アキ子... のスレッド詳細
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17/09/18(月)00:14:16 No.453675299
アキ子とイチャイチャするだけのはなし これまでのおはなし:文化祭で勢いだけのプロポーズしてフラれた
1 17/09/18(月)00:14:35 [1/10] No.453675371
手元の本から何気ないフリを装って視線を移す──彼女と目が合った。慌てて視線を本に戻す。 さっきからもう何度となく繰り返している動き。どうにも文化祭以来、お互い何だか調子がおかしい。 それにしても…彼女はどうしてこう、勘が冴えているのだろう? こちらが彼女の方に目を向けるのを事前に察知しているのだろうか? いつも目が合ってしまう。 きっとこれは『ちゃんと読書に集中せよ』という無言のプレッシャーに違いない。心を入れ替えないと。 なので…彼女に秋の野外読書会を提案した。 読書の秋を紅葉の下で過ごすという名目の元に彼女を誘う。次の日曜日、一緒にお出かけしませんか? 「了解」そう返事をすると、不意に彼女はスマホを取り出し手早く何事かを入力しだした。 すぐにメールの着信が入る。彼女はスマホを手にしたままこっちをじーっと見ている。メールを確認。 <『もしかして…これはデートのお誘いなのでしょうか?』 過去の自分が今になって殺しに来ていた。 ならもう、こっちも開き直ってしまおう。入力、送信。 <『肯定 これはデート』 コクコクと頷く彼女がかわいい。それにしても、気がついたらすでに名目が変わっていた。
2 17/09/18(月)00:15:05 [2/10] No.453675494
北口改札を抜けると、雨は本降りになっていた。 この街は少しずつ変わっていく。オリンピックが終わった後も、都市開発は更に進んでいるようだ。 『首都圏は今後、次第に西へと向かって移行する』そんな予測をそういえば随分前に見たっけ。 今日は車を使うわけにもいかない。アプリを起動、現在位置から配車可能な車輌は…いや、やめておこう。 午前中の内に報告は入れている。時間に余裕もあることだし、このまま歩いて行こう。 アウターのジッパーを引き上げ、傘を手に道を辿る。かつて、二人で過ごしたあの日を思い出しながら。 彼女がこの卑劣な裏切りを知ったら、一体どう思うだろう? 嘘に嘘を塗り固めた、今日のこの身を。 だが、もう他に術は無い。 埋葬された過去は、一人で背負うべきなのだから。 物思いに耽る内に入場ゲートが見えてきた。 そう、あの日待ち合わせたのは確か──
3 17/09/18(月)00:15:34 [3/10] No.453675616
本日は予報通り至って快晴。小春日和は確か冬の季語だったかな。 待ち合わせの総合案内所に今日は30分前の到着。そこに少しだけ自分の成長を感じる。 まだ11月の前半だけど、木々はもうすっかり色づいていた。 カエデの下にある円形ベンチには、すでに先客がいた。 その姿を一目見て、自分の目を疑った。なるほど…そうきたか 「おはよう」 黒いリボンタイ付きの白いシャツ、チェック柄のプリーツスカート、足下はブラウンの編み上げブーツ、髪はわざわざ三つ編みのお下げにして、いつものリボンをワンポイント。緑のベレー帽に、赤いアンダーフレームのメガネまで着けてオプションも完璧だ。 今日のサプライズは彼女が先手だった。これはもう、どこから見てもそう…文学少女! 「肯定、秋の読書会に相応しい装いと判断」 普段は中性的で地味な服装の分、効果は抜群だ。もしかしてわざわざ今日のために? 「肯定、一式を新調」 安上がりな公園デートを企画したはずが、逆に負担をかけてしまった 「問題無い。デートの時には装いを特別な物にする…成功?」貴重な姿を記念写真に納めた。 なんだか、待ち合わせからすでに彼女のペースだ。平常心、平常心
4 17/09/18(月)00:16:05 [4/10] No.453675777
公園をのんびりと進み橋を越えると、見事なイチョウ並木が見えてきた。このカナールって何だろう? 「canal、意味は運河。この場合は園芸用語として人口の水路を指している。フランス式庭園において発達。 ヴェルサイユ宮殿の十字形グラン・カナールがよく知られている」 水路の脇を通り、見事に色づいたイチョウ並木でしばし足を止め、木漏れ日を見上げる。 振り返ると、彼女はイチョウの葉を一枚拾い上げ、しげしげと眺める。 「イチョウ、学名ギンコ・バイロバ…ダーウィンはイチョウを「植物界のカモノハシ」だと言った。 言葉通りイチョウには現生の近縁種が存在しない。およそ二億年前から、今もこうして生息を続けている」 種としてそんなに強靱な植物だったのか…確かに世界中で生えているイメージがある 「…正確には少し違う。イチョウは1億年前に起きた植物相の変化も6500万年前の大絶滅も無事生存している。 けれど、原因は不明ながら類人猿への分岐が起こった700万年前には、すでに種としての衰退期に入っていた。ヒトの祖先が分岐した頃には絶滅危惧種…本来はヒトの領域が拡張する過程で滅んでいたはず」
5 17/09/18(月)00:18:03 [5/10] No.453676283
「氷河期以降は中国南部の極一部に散在。イチョウには二つの面で他には無い優位性があった。種子は食用・油脂、薬剤として、幹は木材として優れた性質を兼ね備えている。加えて、その美しい姿は人々から崇敬された。大陸から半島を経てこの国に輸入される過程で、イチョウは宗教と結びつき象徴的な存在になった。ハード・ソフト両面から有用性を見いだされたイチョウは庇護され、18世紀に長崎からオランダ商人の手でヨーロッパに持ちこまれた。数百万年前に消えた土地にヒトの手を借りて帰還し、その後100年で世界中に拡散した」 彼女の語りが熱を帯びる。 「イチョウの葉はとても特徴的。学名bilobaは切り込まれ二つに分かれた葉を指した造語」 話の流れで思い出した。用意してきた本の中にそんな詩があったような……あった「Ginkgo Biloba」 『おまえはもともと一枚の葉で 自身を二つに裂いたのか? それとも二枚の葉だったのに 寄り添って一つになったのか?』 「『西東詩集』ゲーテは恋人に、この詩とイチョウを贈っている」 イチョウが生き残れたのは、やっぱりヒトに愛されたから…なのかな 「もしも…愛されなかったら?」つぶやきは耳に残った。
6 17/09/18(月)00:18:27 [6/10] No.453676397
大きなケヤキが立つ広場で、お昼を取ることにした。 昼食を用意すると言いだしたのは彼女の方だ。夏に彼女の家で過ごした時を思い出す。 塗装の手を止め「昼食を準備する」と言って出て来たのは、鈍く銀色に輝く金属製のケース。 どうやって開けるのか分からないケースの中には、隙間無く詰まった──エナジーバー。 心の中で『シャキサク』と呼んでいる例のアレだ。 そして今、トートバックから現れたのは…やはりあのケースだった。やだこわい 開かれた匣の中には──なぜかお稲荷さんが詰まっていた。何というか、こう…普通だ。 「楕円形の物が関東風、三角の物が関西風」と箸を渡される。東西で違いとかあるんだ… 彼女は自信ありげにこちらを見るけど油断はできない。中の具は『シャキサク』かも知れない。 三角の方を口に運ぶ…シャキサクとした歯ごたえが心地良い。五目の具が入ったこれ…レンコン? 「肯定」関西風も上品な味で美味しいな…今度は俵型に手を伸ばす。 こちらは自分が慣れ親しんだ味がした。甘辛い濃い味付けのお揚げと白ゴマをまぶした酢飯。家の味だ。 こちらの手が止まらないのを見て、彼女もお弁当に手を伸ばす。 「…どれが好き?」
7 17/09/18(月)00:19:14 [7/10] No.453676634
──柔かくて暖かい幸福な感触。そんな微睡みから覚めると、目の前に逆さまの背表紙が浮かんでいた。 「目が覚めた?」 彼女の声で再度目を開くと、本ではなくこちらを覗き込む彼女と…視界を遮る豊かな胸が下から見えた。 状況に一瞬混乱する。昼食の後、木陰で本を読んでいたら、いつの間にか寝落ちしてたみたいだ。 …それがどうして膝枕なんて素敵なシチュエーションになってるんだろう? 一度身体を起こそうとすると、彼女の手がするりと頬を撫でた。 ひんやりした感触が心地良い…でもこれじゃ動けない。黙って身を委ねる。 指先はそのまま頬を摘まむと、グニグニと引っ張り出す。いひゃいひゃいおふう 「…少し楽しい」 何か悪いことしただろうか? そうして満足したのか、今は頬を優しく摩ってくれている。 弛緩した空気の中で、先に言葉を投げたのは彼女の方だった。 「あの時の……婚姻契約は受理出来ない」 ──膝枕してもらいながらフラれるとは流石に予想もしていなかった。 「必要な前提条件の不足、および行程を踏襲していない」 飛んで来たのは全くの正論だった。やっぱり、その場の勢いだけで言ったと思われてる…まあ、事実だけど。
8 17/09/18(月)00:20:04 [8/10] No.453676824
胸が視界を遮り、その表情は見えない。改めて下から見るとこれはすごい…いやそうじゃなくて。 こちらが口を開こうとすると、その前に手で口を塞がれてしまった。この体勢では向こうの思うがままだ。 「相互における好意が「恋愛感情」と呼ばれるものなのか、現時点では不明」 なんかさっきから追い打ちがどんどん飛んできて、心を折りに来てる気がする。 「現在リファクタリングを進行中、同時にバッファオーバーフローを頻発。だから」 これは…今テンパってるな。だけど、彼女も真剣に考えてくれているのが分かって嬉しかった。 「だから、もう少しだけ…待っていて欲しい」 やっぱり、生真面目なのにどこか不器用な人だ。そんな所も、何だかとても愛おしく思えた。 一息に身体を起こすと、気長に待ってるから大丈夫、そう伝えた。 「…うん」 ようやく彼女の顔が見えた。やっぱり赤くなってる…勿論、お互い様だけれど。 お互いにドキドキし過ぎて、今日用意したサプライズを忘れる所だった。 リュックの中から、道具一式を取り出す。 「便箋と…茶筒?」 ステンレス製の茶筒は気密性も高いし、シーリングすれば十分代用の──タイムカプセルになった
9 17/09/18(月)00:20:56 [9/10] No.453677013
あのケヤキは今も同じ場所に立っていた。当然か、木々と人間のタイムスケールは全く違う。 幸い、雨はもう止んでいた。歩みと共に記憶が蘇ってくる。 切っ掛けはそう確か──彼女の友達が経験した、タイムカプセルを巡る不思議な冒険だった。 怪談と言うには些かロマンチックな話を、あとになって直接当人達からも聞いたっけ。 現象の論理的解釈について話した後、彼女はふと「自分には想い出に該当する記憶は少ない」と言った。 あの時は、それがひどく悲しく思えた。だから、あんな形で遺そうと思いついたんだろうか? 『10年後の自分へ』 二人でそれぞれ短い手紙を書いた。 10年後の約束の日に掘り起こし、お互い交換する。過去の自分に今更ながら呆れてしまう。 そもそも10年後も彼女の隣に一緒に居られると、まさか本気で信じていたと?…そこまで楽天家じゃない。 だから、きっとあれは願いだったんだ。『ずっと一緒にいられますように』って。 ジオタグと現在地を比較する。間違いない、あの樹の下だ。 いずれにせよ、約束は履行されない。気の進まない作業は手早く済ませてしまおう。 ──ぬかるんだ根元には埋め戻された土の跡だけが残されていた。
10 17/09/18(月)00:23:20 [10/10] No.453677600
フラッシュライトが背後から照らす。振り返るとそこには──アキが立っていた。 どうして…ここへ? 「行動予測。予定日を考えれば、決行は今日しかない」 その手には茶筒に入れた二枚の便箋が握られていた。 「捜索物は回収済み」これはもうゲームエンドだ。 「…弁明は?」ああ怒ってる、あれは絶対怒ってる。だから内緒で来たのに水の泡だ。 理由が知りたいなら手紙を読めば分かる。そう彼女に告げる。もう他に道は無い。 手紙を読み始めてすぐに彼女が俯く。やがて肩を震わせ始め、遂にはしゃがみ込んでしまう。あああ! 十年前のあの日、デートに浮かれて書いた内容は──若さと詩情に満ちた情熱的なラブレターその物だった。 なにが自分宛てなものか。それを今頃になって当人に読まれるこの仕打ち。 「ふぅ…提案、予定通りこれは披露宴で読み上げるべき」笑いすぎて涙まで流して彼女は言う。 みんな来るのに、これ読まれたらもう生きていけないよ! 「違約に対するペナルティとして、まずは夕食のあとに朗読会を開催。処遇はその時に決定」 …あの頃の自分に伝えたい。愛する人は今こんなにも意地悪で、それ以上に愛情たっぷりの顔で笑うんだ。 ──了
11 17/09/18(月)00:25:50 [sage] No.453678241
テキストの方 su2027808.txt 今まで書いたの su2027809.zip 文学少女としゃがんだとこって言われてようやく書けた… あとアキ子の長い蘊蓄も書けた こういうもうバレバレのミスリードが好きです
12 17/09/18(月)00:29:44 No.453679313
はー!
13 17/09/18(月)00:40:05 No.453681994
ハッピーエンドいいよね…
14 17/09/18(月)00:48:28 No.453684128
良いものを読ませてもらった
15 17/09/18(月)01:05:47 No.453688137
相変わらず長い… でもいい…
16 17/09/18(月)01:07:16 No.453688426
なんかすごく勉強になった…
17 17/09/18(月)01:11:43 No.453689309
やだ…普段グリス食べてるの
18 17/09/18(月)01:13:56 No.453689743
ヘンテコなコーディネートに第三者の介入を感じる