17/10/12(木)22:52:31 ガルパ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1507816351313.png 17/10/12(木)22:52:31 No.458998102
ガルパンSS ・姉の異常な愛情 または如何にして西住まほは戦車道に対して意義を感じる様になったか これまで su2061102.txt su2061103.txt
1 17/10/12(木)22:53:17 No.458998268
第十五話【進入口を開けるな!】 下 -6- 『……八九式を撃破しました』 「本当か!」 その不意の報告に私は喜色を浮かべた。 本来なら黒森峰が八九式程度の撃破でここまで喜びを露にする事は無かっただろう。 だが、この様な現状においては大洗の貴重な戦力を一輌でも削れた事は非常に大きい。
2 17/10/12(木)22:54:30 No.458998516
「よく撃破した。 逃げる間も与えずに見事な奇襲だったのか、それとも退路を塞いだ上だったのか。 兎も角、よくやった!」 『いえ、それが……その、逃げようとしなかったんです』 「……? どういう事だ?」 『ですから、私たちが姿を現して明らかに気づいていても一切動こうとしなかったんです。 砲撃を加えるまで微動だにしないで……』
3 17/10/12(木)22:55:07 No.458998656
「……待て。 ちょっと待て。 八九式は? 白旗が出た八九式はどうしている?」 『……変わりません……。 以前、継続して双眼鏡で市街地を見ています。 私たちの目の前で……』 「……ああっ!!!」
4 17/10/12(木)22:55:27 No.458998739
戦車道は戦争ではない。 だが実際の戦闘状態を仮定して、もしカーボンがない当時の実戦であったなら走行不能になっていただろうという状態になると内蔵された判定装置が競技続行不能と判定して白旗を出す。 同じ様に戦争ではないが実戦と仮定して行われるスポーツにサイバイバルゲームという物がある。 BB弾を発射する玩具銃で打ち合うこのゲームでは弾が当たれば死亡と判定されて以降ゲームへの参加権を失う。 ところが、死亡としたにも関わらず通信または声を上げて敵の情報などを味方に教えるという、通称"ゾンビチャット"という反則行為がある。
5 17/10/12(木)22:55:43 No.458998793
「……くっ」 『ど、どうしますか? 抗議しますか?』 「……無駄だ。 何のルールにも触れていない。 問題ない行為だ」
6 17/10/12(木)22:56:02 No.458998862
【日本戦車道連盟が定める戦車道試合規則。 4-06 競技続行不能の判定が下った後は、以後一切戦車の操作をしてはならない。 競技者は審判員の指示があるまで待機し、指令があり次第速やかに指示に従う。】 戦車道のルールではこう記されている。 白旗が上がった後は戦車の操作はできないが、通信をする事は事実上許されている。 実際、戦車道においてはこの行為は極普遍的に行われていた。 例えば単純に怪我は無いか?といった安否の確認のやり取りもあれば、一歩踏み込んで撃破の後に「××で○○にやられました」だとか「そちらに向かっています!気をつけて」という情報のやり取りをする事もある。 殆どの者はこれに対して疑問に感じていないし、もっと言えば意識もしていなかった。
7 17/10/12(木)22:56:19 No.458998940
……だが、この様に最初から撃破される事を前提として観測と情報の共有に専念させるなどという発想は誰一人持ち合わせていなかった。 無論、それはその事自体を思いつかなかったというのもあるが、仮に思いついたとしてもリスクに対してメリットが薄すぎるのだ。 何せ貴重な戦力の戦車を一台犠牲にして見れるのは視界が通る範囲だけなのだ。 移動しながら戦う戦車道に置いてはそんな動けなくなった戦車の視界から戦場が外れるなど簡単に起きる。 だがみほは戦場を面積としては狭い市街地に限定し、高度があり全体を見下ろせる山に置く事によってこの戦法を凶悪なまでに有効な物にしている。 今や大洗の戦車たちは第二次世界大戦時の戦車であるにも関わらず、実質的にC4Iシステム(Command Control Communication Computer Intelligence system 簡単に言えば全車両の情報の共有と指揮官の意思決定とその伝達の有機化と効率化を目指したシステム)を摘んでいるような物だ。 その為に大洗では最も情報処理と通信技術に優れている武部沙織をフラッグ車から降ろし、八九式に乗せているのだ。
8 17/10/12(木)22:56:34 No.458998996
……あのみほ相手に?市街地で?此方の戦車の動きを全て把握される? ……恐ろしいまでの念の入れ様であった。 こんな情けない姉に対しても決して油断せず、手を抜かず、僅かでも敗北する確率を下げようとしてきている。 どこまでも周到な策を張り巡らせている。 恐らく、私たちが気づかない所でも幾つかの策が行われ、そして失敗した策もあり、用意しながらも活用されなかった策が幾つもあったのだろう。
9 17/10/12(木)22:56:55 No.458999068
『……体当たりや砲撃で無理やり動かすのは…』 「馬鹿を言え。 戦車道試合規則の5条で競技続行不能者への攻撃は禁止行為と定められている。 失格になるぞ! 撃破する前に気づけたのならば体当たりで邪魔をする事もできたのだろうが…白旗が出たのなら我々に干渉する術は無い……」 『……で、では試合途中で乗員が戦車を乗り換えている事に関してはどうでしょうか? フラッグ車の通信手が別車輛で通信手をしているというのは前代未聞です!』 「……確かにルール的にはグレーの領域だな。 "つい二週間前"までは」
10 17/10/12(木)22:57:10 No.458999118
『……どういう事でしょうか?』 「忘れたのか? プラウダ対大洗の最初の部分を思い出せ。 新しく参加したルノーb1がスタックした時、フラッグ車の操縦手の冷泉麻子が乗り換えて操縦していただろう」 『……ああっ!』 「私を含めてそれを目撃していた誰もがそれを疑問視しなかった。 弱小校の急遽参加した初心者の操縦だ。無理も無いだろう。それを経験がある操縦手が助けようとするのは当然だろう……と。 つまり、あの時にみほは確認すると共に"乗員は乗り換えても問題ない"という前例を作っていたんだ……この時の為にな。 実際にそれを受けて思いついたのかプラウダも副隊長に戦車を乗り換えさせている。 今後、撃破後の通信も含めてルールの改正が行われるかもしれないが、少なくとも本大会では問題は無いんだ……」
11 17/10/12(木)22:57:37 No.458999220
一瞬の静寂を置いて、ぼそりと通信先の隊員がこぼした。 『……我々はどうしたらいいんでしょうか?』 「……各自、自由に最善と思う行動をしろ……」 私にはそれだけしか言えなかった。 何故ならどうしたらいいかなど私にも解らなかったからだ。
12 17/10/12(木)22:57:53 No.458999284
-7- 『此方8号車!撃破されました!』 次々と通信される味方の撃破報告を私は絶望の気持ちで聞いていた。 残存している味方の数は私を除いてたった三輌となり、もはやこのまま磨り潰される様に敗北を待つだけであった。 周囲にはもはや味方の姿は無く、単機で市街地の中を私は駆けていた。 如何にみほの指示があってもみほ以外の戦車にやられるつもりは無い。 しかし、そんな事はみほも承知しているのだろう。 どれだけ敵を探し回っても大洗の車輛は見つからず、私を徹底的に避けて他の車輛を狩にきているのだ。 これも僅かでも敗北する可能性を下げる為の戦法なのだろう。 このままフラッグ車である私を取りに来てもまず問題はないだろう。 しかし、じっくりと周囲を刈り取ってから私に取り掛かればより勝利は堅実な物となる。
13 17/10/12(木)22:58:24 No.458999398
そうしていると路地の奥の曲がり角で一台の戦車……Ⅳ号の姿がちらりと見えた。 Ⅳ号は一瞬だけ私に姿を見せた後、曲がり角の奥へと消えていった。 私がすかさず追って角を曲がると、先程と同じ様にちらりと姿を見せてはまた曲がり角を曲がっていった。 みほの意図は明らかだ。 ついにフラッグ車である私を撃破する事にし、チェックメイトをかける為に私を誘い込んでいるのだ。 今までの巧妙にその意図を隠していたみほの行動と違って、その意図は明らかであるが、これは隠したり誤魔化したりする必要が無いからだろう。 もはや黒森峰に勝機があるとすればそれは大洗のフラッグ車を倒すしかない。 それがどんなにか細く、その先に罠が待ち構えているのが明白であっても、私はⅣ号を餌にされれば食らいつくしかないのだ。
14 17/10/12(木)22:58:40 No.458999454
何度も路地を曲がり、Ⅳ号との距離が徐々に縮まっていく。 決勝前に何度も何度も地図を見て、幾つもの作戦を立てて検証したからⅣ号の向かっている先とその意図が解る。 この先には廃校となった大きな小学校がある。 出入り口は一つだけであり、そこに引きずり込まれたらそう易々と脱出はできまい。 ……つまり、私はその閉鎖空間の中でみほと大洗の他の車輌と戦うのだ。 みほ以外の戦車の単体の戦闘力は問題ではない。 言ってしまえば全車輌と同時に戦ったとしても難なく勝つだろう。 しかし、みほとのタンク・ジョストの場にいるとなると話が違ってくる。 みほは彼女達のあらゆる行動を布石としてまるで手足の如く使ってくるだろう。 時にはピンポイントのタイミングで砲撃を放たせ、時にはここしかないと言うタイミングで壁にし、その影を囮とさせるのだ。 実力が伯仲した者同士の真剣勝負では僅かな出来事が勝敗を別けるが、その出来事を人為的に幾らでも作ってくるのだ。 まるでみほの脳波によって自由自在に動き、全方位から攻撃を仕掛けてくる無人兵器の様に……。
15 17/10/12(木)22:59:01 No.458999546
当然、勝ち目など無い。 しかし、そうするしかない。 これで終わりなのだ。 夢にまで見て、ついに実現した本当のみほとの戦いは……。 みほはそれを全身全霊をかけて舞台を整えてくれたと言うのに私のなんという無様な事か。
16 17/10/12(木)22:59:18 No.458999604
Ⅳ号が廃校の入り口をくぐり、私もそれに続く。 少し間をおいて大洗の残りの車輌も入ってくるだろう。 ここで私は無残にも磨り潰されて終わるのだ。 嗚呼……もっと…もっとみほとは熱い戦いがしたかった。 負けるにしても、もっと……こう実りのある、後悔のない戦いが……。 ……そして私はそれを為せなかった事を一生後悔しながら生きていくのだ……。
17 17/10/12(木)22:59:33 No.458999671
18 17/10/12(木)22:59:50 No.458999725
19 17/10/12(木)23:00:09 No.458999800
20 17/10/12(木)23:00:38 No.458999909
『【やろうぜ、勝負はこれからだ!】ってね!』 『あ!私もその映画好きですよ! ……これから逆転する訳ですから実に合ってますね!』 『うおおおおおお!やってやります!!!』
21 17/10/12(木)23:00:58 No.458999979
通信から三人の声が聞こえる。 ……これは、私以外の残っている三輌の…… 「……エリカ、赤星、浅見…?」 振り返ると廃校の唯一の進入口を3つの影……2台のティーガーⅡとパンターが塞いでいた。 -了-
22 17/10/12(木)23:01:13 No.459000035
『Open the pod bay doors please, HAL.』 (「進入口を開けろ、ハル」) 映画「2001: A Space Odyssey(邦題:2001年宇宙の旅)」(1968)より
23 17/10/12(木)23:07:36 No.459001554
熱い展開だ…
24 17/10/12(木)23:24:06 No.459005285
浅見生きていたのか
25 17/10/12(木)23:34:22 No.459007669
原作と逆なやつ