか?」 「暗がりでしか使わないから大丈夫っすよ」 「それからみなみちゃん、このスイッチ押してみて」 「? こうか……!」
23 17/11/11(土)21:55:31 No.465025912
媛萌からスイッチを手渡されるがままに押すと、目と口に当たる部分が光り始めた。 「これで暗がりでも問題ないっす! それからここにボイスチェンジャーがついてるから、声もいじれるっすよ」 「よくこんなものを急に用意できたな……」 「みなみちゃん、試しになんか喋ってみてよ!」 「わかった。……こほん」 小さな咳払いのあと、美波は思い付いた言葉を喋ってみる。 「オガジィ……ヨゴゼェエエエエエエエ!!!!」 「おおお!?」 「なかなか化け物っぽい感じが出たっすね……」 ボイスチェンジャーで変換された美波の声がカボチャの口から飛び出し、聞いていた二人が軽く引いてしまうようなおどろおどろしい声が医務室に響く。 「これはなかなか……暗がりから出てきたらビビる自信があるっす」 「確かに……急に出てきたらびっくりするよこれは」 「ふむ……確かに悪くない」 「でしょでしょ!?」 「それじゃあ──」
24 17/11/11(土)21:56:01 No.465026058
そして、夜。 「なかなか誰も来ないっすねー……」 「まあ夜中だからねー。みんなもう部屋に戻ってる頃でしょ」 「やっぱりやるべきではなかったのではないか……」 三人はいつ来るともしれない犠牲者を待ち構え、通路の角に潜んでいた。 「……今思ったんだけど、脅かしたらお菓子貰えなくない?」 「……あ」 「いや、逆に考えるっすよヒメちゃん。そもそも相手がお菓子を持ってるとは限らないっす。なら先に脅かしておけばお菓子を貰えなくても損はないんすよ。そして持ってる場合は脅かすついでにお菓子も手に入る──って寸法っす」 「天才かよ……」 「ハロウィンとは一体……」 と、そこに。 「寒い~……はやく部屋に戻らないと……」 少し離れたところから、足音と声が聞こえてきた。 「誰か来たっす!」
25 17/11/11(土)21:56:23 No.465026169
「よし! みなみちゃん、私たちが照明消したら後は手筈通りにお願いね」 「……わかった」 三人は息を殺し、獲物の接近を待つ。 「……お化けとか、出ないよね……?」 「……よし、3つ数えたら作戦開始ね」 「みなみちゃん、がんばるっす!」 不安げに呟く声と足音が近付いてきたのを頃合いだと判断し、媛萌がカウントダウンを始め、美波もボイスチェンジャーを起動する。 「な、ないない……ないよね?」 「3……」 「……ゼェ」 「え、な、何……?」 美波が出した声に、留奈が反応する。 「2……」 「ゴゼェ……」 「ひっ! ま、また……!」
26 17/11/11(土)21:56:51 No.465026344
続けざまにもう一度。今度は、さっきよりもはっきりと。 「1……」 「だ、だれかいるの……?」 「ジィ……ゴゼェ……」 三人は立ち上がり、スタンバイを始める。 「0!」 媛萌のカウントダウンと同時に百々が照明のスイッチを切り、美波が通路に躍り出る。 「……ひっ!?」 そして。 「ま、まさか……ほ、ほほほ本当に、お化──」 「ヨゴゼェエエエ……!」 「ぎにゃあああああああああ!?」 「──というのが、今回の真相と言うわけか」
27 17/11/11(土)21:57:21 No.465026493
「「「すみませんでした……」」」 意識を取り戻し、事の顛末を聞いたましろが深々と溜め息をつくと、三人は更に縮こまる。 「まったく……分かってない相手に悪戯しかけても通じるわけないでしょうに」 「まったくだぜ。祭りならマロンに言ってくれりゃあもっと盛り上げてやったのによ」 「マロン、それはちょっとズレてる」 「ともかくだ。一緒に遊ぶのは構わないが、無闇に第三者を巻き込んではダメだぞ三人とも。とりあえず駿河さんにも事情を説明して、ちゃんと謝ってくるんだ」 「はいっす……」 「おっしゃる通りで……」 「廉頗負荊……」 「はあ……」 平身低頭の三人に再び溜め息をつき、ましろはぱんぱんと手を叩く。 「とりあえず、これで一件落着か……柳原さんと黒木さんにもいろいろと迷惑をかけてしまったな」 「ううん、そんな、迷惑だなんて」 「ヒメちゃん達も機関科の一員だし、マロンにも責任はあるんでい。三人にはマロンからもきつーく言っとくぜ」 「ああ、頼む」
28 17/11/11(土)21:57:53 No.465026667
「「うええ~!?」」 「当たり前でしょう……」 「ほらほら、三人ともとっととルナちゃん達のところにいくぞ!」 「「「はーい……」」」 「やれやれ……」 麻侖に連行されていく美波達。 その姿を見送りながら、ようやく取り戻した平和にましろは胸を撫で下ろした。 「災難だったね宗谷さん」 「ああ、まあ……黒木さんこそ、折角の誕生日に大変だったな」 「ううん、私は特に被害もうけてないし……それに、後であの三人も混ざるだろうから、まだこれから賑やかになると思うわ」 「そうだな……なら私からも、改めて誕生日おめでとう、黒木さん」 「ありがとう、宗谷さん。当直頑張ってね」 「ああ……さっきもらったお菓子、後でいただくよ。それじゃあ、おやすみ」
29 17/11/11(土)21:58:29 No.465026843
「おやすみなさい」 そうして、波乱に満ちた夜の出来事は終わり、ましろと洋美もそれぞれ元の場所へと戻るのだった。 「へえ~、みなみさんたちがねえ。副長もついてないよねー」 「まったくだ……ついてない」 「あ、それ久しぶりに聞いた」 艦橋に戻ったましろは芽依に先程の件について話していた。 「けど、クルーの悪戯でまだよかった。本物の怪奇現象じゃ対処のしようがないからな」 「あはは、まさか怪奇現象なんてそうそうないって」 「それもそうか……そうだよな。ところで西崎さん、特に変わったことはなかったか?」 「うん、何も。相変わらず平和すぎて暇だったよ。あたしがそっちに行ってればよかったなー」 「そうは言うがな……ん?」 と、ましろの携帯端末から通知音が鳴った。
30 17/11/11(土)21:59:04 No.465027016
「どうしたの副長」 「メールだな……誰からだ──!?」 と、画面を見たましろが、手に持っていた端末を取り落とす。 「えっ、ちょっ何!? どうしたの副長、副長!? し、しんでる……」 いきなりの出来事に芽依は混乱ながら揺さぶるが、完全に凍りついているましろはただされるがままに揺れるだけだった。 「い、一体何が……まさか呪いの画像とか……」 おそるおそる、芽依は床に落ちたましろの端末を拾い上げ、画面を見てみる。 すると。 「ぶふっ!?」 思わず、吹き出してしまった。 「ちょっ、なにこれっ、あははは、ひぇっ、これ、なに、校長!?」 ゲラゲラと笑いながら芽依が再びそれを見て、また笑う。 ──そこには。 「HAPPY HALLOWEENましろ。今日がなんの日か忘れた貴方にはTreatあるのみよ」 と書かれた文面と共に、角を生やし白粉で真っ白になった顔に顎の下からライトを当て、更には「Remember Mother's birthday 10/31」と書かれた鉢巻きを締めた般若──の仮装をした彼女の母、宗谷真雪その人の写真が大写しになっていた……
31 17/11/11(土)22:00:05 No.465027302
おわり テキスト版 su2100655.txt めちゃくちゃ遅刻してしまった…でもおめでとう
32 17/11/11(土)22:04:17 No.465028653
ましろ!!!!!!!!
33 17/11/11(土)22:11:59 No.465031378
ふくちょーはさあ…
34 17/11/11(土)22:20:07 No.465034308
お疲れ様です!いいオチだ…お茶目だなぁ
35 17/11/11(土)22:27:33 No.465036917
キテル… スレ落ちそうだから後で読んでおこう…