17/10/02(月)23:59:16 はいふ... のスレッド詳細
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17/10/02(月)23:59:16 No.456923335
はいふりSS ミーサト誕遅刻
1 17/10/03(火)00:00:19 No.456923590
『ううっ……うっ……』 『こうしてひとつの抗争は、明確な答えも出ないままに終息した。しかしそれは、更なる混乱を招くきっかけでしかなかった。そこに残ったものは孤独な女の啜り泣く声と、女の心を奥底まで冷やす、乾いた冬の風だけであった』 啜り泣く女の姿をバックに物語を締め括るナレーターの言葉が終わると共に、画面がゆっくりと暗転していく。 観客も疎らだと言うこともあってか、画面の中の女が啜り泣く声が静まり返った館内を包むかのように反響していた。 「ううっ……ぐすっ……」 「やっぱり何度見ても泣けるのう……」 「はい……」 そんな数少ない観客の中に、一際目立つ二人組の少女が感極まって涙を流していた。 言うまでもなく、納沙幸子とヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルクである。 二人は劇場の大画面でお気に入りの任侠映画を見るべく、リバイバル上映中に映画館に足を運んでいた。 何度見ても見飽ることのない感動を与えてくれる侠客達の生き様はやはり佳いものだと再認識する二人であった。
2 17/10/03(火)00:02:52 No.456924306
「いやー、やはり何度見ても泣けるのう!」 「はい! 特にラストの下りはもう涙なしには見れません!」 「おう! あそこは本当にええよな……! 流石はココ、わかっておるのう!」 「ふふん、姐さんもよおくわかっとるやないの」 「「ふっふっふっふっ」」 興奮冷めやらぬままに映画館を出て、二人は横須賀の街を歩く。 これと言って次の予定もないのだけれど、とりあえず昼食を食べに行こうか、と話していたところ。 「おっ?」 ミーナがふと何かに気がついた様子で足を止めた。 「どうしたんですかミーちゃん?」 「いや、見知った顔を見かけてのう。ほら、あっちじゃ」 「あっほんとだ、勝田さんですね。買い物かな?」 「そのようじゃな」 ミーナの示した方を見やると、航海員の勝田聡子がちょうどスーパーから出てきたところだった。 何かを大量に購入したのか、パンパンになったレジ袋を重そうに抱えている。
3 17/10/03(火)00:05:00 No.456924872
「それにしても随分と大荷物ですね」 「そうじゃのう。一体何を買ったんじゃろうか」 「声かけてみましょうか。勝田さーん!」 その様子が気になり、二人は声をかけながら聡子の元へと駆け寄った。 「おお、納沙さんにミーナさんぞな! こんなところで合うとは奇遇じゃのう」 「うむ。たまたま見かけたから気になってのう。ところで、随分な大荷物じゃがどうしたんじゃ?」 「ああ、これは明日のピロシキの材料ぞな!」 「ええっ、これ全部ピロシキの材料なんですか!?」 笑顔で袋を掲げる聡子に、幸子が驚愕の声を上げる。 「うむ、その通りぞな」 「で、でもこれ一体何人前の量なんですか?」 「そりゃあ、クラスの人数分ぞな」 「ちゅうことは、大体30人前か?」 「ぞな」
4 17/10/03(火)00:07:17 No.456925343
「でもなんでまた……」 「ほら、明日はウチの誕生日じゃから、その準備ぞな」 「自分の誕生日なのに、勝田さんがみんなにピロシキを振る舞うんですか?」 「うむ、ロシアではそれが普通ぞな。まあ、ケーキやらも全部自分で用意するのが本当なんじゃがのー」 と、聡子は照れくさそうに笑う。 「さっき行った別のスーパーでほっちゃん達とばったり会って、明日のケーキを楽しみにしているように言われてしまってのう。今さら断るのも悪いし、今回はピロシキだけにすることにしたぞな」 「なるほどー……そういうことだったんですね」 「ふーむ、その辺はドイツともちと似とるのう」 「え?」 「ぞな?」 と、ミーナがそんなことを言い出した。 「我がドイツでも誕生日は祝われる側が自分でパーティを企画し、料理やケーキを用意するんじゃ。だからわしも本来は今日ケーキを焼かねばならんのじゃが……」
5 17/10/03(火)00:10:09 No.456926000
生憎、航海中はそういうこともしなくてのう、とミーナは苦笑しながら肩を竦める。 「へえ~……どっちの国も日本とは真逆の考え方なんですね」 「うむ、お陰で昔からウチが自分の誕生日にケーキを準備したりすると、友達にいなげなことをするとよく言われたものぞな」 「勝田さんはそもそも日本人ですしねえ。ところで、ミーちゃんは地元にいる時はいつも自分でケーキを?」 「まあ、母に手伝ってもらいながらではあるがのう。でも、海洋学校に入ってからは忙しくて久しく作っとらんわい」 「航海中にクルー一人一人をお祝いするのは大変ですもんね……材料の都合もありますし」 「とてもじゃないけど間に合わんぞな」 「そうそう」 「しかし……そういうことならわしも何か用意したほうがええかのう」 ぽつりと、ミーナが呟く。
6 17/10/03(火)00:13:43 No.456926838
「おお、そういえばミーナさんもウチと誕生日一緒だったのう。明日のパーティにも来てくれるぞな?」 「うむ、さっきココに招待された。ド感謝する」 「テア艦長は用事だとかでこれないみたいで残念ですが……」 「まあ、そこは仕方ないのう」 「ま、本人の誕生日の時にまた招待すればいいぞな」 「それもそうですね」 ところで、と幸子は続ける。 「ミーちゃんもなにか作るんですか?」 「うむ……サトコもこうして作ると言うとるしな……」 「それなら、ウチと一緒にピロシキ作るぞな?」
7 17/10/03(火)00:15:59 No.456927381
「えっ? ピロシキか?」 「うむ、材料もあるしちょうどいいぞな。なんなら納沙さんも一緒に」 「私もですか?」 「無論、みんなで作る方が楽しいぞな」 「なるほど、そりゃあええ考えじゃのう。ココもそれでええか?」 「お二人がいいなら、いいですけど……」 「よし、決まりぞな! なら早速学校に戻るぞなー!」 そうして、三人はピロシキ作りをすることとなり、学校に向かうことになった。 「お二人とも、お疲れ様です! 調子はどうですか?」 「おう、ココか! うむ、ええ感じに膨らんだわい」 「具ももう少しで出来上がるぞな!」 三人で借りた学校の調理実習室に、追加の材料の買い出しに出ていた幸子が戻る。 発酵して膨らんだ生地を切り分けているミーナの隣で、聡子がフライパンでピロシキのタネを炒めていた。
8 17/10/03(火)00:20:47 No.456928586
「勝田さん、ジャムはこれでよかったですか?」 「もちろんぞな!」 「しかし、ピロシキってひき肉以外のものも入れるんじゃな。初めて知ったわい」 「日本でいうところのおにぎりだからのう。具はなんでもいいぞな」 「バリエーションがある方が面白いですよね」 「ぞな!」 そうしているうちに生地もタネも準備が終わり、三人で伸ばした生地にタネを入れ、包んでいく。 「……見てください! チャカの形のピロシキですよ!」 「ウチはイルカ形ぞな!」 「わしは艦長帽の形にしてみたぞ」 三人がそれぞれ思い思いの形状のピロシキを披露していく。 皆最初は普通のアーモンド形や楕円形のものを作っていたのだが、誰ともなしに飽きてふざけ始めたのだ。
9 17/10/03(火)00:23:49 No.456929298
「形はなんでもいいけど、焼いて膨らんだときにバラけんようしっかり綴じ目は合わせておくぞな」 「はーい」 「油は使わんのか?」 「数が多いから今回はオーブンでやるぞな」 三人でやったということもあったのだろう。 ほどなく30個のピロシキは完成し、後はオーブンで焼き上げるのみとなった。 「後は様子を見ながら焼き上げりを待つだけぞな」 「焼き上がりが楽しみですね!」 「初めて作ったが、以外となんとかなるもんじゃのう」 「二人ともなかなか筋がいいぞな」 オーブンで焼き上げている間、三人は交代で様子を見ながら一息ついていた。 「あ、そうだ」 と、幸子がおもむろに立ち上がり、買い出しの袋から何かを取り出した。
10 17/10/03(火)00:27:42 No.456930140
「なんじゃ?」 「ぞな?」 「ミーちゃん、勝田さん、フライングになっちゃいますけどお誕生日おめでとうございます!」 そして、幸子は二人にラッピングされた箱を手渡す。 「え、誕生日プレゼントか?」 「ウチにもくれるのかぞな?」 「大したものじゃないですけどね。ほら、明日だとあんまり個人的に話す機会はなさそうですから」 どうやら、買い出しのついでに買ってきていたらしい。 開けてみると、そこにはチョコレートが入っていた。 「ありがたくいただくぞな!」 「……ありがとう、ココ」 しかし、屈託なく笑う聡子とは対照的に、ミーナの笑みはどこかぎこちない。
11 17/10/03(火)00:32:27 No.456931066
「あれ? ミーちゃん、チョコはダメでしたっけ?」 「ああいや、そういう訳ではない、んじゃが……」 「?」 「あー……」 と、聡子が何かを察したような顔で口を開く。 「ミーナさん、もしかしてドイツは前祝いはダメぞな?」 「……う、うむ。実はな、誕生日の前に祝いの言葉をもらうと早死にする、という言い伝えがあってのう……」 「ええっ!?」 「やっぱりぞな。……ロシアでも似たような言い伝えがあってのう」 「じ、じゃあ……」 思わぬ事態に固まってしまったまま、幸子が青ざめていく。
12 17/10/03(火)00:36:57 No.456931876
「いや、ええんじゃ。そんなものは所詮迷信じゃし、ちょっと驚いてしまっただけじゃ」 「そうぞな! それにここは日本なんだしノーカンぞな!」 「そうそう、その通り!」 「でも……」 「ありがとう、ココ」 「ありがとうぞな!」 「二人とも……」 文化の違いはあれど、祝ってくれようとした気持ちは本物なのだ。それが悪いものであるはすがない。 そう言って、二人は幸子に微笑みかけるのだった。 そして、誕生日当日。 「ミーちゃん、サトちゃん、りっちゃん、お誕生日おめでとう!」 艦長の明乃の号令と共に、あちこちから乾杯の声が上がった。 「さあさあ、ケーキもいいけどみんなピロシキも食べるぞな!」
13 17/10/03(火)00:41:26 No.456932654
「え、これサトちゃんが作ったの!?」 「わしとココも一緒に作ったぞ!」 「ええーっ!?」 三人が作った、という物珍しさもあり、皆手に手にピロシキを取って食べていく。 「あ、これあんこ入りだ!」 「こっちはイチゴジャムだ、おいしー!」 「どれどれこっちは……甘納豆!? ぐえー!」 「めぐちゃーん!?」 種々様々なピロシキは概ね好評らしく、あちこちからわいわいと声が上がっている。 「うむ、大成功ぞな」 「うまくできたようでなによりじゃのう」 そんな様子を、今日の主役である二人が見守っていた。
14 17/10/03(火)00:45:46 No.456933378
キテル…ピロシキってあんまり馴染みがないから味の想像ができない…
15 17/10/03(火)00:46:11 No.456933453
「ミーちゃん、勝田さん」 と、そこに。 「納沙さん」 「ココか。どうした?」 「あの、これを……」 「「?」」 小さな紙の包みを手渡される。 「プレゼント、ってわけじゃないんですけど……」 「……あっ」 「おお」 怪訝な顔で包みを開けたミーナが、思わず破顔する。ついで中身を見た聡子も、同じように笑った。 「なんじゃ、気にしとったのか」
16 17/10/03(火)00:46:37 No.456933526
入っていたのは、お守りだった。 どうやら、昨日のことを気にして買っていたらしい。 「大丈夫ぞな、ミーナさんもうちもそうそう早死になんてしないぞな」 「それはもちろん、わかってるんですけど……やっぱり気になって」 「本当にありがとう、ココ」 「お守りは大事にするぞな」 不安そうな幸子の頭をミーナが撫で、微笑みかける。 「……はいっ。お二人とも、改めてお誕生日おめでとうございます!」 そうしてようやく安心したのか、幸子も笑うのだった。 おわり
17 17/10/03(火)00:48:34 No.456933855
途中から書きながら投稿してたからめっちゃ雑になってしまった 真冬さんはまた明日ね…
18 17/10/03(火)00:51:41 No.456934328
気遣いのできるタイプのココちゃんも良かった
19 17/10/03(火)00:52:27 No.456934436
キテル…
20 17/10/03(火)00:53:18 No.456934561
>キテル…ピロシキってあんまり馴染みがないから味の想像ができない… 具の入った揚げパンだよ 中身がカレーじゃないカレーパンみたいなもん
21 17/10/03(火)00:56:54 No.456935113
ほぼクロちゃんな体格なこともわかった真冬さん 待ってるからゆっくり仕上げてね…